2004年11月14日(日)
#249 メル・トーメ「ニューヨークの休日」(ワーナーパイオニア SD 8091)
日曜日の朝に聴くのにうってつけの一枚。ベテラン・ジャズシンガー、メル・トーメのアルバム、63年リリース。
トーメは、同年公開の米映画「SUNDAY IN NEWYORK(邦題・ニューヨークの休日)」の主題歌を歌ったのだが、それがきっかけでこの一枚が生まれた。ニューヨークにまつわる曲ばかり、13曲を集めて歌ったのである。
これがまた名曲&名唱ぞろい。名盤の多いトーメのレコードの中でも、出色の出来だと思う。
トップはもちろん、「ニューヨークの休日」の主題歌。ピーター・ネロ作曲。
いかにも休日っぽい、リラックスした雰囲気で歌われる、ミディアム・テンポのスウィンギーなナンバー。
トーメのなめらかなヴェルヴェット・ボイスは、本盤でも、もちろん絶好調である。
続く「ニューヨークの秋」はミュージカル作曲家、ヴァーノン・デューク34年作のバラード。
しっとりとしたメロディ、そして大都会NYCの美しい風景をリリカルに描写した歌詞。
文句なしの名曲だといえるだろう。
「バードランドの子守歌」はジャズ・ピアニスト、ジョージ・シアリングの代表作。
もちろん、有名なNYCのジャズ・クラブ「バードランド」にちなんだバラード。
トーメはかつて56年にもこの曲を録音しているので、再演ということになる。
この曲のアレンジがまた素晴らしい。名バンド・リーダー、ショーティ・ロジャーズによるものだが、ピアノ、フルート、ヴァイブのユニゾンによる絡みが何とも耳に心地よいのだ。
むろん、トーメの広い声域、ゆたかな表現力を生かした歌唱も◎だ。
「ブロードウェイ」はスウィング・ジャズの定番ナンバー。カウント・ベイシー、レスター・ヤング、スタン・ゲッツらの演奏でおなじみである。
トーメはこの曲を、持ち前の抜群のリズム感で歌いこなしている。
「ブルックリン・ブリッジ」は、フランク・シナトラ主演の映画「下町天国」(47年)の主題歌。
ニューヨークの下町、ブルックリンのムードがぷんぷんとする、いなせな歌唱を楽しむべし。
A面最後の「レット・ミー・オフ・アップタウン」はジーン・クルーパ楽団でヒットしたスウィンギーなナンバー。
間奏部の、トーメのスキャットとバンドの掛け合いが実にカッコいい。必聴なり。
一転、ぐっと落ち着いたムードで始まるブルーズィな曲は「42番街」。
おなじみ、劇場の多いNYC42丁目(東京でいえば日比谷あたりか?)の雰囲気を濃厚にかもし出している。
バックのストリングスのやるせない調べが、何ともいえずいい。
「ニューヨークの舗道」は、なんと1894年に作られたという、アルバム中最も古いナンバー。
しかもNYCの市歌にもなっているという、NYソングの最右翼的存在。
この何ともオールド・ファッションなメロディを、モダンな感覚で自分流に料理してさらりと歌い上げてしまうトーメ。
さすが、歌手の中の歌手だけあります。
「ハーレム・ノクターン」はサム・テイラーによる演奏でおなじみだが、元をたどれば戦前のジャズ・ナンバー。
ハーレムの独特のたたずまいを音だけで表現した佳曲を、白人のトーメがブルーズィに歌う。これまた一興である。
「ニューヨーク・ニューヨーク」はシナトラによる同名異曲があるので勘違いしやすいが、古いほうの「ニューヨーク・ニューヨーク」。映画「踊る大紐育」(49年)の主題歌である。
軽快にスウィングしまくるトーメ。聴いてくるこちらも、実に気持ちいい。
「嘆きのブロードウェイ」は1910年代の曲。ミディアム・スローのバラード。
この曲もショーティ・ロジャーズの、ピアノ&ヴァイブの響きを生かしたアレンジがまことに秀逸。
古いナンバーも、アレンジ次第では見事に甦る好例だといえよう。
「マンハッタン」は、ジャズ史上屈指のソングライティング・チーム、ロジャーズ&ハートの代表曲。
あまたあるニューヨークをテーマにした歌曲の中でも、トップクラスの出来といえよう。
以前このコーナーで取り上げたブロッサム・ディアリーの、まったりとした歌唱も筆者は気に入っているが、トーメの歯切れのいい歌いぶりも捨て難い。
イントロから繰りひろげられる、ストリングス+コンボのちょっと凝ったアレンジ(ディック・ハザードによる)も、聴きもののひとつだ。
ラスト・ナンバーは「マイ・タイム・オブ・デイ」というタイトルのバラード。これもNYCを舞台にしたミュージカル映画のナンバーだそうだ。
一巻のしめくくりにふさわしい、しっとりとした歌唱。お見事!の一言である。
最高の楽曲、最高の歌唱、そして最高のアレンジ。何とも贅沢な音のフルコース。何度味わっても厭きない一枚とは、こういうのをいうのだろう。絶対のおすすめです。
<独断評価>★★★★★