NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#330 オスカー・ピータースン「my favorite instrument」(MPS 821843-2)

2022-10-10 05:30:00 | Weblog

2006年9月17日(日)



#330 オスカー・ピータースン「my favorite instrument」(MPS 821843-2)

オスカー・ピータースン、68年のアルバム。ドイツ・フィリンゲンにて録音。

酒席において「世界一のピアニストは誰か?」という話題で、ひとしきり盛り上がるときがある。

もちろん、それは個々人の主観によるもので、誰が世界一なんて到底決めようもないのだが、いってみれば自分が最高だと思うアーティスト名を上げることで、その人の音楽観を表明しているわけですな。

で、各人が、俺はアート・テイタムだ、いや僕はバド・パウエルだ、いやハービー・ハンコックだ、ビル・エヴァンスだと侃々諤々の騒ぎとなり、結論など出ない。それでいいのだ。

筆者の場合、前掲の人たちも、もちろん大好きなのだが、たったひとり、世界一のピアニストを上げるとなれば、このオスカー・ピータースンにとどめをさすのではないかと思う。

筆者がピータースンの生演奏にふれたのは、ただ一度、十なん年か前のブルーノート東京においてであるが、そのライブにて、彼が世界一であることを確信した。

そのタッチの鮮やかさ、確かさ、寸分の狂いもないリズム感、表現の多彩さ、あふれんばかりのサービス精神(なかにはその"饒舌"を余り好まない聴き手もいるにはいるが)といった諸々の点において、世界の頂点に立っているのは、間違いないと思う。

そんな彼の、ピアノ一台だけでレコーディングしたアルバムの第一弾がこれ。

ピアニストにとって、腕の見せ場であるソロ。裏を返せば、実力のほどが全て露呈してしまう、怖~い場でもあるのだが、全曲、ピータースンは危なげなく最上級の演奏を聴かせてくれている。

スタートはガーシュウィン兄弟の「やさしき伴侶」から。聴き手はのっけから、ふんだんにちりばめられた、派手な装飾音に圧倒される。

リズミカルな「パーディド」。その左手の動きの鮮やかさは、名手アート・テイタムと並ぶぐらい、見事である。

バラード・ナンバー「ボディ・アンド・ソウル」も、この曲のメロディ・ラインの美しさを100%引き出し、なおかつ深いニュアンスを感じさせる演奏。

極力饒舌な表現を抑えた「フー・キャン・アイ・ターン・トゥ」の、ひたすら静謐な世界も素晴らしい。

バラードの「バイ・バイ・ブラックバード」「アイ・シュッド・ケア」、スウィンギーな「ルルズ・バック・イン・タウン」と、ジャズ・ファンにはおなじみのナンバーが続く。いずれも、メリハリの効いた構成といい、躍動感、情感にあふれた豊かな表現といい、まったく非の打ちどころがない。

ロジャーズ&ハートによる愛らしいバラード、「リトル・ガール・ブルー」。その表現は繊細にして透明。ピータースンの極上のリリシズムを、この一曲で感じてほしい。

ラストは、これぞピータースン!という極めつけの一曲、デューク・エリントンの「A列車で行こう」。「灯りが見えた」のメロディも巧みに引用しつつ、軽快にスウィングするご機嫌なナンバー。

以上、全編文句なしに100点満点な一枚であります。ジャズ・ファンならずとも、聴いて損は絶対ないと確信しとります。

<独断評価>★★★★★



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