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音盤日誌「一日一枚」#487 IKE AND TINA TURNER「PROUD MARY」(Point Productions 2621402)

2023-03-19 05:00:00 | Weblog
2023年3月19日(日)



#487 IKE AND TINA TURNER「PROUD MARY」(Point Productions 2621402)

米国のソウル・デュオ、アイク&ティナ・ターナーのコンピレーション・アルバム。88年リリース。

アイク&ティナはギタリスト/ピアニストのアイクと、シンガーのティナの夫婦デュオ。

56年に出会い60年にレコード・デビュー、76年に解散(のち離婚)するまでに約40枚ものアルバムをリリースしている。

その魅力はティナのソウルフルでセクシーな歌声と、それをしっかりバックアップする、アイクの生み出すファンキーなサウンド、その両方にある。

このアルバムは、60年代後半から70年代前半を中心とする彼らのレコーディングの中から、おもに他のアーティストのカバー・ナンバーをセレクトした編集盤である。

今日ではなかなか聴けないようなレアな音源もいくつかあって、聴き逃がせない。原盤はスタート・レコード。

【個人的ベスト6:第6位】

「ドリフト・アウェイ」

カントリー畑のソングライター、メンター・ウィリアムズ70年の作品。白人シンガー、ジョン・ヘンリー・カーツが72年に初録音した。

これを昨日取り上げたラムゼイ・ルイスの「ジ・イン・クラウド」のオリジナル・シンガー、ドビー・グレイが73年にカバーして、全米5位の大ヒットになった。

リフレインのメロディが印象的なカントリー・ロック・ナンバーをアイク&ティナがカバーすると、見事にパワフルなソウル・チューンに変わる。ティナの歌声が成せるワザである。

【個人的ベスト6:第5位】

「ゲット・バック」

知らぬものとてない、ビートルズ69年の大ヒット曲。レノン=マッカートニーの作品(実質はマッカートニー作)。

71年のアイク&ティナのアルバム「ワーキン・トゥゲザーにもこの曲が収められているが、バージョン違いであり、本盤がファースト・レコーディングだ。

本盤ではビートを強調したファンク・サウンド。「ワーキン」版ではピアノをフィーチャーし、リズムもアレンジもビートルズにかなり近い。

個人的にはこのファースト・バージョンを支持したい。原曲の持つソウルっぽさを、ティナが百倍に増幅して聴かせてくれているのだ。

【個人的ベスト6:第4位】

「ヤ・ヤ」

リー・ドーシー、クラレンス・ルイス、モーガン・ロビンソン、モーリス・レヴィ61年の作品。ドーシーの歌により大ヒット。全米7位、年間R&Bシングルの1位という輝かしい記録を作っている。

この曲の最も有名なカバー・バージョンはジョン・レノン版であろうが、アイク&ティナ版もそれにタメを張れるくらいの出来だ。

レノンがニューオリンズR&Bをそのまま継いだロックンロールとすれば、こちらはオルガンをフィーチャーした濃厚なサザン・ソウル。とにかく、ティナの粘っこいボーカルが最高に格好よろしいのだ。

【個人的ベスト6:第3位】

「シェイム・シェイム・シェイム」はシルヴィア・ロビンソン74年の作品。ソウル・バンド、シャーリー&カンパニーで全米12位の大ヒットとなった。

これをアイクは80年リリースのアルバム「ジ・エッジ」で取り上げているのだが、A面でのボーカルはかつての妻ティナなのである。つまり過去に録音したものをまとめたということなのだろう。

サウンドはディスコ、ファンク色が強い。女声コーラスを従え、この上なくパワフルなボーカルを聴かせるティナ。

オリジナルのシャーリー・グッドマンの高音ボーカルとは対照的な、ドスの効いた歌声のおかげで、まるで別の曲のようだ。

どんな曲をカバーしても、全部自分流に消化してティナ節にしてしまうところが、さすがだな。

【個人的ベスト6:第2位】

「シェイク」

サム・クック64年の作品。クックの死の直前に録音され、死後リリースされてヒットしたダンス・ナンバー。

オーティス・レディングの好カバーでも知られるこの曲を、彼ら以上にブルーズィにシャウトするティナ。

バックのホーン・サウンドも相まって、超絶盛り上がるナンバーだ。

同じくクック作の「フィール・イット」も収録されており、こちらは残念ながら選外だが、ご機嫌なサザン・ソウルに仕上がっている。

【個人的ベスト6:第1位】

「プラウド・メアリー」

アルバム・タイトルとなったナンバー。いうまでなく、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル、69年の大ヒット(全米2位)のカバー。ジョン・フォガティの作品。

アイク&ティナのこの曲といえば、日本でも人気のあったアルバム「ワーキン・トゥゲザー」に収録され、71年にシングル・カットされ全米4位の大ヒットとなったバージョンを思い起こす人が多いだろうが、本盤のはそれではない。それに先立つファースト・バージョンなのである。

「ワーキン〜」版ではスローで始まり、激しいアップ・テンポに変わるという構成だが、本盤バージョンではミディアム・テンポで通しており、アレンジもソウルというよりはオリジナルのカントリー・ロックに近い。

また、アイクが低音を効かせたボーカルを最後までデュエットで聴かせるのも、「ワーキン〜」版との大きな違いだ。

どこかまだ荒削りな感じはするが、間違いなくダイヤモンドとなりうる原石。それが本盤バージョンの印象だ。

アイクはこのバージョンを叩き台にして、サウンドにさらなる工夫を加えて、あのヒット・シングルは生まれたのだ。

オリジナル・レコーディングを聴くことで、その曲への理解をさらに深めることが出来る。これは実に貴重な経験である。

そしてこれらの曲以外にも、本盤には佳曲は多い。

例えばバーバラ・ジョージの「アイ・ノウ」、エッタ・ジェイムズの「サムシングズ・ゴット・ア・ホールド・オン・ミー」、ロイド・プライスの「スタッガー・リー」、リチャード・ベリーの「ルイ・ルイ」、ファッツ・ドミノの「エイント・ザット・ア・シェイム」、エディ・フロイドの「ノック・オン・ウッド」、リトル・エヴァの「ロコモーション」といったあたりも、いい出来だ。

どの曲も、ティナの真摯なソウルを感じさせる熱唱であふれている。

これらを聴けば、ティナが当時より既に、単にお色気を武器とするだけのシンガーではなかったことが、よく分かるだろう。

彼女が実は、男性シンガーにおけるサム・クック、オーティス・レディング、女性ではアレサ・フランクリンのような「本格派」であったこと、それは80年代以降のソロ活動での、いっそうの活躍ぶりを見れば、一目瞭然だ。

76年、アイクとのコラボレーションは、非常に残念なかたちで終焉を迎えてしまった。つくづく夫婦とは難しいものだなと思う。

それでも20年に及ぶ、ふたりの共同作業はソウル・ミュージック全体に豊かな収穫をもたらした。

彼らのサウンドを聴き返して、その功績をいま一度たどってみるのも一興だと思うよ。

<独断評価>★★★☆


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