2023年2月1日(水)
#441 JOHN LEE HOOKER「...And Seven Nights」(Verve Folkways FT-3003)
米国のブルース・シンガー、ジョン・リー・フッカーのスタジオ・アルバム。65年リリース。ジェリー・シェーンバウムによるプロデュース。ロンドン録音。
ジョン・リーはこれまで一度も取り上げて来なかったことに、今の今気づいた。こりゃいかんな。
あまたいるブルースマンの中でも、彼くらい個性的な人はそういない。いやしくもブルース・ファンを名乗る以上、ジョン・リーを語らずにいてはモグリってものだ。
今回は、彼のアルバムでもあまり話題になることのない、他のアーティストとの共演盤だ。
グラウンドホッグスという英国のバンドをご存知だろうか。日本語版のウィキペディアもないくらいマイナーなバンドなのだが、62年以来現在に至るまで活動を続けている、超長寿のブルースロック・バンドなのだ。
ピートとジョンのクルークシャンク兄弟に、ギターのトニー・マクフィーが加わって結成された。
最初はダラービルズというバンド名だったが、マクフィーの希望でグラウンドホッグスに改名された。その元ネタが、ジョン・リーの曲「グラウンドホッグズ・ブルース」だったということなのだ。
つまり、マクフィーにとってジョン・リーは憧れのブルースマン、父親にも似た存在だった。
そのバンド名をつけたおかげか、64年にジョン・リーが英国公演をした際にサポート・バンドを務め、このレコーディングにも至ったわけだ。
収録された11曲は、すべてジョン・リーの作品。
参加ミュージシャンはグラウンドホッグスの当時のメンバー。ギターのマクフィー、キーボードのトム・パーカー、ベースのピート・クルークシャンク、ドラムスのデイヴ・ブーアマン。
オープニングの「Bad Luck and Trouble」はツー・コードのスロー・ブルース。
ジョン・リーがおなじみのギター・フレーズを繰り出し、マクフィーがそれに絡み、パーカーがオルガンでふたりを盛り立てる。
のっけから、濃厚なブルースの香りが立ちのぼる一曲。
「Waterfront」もスロー・ナンバー。水辺にたたずみ、物思いにふける男のストーリー。落ち着いた雰囲気の一曲。
単調なフレーズ、そしてビートの繰り返しの中にも、確かなグルーヴが生まれているのを感じる。これぞ、ジョン・リー・スタイル。
「No One Pleases Me But You」はごく短いアップ・テンポのブギ。転がるようなピアノ、マクフィーのスライド・ギターが、本場アメリカのジューク・ジョイントのようなムードを醸し出している。
「It’s Raining Here」も速いテンポの、シャッフル。
ここでもマクフィーのギターを前面にフィーチャーし、ジョン・リーは歌に専念している。
テーマは失恋だが、歌には勢いがある。
「It’s a Crazy Mixed Up World」はジョン・リーの弾くソロから始まる、ゆったりとしたテンポのブルース。
間奏でのマクフィーのソロには、ジョン・リーの強い影響が感じられる。
ジョン・リーのあの独特の声と、世を嘆く歌詞が相まって、まさに「ブルースそのもの」がここにある。
「Seven Days And Seven Nights」もスロー・ナンバー。去って行った女の面影を求め、苦悩する歌。
執拗にギターをかき鳴らし、粘っこく歌うジョン・リー。ソロもエグい。
ブルースと愛欲にまみれたこの感じが、いかにもジョン・リーっぽい。
「Mai Lee」は女性への呼びかけから始まる、シャッフル・ナンバー。
内容はシンプルで、ストレートな求愛ソング。
ジョン・リーの個性的でギクシャクとしたソロが、妙にカッコよく感じられる。
「I’m Losin’ You」はミディアム・テンポのブルース。
ここでもジョン・リーの訥々としたソロをフィーチャー。味があるんだよな、これが。
名手マクフィーの達者なプレイも悪くはないが、やはりジョン・リーの貫禄勝ちだな。
「Little Girl Go Back to School」は、「お前は若過ぎるから、学校へ戻らなきゃダメだ」と、付き合っている少女へ語りかける、少し速いテンポのブルース・ナンバー。
80代になるまで若いオンナへの興味を失うことのなかったジョン・リーらしい歌。歌詞にリアリティが感じられる。
「Little Dreamer」はワン・コードのスロー・ブルース。
重く粘っこいビートを繰り返し、いつ終わるともしれないブルースを語り続けるジョン・リー。
その味わいは、アルコール度数の高い酒を、ストレートであおるような感じだ。
ラストの「Don’t Be Messin’ with My Bread」はテンポの速いブルース・ナンバー。ジョン・リーのソロもフィーチャーし、フェイドアウトで終わる。
「俺にちょっかい出すんじゃねぇ!」みたいな彼のミエの切り方には、シビれるね。
ジョン・リー・フッカーの、あの特徴あるギター・プレイは抑えめに、彼の歌を主にフィーチャーした一枚。
グラウンドホッグスは、ジョン・リー・チルドレンを自称するだけあって師匠との息もぴったりと合い、サウンド的にも違和感がない。
この試みを経て、ジョン・リーは白人ミュージシャン、ロック・バンドとの共演をしきりに行うようになる。
その際たるのものが、71年のキャンド・ヒートとの共演アルバム、「Hooker ‘n Heat」だろう。
黒人ブルースに根強かった人種の垣根など自分のほうから取っ払い、どんなミュージシャンとでも意欲的に絡んでいく。
ジョン・リー・フッカーのそんな姿勢が、新時代のブルース、そしてブルース・ロックを生み出したのだ。
忘れられがちだが、忘れてはいけない一枚である。
<独断評価>★★★☆
米国のブルース・シンガー、ジョン・リー・フッカーのスタジオ・アルバム。65年リリース。ジェリー・シェーンバウムによるプロデュース。ロンドン録音。
ジョン・リーはこれまで一度も取り上げて来なかったことに、今の今気づいた。こりゃいかんな。
あまたいるブルースマンの中でも、彼くらい個性的な人はそういない。いやしくもブルース・ファンを名乗る以上、ジョン・リーを語らずにいてはモグリってものだ。
今回は、彼のアルバムでもあまり話題になることのない、他のアーティストとの共演盤だ。
グラウンドホッグスという英国のバンドをご存知だろうか。日本語版のウィキペディアもないくらいマイナーなバンドなのだが、62年以来現在に至るまで活動を続けている、超長寿のブルースロック・バンドなのだ。
ピートとジョンのクルークシャンク兄弟に、ギターのトニー・マクフィーが加わって結成された。
最初はダラービルズというバンド名だったが、マクフィーの希望でグラウンドホッグスに改名された。その元ネタが、ジョン・リーの曲「グラウンドホッグズ・ブルース」だったということなのだ。
つまり、マクフィーにとってジョン・リーは憧れのブルースマン、父親にも似た存在だった。
そのバンド名をつけたおかげか、64年にジョン・リーが英国公演をした際にサポート・バンドを務め、このレコーディングにも至ったわけだ。
収録された11曲は、すべてジョン・リーの作品。
参加ミュージシャンはグラウンドホッグスの当時のメンバー。ギターのマクフィー、キーボードのトム・パーカー、ベースのピート・クルークシャンク、ドラムスのデイヴ・ブーアマン。
オープニングの「Bad Luck and Trouble」はツー・コードのスロー・ブルース。
ジョン・リーがおなじみのギター・フレーズを繰り出し、マクフィーがそれに絡み、パーカーがオルガンでふたりを盛り立てる。
のっけから、濃厚なブルースの香りが立ちのぼる一曲。
「Waterfront」もスロー・ナンバー。水辺にたたずみ、物思いにふける男のストーリー。落ち着いた雰囲気の一曲。
単調なフレーズ、そしてビートの繰り返しの中にも、確かなグルーヴが生まれているのを感じる。これぞ、ジョン・リー・スタイル。
「No One Pleases Me But You」はごく短いアップ・テンポのブギ。転がるようなピアノ、マクフィーのスライド・ギターが、本場アメリカのジューク・ジョイントのようなムードを醸し出している。
「It’s Raining Here」も速いテンポの、シャッフル。
ここでもマクフィーのギターを前面にフィーチャーし、ジョン・リーは歌に専念している。
テーマは失恋だが、歌には勢いがある。
「It’s a Crazy Mixed Up World」はジョン・リーの弾くソロから始まる、ゆったりとしたテンポのブルース。
間奏でのマクフィーのソロには、ジョン・リーの強い影響が感じられる。
ジョン・リーのあの独特の声と、世を嘆く歌詞が相まって、まさに「ブルースそのもの」がここにある。
「Seven Days And Seven Nights」もスロー・ナンバー。去って行った女の面影を求め、苦悩する歌。
執拗にギターをかき鳴らし、粘っこく歌うジョン・リー。ソロもエグい。
ブルースと愛欲にまみれたこの感じが、いかにもジョン・リーっぽい。
「Mai Lee」は女性への呼びかけから始まる、シャッフル・ナンバー。
内容はシンプルで、ストレートな求愛ソング。
ジョン・リーの個性的でギクシャクとしたソロが、妙にカッコよく感じられる。
「I’m Losin’ You」はミディアム・テンポのブルース。
ここでもジョン・リーの訥々としたソロをフィーチャー。味があるんだよな、これが。
名手マクフィーの達者なプレイも悪くはないが、やはりジョン・リーの貫禄勝ちだな。
「Little Girl Go Back to School」は、「お前は若過ぎるから、学校へ戻らなきゃダメだ」と、付き合っている少女へ語りかける、少し速いテンポのブルース・ナンバー。
80代になるまで若いオンナへの興味を失うことのなかったジョン・リーらしい歌。歌詞にリアリティが感じられる。
「Little Dreamer」はワン・コードのスロー・ブルース。
重く粘っこいビートを繰り返し、いつ終わるともしれないブルースを語り続けるジョン・リー。
その味わいは、アルコール度数の高い酒を、ストレートであおるような感じだ。
ラストの「Don’t Be Messin’ with My Bread」はテンポの速いブルース・ナンバー。ジョン・リーのソロもフィーチャーし、フェイドアウトで終わる。
「俺にちょっかい出すんじゃねぇ!」みたいな彼のミエの切り方には、シビれるね。
ジョン・リー・フッカーの、あの特徴あるギター・プレイは抑えめに、彼の歌を主にフィーチャーした一枚。
グラウンドホッグスは、ジョン・リー・チルドレンを自称するだけあって師匠との息もぴったりと合い、サウンド的にも違和感がない。
この試みを経て、ジョン・リーは白人ミュージシャン、ロック・バンドとの共演をしきりに行うようになる。
その際たるのものが、71年のキャンド・ヒートとの共演アルバム、「Hooker ‘n Heat」だろう。
黒人ブルースに根強かった人種の垣根など自分のほうから取っ払い、どんなミュージシャンとでも意欲的に絡んでいく。
ジョン・リー・フッカーのそんな姿勢が、新時代のブルース、そしてブルース・ロックを生み出したのだ。
忘れられがちだが、忘れてはいけない一枚である。
<独断評価>★★★☆