NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#134 エリック・クラプトン「(no reason to cry)」(Polydor 813582-2)

2022-03-28 05:43:00 | Weblog

2003年1月5日(日)



エリック・クラプトン「(no reason to cry)」(Polydor 813582-2)

(1)BEAUTIFUL THING (2)CARNIVAL (3)SIGN LANGUAGE (4)COUNTY JAIL BLUES (5)ALL OUR PAST TIMES (6)HELLO OLD FRIEND (7)DOUBLE TROUBLE (8)INNOCENT TIMES (9)HUNGRY (10)BLACK SUMMER RAIN (11)LAST NIGHT

エリック・クラプトン、76年リリースのアルバム。プロデュースはロブ・フラボーニ。

オリジナル・アルバムとしては、75年の「安息の地を求めて」と、77年の「スローハンド」の間に位置する一枚だ。

特筆すべきは、60年代後半以降、クラプトンが常に影響を受けてきたグループ、「ザ・バンド」と、この時初めて一緒にレコーディングを行ったことだろう。

(1)は、まさにそのザ・バンドのメンバー、リチャード・マニュエル、リック・ダンコの作品。

ミディアム・スロー・テンポのカントリー調バラード。フィーチャーされるスライド・ギターは、ゲストのロン・ウッド。

クラプトンはここではシンガーに徹して、おなじみの枯れた歌声を聴かせてくれる。

(2)は、アップテンポのロック・ナンバー。クラプトンのオリジナル。

ちょっと残念なのは、こんなノリのいい曲なのに、クラプトンのいかしたソロをほとんど聴くことが出来ないこと。

ここに、彼のその後のアーティストとしてのスタンス、「ロック・ミュージシャンではなく、(ロック・ギターも弾ける)ポップス・シンガー」という姿勢の萌芽が見られると思うのだが、いかがであろうか。

(3)はバンド同様、クラプトンが常に意識していた大物、ボブ・ディランの作品。

なんとディラン御大自身も、ツイン・ヴォーカルとして参加している。そのシブい歌声には、さすがの貫禄を感じる。

ディランにバンドにロン・ウッド、なんとも豪華なゲスト陣ではあるね。

ロビー・ロバートスンの、クラプトンとはひと味違ったギター・ソロが光る一曲。クラプトンはドブロを弾いて、バンドマンとしてはあくまでも「ワキ」に徹している。

(4)は、ビッグ・メイシオ(・メリィウェザー)のレパートリーのカヴァー。ビッグ・メイシオは、30年代から50年代にかけて、おもにシカゴで活躍したシンガー/ピアニストだ。

タイトルが示すように、刑務所暮らしを歌ったヘヴィなブルース。

クラプトンはさすがにムショ暮らしの経験こそないが、アルコールやドラッグ中毒からの辛いリハビリ生活を思い起こして、歌っていたのかも知れない。ハスキーな声がなかなか「気分」だ。

ここでは、スライド・ギター・ソロも、短めながら弾いてくれてます。

(5)は、リック・ダンコの作品。ミディアム・スロー・テンポのバラード。

リード・ギターはロン・ウッドが弾き、クラプトンはヴォーカル。作者のダンコも歌で加わる。

わきあいあいとした演奏、コーラスがなんともいい。ペダル・スティール、オルガンも、カントリーな雰囲気をさらに盛り上げてくれる。クラプトンの音というよりは、ザ・バンド・サウンドだね。

(6)はシングル・カットされ、スマッシュ・ヒットともなった一曲。

これもカントリー・バラード色の強い一曲。

いくらブルースをウリにしていても、クラプトンもやはり「白人」。この手の曲のほうが、どうもしっくり来るんだわな。

歌詞の軽さから言っても、ロックというよりは、ポップス・チューン。あまり「深み」は感じられない。

以後も、クラプトンは「ワンダフル・トゥナイト」に代表されるようなポップス・チューンを歌い続けることになるわけだから、その後を暗示する、なんとも「象徴的」なヒットだったと思う。

(7)は一転、クラプトンがリスペクト(パクりともいうが)するブルースマン、オーティス・ラッシュのカヴァー。

たしかにここでの彼のギター・ソロは、素晴らしい。フレージングも、音色も、ギタリストならお手本にしたいような出来。

でもね、なんというのかな、ブルースとしては「深い」ものをあまり感じないんだよなぁ。

つまり、彼の当時の実生活は、ぜんぜんBLUEじゃなかったんだよね。

ドラッグ中毒も克服したし、恋焦がれていた友人の奥さんもゲットしちゃって、むしろハッピー、ハッピーだったわけで。

そんなおめでたい状態で、このような重たいブルースを歌ってみたところで、聴き手をゆさぶり動かすことは難しいんじゃないかな。

クラプトンのラッシュへの尊敬と感謝を素直に表した選曲ではあったんだろうが、結果的にはラッシュの名曲を都合よく「利用」しているようにも感じてしまう。

ということで、素晴らしい演奏ではあるが、筆者はこの一曲をこのアルバムのベスト・トラックとは思えないのである。

やはり、「ダブル・トラブル」はご本家、オーティス・ラッシュを誰も超えられない。

(8)はクラプトン、そしてクラプトン・バンドでは長らくコーラスをつとめていた女性シンガー、マーシー・レヴィによる作品。カントリー調のスロー・ワルツ。

マーシーの、のびやかなヴォーカルは実に安心して聴ける。クラプトンはそのバックでコーラスをつけ、ドブロを弾く。

そのドブロ・プレイがなかなかイカしているのが、この曲の収獲。やはり、ハッピーな彼には、明るい曲調のほうが合ってるね。

続く(9)も、軽快なカントリー・ロック。マーシーの作品。クラプトンはスライド・ギターを弾く。

ただ、このプレイはちょっと月並みかな。曲の威勢のよさにそのまま流されてしまっている感じだ。

そしてなにより、(前曲同様)マーシーが前面で歌ってしまい、彼のヴォーカルの出番なし、というのがイタい。このアルバムは、一応、彼の「ソロ・アルバム」なんでしょ?

ゲストやバック・バンドに押され気味なのが、ちょっとつらいところである。

(10)は、その後も、同工異曲のヒットを何度も生み出すこととなった「プロトタイプ」ともいえる、ミディアム・テンポのバラード。メロディがなんとも美しい名曲。

こういう、非ブルース的なポップ・チューンに、クラプトンは活路を見出していくことになる。

声を張り上げず、自然体で訥々と歌う独自のヴォーカル・スタイルも、このあたりから形作られたといってよいだろう。

バックのしっとりとした演奏や、出過ぎないコーラスも◎。個人的には、この曲が好みだったりする。

さてラストは、LP未収録の(11)。クレジットには、ちゃっかりとクラプトンの自作と記されているが、ブルースファンなら皆さんご存じ、リトル・ウォルターのナンバー。さらに、古い元ネタがあるのかもしれないけど。

このテイクは、プライべート・セッションでの録音をそのまま使っているそうで、いかにも「ヨッパ」な演奏、ヴォーカル。

こんなテキトーな演奏を、果たして「作品」として売りつけていいのか?という気もしないではないが、ま、堅いことはいうまい。こういうほうが、いかにもブルースって感じはするからね。

全編を聴いて感じるのは、演奏や楽曲のクォリティはさすがに高いのだが、クラプトンのソロ・アルバムとして見た場合、いまひとつ彼の実力が発揮されていないということ。

歌やギターも、ゲストやバックに食われているケース、多し。

「461」あたりの気合いが入ったプレイに比べると、いかにも「可もなく不可もなく」の出来なんだよなあ。

だから、ちょっと辛口のようだけど、評価は次のようになります。ま、それでも一聴の価値はあると思いますが。

<独断評価>★★★



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