2023年3月18日(土)
#486 THE RAMSEY LEWIS TRIO「THE ‘IN’ CROWD」(Universal Music/Verve 0602517448247)
昨年9月に87歳で亡くなった米国のジャズ・ピアニスト、ラムゼイ・ルイスが率いるトリオのライブ・アルバム。65年リリース。エズモンド・エドワーズによるプロデュース。
ラムゼイ・ルイスといえば、たいていのリスナーは「サン・ゴッデス(太陽の女神)」という曲を思い起こすだろうが、あれはルイスというよりは実質アース・ウィンド・アンド・ファイアの作品だから、代表作とするにはためらいがある。
ルイスといえば、なんといっても「ジ・イン・クラウド」ではなかろうか。なにしろ、全米5位、R&Bチャート2位の大ヒットとなったのだから。
その曲が収められているのが本盤。65年7月にワシントンDCのジャズ・クラブ、「ボヘミアン・キャバーンズ」で行われたライブを収録したものだ。
オープニング・ナンバーがその「ジ・イン・クラウド」だ。
R&Bコンポーザー、ビリー・ペイジ64年の作品。オリジナルはシンガー、ドビー・グレイのシングル。
これはR&Bチャートで11位のスマッシュ・ヒットとなったが、それを上回る大ヒットを達成したのがラムゼイ・ルイス・トリオなのである。
ライブでは冒頭からオーディエンスの手拍子が入るなど熱気がムンムンで、この曲がすでにレギュラー・レパートリーとして大人気を博していたことが感じ取れる。
とにかく、本盤ではオーディエンスのノリが最高にいいのだ。
ファンキーなリズムに乗って延々と繰り広げられる、ルイスのピアノ演奏。そのグルーヴにひたすら身を委ね、クラップし、陶酔するオーディエンス。
ボーカルを一切使わずに、演奏だけでこんな熱狂状態を生み出せるとは!
インストゥルメンタル、恐るべしと思わずにはいられない。
続いて演奏されるスロー・バラードは「シンス・アイ・フェル・フォー・ユー」。
バディ・ジョンソンの作品。ジョンソンはジャンプ・ブルースの巨匠で、この曲は45年に書かれている。邦題は「君にダウン」。
ブロック・コードを多用したロマンティックなプレイで、盛り上げるルイス。場内もしっとりとした雰囲気になる。
「テネシー・ワルツ」は言うまでもなく、パティ・ペイジ50年の大ヒットで知られるカントリーの名曲。ピー・ウィー・キング、レッド・スチュワートの作品だ。
ここではエルディー・ヤングのベースをフィーチャーして、全編彼のソロ、そしてそれにシンクロしたスキャットが披露される。これがものスゴいテクニックなのだ。
そして、どえらくファンキー。およそこれまで聴いた中で、一番ファンキーな「テネシー・ワルツ」だろう。
ヤングやドラマーのレッド・ホルトは56年のトリオ結成以来、66年のメンバー交代まで10年間ルイスとずっと行動を共にしていた。また、その後も共演する機会が多い。
彼ら3人の長い付き合いが、ここで聴けるリラックスした演奏の、みなもとだったのだろう。
「ユー・ビーン・トーキン・バウト・ミー・ベイビー」はボビー・ティモンズ作の「モーニン」にちょっと似たフレーズを持つ、ゴスペルライクなナンバー。カナダのシンガー、ゲイル・ガーネット、レイ・リヴァースの作品。
ファンキーでノリのいいプレイは、この曲でも聴ける。
「スパルタカス」は多くの映画音楽で知られるアレックス・ノースの作品。同題の60年の映画より「愛のテーマ」を。
前半はルイスのリリカルなテーマ演奏を前面に押し出し、中間部はゆったりとしたラテン調のリズムに乗り、粘っこいピアノ・ソロが続く。そして、終盤は再び静かなテーマに戻って終わる。
静と動がたくみにブレンドされた、味わい深い一曲。
「フェリシダーデ(ハッピネス)」はこれも映画音楽からのチョイスだ。
59年のフランス映画「黒いオルフェ」の挿入歌。アントニオ・カルロス・ジョビン、ヴィニシウス・デ・モラエス作のボサノヴァ・ナンバー。
速いテンポで、明と暗を織り交ぜたメロディを紡いでいくルイス。それを着実にサポートするリズム・セクション。実にスリリングなトリオ演奏だ。
途中の、ピアノとドラムスの掛け合いもなかなか聴かせる。場内も自然とヒート・アップして行くのが、手にとるよう。
ラストの「カム・サンデー」は42年、デューク・エリントン作のバラード・ナンバー。
ここではピアノ・ソロをフィーチャー。ルイスは繊細にして力強いタッチで、この曲のセンチメンタルな持ち味を、最大限に引き出している。
ジャズがまだポピュラー・ミュージックの王者であり、メインストリームであった時代、聴くだけでなく「のれる」音楽であった時代の記録。それがこの「ジ・イン・クラウド」。
ファンキー・ジャズの醍醐味を味わえる一枚。バーボン・ロックのお供に、ぜひ。
<独断評価>★★★☆
昨年9月に87歳で亡くなった米国のジャズ・ピアニスト、ラムゼイ・ルイスが率いるトリオのライブ・アルバム。65年リリース。エズモンド・エドワーズによるプロデュース。
ラムゼイ・ルイスといえば、たいていのリスナーは「サン・ゴッデス(太陽の女神)」という曲を思い起こすだろうが、あれはルイスというよりは実質アース・ウィンド・アンド・ファイアの作品だから、代表作とするにはためらいがある。
ルイスといえば、なんといっても「ジ・イン・クラウド」ではなかろうか。なにしろ、全米5位、R&Bチャート2位の大ヒットとなったのだから。
その曲が収められているのが本盤。65年7月にワシントンDCのジャズ・クラブ、「ボヘミアン・キャバーンズ」で行われたライブを収録したものだ。
オープニング・ナンバーがその「ジ・イン・クラウド」だ。
R&Bコンポーザー、ビリー・ペイジ64年の作品。オリジナルはシンガー、ドビー・グレイのシングル。
これはR&Bチャートで11位のスマッシュ・ヒットとなったが、それを上回る大ヒットを達成したのがラムゼイ・ルイス・トリオなのである。
ライブでは冒頭からオーディエンスの手拍子が入るなど熱気がムンムンで、この曲がすでにレギュラー・レパートリーとして大人気を博していたことが感じ取れる。
とにかく、本盤ではオーディエンスのノリが最高にいいのだ。
ファンキーなリズムに乗って延々と繰り広げられる、ルイスのピアノ演奏。そのグルーヴにひたすら身を委ね、クラップし、陶酔するオーディエンス。
ボーカルを一切使わずに、演奏だけでこんな熱狂状態を生み出せるとは!
インストゥルメンタル、恐るべしと思わずにはいられない。
続いて演奏されるスロー・バラードは「シンス・アイ・フェル・フォー・ユー」。
バディ・ジョンソンの作品。ジョンソンはジャンプ・ブルースの巨匠で、この曲は45年に書かれている。邦題は「君にダウン」。
ブロック・コードを多用したロマンティックなプレイで、盛り上げるルイス。場内もしっとりとした雰囲気になる。
「テネシー・ワルツ」は言うまでもなく、パティ・ペイジ50年の大ヒットで知られるカントリーの名曲。ピー・ウィー・キング、レッド・スチュワートの作品だ。
ここではエルディー・ヤングのベースをフィーチャーして、全編彼のソロ、そしてそれにシンクロしたスキャットが披露される。これがものスゴいテクニックなのだ。
そして、どえらくファンキー。およそこれまで聴いた中で、一番ファンキーな「テネシー・ワルツ」だろう。
ヤングやドラマーのレッド・ホルトは56年のトリオ結成以来、66年のメンバー交代まで10年間ルイスとずっと行動を共にしていた。また、その後も共演する機会が多い。
彼ら3人の長い付き合いが、ここで聴けるリラックスした演奏の、みなもとだったのだろう。
「ユー・ビーン・トーキン・バウト・ミー・ベイビー」はボビー・ティモンズ作の「モーニン」にちょっと似たフレーズを持つ、ゴスペルライクなナンバー。カナダのシンガー、ゲイル・ガーネット、レイ・リヴァースの作品。
ファンキーでノリのいいプレイは、この曲でも聴ける。
「スパルタカス」は多くの映画音楽で知られるアレックス・ノースの作品。同題の60年の映画より「愛のテーマ」を。
前半はルイスのリリカルなテーマ演奏を前面に押し出し、中間部はゆったりとしたラテン調のリズムに乗り、粘っこいピアノ・ソロが続く。そして、終盤は再び静かなテーマに戻って終わる。
静と動がたくみにブレンドされた、味わい深い一曲。
「フェリシダーデ(ハッピネス)」はこれも映画音楽からのチョイスだ。
59年のフランス映画「黒いオルフェ」の挿入歌。アントニオ・カルロス・ジョビン、ヴィニシウス・デ・モラエス作のボサノヴァ・ナンバー。
速いテンポで、明と暗を織り交ぜたメロディを紡いでいくルイス。それを着実にサポートするリズム・セクション。実にスリリングなトリオ演奏だ。
途中の、ピアノとドラムスの掛け合いもなかなか聴かせる。場内も自然とヒート・アップして行くのが、手にとるよう。
ラストの「カム・サンデー」は42年、デューク・エリントン作のバラード・ナンバー。
ここではピアノ・ソロをフィーチャー。ルイスは繊細にして力強いタッチで、この曲のセンチメンタルな持ち味を、最大限に引き出している。
ジャズがまだポピュラー・ミュージックの王者であり、メインストリームであった時代、聴くだけでなく「のれる」音楽であった時代の記録。それがこの「ジ・イン・クラウド」。
ファンキー・ジャズの醍醐味を味わえる一枚。バーボン・ロックのお供に、ぜひ。
<独断評価>★★★☆