2023年1月20日(金)
#429 RICKIE LEE JONES「浪漫」(ワーナーミュージック ジャパン/Warner Bros. 20P2-2085)
米国のシンガーソングライター、リッキー・リー・ジョーンズのデビュー・アルバム。79年リリース。レニー・ワロンカー、ラス・タイトルマンによるプロデュース。
ジョーンズは54年シカゴ生まれ。家庭環境に問題があり、10代で家出を繰り返す生活を送る。19歳でロサンゼルスに移り、ウェイトレスをしたりクラブで歌ったりして暮らすうちにシンガー、トム・ウェイツと付き合うようになる。
それが縁となってか、自作曲「イージー・マネー」がリトル・フィートのローウェル・ジョージのアルバムで使われ、自身もワーナー・ブラザーズと契約、デビューを果たすこととなる。
そんな彼女のファースト・シングル「恋するチャック」が本盤のオープニング。
これは結構ヒットしたなぁ。全米で4位、日本でもFM局でパワープレイされていた。
その勢いもあって、アルバムも全米で3位とめちゃくちゃ売れた。全くの新人シンガーとしては、とんでもないヒットだった。
「恋するチャック」は、ジョーンズの特徴、そして魅力が一曲に凝縮されている。彼女自身による作詞作曲(他の曲も同様)。
ちょっと高めで気だるい、ふわふわっとしたボーカル。都会で気ままに生きる女の心情が描かれている。いわゆるフラッパーってヤツだな。
ホーンを多用したジャズィなバック・サウンドもお洒落っぽい感じだ。これが、ノイジーなロック・サウンドにうんざりしていたリスナーに見事刺さったようだ。
ちなみに曲中で歌われている「チャック・E」なる人物にはモデルがいて、ウェイツと恋人同士の時代、ふたりと交友関係のあったミュージシャン、チャック・E・ワイスがその人。
彼はのちにシンガー・デビューしているから、興味の湧いた人はチェックしてみて。
このアルバム、参加ミュージシャンも大手レコード会社の肝煎だけあって、デビュー盤としてはえらく豪華だ。
有名どころだけあげても、ギターのバジー・フェイトン、キーボードのニール・ラーセン、ヴィクター・フェルドマン、ドクター・ジョン、ランディ・ニューマン、ベースのウィリー・ウィークス、ウッドベースのレッド・カレンダー、ドラムスのスティーヴ・ガッド、アンディ・ニューマーク、ジェフ・ポーカロ、マーク・スティーヴンス、サックスのトム・スコット、アーニー・ワッツ、トランペットのチャック・フィンドレー、コーラスのマイケル・マクドナルドなどなど。オーケストラ・アレンジはニック・デカロ、ジョニー・マンデル。
ジョーンズ本人もボーカルだけでなく、ギター、キーボード、そして今ホーン・アレンジと、多才なところを見せている。
「1963年土曜日の午後」はライブ録音。おそらく本人のピアノと思われる弾き語り。フォーキーな雰囲気のバラードで、ホーンが一本加わるだけのシンプルなアレンジがいい。
「ナイト・トレイン」はアコギ・サウンドをベースにして、エレピ、ストリングスも加わったナンバー。優しく大人なムードのバラード。
「ヤング・ブラッド」はラテン・パーカッションが印象的な、リズミカルなナンバー。ギターの刻むビートが心地よい。ホーン、コーラス隊も参加して、実に賑やかなサウンドだ。シングルにも出来そう。
「イージー・マネー」はフォービート・シャッフルの、オールド・ジャズ色の強いナンバー。
ジョーンズのアンニュイで掴みどころのないボーカルに、アコースティックなサウンドがマッチしている。
ローウェル・ジョージ版とはまた、味わいが大幅に異なるので、聴き比べてみるのも面白い。
「ラスト・チャンス・テキサコ」はアコギをフィーチャーしたフォーク・バラード。
この曲でジョーンズはわりと声を「張った」歌い方をしている。その歌いぶりから、真剣な思いが伝わってくる。
LP版B面トップの「ダニーの店で」は、再びオールドタイム・スウィング風のシャッフル。歌うような、喋るような、とりとめのない歌い方。これぞリッキー・リー節だな。
ノリノリなサウンドに、リスナーの気持ちもウキウキになれる。
「クールズヴィル」はピアノ弾き語りにバックが絡む、スロー・ナンバー。内省的な雰囲気で、アルバム中では異彩を放っている。
「ホワイト・ボーイズ・クール」はLAのミュージシャン、アルフレッド・ジョンスンとの共作。どことなくCSN&Yの曲を連想させるメロディを持つ、フォーク・ロック・ナンバーだ。
ジャズ、ブルースといったルーツ・ミュージックの流れを踏襲するだけでなく、フォークとの融合により新しいロックを作り出していこうという意気込みを感じる一曲。ジョンスンとのコラボによる、化学反応だろうか。
「カンパニー」もジョンスンとの共作だ。ピアノ、ストリングスの響きが美しい、別離のバラード。ジョーンズのボーカルも本気モードで、聴きごたえがある。
そして、ラストのピアノ弾き語り、「アフター・アワーズ」は静けさに満ちている。
それまでの人々が集って賑やかに過ごした時間が去って、孤独なひとときを迎えるジョーンズ。
それもまた、彼女の愛する時間なのだろう。
都会に、そして恋に生きる女性の心を、さまざまなスタイルで歌いあげるリッキー・リー・ジョーンズ。
多くの異性だけでなく、同性をも惹きつける魅力に満ちているひとだ。
猫のように気ままに、自由奔放に生きる彼女の歌は、われわれの願望を映し出す鏡のように思える。
いろいろな苦しさ、辛さを伴うのは知っているが、自由とはそれくらい魅力的なものなのだ。
すべてのストレイ・キャッツたちのための一枚、それが「浪漫」である。
<独断評価>★★★★
米国のシンガーソングライター、リッキー・リー・ジョーンズのデビュー・アルバム。79年リリース。レニー・ワロンカー、ラス・タイトルマンによるプロデュース。
ジョーンズは54年シカゴ生まれ。家庭環境に問題があり、10代で家出を繰り返す生活を送る。19歳でロサンゼルスに移り、ウェイトレスをしたりクラブで歌ったりして暮らすうちにシンガー、トム・ウェイツと付き合うようになる。
それが縁となってか、自作曲「イージー・マネー」がリトル・フィートのローウェル・ジョージのアルバムで使われ、自身もワーナー・ブラザーズと契約、デビューを果たすこととなる。
そんな彼女のファースト・シングル「恋するチャック」が本盤のオープニング。
これは結構ヒットしたなぁ。全米で4位、日本でもFM局でパワープレイされていた。
その勢いもあって、アルバムも全米で3位とめちゃくちゃ売れた。全くの新人シンガーとしては、とんでもないヒットだった。
「恋するチャック」は、ジョーンズの特徴、そして魅力が一曲に凝縮されている。彼女自身による作詞作曲(他の曲も同様)。
ちょっと高めで気だるい、ふわふわっとしたボーカル。都会で気ままに生きる女の心情が描かれている。いわゆるフラッパーってヤツだな。
ホーンを多用したジャズィなバック・サウンドもお洒落っぽい感じだ。これが、ノイジーなロック・サウンドにうんざりしていたリスナーに見事刺さったようだ。
ちなみに曲中で歌われている「チャック・E」なる人物にはモデルがいて、ウェイツと恋人同士の時代、ふたりと交友関係のあったミュージシャン、チャック・E・ワイスがその人。
彼はのちにシンガー・デビューしているから、興味の湧いた人はチェックしてみて。
このアルバム、参加ミュージシャンも大手レコード会社の肝煎だけあって、デビュー盤としてはえらく豪華だ。
有名どころだけあげても、ギターのバジー・フェイトン、キーボードのニール・ラーセン、ヴィクター・フェルドマン、ドクター・ジョン、ランディ・ニューマン、ベースのウィリー・ウィークス、ウッドベースのレッド・カレンダー、ドラムスのスティーヴ・ガッド、アンディ・ニューマーク、ジェフ・ポーカロ、マーク・スティーヴンス、サックスのトム・スコット、アーニー・ワッツ、トランペットのチャック・フィンドレー、コーラスのマイケル・マクドナルドなどなど。オーケストラ・アレンジはニック・デカロ、ジョニー・マンデル。
ジョーンズ本人もボーカルだけでなく、ギター、キーボード、そして今ホーン・アレンジと、多才なところを見せている。
「1963年土曜日の午後」はライブ録音。おそらく本人のピアノと思われる弾き語り。フォーキーな雰囲気のバラードで、ホーンが一本加わるだけのシンプルなアレンジがいい。
「ナイト・トレイン」はアコギ・サウンドをベースにして、エレピ、ストリングスも加わったナンバー。優しく大人なムードのバラード。
「ヤング・ブラッド」はラテン・パーカッションが印象的な、リズミカルなナンバー。ギターの刻むビートが心地よい。ホーン、コーラス隊も参加して、実に賑やかなサウンドだ。シングルにも出来そう。
「イージー・マネー」はフォービート・シャッフルの、オールド・ジャズ色の強いナンバー。
ジョーンズのアンニュイで掴みどころのないボーカルに、アコースティックなサウンドがマッチしている。
ローウェル・ジョージ版とはまた、味わいが大幅に異なるので、聴き比べてみるのも面白い。
「ラスト・チャンス・テキサコ」はアコギをフィーチャーしたフォーク・バラード。
この曲でジョーンズはわりと声を「張った」歌い方をしている。その歌いぶりから、真剣な思いが伝わってくる。
LP版B面トップの「ダニーの店で」は、再びオールドタイム・スウィング風のシャッフル。歌うような、喋るような、とりとめのない歌い方。これぞリッキー・リー節だな。
ノリノリなサウンドに、リスナーの気持ちもウキウキになれる。
「クールズヴィル」はピアノ弾き語りにバックが絡む、スロー・ナンバー。内省的な雰囲気で、アルバム中では異彩を放っている。
「ホワイト・ボーイズ・クール」はLAのミュージシャン、アルフレッド・ジョンスンとの共作。どことなくCSN&Yの曲を連想させるメロディを持つ、フォーク・ロック・ナンバーだ。
ジャズ、ブルースといったルーツ・ミュージックの流れを踏襲するだけでなく、フォークとの融合により新しいロックを作り出していこうという意気込みを感じる一曲。ジョンスンとのコラボによる、化学反応だろうか。
「カンパニー」もジョンスンとの共作だ。ピアノ、ストリングスの響きが美しい、別離のバラード。ジョーンズのボーカルも本気モードで、聴きごたえがある。
そして、ラストのピアノ弾き語り、「アフター・アワーズ」は静けさに満ちている。
それまでの人々が集って賑やかに過ごした時間が去って、孤独なひとときを迎えるジョーンズ。
それもまた、彼女の愛する時間なのだろう。
都会に、そして恋に生きる女性の心を、さまざまなスタイルで歌いあげるリッキー・リー・ジョーンズ。
多くの異性だけでなく、同性をも惹きつける魅力に満ちているひとだ。
猫のように気ままに、自由奔放に生きる彼女の歌は、われわれの願望を映し出す鏡のように思える。
いろいろな苦しさ、辛さを伴うのは知っているが、自由とはそれくらい魅力的なものなのだ。
すべてのストレイ・キャッツたちのための一枚、それが「浪漫」である。
<独断評価>★★★★