2023年1月10日(火)
#419 BECK, BOGERT AND APPICE「BECK BOGERT AND APPICE」(Columbia 32140)
ベック・ボガート& アピスのデビュー・アルバム。73年リリース。ドン・ニックスによるプロデュース。
ベック・ボガート& アピス(以下BB&A、BBAとすると別の意味もあるので)は72年結成。グループ結成までのいわく因縁はあちこちで書かれていて、皆さんも耳タコ状態だと思うので、ごく簡単に。
第1期ジェフ・ベック・グループ時代にベックが知り合った米国のバンド、ヴァニラ・ファッジにいたリズム隊がボガートとアピス。彼らの超絶プレイをいたく気に入ったベックが「一緒にやろうぜ」と持ちかけたのだが、ベックが交通事故に遭い、バンド結成は頓挫。仕方なくふたりはカクタスに参加。カクタスが72年に解散して、ようやくBB&Aが実現の運びとなったのだ。
しかし、長い両片思いの末ようやく恋が成就したカップルが意外とすぐに別れてしまうように、BB&Aの活動も実に短かかった。スタジオ・アルバムとしてはこの1枚のみ。当時日本限定発売だった来日ライブ盤を含めても2枚のみのリリースで、74年には解散してしまう。
当時「最強のロック・トリオ」(スリーピース・バンドって言い方はまだなかった)と呼ばれて、将来を期待されていたのに、本当にもったいない話だった。
まぁそれでも、2枚のアルバムがホントに素晴らしいので、ファンはこれを繰り返し聴くだけでも至福の時を味わえるのだ。
オープニングの「黒猫の叫び」は、プロデューサー、ドン・ニックスの作品。黒猫にまつわる迷信はブルースでもよく題材になるが、これもその流れにあるブルース・ナンバー。
ベックのヘタウマ・ボーカルと、フツウマ・スライドギターが楽しめる。
続く「レディー」は「BB&Aスゲー!!」とわれわれロック少年を狂喜興奮させた超絶テク全開なロック・ナンバー。メンバー3人ほかの共作。
ここでの彼らのスーパー・プレイが、ZEPやパープルらを一気に抜いて、ロック・バンドの世界水準になったと言っていい。
ボガートの普通のブレべを弾いてるとはとうてい思えない、スピーディでグルーヴィなベース、アピスのド派手なパワー・ドラミング、そして彼らに一歩たりとも引けを取らず、ありえないような神プレイを繰り出すベック。
ヤードバーズの過去の栄光にすがるスターではなく、現在進行形でトップ・プレイヤーであることを、この1曲で証明して見せたのだ。
これでつかみはオーケー、後は怒涛の進撃が続く。「オー・トゥー・ラヴ・ユー」は、メンバーの共作。スロー・テンポのラヴ・ソング。
前曲でもそうだったが、ボガート、アピスのツイン・ボーカルがカッコいい。ふたりともリードが取れるし、ハーモニーもバッチリ。さすがヴァニラ・ファッジ以来の長いコンビ、息の合い方がハンパない。
ロック・バンドとして最強なだけでなく、ポップ・ボーカル・バンドとしての水準も高いのがBB&Aの強みだった。
A面ラストは「迷信」。言わずと知れたスティーヴィ・ワンダーの作品で、ベックがアルバム「トーキング・ブック」の録音に参加したお礼として、ワンダーから贈られた曲だが、ワンダー本人のバージョンが大ヒットしたわりに、BB&Aのバージョンのセールスはイマイチであった。
それはともかく、ライブ・ステージではトーキング・モジュレーターを使ったトリッキーな演出で盛り上がるナンバーでもある。ワンダー以上にヘビーなノリに仕上がっている。
ブラック・ミュージック大好きなベックらしい、ファンクなナンバー。筆者も、もちろんオキニであります。
B面トップは「スウィート・スウィート・サレンダー」。ニックスの作品。白人シンガーソングライターでカントリー好きなニックスらしい作風のバラード・ナンバー。
日本でも、こういうカントリー・タッチのロックが好まれるようで、ロック・セッションでも取り上げられることが多い曲だ。
「ホワイ・シュッド・アイ・ケアー」は、のちにアピスとともにKGBを結成することになるシンガー、レイ・ケネディの作品。
ボガート、アピスのツイン・ボーカルをフィーチャーしたアップ・テンポのロック・ナンバー。ハモりが掛け値なしにカッコいい。
「君に首ったけ」「リヴィン・アローン」はともにメンバーの共作。前者はミディアム・テンポのハード・ロック。ブルース・フィーリング溢れるギター・プレイがいい。
後者はアップ・テンポでぐいぐいと迫るブギ・ナンバー。ギターも、ベースも、ドラムスも、おのれの出せる限界に挑戦している。メンバー全員の「本気」が、音に滲み出ていて、鬼気迫るものがある。
ラストの「アイム・ソー・プラウド」は米国の黒人ソウル・グループ、ジ・インプレッションズのナンバーで、メンバーのカーティス・メイフィールドの作品。
ソウル・バラードの名曲を、ボガートとアピスが高らかに、誇らかに歌う。実に見事なコーラスである。筆者的にイチオシ。
本盤は歌と演奏のバランスもよく、なかなかの出来映えだ。セールスも全米12位、日本でも22位とまずまずだった。その勢いで、セカンド・スタジオ・アルバムの制作も進行中だったようだ。
だが結局、それは日の目を見ることはなかった。
かねてより、「ジェフ・ベックはバンドを作ってはアルバム2枚出して潰す男」という評判が立っていたが、今回はそれ以上で、実質1枚で潰してしまった。
以降、彼はボーカルをフロントに置くパーマネント・バンドを一切やらなくなってしまう。
一体なにゆえに、ジェフ・ベックはボーカルを自分のバンドから排除してしまったのか?
その問題を語りだすと、えらく長くなると思わるので、それはまた別の機会に譲ることにしよう。
今はこの、奇跡のマリアージュともいうべき1枚を、ひたすら愛でるのみ、である。
<独断評価>★★★★☆
ベック・ボガート& アピスのデビュー・アルバム。73年リリース。ドン・ニックスによるプロデュース。
ベック・ボガート& アピス(以下BB&A、BBAとすると別の意味もあるので)は72年結成。グループ結成までのいわく因縁はあちこちで書かれていて、皆さんも耳タコ状態だと思うので、ごく簡単に。
第1期ジェフ・ベック・グループ時代にベックが知り合った米国のバンド、ヴァニラ・ファッジにいたリズム隊がボガートとアピス。彼らの超絶プレイをいたく気に入ったベックが「一緒にやろうぜ」と持ちかけたのだが、ベックが交通事故に遭い、バンド結成は頓挫。仕方なくふたりはカクタスに参加。カクタスが72年に解散して、ようやくBB&Aが実現の運びとなったのだ。
しかし、長い両片思いの末ようやく恋が成就したカップルが意外とすぐに別れてしまうように、BB&Aの活動も実に短かかった。スタジオ・アルバムとしてはこの1枚のみ。当時日本限定発売だった来日ライブ盤を含めても2枚のみのリリースで、74年には解散してしまう。
当時「最強のロック・トリオ」(スリーピース・バンドって言い方はまだなかった)と呼ばれて、将来を期待されていたのに、本当にもったいない話だった。
まぁそれでも、2枚のアルバムがホントに素晴らしいので、ファンはこれを繰り返し聴くだけでも至福の時を味わえるのだ。
オープニングの「黒猫の叫び」は、プロデューサー、ドン・ニックスの作品。黒猫にまつわる迷信はブルースでもよく題材になるが、これもその流れにあるブルース・ナンバー。
ベックのヘタウマ・ボーカルと、フツウマ・スライドギターが楽しめる。
続く「レディー」は「BB&Aスゲー!!」とわれわれロック少年を狂喜興奮させた超絶テク全開なロック・ナンバー。メンバー3人ほかの共作。
ここでの彼らのスーパー・プレイが、ZEPやパープルらを一気に抜いて、ロック・バンドの世界水準になったと言っていい。
ボガートの普通のブレべを弾いてるとはとうてい思えない、スピーディでグルーヴィなベース、アピスのド派手なパワー・ドラミング、そして彼らに一歩たりとも引けを取らず、ありえないような神プレイを繰り出すベック。
ヤードバーズの過去の栄光にすがるスターではなく、現在進行形でトップ・プレイヤーであることを、この1曲で証明して見せたのだ。
これでつかみはオーケー、後は怒涛の進撃が続く。「オー・トゥー・ラヴ・ユー」は、メンバーの共作。スロー・テンポのラヴ・ソング。
前曲でもそうだったが、ボガート、アピスのツイン・ボーカルがカッコいい。ふたりともリードが取れるし、ハーモニーもバッチリ。さすがヴァニラ・ファッジ以来の長いコンビ、息の合い方がハンパない。
ロック・バンドとして最強なだけでなく、ポップ・ボーカル・バンドとしての水準も高いのがBB&Aの強みだった。
A面ラストは「迷信」。言わずと知れたスティーヴィ・ワンダーの作品で、ベックがアルバム「トーキング・ブック」の録音に参加したお礼として、ワンダーから贈られた曲だが、ワンダー本人のバージョンが大ヒットしたわりに、BB&Aのバージョンのセールスはイマイチであった。
それはともかく、ライブ・ステージではトーキング・モジュレーターを使ったトリッキーな演出で盛り上がるナンバーでもある。ワンダー以上にヘビーなノリに仕上がっている。
ブラック・ミュージック大好きなベックらしい、ファンクなナンバー。筆者も、もちろんオキニであります。
B面トップは「スウィート・スウィート・サレンダー」。ニックスの作品。白人シンガーソングライターでカントリー好きなニックスらしい作風のバラード・ナンバー。
日本でも、こういうカントリー・タッチのロックが好まれるようで、ロック・セッションでも取り上げられることが多い曲だ。
「ホワイ・シュッド・アイ・ケアー」は、のちにアピスとともにKGBを結成することになるシンガー、レイ・ケネディの作品。
ボガート、アピスのツイン・ボーカルをフィーチャーしたアップ・テンポのロック・ナンバー。ハモりが掛け値なしにカッコいい。
「君に首ったけ」「リヴィン・アローン」はともにメンバーの共作。前者はミディアム・テンポのハード・ロック。ブルース・フィーリング溢れるギター・プレイがいい。
後者はアップ・テンポでぐいぐいと迫るブギ・ナンバー。ギターも、ベースも、ドラムスも、おのれの出せる限界に挑戦している。メンバー全員の「本気」が、音に滲み出ていて、鬼気迫るものがある。
ラストの「アイム・ソー・プラウド」は米国の黒人ソウル・グループ、ジ・インプレッションズのナンバーで、メンバーのカーティス・メイフィールドの作品。
ソウル・バラードの名曲を、ボガートとアピスが高らかに、誇らかに歌う。実に見事なコーラスである。筆者的にイチオシ。
本盤は歌と演奏のバランスもよく、なかなかの出来映えだ。セールスも全米12位、日本でも22位とまずまずだった。その勢いで、セカンド・スタジオ・アルバムの制作も進行中だったようだ。
だが結局、それは日の目を見ることはなかった。
かねてより、「ジェフ・ベックはバンドを作ってはアルバム2枚出して潰す男」という評判が立っていたが、今回はそれ以上で、実質1枚で潰してしまった。
以降、彼はボーカルをフロントに置くパーマネント・バンドを一切やらなくなってしまう。
一体なにゆえに、ジェフ・ベックはボーカルを自分のバンドから排除してしまったのか?
その問題を語りだすと、えらく長くなると思わるので、それはまた別の機会に譲ることにしよう。
今はこの、奇跡のマリアージュともいうべき1枚を、ひたすら愛でるのみ、である。
<独断評価>★★★★☆