NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#140 アート・ファーマー「MODERN ART」(United Artists 4007)

2022-04-03 06:26:00 | Weblog

2003年2月16日(日)



アート・ファーマー「MODERN ART」(United Artists 4007)

(1)MOX NIX (2)FAIR WEATHER (3)DARN THAT DREAM (4)THE TOUCH OF YOUR LIPS (5)JUBILATION (6)LIKE SOMEONE IN LOVE (7)I LOVE YOU (8)COLD BREEZE

えーっと、今回から大幅にフォーマットを変えましたので、よろしこ。

<ジャケット>

ジャケ写のご仁は、映画評論家・水野晴郎さんではない(笑)。本盤のリーダー、アート・ファーマーご本人である。

それにしても、クリソツですな。

ちなみに同じ「MODERN ART」という題のアルバムは、アート・ペッパーにもある(56-57年録音)。

<制作データ>

58年9月、NYCにて録音。制作はジャック・ルイス。

メンバーはアート・ファーマー(tp)のほか、ベニ-・ゴルスン(ts)、ビル・エヴァンス(p)、アディスン・ファーマー(b、アートとは双子の兄弟)、デイヴ・ベイリー(ds)。

本セッションがきっかけとなり、翌年にはファーマー、ゴルスンの双頭バンド、「ジャズテット」が結成されている。

<曲についてあれこれ>

収録曲は大別すると、スタンダード・ナンバー、ファーマー、ゴルスンのオリジナル、他のジャズ・アーティストの作品の三系統に分かれる。

スタンダード系では、ジミー・ヴァン・ヒューゼン作の(3)、同じく(6)、英国の作曲家レイ・ノーブルの(4)、コール・ポーターの(7)。

いずれもミュージカル、映画等でおなじみのメロディである。

オリジナルは、ファーマーの(1)と、ゴルスンの(2)。(2)はフランス映画「殺られる」の主題曲でもある。

他のジャズマンの作品としては、ピアニスト、ジュニア・マンス作の(5)、ウェード・レギー作、ジジ・グライス編曲の(8)。

メロディアスなバラードと、躍動感あふれるアップ・テンポのナンバーがうまく同居した選曲となっている。

<聴きどころ>

なんといっても本盤のキモは、アート・ファーマーのメロディ・ラインを大切にした、繊細でしかもハート・ウォーミングなプレイだろう。

また、それを陰でささえる、ゴルスンの重厚なハーモニー・プレイも素晴らしい。このふたりのコンビネーションはほぼ完璧といえる。

リズムのふたりも、実に息の合った、手堅いプレイを見せている。

メンバーの中では、一番所在なさげなのが、ビル・エヴァンスだ。

彼はすでにマイルス・デイヴィスのもとから独立、「EVERYBODY DIGS BILL EVANS」でトリオでのデビューを果たしていたが、まだあの黄金のメンバー、ラファロ&モチアンとのトリオ結成には至らず、サウンド的にも模索を続けていた時期であった。

だが、ところどころでは注目すべき、カッコいい演奏を残している。

たとえば、(1)の緊張感あふれるファンキーなイントロ。ソロも、まだ若干バド・パウエルの影響を脱しきれていないものの、コード・プレイに後年のエヴァンス・サウンドの萌芽のようなものが見られる。

(2)、(4)、(7)、(8)などでも、他のメンバーの直球一本やりな演奏をちょっとはぐらかしたような、内省的でどこか「知能犯」ふうなソロを展開し、自己主張しているのが面白い。

またバラードものでは、本領を発揮して、実に美しいフレーズを聴かせる。(6)が代表例だ。

一方ゴルスンも、ファーマーに主役を譲ってはいるものの、(3)や(6)などのバラードでは威風堂々としたソロを聴かせてくれる。

彼の演奏の「安定感」は本当にスゴいね。

もちろん、(2)や(8)のような、テンポの速いスゥインギーなナンバーでも、豊かな響き、饒舌なフレージングを聴くことが出来る。

なんていうのかな、ゴルスンにはテナーの「職人」という呼び名がピッタリのような気がする。

<メンバーのその後>

アート・ファーマーは本作の出来があまりに素晴らしかったために、以後、それを超える作品をなかなか生み出せず、苦心したようだ。

実際、60年代以降で特筆すべきアルバムはほとんどない。

でも、プロ・ミュージシャンとして、そういう名盤を一枚でも世に出せただけで、じゅうぶん幸せなのかもしれない。

アート、ゴルスン、アディスンは前述のように「ジャズテット」での活動を続けたのち、再びそれぞれ別行動をとるようになる。

対照的に、この後大いに才能が開花したのは、エヴァンスである。

翌年には、新生トリオで超名盤「PORTRAIT IN JAZZ」を録音、その知性的かつリリカルな音で、一躍時代の寵児となる。

以後、ホーン・セクションに頼ることなく、己れの「ピアノ・ジャズ」を極めていくことになるのである。

そのへんはまた後日取上げてみたいが、本盤での彼のプレイは、彼ならではの「個性」が確立する前の「多様性」を感じさせて、それもまた興味深い。

いくらこの一枚が「ツー・ホーン・ジャズの歴史的名盤」「マスターピース」といったって、それはあくまでも後代の評価。

リリース当時は、とにかく「イキ」のいいアルバムが出来た!という感じだったと思う。

スタジオのホットな雰囲気を見事に伝える一枚。45年も前に録音されたとは到底思えないくらい、ヴィヴィッドな音ですぞ!

<独断評価>★★★★☆



最新の画像もっと見る