エラ・フィッツジェラルド&ジョー・パス「テイク・ラヴ・イージー」(ビクター音楽産業 VDJ-28003)
(1)TAKE LOVE EASY
(2)ONCE I LOVE
(3)DON'T BE THAT WAY
(4)YOU'RE BLASE
(5)LUSH LIFE
(6)A FOGGY DAY
(7)GEE BABY,AIN'T I GOOD TO YOU
(8)YOU GO TO MY HEAD
(9)I WANT TO TALK ABOUT YOU
この週末はすっかり体調を崩して、寝込んじまった。そんなときには、当然、テンションの高い音楽なんてノー・サンクス。
で、ひさびさにライブラリーから取り出してきたのが、これ。エラ・フイッツジェラルドとジョー・パスのデュオによる1作目。73年録音。
全編、エラの歌とパスのソロ・ギターのみという、究極のミニマム・ユニットが生み出す世界なのだが、いやー実に耳に心地よい。
あたかも自分のすぐそばで、ふたりが演奏してくれているかのような、自然な響きがある。これぞ、癒し系の真打ち?
タイトル・チューンの(1)は、エリントン・ナンバー。
もの憂げなムードのパスのギターに乗って、ゆったりとスゥイングするエラ。
そのなめらかで、全てを包み込むような頼もしい歌いっぷりは、さすが「歌のファースト・レディ」とよばれるだけのことはある。
続く(2)は、アントニオ・カルロス・ジョビンによるボサノバ。
過ぎ去りし日の恋人を偲ぶ、もの悲しいバラードを、これまた見事に歌いこなすエラ。
(3)はご存じベニー・グッドマン楽団の代表曲。
原曲の軽快なテンポをぐっとおさえめにして、歌詞の一語一語をかみしめるように歌うエラ。
パスのギターも、ぴったりとしたバッキングで、歌をさらに引き立てている。
(4)はハミルトン=シヴィーアの英国人コンビによるバラード。しみじみとした情感をたくみに表現するエラ。
(5)は「A列車で行こう」の作曲者、エリントン楽団のアレンジャーとしても著名な、ビリー・ストレイホーンによるナンバー。
これがまた、出色のできばえ。人生の感興をこの一曲にこめて歌い上げた、エラの繊細な表現力はスゴい。
エラというと、ライヴ盤「エラ・イン・ベルリン」などにより「ガンガン歌いまくるひと」、というイメージが強いかとは思うが、どっこい、こういうきめ細やかな表現にもすぐれているのだ。
(6)は知らぬ者もない、ガーシュウィン兄弟作のスタンダード。
フレッド・アステアをはじめ、多くのシンガーがレパートリーとしているが、エラもまた緩急自在に歌いこなし、愛すべき小品に仕上げている。
(7)はレッドマン=ラザフのコンビによる29年の作品。もちろん、全作品中、もっとも古いナンバー。
でもエラが歌えば、今日出来た歌かのように、新しい命を吹き込まれる。
いわゆるブルースではないが、そのメリハリある歌いぶりは、この一枚中、もっともブルース・フィーリングを感じさせる一曲。
パスのギター・ワークも、影響を強く受けたといわれるジャンゴ・ラインハルトを心なしかほうふつとさせる。
そのギターのアコースティックな響きがまた、まことに美しい。
(8)はヘレン・メリルもカバーしているので、結構わが国でも知られている、クーツ=ギレスピーのコンビによる作品。
曲は、男性に対して恋心を告白する女性の心情を歌ったものだが、当時55歳のエラがまるで妙齢の女性にように思えてくるぐらい、みずみずしい歌唱を聴かせてくれる。
リリカルなパスのバッキングも好演。名演ぞろいの本盤の中でも、とくに素晴らしい一曲である。
ラストは、ジャズ・シンガー、ビリー・エクスタインの作品。同じく大人の恋を歌ったバラードであるが、優しい情感に満ちあふれた歌唱がこれまたいい。
エラとパス、それぞれが技を競うというよりは、見事な「和」(ハーモニー)を生み出しているこの一枚。
心がほんとになごみます。超お薦め。