2012年3月4日(日)
#206 ビッグ・ビル・ブルーンジー「Evil Woman Blues」(Evil Woman Blues/Fuel 2000)
#206 ビッグ・ビル・ブルーンジー「Evil Woman Blues」(Evil Woman Blues/Fuel 2000)
早いものでもう3月だ。今月の一曲目はこれ。ビッグ・ビル・ブルーンジーが歌うトラディショナル・ナンバー。
ビッグ・ビルといえば、シカゴ・ブルースの顔役的存在。30~40年代を中心に、膨大なレコーディングを残している。
われわれがよく耳にしているビッグ・ビルの音源は、アコースティック・ギターの弾き語りスタイルのものが多いが、それだけでなく、バックにピアノとベース、あるいはさらにドラムも加えたバンド・スタイルでもレコーディングしている。
きょうの一曲は、それにさらにホーン・セクションも加えた、いわゆるビッグバンド・スタイルで録音されたもの。ちょっと珍しいかも。
イントロはトロンボーンのブローに始まり、ビッグ・ビルの歌に合わせて、ミュート・トランペットによるオブリガートが続く。中間部のソロは、軽妙なクラリネット。このへんに、ベニー・グッドマンを頂点とするスウィング・ジャズがトレンドだった「時代」を感じるね。
ふたたび、トランペットのオブリガート、そして三管によるリフで曲は終わりを告げる。
まさにスウィング・スタイルのブルースなのだが、ノリが実にいい。歌はもちろん、バックもよくスウィングしている。後半部のピアノの連打など、まことにノリノリである。
それにしても、ホーンとひとことで言っても、時代によって主役は変遷していることを感じる。
ホーンの王、トランペットは今でもなんとか王座にあるとはいえ、ナンバー2以下は明らかに入れ替わっている。
かつてトランペット並みの人気を博したクラリネットは、テナーをはじめとするサキソフォーンにその座を譲り渡してしまった。
50年代以降のジャズ、そしてその血縁関係にあるブルース、R&B、ソウルといったジャンルのバンドで、クラリネットを見かけることは、ごく稀になってしまった。
スウィング時代には花形だったトロンボーンも、後代には影が薄くなり、あくまでもアンサンブルの一員としてかろうじて命脈を保っているという感じだ。
ワンホーンをバンドに加える場合、トランペットよりむしろサックス、という傾向がロックの時代から強まっているし、「三管」といえばペット・クラ・トロンでなく、ペット・サックス・トロンを指すようになった。
時代によって、聴き手の楽器に対する好みが、次第に変化していっているという証拠だ。
でも、ただひとつ、永遠不変の真理があるのだな。
それは「いかなる楽器よりも雄弁なのは、人間の声という楽器である」ということ。
まこと、ボーカルというものは、バックのすべての楽器演奏を合わせても十分対抗出来るだけの強力な楽器なのだ。
聴き手の心に対して強大な説得力をもつ「歌詞」を表現できる楽器は、ヒトの声しかないからだ(まあそれも初音ミクをはじめとする「ボーカロイド」の登場によって、状況は変化しているけど)。
ということで、ビッグ・ビルの説得力あふれる歌声を聴いてほしい。見事に安定したリズム感、ワイルドにしてメローな、王者のボーカルをとくと楽しんでくれ。