2023年2月14日(火)
#454 奥田民生「29」(SONY RECORDS SRCL 3134)
ミュージシャン、奥田民生のソロデビュー・アルバム。95年リリース。奥田、ジョー・ブレイニーによるプロデュース。
奥田といえばユニコーンのフロントマンとして、87年のレコードデビュー以来、35年以上にわたり第一線で活躍しているアーティストだが、そのキャリアに反して不思議と大家(たいか)感のない、「永遠の若造」ってイメージがある。
まぁそれは彼の容姿とか、キャラクターによるところが大きいのだろう。
いい意味で肩の力が抜けている人で、それが彼の最大の魅力でもある。
ユニコーンは過去一度、解散している。ドラマーにしてリーダーである川西幸一が音楽性のズレを理由に脱退し、彼抜きでなんとかアルバムを一枚リリースしたものの、バンド存続のモティベーションを失い、解散のやむなきに至ったのが93年9月。
その後、奥田は半年休暇を取って充電。翌94年10月、シングル「愛のために」をリリース。
これが初のミリオンセラーとなり、ソロ活動への起爆剤となった。
渡米して現地ミュージシャンたちと共にニューヨークでレコーディング、日本での録音も合わせて、95年3月にこの「29」が完成した。
タイトルは、アルバム完成時の奥田の年齢から取られている。29歳のオレの記録、ってことだな。
参加ミュージシャンは、NY組(10曲)はドラムスのスティーヴ・ジョーダン、ベースのチャーリー・ドレイトン、ギターのワディ・ワクテル、キーボードのバーニー・ウォーレルなど。東京組はベースの山中真一、キーボードの藤井理央、ドラムスの河合マイケル、そして川西幸一、ベースの坂巻晋、パーカッションの笹本希絵 (いずれもVANILLA)。
サウンド的にはロック系の曲が過半数、フォーク系の曲がその残りというところか。もちろん、そのミックス的なものもある。
印象に残ったナンバーから、挙げてみよう。
まずは先行シングルの「愛のために」。
筆者もカラオケで何度となく歌った曲。歯切れのいいギター・サウンドのロック・ナンバーだ。
歌詞内容は酒場でくだまいて国防論議をふっかけて来るオッサンと主人公とのやり取りのようだが、そこにさほど思想性はない。むしろ、国防論議を茶化しているとも言える。
要は「愛」がテーマで「人は愛のために死ねる(か?)」がポイントなのだろう。
この曲はやはり、ドラムスが最大の聴きどころだと思う。川西の音は、いつ聴いてもスゲーなと思う。
実際、ユニコーンが登場した時は驚いたものだ。日本のポップスなど経ずに最初から洋楽ばかり聴いて育った世代は、こんなドラムが叩けるんだって。
長らく日本人のドタドタしたプレイを聴き慣れていた筆者には目からウロコ、いや耳からウロコでしたわ。
そんなドラマーを最初からバックにして歌えた奥田が、心底うらやましい。
「息子(アルバム ヴァージョン)」は「愛のために」に続いてシングル・カットされている。これはシングルよりは長めのヴァージョン。
フォークを基調にしたサウンド。ワクテルのスライド・ギターがなんともいえずカッコよろしい。
歌詞には、奥田の実生活が反映されているのだろう。童顔の奥田も家庭を持ち子を成すことで、かつての自分の自由で気ままな世界とはまた別の、人生の真実を見出しているのに違いない。
「674」はまったりとしたフォーク・サウンドとは裏腹の、愛という名の狂気を感じさせる歌詞が実にエグい。まるでサザン・ロックのような深く激しいサウンドの「ハネムーン」も、相当歌詞はイッちゃっている。
日常の中に潜む狂気、これがこのアルバムを彩り、ありきたりのポップスとはまったく別のものにしているのだ。
当時の流行音楽は「がんばれば、うまくいく」「一途な愛を応援します」みたいなウソくさいメッセージを持つものが多かったなかで、奥田のようなちょっとハスに構えた歌詞は珍しかった。
変化球を交えつつ、奥田はこの一枚で自分のやりたいことを好きにやっている、そんな印象だ。
「ルート2」のような故郷広島をテーマにしたハードなギター・ロック、「これは歌だ」の二転三転するサイケデリックなサウンド。この辺りはロックな奥田が全開で、バックのミュージシャンたちも伸び伸びとプレイしているのがよく分かる。
アレンジをあらかじめかっちりと決めずに、その場のノリで決めていくやり方が、功を奏していると思う。
アレレと思ったのはジャズィなナンバー、「女になりたい」。奇妙な歌詞もさることながら、その歌声がまったく奥田に聴こえない。単体で聴かされたら、別人の曲としか思えないのだ。
なんとこれは「笑顔を保ったまま歌い切る」とい実験で出来上がった曲だというのだ。このジョークっぽい曲作りは、奥田ならではの洒落だな。
脳天気さの中に失恋を匂わせるフォーク・ロック・ナンバー「愛するひとよ」、「息子」同様家族をテーマにした「30才」、軽快なロックンロール・サウンドと軽佻浮薄な歌詞が特徴的な「BEEF」、どれも奥田ワールドの一側面である。
大人だけど、大人になりきっていないアラサーにしか書けない曲、それが「29」には詰まっている。
フォークとソウル・バラードの融合ともいえる「人間」、愛とは何ぞやという根源的な問題にカジュアルに迫るロック・ナンバー「奥田民生愛のテーマ」。
共にタイトルは大仰だが、本人はけっこうマジに歌詞を書いている。
答えなんて見つからない。でも、問い続け、考え続けることこそオレの音楽なのだと、奥田はいいたげである。
その後ユニコーンは2008年に復活、現在も活動中であるが、それと並行して奥田はソロ活動も続け、現在に至るまで18枚のシングル、12枚のアルバムを出している。
彼の尽きることのないクリエイティヴィティを、この一枚だけでも十分感じ取ることが出来る。
すべての人生経験が、歌を生み出す原動力なのだ。
<独断評価>★★★
ミュージシャン、奥田民生のソロデビュー・アルバム。95年リリース。奥田、ジョー・ブレイニーによるプロデュース。
奥田といえばユニコーンのフロントマンとして、87年のレコードデビュー以来、35年以上にわたり第一線で活躍しているアーティストだが、そのキャリアに反して不思議と大家(たいか)感のない、「永遠の若造」ってイメージがある。
まぁそれは彼の容姿とか、キャラクターによるところが大きいのだろう。
いい意味で肩の力が抜けている人で、それが彼の最大の魅力でもある。
ユニコーンは過去一度、解散している。ドラマーにしてリーダーである川西幸一が音楽性のズレを理由に脱退し、彼抜きでなんとかアルバムを一枚リリースしたものの、バンド存続のモティベーションを失い、解散のやむなきに至ったのが93年9月。
その後、奥田は半年休暇を取って充電。翌94年10月、シングル「愛のために」をリリース。
これが初のミリオンセラーとなり、ソロ活動への起爆剤となった。
渡米して現地ミュージシャンたちと共にニューヨークでレコーディング、日本での録音も合わせて、95年3月にこの「29」が完成した。
タイトルは、アルバム完成時の奥田の年齢から取られている。29歳のオレの記録、ってことだな。
参加ミュージシャンは、NY組(10曲)はドラムスのスティーヴ・ジョーダン、ベースのチャーリー・ドレイトン、ギターのワディ・ワクテル、キーボードのバーニー・ウォーレルなど。東京組はベースの山中真一、キーボードの藤井理央、ドラムスの河合マイケル、そして川西幸一、ベースの坂巻晋、パーカッションの笹本希絵 (いずれもVANILLA)。
サウンド的にはロック系の曲が過半数、フォーク系の曲がその残りというところか。もちろん、そのミックス的なものもある。
印象に残ったナンバーから、挙げてみよう。
まずは先行シングルの「愛のために」。
筆者もカラオケで何度となく歌った曲。歯切れのいいギター・サウンドのロック・ナンバーだ。
歌詞内容は酒場でくだまいて国防論議をふっかけて来るオッサンと主人公とのやり取りのようだが、そこにさほど思想性はない。むしろ、国防論議を茶化しているとも言える。
要は「愛」がテーマで「人は愛のために死ねる(か?)」がポイントなのだろう。
この曲はやはり、ドラムスが最大の聴きどころだと思う。川西の音は、いつ聴いてもスゲーなと思う。
実際、ユニコーンが登場した時は驚いたものだ。日本のポップスなど経ずに最初から洋楽ばかり聴いて育った世代は、こんなドラムが叩けるんだって。
長らく日本人のドタドタしたプレイを聴き慣れていた筆者には目からウロコ、いや耳からウロコでしたわ。
そんなドラマーを最初からバックにして歌えた奥田が、心底うらやましい。
「息子(アルバム ヴァージョン)」は「愛のために」に続いてシングル・カットされている。これはシングルよりは長めのヴァージョン。
フォークを基調にしたサウンド。ワクテルのスライド・ギターがなんともいえずカッコよろしい。
歌詞には、奥田の実生活が反映されているのだろう。童顔の奥田も家庭を持ち子を成すことで、かつての自分の自由で気ままな世界とはまた別の、人生の真実を見出しているのに違いない。
「674」はまったりとしたフォーク・サウンドとは裏腹の、愛という名の狂気を感じさせる歌詞が実にエグい。まるでサザン・ロックのような深く激しいサウンドの「ハネムーン」も、相当歌詞はイッちゃっている。
日常の中に潜む狂気、これがこのアルバムを彩り、ありきたりのポップスとはまったく別のものにしているのだ。
当時の流行音楽は「がんばれば、うまくいく」「一途な愛を応援します」みたいなウソくさいメッセージを持つものが多かったなかで、奥田のようなちょっとハスに構えた歌詞は珍しかった。
変化球を交えつつ、奥田はこの一枚で自分のやりたいことを好きにやっている、そんな印象だ。
「ルート2」のような故郷広島をテーマにしたハードなギター・ロック、「これは歌だ」の二転三転するサイケデリックなサウンド。この辺りはロックな奥田が全開で、バックのミュージシャンたちも伸び伸びとプレイしているのがよく分かる。
アレンジをあらかじめかっちりと決めずに、その場のノリで決めていくやり方が、功を奏していると思う。
アレレと思ったのはジャズィなナンバー、「女になりたい」。奇妙な歌詞もさることながら、その歌声がまったく奥田に聴こえない。単体で聴かされたら、別人の曲としか思えないのだ。
なんとこれは「笑顔を保ったまま歌い切る」とい実験で出来上がった曲だというのだ。このジョークっぽい曲作りは、奥田ならではの洒落だな。
脳天気さの中に失恋を匂わせるフォーク・ロック・ナンバー「愛するひとよ」、「息子」同様家族をテーマにした「30才」、軽快なロックンロール・サウンドと軽佻浮薄な歌詞が特徴的な「BEEF」、どれも奥田ワールドの一側面である。
大人だけど、大人になりきっていないアラサーにしか書けない曲、それが「29」には詰まっている。
フォークとソウル・バラードの融合ともいえる「人間」、愛とは何ぞやという根源的な問題にカジュアルに迫るロック・ナンバー「奥田民生愛のテーマ」。
共にタイトルは大仰だが、本人はけっこうマジに歌詞を書いている。
答えなんて見つからない。でも、問い続け、考え続けることこそオレの音楽なのだと、奥田はいいたげである。
その後ユニコーンは2008年に復活、現在も活動中であるが、それと並行して奥田はソロ活動も続け、現在に至るまで18枚のシングル、12枚のアルバムを出している。
彼の尽きることのないクリエイティヴィティを、この一枚だけでも十分感じ取ることが出来る。
すべての人生経験が、歌を生み出す原動力なのだ。
<独断評価>★★★