2004年11月28日(日)
#250 デヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」(東芝EMI EYS-81580)
デヴィッド・ボウイ、83年のアルバム。ボウイとナイル・ロジャーズの共同プロデュース。
67年、デラム・レコードからデビューして以来、第一線を走り続けているボウイだが、ひとつのスタイルにとどまらず常に変容を続けているのが彼の特徴だと思う。
もし彼のサウンドが、初期のグラム・ロック・スタイルのままだったら、70年代の後半には消えてしまっていたに違いない。
幅の広いサウンド・メイキングにより、不死鳥のように何度も甦って来た男、それがデヴィッド・ボウイだと思う。
そんな中でも、中期(80年代)を代表するアルバムだと思うのが、これ。
当時飛ぶ鳥を落とす勢いのプロデューサー、ナイル・ロジャーズを迎え、ロック、ファンク、ポップといったジャンルに縛られない闊達な音を生み出すことに成功している。
聴きどころといえば、まずはスマッシュ・ヒットともなったアルバム・タイトル・チューン、「レッツ・ダンス」だろう。
これがまた、当時最高潮に盛り上がっていたディスコ・シーンを敏感に察知した、ひたすらダンサブルな音。
それも、かなり生音重視のアレンジだ。シンセサイザーをあえて使わず、生のブラス・セクション、あるいはビートルズばりの強力なコーラスを前面に押し出している。
プロデューサーのナイル・ロジャーズはこのアルバムの音を「モダン・ビッグバンド・ロック」と呼んでいたそうだが、ナットクのネーミングだと思う。
シンセなしでは夜も日も明けぬニューウェーブ系の音作りとは一線を画していて、アメリカ市場にもすんなり受け入れられそうな、王道路線。
デヴィッド・ボウイというミュージシャン、ただのすかした伊達男ではない。非常にビジネス・センスもあることがこれでよくわかる。
そう、「売れてナンボ」がこの世界。常にヴィジュアル面ではトリッキーな戦術で世間の注目を集める一方、音のほうでは基本を絶対外さない手堅い作り方をする。これ最強。
刺激的なギター・カッティングとパワフルなドラムスの連打で始まり、ボウイのサックス・ソロがフィーチャーされる「モダン・ラヴ」、オリエンタル趣味を露骨に打ち出した、畏友イギー・ポップとの共作の再演「チャイナ・ガール」、ファルセット・ヴォイスが特徴的なビート・ナンバー「ウィズアウト・ユー」と、A面の他の曲も粒揃い。ことにオマー・ハキム、トニー・トンプソンのダブル・ドラマーが叩き出すビートは強力無比のひとこと。
B面もまったくハズレ曲なし。
重厚なビートに乗せたアンニュイなボウイ節が全開なのは「リコシェ」。英国のグループ、メトロのピーター・ゴッドウィン、ダンカン・ブラウンの作品をカバーした「クリミナル・ワールド」は、対照的にファルセット中心の軽い歌いぶり。ボウイとドイツ人プロデューサー、ジョルジオ・モロダーとの共作「キャット・ピープル」では、へヴィーなリズムとボウイの激しいシャウトがなんとも印象的。ラストの「シェイク・イット」はこの一枚では珍しくシンセ中心のアレンジで、妙にポップな感じのナンバー。ま、これもボウイらしさのひとつの表れだが。
一曲を除けば全体に重心が低めというか、地に足がついた音作りなので、20年以上たった現在聴いてもまったく違和感がないのがスゴい。
いわゆるお洒落系、流行りもの系の音って、ふつうは後で聴くと、ものすごく恥ずかしく思えるものが多いんだけどね。
このアルバムを発表した83年、ボウイは大島渚監督作品「戦場のメリークリスマス」にも出演。その特異なる演技で世間を大いに唸らせている。まさに中期ボウイの当たり年。
この2年後には、ミック・ジャガーと共演、「ダンシング・イン・ザ・ストリート」を歌うなど、ホント、ノリに乗っていた感がある。
ボウイって、いわゆる「上手い」シンガーではないんだけど、容姿とかも含めてワン・アンド・オンリーな個性の持ち主だと思う。常に世間の期待以上のものを見せてくれるということでは、稀有なポップ・スターだな。
観ている者を釘づけにする「魅力(チャーム)」を持っているということでは、たぶん、ポップス史上ベスト5に入るような気がする。筆者にとってみれば、自分は逆立ちしても絶対なれないタイプのミュージシャン。実は密かに憧れとります(笑)。
<独断評価>★★★★