2003年3月23日(日)
ケニー・バレル「ON VIEW AT THE FIVE SPOT CAFE」(BLUE NOTE B2-46538)
(1)BIRK'S WORKS (2)OH, LADY BE GOOD (3)LOVER MAN (4)SWINGIN' (5)HALLELUJAH (6)BEEF ATEW BLUES (7)IF YOU COULD SEE ME NOW (8)36-23-36
<制作データ>
デトロイト出身のジャズ・ギタリスト、ケニー・バレル、59年リリースのライヴ盤。
ベニ-・ゴルソンのペンによるカーティス・フラーの代表曲「FIVE SPOT AFTER DARK」のモチーフともなった、ニューヨークのライヴハウス、「ファイヴ・スポット・カフェ」にての録音。
パーソネルはバレル(g)をリーダーに、ベン・タッカ-(b)、アート・ブレイキー(ds)。(1)~(4)ではティナ・ブルックス(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、(5)~(8)ではローランド・ハナ(p)が加わっている。いずれも腕ききのプレイヤーばかりだ。
<ジャケット>
バレルの顔写真の一部を切り取ったデザイン。これはブルーノートの重要なスタッフのひとり、レイド・マイルズによるもの。撮影は同じく、フランシス・ウルフ。
モノクロで撮影、茶系の地色をしいたヴィジュアルが、独特のメロウなムードをかもし出している。
ちなみにプロデュースはアルフレッド・ライオン、録音エンジニアはRVGことルディ・ヴァン・ゲルダー。彼らもブルーノートを一流レーベルたらしめたスタッフ達だ。
言ってみれば、当時の最高の才能が集結して、このアルバムを制作したのだ。出来の悪いはずがない。
<聴きどころ>
オープニングは、ビ・バップの巨匠、ディズィ・ガレスピー作のマイナー・ブルース、(1)から。
バレル、ブルックスがテーマを弾き、以後バレル、ブルックス、ティモンズとソロが渡されていく。
ここでのバレルのギターは実によく歌い、スウィングする。もちろん他のふたりのソロもいい。饒舌に吹きまくるブルックス、ブロック・コードを多用してファンキーなソロを聴かせるティモンズ。
ブルーなムードに満ちた(1)から一転、威勢のいいアップテンポのテーマから始まるのは、ご存じガーシュウィン兄弟の作品、(2)。多くのジャズメンがカヴァーしているが、とりわけカウント・ベイシー楽団によるそれが有名ですな。
ここでひときわ活躍が目立つのは、ブレイキーのドラムだろう。ものスゴいスピードのリズムを、まったく乱れることなく叩き出している。さすが、ジャズ界最強のパワー・ドラマーだ。
ソロは、(1)同様の順序で引き継がれ、最後にもう一度バレルが弾く。三人ともに、気合い十二分のプレイだ。
(3)は、落ち着いたムードのバラード。デイヴィス=ラミレス=シャーマン作、ビリー・ホリデイの名唱であまりにも有名なスタンダードだ。
まずはバレルがソロ、続いてティモンズ。再びバレル。控え目ながらオクターヴ奏法も織り交ぜた、ブルース感覚あふれるギター・プレイを味わえる。
(4)は天才トランペッター、クリフォード・ブラウンの作品。ミディアムファスト・テンポの快調な演奏だ。
スタンダード・ナンバーのコード進行を借り、ハードバップにアレンジしたこのナンバーを、ブルックス、バレル、ティモンズの順でソロ演奏していく。
(5)からは、ホーン抜きの編成による演奏。前半とはひと味違った、落ち着いた雰囲気がある。
(5)は、テーマがどことなく「チェロキー」風で、ビ・バップ的なイディオムを持った、アップテンポのナンバー。
グレイ=ロビン=ユーマンスの作品。ユーマンスといえばヒット曲「二人でお茶を」であまりにも有名だが、キャッチーな「小唄」を書く一方で、こういうタイプの曲もものしていたとは、ちょっとした発見だ。
ジャズメンによるカヴァーとしてはバド・パウエルのそれがよく知られている。
ステージはテーマに続き、バレル→ハナ→ブレイキーの順でソロが展開される。ハナがかなりパウエルを意識したかのようなソロを弾いているのが面白い。
(6)はジャズ・ピアニストにして作曲家、ランディ・ウェストンの作品。ミディアム・テンポのワルツ・ビートにのせて、のびのびとしたムードの演奏が展開される。
テーマの後は、ハナ、バレル、タッカ-、そして再びバレルと軽快なソロが続く。ノリノリのスウィンギーな演奏が心地よい。
個人的には本盤のベスト・トラックだと思っているのは、(7)である。
ビ・バップの名ピアニストにして作・編曲家でもあるタッド・ダメロンのナンバー。メロディがひたすら美しい、ラヴ・バラードである。
この曲に関しては、バレルの先輩格にあたるウェス・モンゴメリーの、ハーフ・ノートでの名演(65年)が有名だが、本盤での演奏はそれに勝るとも劣らぬ、素晴らしい出来である。
オクターヴ奏法のウェスとは対照的に、バレルはもっぱらシングル・トーンで、切々と訴えかけるようなプレイを聴かせる。
ウェスのような華麗さはないが、ハートにじんわりとしみて来るプレイだ。こういうのを、本当に「うまい」演奏というのだろうな。ギタリストならば、必聴だろう。
ラストは、バレル自身のオリジナル・ブルース、(8)。「36-23-36」とは、もちろん、女性のスリーサイズのこと。
B91cm、W58cm、H91cmの超ナイスバディな女性が闊歩するさまを表現した、ミディアムテンポのナンバー。
バレルのブルーズィなフレージングと、それを見事にフォローするハナのプレイが、実にイカしている。
まるでアフター・アワーズ・セッションのようなリラックスした雰囲気。「ファイヴ・スポット」店内の、当時の様子までほうふつとさせる一枚だ。
<アーティストのその後>
その後もバレルは、地道に活動を続けていく。
ジャズ・ギタリストとしての枠組みにおさまりきらず、イージー・リスニング、フュージョンの世界にまで行ってしまったウェス・モンゴメリーとは対照的に、あくまでもジャズ・ギターのスタイルを貫いて、現在に至っている。
発表したアルバムも、70枚を超えるほどの精力的な活動ぶり。まさに名実ともに「トップ・ジャズ・ギタリスト」とよぶにふさわしい人だ。
多くのジャズ・ギタリスト同様、チャーリー・クリスチャンの強い影響を受けながらも、独特のクールなトーン、ブルース感覚を失わぬプレイで、われわれを魅了し続けている。
決して派手な人気はなくとも、彼こそが「ミスター・ジャズ・ギター」。そう思うね。
<独断評価>★★★★☆