NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#239 フリートウッド・マック「ファンタスティック・マック」(WARNOR BROS./REPRISE 20P2-2035)

2022-07-11 05:00:00 | Weblog

2004年9月12日(日)



#239 フリートウッド・マック「ファンタスティック・マック」(WARNOR BROS./REPRISE 20P2-2035)

フリートウッド・マック、75年リリースのアルバム。彼ら自身、そしてキース・オルセンによるプロデュース。

とにかく「売れた」ということで、前回とは好対照な一枚。

もともとはブルースロックの色濃いブリティッシュ・バンドではあったが、70年代に入りピーター・グリーン、ジェレミー・スペンサーら「ブルース一直線」なメンバーが脱退してからは、その音楽は次第にポップで、アメリカ人好みなものに変化して行く。

チキン・シャックにいたシンガー/キーボーディスト、クリスティン・パーフェクトが加入、メンバーのジョンと結婚。また、ヴォーカルも出来るギタリスト、ボブ・ウェルチが参加。

以前のマックは、どちらかといえば歌よりも演奏で聴かせるタイプのバンドであったが、彼らの参加によりバンドの中におけるヴォーカルの比重が高くなっていく。

そしてボブの脱退と入れ替わりに正式メンバーとなったのが、リンジー・バッキンガム、スティーヴィ・ニックスのふたり。

この新生マックでの初のアルバム「ファンタスティック・マック(原題"FLEETWOOD MAC")」により、一気にスターダムにのし上がったのである。

このアルバムがどれくらい凄まじい勢いで売れたかは、何度も書かれて来たことで、いまさら触れるつもりはないが、次のアルバム「噂」とともに、空前絶後の売れ行きだった。いってみれば、"超"が付くくらいの「ブーム」。

でも、今聴いてみても、単なる一過性の人気によるものでなく、「こりゃ売れて当然だなあ」という感想を抱かざるをえない出来ばえなのである。

まず、ヴォーカル・パートの強化。クリスティン、リンジー、スティーヴィという声質の異なったシンガーが3人揃ったことで、さまざまな曲調のナンバーをカヴァー出来るようになった。

それぞれがリードを取れ、しかもコーラスが可能。これはヒット曲を生み出す上で、絶対の強みである。

そして、従来のメンバーに加えて、新加入のふたりも曲が書けた。これも大きなアドバンテージであった。

さらには、新メンバーのチャーミングなルックスも、看過するわけにはいくまい。これにより、バンドのパフォーマンスがグッと魅力的になったのは間違いない。

歌、曲、そしてパフォーマンスの大幅なパワーアップにより、マックは従来の「ジミなバンド」のイメージを返上、最も旬なバンドへと脱皮したのであった。

さて、本盤は11曲を収録。どの曲もシングル・カットされておかしくない位、コンパクトでキャッチーにまとまっている。

リンジーの男性にしては高め、どこかケニー・ロギンスに似た歌声の「マンデイ・モーニング」で始まり、クリスティンの落ち着いたバラード「ウォーム・ウェイズ」、リンジーがリードを取り、女性たちがコーラスをつけるモロにカントリーな「ブルー・レター」、スティーヴィのけだるい歌声が特徴的な「ライアノン(正しい発音はリアノン)」といったふうに、3人が交互にリード・ヴォーカルを取っていく。

ヒット曲としてはその「ライアノン」の他、クリスティンの「オーヴァー・マイ・ヘッド」、同じく「セイ・ユー・ラヴ・ミー」を収録。AORとカントリーを融合させたスタイル。いずれも、彼女の素朴で清冽な歌声が素晴らしい。

他には、スティーヴィの作品「クリスタル」「ランドスライド」、リンジーの作品「アイム・ソー・アフレイド」、クリスティンの作品「シュガー・ダディ」、クリスティンとリンジーの共作「ワールド・ターニング」。いずれもメロディラインの美しさでは甲乙つけがたいものがある。また、「ワールド~」は、アルバムでは唯一、ブルースっぽい。マックのルーツをぷんぷんと匂わせる曲調だ。「アイム・ソー・アフレイド」は、初期マックのラテン・ロック風サウンドに通じるものがある、スケールの大きい作品。

ブリティッシュ・ロック特有の「翳り」のようなものをどこかに残しつつも、表向きはあくまでもアメリカそのもの、カントリータッチの、からっとした音。これは絶対売れまっせ。

初期からのマック・ファンに言わせれば、「まったく別のバンドになっちまった」というところだろうが、バンドとて商売(ビジネス)、「売れてナンボ」の世界であります。

世の中が一番欲しているタイプの音楽(タマ)を、ストレートに投げ込む。これも彼らのハンパではない才能のしるし。

この一枚の成功を振り出しに、さらに成長につぐ成長をとげていった彼らの足跡は、皆さんもご存じの通りですが、最初に「世間の望む一球」をいかに投げるか、これは相当な困難を伴っていたはず。

現在「長寿バンド」とよばれるバンドは、ひとつごとを二十年、三十年繰り返していることで評価を得ているという手のものが多いですが、常に脱皮をくり返し、ひとつところに留まらない彼らの才能も、もっと評価されていいんじゃないかと、筆者は思っております。

<独断評価>★★★★★


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