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音盤日誌「一日一枚」#263 AB'S「AB'S」(アルファムーン MOON-28007)

2022-08-04 05:00:00 | Weblog

2005年3月6日(日)



#263 AB'S「AB'S」(アルファムーン MOON-28007)

「Act-Show」によるディスク・データ

AB'Sのデビューアルバム、83年リリース。AB'Sと小栗俊雄の共同プロデュース。

ロックにもいろいろあって、筆者の私見では大別すると「アイドルなロック」「不良なロック」「大人なロック」の三つに分かれるように思うのだが、さしずめこのAB'Sなぞは「大人なロック」の代表格ではないかと思う。

つまり、技術的に複雑なこともさらりとこなす、高度の音楽性を持ったロックといいますか。

そのことは、AB'Sの顔ぶれを見れば、すぐに納得がいくだろう。とにかく、経験豊富な巧者ぞろいなのだ。

ギター、ヴォーカルの芳野藤丸、同じく松下誠、ベース、ヴォーカルの渡辺直樹、キーボード、ヴォーカルの安藤芳彦、ドラムス、ヴォーカルの岡本郭男。松下をのぞけば、いずれもSHOGUN、スペクトラム、パラシュートといった実力派バンドに在籍していた連中ばかり。また松下も、スタジオ・ミュージシャンとして既に高い評価を得ていた。

こんな五人が結成したので、当時はスーパーグループの出現と、話題になったものである。

とはいえ、商業的には成功を収められず、結局バンドとしての活動は短命に終わってしまう。残されたのは、4枚のアルバム(ラスト・アルバムではメンバーが変わっている)。

解散後、おのおののメンバーは再び別のバンド、ソロ、スタジオワークへと散っていってしまった。

そんな不遇なAB'Sだったわけだが、貴重な音源を聴き返してみるに、「なんや、けっこうイケてるやん!」と思ってしまった。ホント、もったいないな~と思った。

AB'Sの強みは、ただ演奏力があるというだけでなく、パーソネルを見ればわかるように「全員が歌える」ということだ。少なくとも三人はリード・ヴォーカルを取れるだけの力を持っている。

これはバンドとして強力な切り札だと思う。日本のバンドは演奏に比べて歌の方がおおむね弱い。

ソロ・シンガーはまあそこそこ歌えても、バックコーラスがまるでダメとか、そういうバンドがプロでも多い。

そんな中で、ダントツの技量のリード・ヴォーカルこそいないものの、平均的な歌唱力の高さは評価していい。

ただ惜しむらくは、芳野にしても、松下、渡辺にしても、「華」がないんだよなぁ。これは致命的なウィーク・ポイントだったかも。

この国の音楽界では、「総合力」の高さって、ほとんど評価の対象にならないんですわ。やっぱ、ひとりのフロントマンの個性如何に左右されてしまいがちで。

そういう意味で、このAB'Sもまた、SHOGUN、スペクトラム、パラシュートといった先輩バンドがたどった道をたどらざるをえなかったということです。本当に残念だけど。

このアルバムでいえば、シングルカットされた「DJANGO」をはじめ、結構いい曲が多い。

アレンジ、演奏のレベルは完全に洋楽と拮抗している。そして、聴くひとが聴けばニヤリとするような上質なパクりが、随所にちりばめられているのも、聴きどころだ。

たとえば「DJANGO」には明らかにジェイ・グレイドンの影響が見られるし、「FILL THE SAIL」はモロ、ラリー・カールトン。

スティーリー・ダンの影響も見逃せない。「GIRL」なんか、まさにそう。もちろん、まんまパクりみたいなダサいことはせず、ちゃんとAB'S流に料理してあるところが評価出来る。

22年経過した現在聴いても、その演奏水準の高さには舌を巻く。世間では銀蝿一家だの、シブがき隊だのが流行していた頃、これだけ高度なサウンドを生の演奏で生み出せるバンドがあったのだ。

AB'Sのバンド名の由来はごくシンプルで、五人中三人も血液がAB型だったことから来ている。日本人では十人にひとり位しかいないAB型がこんなに集まるのは、確率的にも相当低いことである。

ただ、天才型の人間が多いとよく言われるABが揃うと、バンドの運営はものすごく大変だったかもね。

みんなの向いているベクトルが一緒のうちはまだいいが、一旦バラバラになったら、もう収拾がつかないんじゃなかろうか。

ある意味、短命はいたしかたなかったのかも知れない。

インストだけなく、ヴォーカル、コーラスも含めたかたちで、フュージョン、ファンクな音楽を追究していたAB'S。

あまりに先進的であったがゆえに、その意欲的な試みはまったく評価されずに終わってしまったが、そのサウンドは今だって十分にスゴい。

あえていおう。下手糞なミクスチャーとか、ラップとかばかり聴いてても、音楽を聴く耳は養われない。

やはり、こういう確かな技術に裏打ちされた音楽もじっくりと聴いてこそ、「違いのわかる」大人になれるんじゃないかな。

<独断評価>★★★☆



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