NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#234 倉木麻衣「Love, Day After Tomorrow」(GIZA GZCA-1014)

2022-07-06 05:18:00 | Weblog

2004年8月11日(水)



#234 倉木麻衣「Love, Day After Tomorrow」(GIZA GZCA-1014)

倉木麻衣のデビュー・マキシ、99年12月リリース。

倉木麻衣もデビューしてすでに4年半を過ぎた。アメリカで「Mai-K」としてデビューしてから数えれば、実質的に5年近い。

その間に18枚のシングル、ベスト盤も含めて5枚のアルバムをリリース、すっかりチャートの常連になった感がある。

芸能活動の一方、立命館大学の学生として学業も両立させている彼女、すでに四回生だというから、時のたつのは早いもんだ。

そんな彼女がこの10月、立命館大の記念行事と自身の卒業記念を兼ねて、同大のびわこ・くさつキャンパス内でコンサートをやることを発表した。

その会見で彼女が発した言葉に、筆者は首をかしげてしまった。

倉木は「(わたしは)一アーティストとして、一学生として…」、たしかにそう発言していた。

「アーティスト? それはちと、違うんでないかい、麻衣チャン?」。そう、突っ込みたくなってしまった。

現在、音楽業界においては、ただのシンガーについても「アーティスト」と呼ぶのが習わしとなっていて、倉木はその慣例に従ったまでなんだろうが、筆者的には激しく違和感を覚えたのも事実である。

筆者の考える「アーティスト」とは、少なくとも何らかの楽器が弾けて、それにより作曲も出来るひとでなくてはならない。詞のほうは、必ずしも自分で作る必要はないが、作曲のほうは必須だ。

ただのシンガーと、アーティストを隔てる明確な基準がその二点だと思う。

(もっとも、Dreams Come Trueの吉田美和のように、まったく楽器を弾けないのに、作曲をしてしまう人もいるにはいるが、それはあくまでも特殊ケース。99%は、楽器なくして作曲など不可能だろう。)

倉木麻衣は、作詞こそデビュー以来自らが手がけているが、曲作りは人まかせなので、そういう意味でアーティストと呼ぶことにはためらいがある。同様の理由で、浜崎あゆみもアーティストではないように思う。

もちろん、今後、作曲術を学んで、すべて自分の力で楽曲をプロデュースを出来るようになれば、アーティストと呼ぶことはやぶさかではない。念のため。

倉木麻衣がデビューしたとき、その年格好、曲の雰囲気、声のキャラクターなど諸々の点で、宇多田ヒカルとの酷似を指摘され、宇多田ファンから猛烈なバッシングにあったことは、いまだに記憶に新しい。

実際、このデビュー・マキシを聴いてみると、「あえて、露骨に対抗馬としてぶつけてきた」、そんな印象すらある。

が、その後、何年かを経るうちに、類似性よりもそれぞれの差異のほうが、むしろ明らかになってきた。

今となっては「倉木は宇多田のコピー、パクリ」なんていうヤツは、ほとんどいるまい。

何より、宇多田は自分で曲を作るアーティストであり、倉木はひとの作った曲を歌うシンガーである。この一点だけでも、大きな違いだ。むろん、どっちが上とか、下とかいうものではないので、誤解なきよう。

宇多田には宇多田の魅力、倉木には倉木の魅力があり、リスナーがどちらを選ぶか、あるいはどちらも愛好するか、それはまったくの自由である。

筆者の見るところでは、宇多田は同世代、同性の支持が強いように思う。一方、倉木は異性、それも彼女より上の世代の支持が強いように思う。いいかえれば、アイドル的な人気も強いということであるが、そのことは別に彼女の評価を貶めるものではないはずだ。

多くのオトコどもを、その歌声と容姿で魅惑する、それもまた一流の歌姫のありようじゃないかな。

このデビュー曲「Love, Day After Tomorrow」は、本当によく出来ている。曲としての完成度は、年に何千曲も出されるシングルの中でもトップクラスの水準にあると思う。

事実、リリース後、テレビ出演をまったくせず、PVのみのオンエアだったにもかかわらず、じわじわとチャートをのぼりつめ、3か月近くかけて1位にたどりつき、2000年を代表するヒットのひとつとなった。最も理想的なパターンのヒットであった。(これは宇多田のデビュー曲「Automatic」と共通している。)

最近のヒット曲は(「さくら(独唱)」とか「Jupiter」とか少数の例外をのぞけば)ほとんどが、初動で勝負の「瞬間最大風速型ヒット」である。持続性のあるヒットは稀にしか見られない。

「Love, Day After Tomorrow」のロング・ヒットの実績は、彼女の底力を示すものだと思う。

現段階では、まだ「歌の実力」よりは「可愛らしさ」で売っているというパブリック・イメージが強く、それもあながち間違いではない。まだ21歳と若いのだから、許されるだろう。

だが、大学卒業後、つまり来年からは正念場だと思う。「アーティストです」と胸を張っていえるようになるためには、現状の「Singing Doll」から脱皮せんと。

でなければ、かつてあなたが、若さと容姿を武器にヒッキーを猛追したように、あなたより若くて可愛くて、歌の実力も満点の子に追い上げられる可能性はあるからね、麻衣チャン。くれぐれも、がんばって欲しい。

<独断評価>★★★☆



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