NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#135 ユートピア「OOPS! WRONG PLANET」(RHINO RNCD 70870)

2022-03-29 05:15:00 | Weblog

2003年1月12日(日)



ユートピア「OOPS! WRONG PLANET」(RHINO RNCD 70870)

(1)TRAPPED (2)WINDOWS (3)LOVE IN ACTION (4)CRAZY LADY BLUE (5)BACK ON THE STREET (6)THE MARRIAGE OF HEAVEN AND HELL (7)THE MARTYR (8)ABANDON CITY (9)GANGRENE (10)MY ANGEL (11)RAPE OF THE YOUNG (12)LOVE IS THE ANSWER

トッド・ラングレン率いるロック・バンド、ユートピア4枚目のアルバム。77年リリース。

リリース前の76年の末、ユートピアは初来日を果たしたが、筆者も中野サンプラザでのライヴを観に行き、その圧倒的な演奏力に驚嘆したものだ。

そのステージで演奏されたナンバーもおさめたこの作品、ジャケット・デザインでもわかるように、近未来SF仕立てのコンセプト・アルバムとして作られている。プロデューサーはトッド・ラングレン。

まずはベーシスト、カシム・サルトンの歌で始まる(1)。作曲も手がけたトッドの、ヘヴィメタなギターソロが印象的な、モダン・ロックン・ロール。

のっけから緊張感あふれるサウンドに興奮。カシムの歌もなかなかイケてるし、コーラスも迫力十分だ。

続く(2)はキーボードのロジャー・パウエルの作品。このタイトルはもちろん、"あの"OSとは関係なし(笑)。77年だもんね。

アップテンポながら、しっとりとしたバラードで、ロジャーの歌も意外といっては失礼だが、うまい。

つまり、歌えるプレイヤー揃いであることが、このバンドの大きな強みということ。

バンドは大別すると、歌えるメンバー揃いの「ビートルズ・タイプ」と、ひとりのシンガーが引っ張る「ストーンズ・タイプ」(ZEPタイプといってもいい)のふたつになると思うが、ユートピアは前者に属することは言うまでもない。

(3)はトッドの作品。リード・ヴォーカルも彼が担当。アップ・テンポのキャッチ-なロックン・ロールだ。

ここでも、メンバー全員の強力なコーラスが効果的に使われている。

(4)は一転、ミディアム・スロー・テンポの、メロディ・ラインが実に美しいバラード。

トッドとドラマー、ジョン・ウィリー・ウィルコックスの共作。歌はウィリー。

ギターのフレーズがどことなく後期ビートルズ・ライクであるな。10CCなどと同様、このバンドもやはり、ビートルズの影響を抜きに語るわけにはいくまい。

76年、トッドは「誓いの明日(原題・FAITHFUL)」なるソロ・アルバムを発表したが、そこでもビートルズ・ナンバーを2曲カヴァーし、その強い影響を自ら認めていたくらいだ。ビートルズなしには、ユートピアも存在しなかったはず。

ただし、演奏力や歌唱力においては、後輩のほうがご本家をはるかにしのいでいるね(笑)。

ジョージ・ハリスンふうにカシムが歌い始める(5)は、トッドの作品。シンセ・サウンドが印象的なミディアム・テンポのナンバー。

ロジャーのキーボードが生み出す深遠な音世界に耳を傾けてみよう。

トッドももちろん、キーボードによる多重録音のオーソリティではあるが、ユートピアにおいてはキーボードはロジャーに一任し、自分はあくまでもギタリストに徹し、純粋にプレイを楽しんでいるようである。

(6)はロジャー、トッド、カシムの共作のミディアム・テンポのロック。ヴォーカルはトッドとカシム。

この曲はひとことで言えば、「ゴージャス」。歌、コーラス、演奏ともに、アルバム前半のハイライトとよぶにふさわしい、リキの入った出来だ。

(7)はトッドとカシムの共作で、カシムが歌う、フォーキーなバラード。

でも、カシムのヴォーカルが実に力強くのびやかで、まったくヤワな印象はなし。バックのコーラスも絶好調だ。

(8)はどこかジャズィな隠し味を持つ、ミディアム・テンポのロック。

作者のロジャーが歌い、なんとトランペット・ソロまで披露して、芸達者なところを見せてくれる。

トッドの、なんちゃってフュージョン調ギターも、なかなか面白い。

(9)は対照的にちょっとラフな、ストーズやザ・フーにも通じるサウンドのロックン・ロール。トッドとウィリーの共作で、歌はウィリー。

途中のギター・リフも、「アレ?どこかで聴いたことあるような…」というもの。そう、ザ・フーの「無法の世界」の巧妙なパクりなのであります。

トッドとカシムが歌う、ミディアム・テンポのバラード(10)は、ロジャーとトッドの共作。

どことなくメロウで大人っぽい、AORにも通じるところのあるサウンド。才人トッドは自らサックスまで吹いて聴かせてくれる。

一曲一曲に凝ったアレンジがなされ、まさに音の「万華鏡」の如し。

(11)は、歌でギターで、作者のトッドのひとり舞台的ナンバー。

「実はトッド、へヴィメタが一番好きなんでないの?」と聴く者に思わせてしまう、全速力で暴走するハードなロックン・ロールだ。

ラストは「名曲」の誉れ高い、トッド作・歌唱のバラード・ナンバー。

「ハロー・イッツ・ミー」にも勝るとも劣らない、甘美なメロディ・ライン。トッドの歌も、さすが十年組のキャリアで、説得力十分だ。

バックの手堅い演奏ともあいまって、フィナーレを飾るにふさわしい、パーフェクトな出来ばえであります。

以上、彼らの持てるすべてを発揮して作られた一枚。メリハリ、サウンド・バラエティに富み、二聴、三聴に十分耐えうる佳作だ。

しっとりとしたラヴ・ソングよし、若者の明日なき暴走的ロックン・ロールよし。トッドのマルチな才能のみならず、他のメンバーの底知れぬ実力をも感じる一作。

四半世紀前にすでにあった、こんなスゴいバンド。聴かない手はないすよ。

<独断評価>★★★★



最新の画像もっと見る