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音盤日誌「一日一枚」#233 リック・ジェームズ「コールド・ブラッデッド」(ビクター音楽産業 VIL-6063)

2022-07-05 05:00:00 | Weblog

2004年8月10日(火)



#233 リック・ジェームズ「コールド・ブラッデッド」(ビクター音楽産業 VIL-6063)

もうご存じのかたもいらっしゃると思うが、リック・ジェームズが今月6日、亡くなってしまった。56歳という若さで。

そこで今日は、彼をしのんで、83年リリースのアルバムを聴いている。

リックは48年、ニューヨーク州バッファローの生まれ。優等生的なアーティストばかり送り出して来たためか、70年代後半にはジリ貧の状態になっていたモータウンが、初めて手がけた「ワル」系アーティスト。

実際、彼がミュージシャンとしてメジャーデビューする前は、本当にストリートでブイブイいわしていたらしい。

代表作は81年のアルバム「ストリート・ソングス」。ハーレムで培われた彼の音楽センスが「ゲットー・ライフ」などのナンバーに結晶している。

歌うだけでなく、べースをはじめとするほとんどすべての楽器を演奏。作詞・作曲・アレンジ・プロデュースも、もちろん彼自身が担当している。

彼のサウンドは基本的には、いわゆる「Pファンク」、ジョージ・クリントンやブーツィ・コリンズらの音楽の流れを汲むものではあるが、それだけにとどまらない懐の広さが感じられる。白人のロック、過去のR&Bやジャズなど、さまざまな要素を彼流に溶かし込んだ「リック流ミュージック」なんだと思う。

リック自身は「オレの音楽はパンク・ファンクだ」などとケレン味たっぷりに言っているが、精神的にはパンクに通ずるものがあるね。

いつも自分の原点はストリートをうろつくパンクス=チンピラにあり、金持ちになったってエスタブリッシュメントな音楽なんてやんねーぜという姿勢が感じられる。その心意気たるや、よし、である。

さて、このアルバムも「ストリート・ソングス」の延長線上にあるサウンドといっていいだろう。

歌詞にする内容は、理想だの夢だのといったヤワなものではなく、あくまでも日常の生活。

たとえば彼の出身地であるニューヨークをテーマにしたのが「ニューヨーク・タウン」。ここではNYCに初めてやってきた男の体験談が、歌詞と会話で構成されている。スタジオ54とか、当時流行のスポット名が折り込まれていたり、いかにもドキュメンタリー風。

あるいは「ピンプ・ザ・シンプ」。これは実在の娼婦をモデルにして書かれた歌だ。

その年、若くして死んでしまった娼婦の生涯を歌うことで、生々しい感情をわれわれに起こさせる。

こういうライヴ感覚の歌詞こそが、彼の最大の魅力ではないかと思う。

そして、もうひとつの魅力といえば、ストレートなエロティシズム。とにかく、歌詞を聴いているだけで、興奮して来るようなファンク・チューン。

「フリーク・アウト」や「コールド・ブラッデッド」、そして極めつけは「ドゥーイン・イット」。なんとも、まんまなタイトル(笑)。3Pプレイがテーマの「ワン・ツー・スリー」なんてのもある。これもスゴい。

でも、こういった曲をBGMにして、臆面もなく極上の女性を口説けたらカッコえーと思うね。

カマトト系のコと一緒に聴くんだったら、かのスモーキー・ロビンスンと共演した「エボニー・アイズ」、ビりー・ディー・ウィリアムズとの共演曲「テル・ミー」、このへんのバラードがお薦め。もう、ふたりの時間をひたすらスウィートに演出してくれます。

歌もソツがなく、曲作りにも抜かりはなく、サウンドも完璧。だが、器用過ぎたのが災いしたのだろうか。彼の才能はいまひとつ正当に評価されず、90年代以降はほとんど省みられることもなく、歴史の中に埋没してしまった。何とも、腑に落ちないものがある。

だが、彼が残した遺伝子は、現在の黒人音楽の中で確実に生き続けている。

表現スタイルこそかなり違えど、ラップ、ヒップホップに代表されるストリート・カルチャーが「日常生活」を、そして社会の歪みをストレートに歌うという「文法」は、70年代から80年代に、リックが根付かせたものである。

才能あふれるワル、リック・ジェームズのパンクな精神は、いまも決して死んじゃいない、そう思う。

<独断評価>★★★



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