2023年3月13日(月)
#481 RY COODER「INTO THE PURPLE VALLEY」(Reprise 2052-2)
米国のミュージシャン、ライ・クーダーのセカンド・アルバム。72年リリース。ジム・ディッキンソン、レニー・ロワンカーによるプロデュース。
クーダーは47年ロサンゼルス生まれ。ギター、マンドリンなどを60年代半ばよりタジ・マハールとのバンドなどで活動、「べガーズ・バンケット」でのローリング・ストーンズとの共演で名を知られるようになった。70年、ファースト・ソロ・アルバムをリリース。
本盤(邦題「紫の峡谷」)は日本でも彼の存在がよく知られるきっかけとなった一枚。
オープニングの「キャン・ユー・キープ・オン・ムーヴィング」はシス・アグネス・カニンガムの作品。
カニンガムは白人女性フォーク・シンガー。クーダーはそのカバー、ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズのバージョン(59年)からこの曲を知ったらしい。
クーダーのスライド・ギターをフィーチャーした、明るい曲調のカントリー・ナンバー。でも歌詞はけっこうヘビーで、生活難を語っているんだけどね。
いずれにせよ、われわれ日本人リスナーにはほとんど知られていないマイナーなアーティストや曲なので、どう反応していいのかよくわからない、というのが正直な感想。
「ビリー・ザ・キッド」は伝説のヒーローを歌ったトラディショナル・ナンバーをクーダーがアレンジしたもの。
クーダーは自らのマンドリン、ギターだけのシンプルなサウンドに乗せて、素朴な歌声を聴かせてくれる。
ここまでおよそポピュラーとはいい難い曲が続いて「こりゃ最後まで聴くのはしんどいかな」と思っていたら、次の「マニー・ハニー」でようやく耳慣れたヒット曲が出てきてホッとする。
53年、クライド・マクファターがリード・ボーカル時代のザ・ドリフターズのヒット曲である。ジェシー・ストーンの作品。
ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」にも通じる、ニューオーリンズR&B風のアレンジがナイス。女声コーラスも加わり、ノリノリの一曲。
「トリニダードのF.D.R.」はフィッツ・マクリーン作のカリプソ・ナンバー。
アコースティック・ギターを奏でながら歌われる、陽気な一曲。マンドリンも、サウンドのいいアクセントになっている。
「ティアドロップス・ウィル・フォール」はジェリー・グラナハン、マリオン・スミスの作品。
グラナハンは白人男性シンガーで、ディッキー・ドゥーという芸名でロックンロールを歌っていた。
「ティアドロップス〜」は59年にヒットしているが、クーダー自身はソウル・シンガー、ウィルソン・ピケットのカバー・バージョンでこの曲を知ったとか。
ほのぼのとした雰囲気の、ポップ・チューン。クーダーの歌は、なんか心がなごみます。
「デノミ・ブルース」は黒人シンガー、ワシントン・フィリップス作のゴスペル・ナンバー。デノミネーションをテーマにした、社会派的な歌詞が面白い一曲。
プロデューサーのひとり、ジム・ディッキンソンの弾くチェレステが可愛らしいサウンド。ホーン・セクションの演奏もホンワカした雰囲気があって微笑ましい。
「オン・ア・マンデー」はフォーク・ブルース・シンガー、レッドベリーの作品。
エレクトリック・バンド・サウンドに絡む、リゾネーターのいなたい音色が印象的だ。古い曲を、見事にアップデートしてみせるクーダー。
「ヘイ・ポーター」はカントリー・シンガー、ジョニー・キャッシュの作品。
ブルース・フィーリングの強いメロディとサウンド。同じマンドリンでも、さまざまなニュアンスを表現できることが分かる一曲。
「天国からの夢」はバハマ出身のギタリスト/シンガー、ジョゼフ・スペンスの作品。
スペンスはクーダーが影響を受けたギタリストのひとりで、そういう国外ミュージシャンへの幅広い関心は、のちの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」へと続いていく。
フィンガー・ピッキングのギターによるインストゥルメンタル。澄んだ響きが、実に美しい。
「タックス・オン・ザ・ファーマー」はトラディショナル・ナンバー。
ディッキンソンのハーモニウム、ゲストのヴァン・ダイク・パークスのピアノの奏でるノスタルジックなサウンド。そして、クーダーの巧みなスライド・ギター。
まさに、名人芸である。
「自警団員」はフォーク・シンガー、ウディ・ガスリーの作品。オール・アコースティックなサウンド。
戦前ブルースの雰囲気がぷんぷんとする、ヘヴィーな音が個人的には好みであるな。
手だれの楽器演奏とは対照的に、ほのぼのとしたボーカルがいい感じなクーダー。
売れ線とはだいぶん違うけれど、生活に追われて癒しに飢えているアメリカ庶民の心情にはぴったりと寄り添うアーシーな音。
流行りものではなく、虚飾の一切ないピュアな音楽を、一生かけて追求していく。
そんなライ・クーダーの真摯な姿に共感を覚えるのは、筆者だけではあるまい。
<独断評価>★★★☆
米国のミュージシャン、ライ・クーダーのセカンド・アルバム。72年リリース。ジム・ディッキンソン、レニー・ロワンカーによるプロデュース。
クーダーは47年ロサンゼルス生まれ。ギター、マンドリンなどを60年代半ばよりタジ・マハールとのバンドなどで活動、「べガーズ・バンケット」でのローリング・ストーンズとの共演で名を知られるようになった。70年、ファースト・ソロ・アルバムをリリース。
本盤(邦題「紫の峡谷」)は日本でも彼の存在がよく知られるきっかけとなった一枚。
オープニングの「キャン・ユー・キープ・オン・ムーヴィング」はシス・アグネス・カニンガムの作品。
カニンガムは白人女性フォーク・シンガー。クーダーはそのカバー、ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズのバージョン(59年)からこの曲を知ったらしい。
クーダーのスライド・ギターをフィーチャーした、明るい曲調のカントリー・ナンバー。でも歌詞はけっこうヘビーで、生活難を語っているんだけどね。
いずれにせよ、われわれ日本人リスナーにはほとんど知られていないマイナーなアーティストや曲なので、どう反応していいのかよくわからない、というのが正直な感想。
「ビリー・ザ・キッド」は伝説のヒーローを歌ったトラディショナル・ナンバーをクーダーがアレンジしたもの。
クーダーは自らのマンドリン、ギターだけのシンプルなサウンドに乗せて、素朴な歌声を聴かせてくれる。
ここまでおよそポピュラーとはいい難い曲が続いて「こりゃ最後まで聴くのはしんどいかな」と思っていたら、次の「マニー・ハニー」でようやく耳慣れたヒット曲が出てきてホッとする。
53年、クライド・マクファターがリード・ボーカル時代のザ・ドリフターズのヒット曲である。ジェシー・ストーンの作品。
ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」にも通じる、ニューオーリンズR&B風のアレンジがナイス。女声コーラスも加わり、ノリノリの一曲。
「トリニダードのF.D.R.」はフィッツ・マクリーン作のカリプソ・ナンバー。
アコースティック・ギターを奏でながら歌われる、陽気な一曲。マンドリンも、サウンドのいいアクセントになっている。
「ティアドロップス・ウィル・フォール」はジェリー・グラナハン、マリオン・スミスの作品。
グラナハンは白人男性シンガーで、ディッキー・ドゥーという芸名でロックンロールを歌っていた。
「ティアドロップス〜」は59年にヒットしているが、クーダー自身はソウル・シンガー、ウィルソン・ピケットのカバー・バージョンでこの曲を知ったとか。
ほのぼのとした雰囲気の、ポップ・チューン。クーダーの歌は、なんか心がなごみます。
「デノミ・ブルース」は黒人シンガー、ワシントン・フィリップス作のゴスペル・ナンバー。デノミネーションをテーマにした、社会派的な歌詞が面白い一曲。
プロデューサーのひとり、ジム・ディッキンソンの弾くチェレステが可愛らしいサウンド。ホーン・セクションの演奏もホンワカした雰囲気があって微笑ましい。
「オン・ア・マンデー」はフォーク・ブルース・シンガー、レッドベリーの作品。
エレクトリック・バンド・サウンドに絡む、リゾネーターのいなたい音色が印象的だ。古い曲を、見事にアップデートしてみせるクーダー。
「ヘイ・ポーター」はカントリー・シンガー、ジョニー・キャッシュの作品。
ブルース・フィーリングの強いメロディとサウンド。同じマンドリンでも、さまざまなニュアンスを表現できることが分かる一曲。
「天国からの夢」はバハマ出身のギタリスト/シンガー、ジョゼフ・スペンスの作品。
スペンスはクーダーが影響を受けたギタリストのひとりで、そういう国外ミュージシャンへの幅広い関心は、のちの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」へと続いていく。
フィンガー・ピッキングのギターによるインストゥルメンタル。澄んだ響きが、実に美しい。
「タックス・オン・ザ・ファーマー」はトラディショナル・ナンバー。
ディッキンソンのハーモニウム、ゲストのヴァン・ダイク・パークスのピアノの奏でるノスタルジックなサウンド。そして、クーダーの巧みなスライド・ギター。
まさに、名人芸である。
「自警団員」はフォーク・シンガー、ウディ・ガスリーの作品。オール・アコースティックなサウンド。
戦前ブルースの雰囲気がぷんぷんとする、ヘヴィーな音が個人的には好みであるな。
手だれの楽器演奏とは対照的に、ほのぼのとしたボーカルがいい感じなクーダー。
売れ線とはだいぶん違うけれど、生活に追われて癒しに飢えているアメリカ庶民の心情にはぴったりと寄り添うアーシーな音。
流行りものではなく、虚飾の一切ないピュアな音楽を、一生かけて追求していく。
そんなライ・クーダーの真摯な姿に共感を覚えるのは、筆者だけではあるまい。
<独断評価>★★★☆