2023年2月27日(月)
#467 FREE「THE FREE STORY」(Island PSCD-1016)
英国のロック・バンド、フリーのベスト盤。73年リリース。ガイ・スティーヴンス、クリス・ブラックウェル、彼ら自身ほかのプロデュース。
68年結成、73年に解散したフリーの、全史を見渡せる一枚。アナログLPでは2枚組だった。
デビュー・アルバムからの「I’m a Mover」から、ラストの「Come Together in the Morning」までの19曲。CDでは「Heartbreaker」のみ省かれている。
個人的なベスト・チューンを挙げていこう。
フリーといえばやはり「All Right Now」だろう。70年リリース。サード・アルバム「Fire and Water」からシングル・カットされ全米4位の大ヒットとなり、フリーの名を一躍全世界に広めたナンバー。
アンディ・フレーザーとポール・ロジャーズによる作品。フリーの楽曲は、多くがこのコンビによるものだ。
ハードなサウンドの中にも、キャッチーなメロディが光る。ヒットして当然なナンバーだと思う。
このヒットによりサード・アルバムも全英2位、全米17位をとるまでに売れ、日本での認知度も一気に上がった。
「Fire and Water」はそのサード・アルバムより。「All Right Now」のひとつ前のシングルとしてリリース。
ソウル・シンガー、ウィルスン・ピケットによるカバーでも知られているナンバー。フリーの黒人音楽志向がその曲調にはっきり出ている。
フリーは売れ筋の音よりも自分たちのやりたい音楽を優先し、それが世間にもちゃんと認められた好運なバンドだと言える。その音はシンプルで飾り気がなく、ひたすら力強い。
「Be My Friend」はフレーザーのピアノをフィーチャーしたバラード・ナンバー。4thアルバム「Highway」から。のちのバッド・カンパニーにも引き継がれることになる、哀感に満ちたメロディがいかにもフリーらしい。
「The Stealer」は「All Right Now」に続く、シングル・ナンバー。同じく「Highway」から。フレーザー、ロジャーズ、ポール・コゾフの作品。
マイナー調のブルース・ロック・ナンバー。こういう影のある、カタルシス感の乏しい曲は残念ながらあまりヒットしないんだよなぁ。悪くはないんだけど。
「Mr. Big」はそのタイトルが英国、米国それぞれで人気ロック・バンド名として使われた逸話を持つ、ある意味、フリーを象徴するナンバー。メンバー全員の作品。
71年のライブ・アルバム「Free Live!」から。ミディアム・テンポのずっしりとしたサウンドが強く印象に残る。
LPでは2枚目トップの「The Hunter」は、やはりアルバム「Free Live!」から。
元曲はアルバート・キング67年のアルバム「Born Under a Bad Sign」に収録されており、69年にシングル・カットもされている。ブッカー・T・ジョーンズ、スティーヴ・クロッパーほかの作品。
他のアーティストのカバーはあまりやらない彼らだが、この曲はよほど気に入ったのだろう、ステージでの定番にしていたようだ。
この曲はバンドのタイトな演奏、とりわけポール・コゾフのタメの効いたブルーズィなプレイが、この上なくカッコいい。そしてもちろん、ロジャーズの渾身のシャウトも。
「Get Where I Belong」もライブ盤より。
ギターやピアノなどアコースティック楽器をフィーチャーし、コーラスも交えたフォーク・ロック・ナンバー。71年当時の彼らとしては、ちょっと異色のサウンドだな。
彼らも次第にアメリカナイズされていく様子を、そこに見てとれる。
「Just for the Box」は唯一のインスト・ナンバー。
フリーは一時期、ロジャーズ抜きの「コゾフ、カーク、テツ&ラビット」として活動していた時期があったが、
その時期の唯一のアルバムより。72年リリース。
コゾフの多重録音をフィーチャーした、ヘビーなブルース・ロックなのだが、メイン・ボーカルを欠いた状態のフリーは、やっぱりサマにならないなぁ。
「Lady」はアルバム唯一の未発表音源。ロジャーズの作品。
ここで聴かれるギター・プレイはおそらく、ロジャーズによるものだろう。コゾフのレスポールの音とはかなり違う。
ロジャーズも最初のフリー来日、あるいはバドカンでもギターを弾くなど、ギターを弾けないわけではないのだが、彼の面目はやはりボーカルにある。
コゾフ抜きのフリーは、フリーではない。そう強く思う。
「My Brother Jake」は71年リリースのシングル。アルバムではこのベスト盤で初めて収録された。
英国内では大ヒットして4位になったという、フレーザーのピアノをフィーチャーしたナンバー。
旧友を偲んで書かれた、ハートフルな歌詞がいい。
「Little Bit of Love」は72年リリースのシングル。アルバム「Free at Last」からのカット。メンバー全員の作品。
陽気なロックンロール・ナンバー。以前の翳りのあるサウンドは消えて、バドカンの曲といっても構わないくらい、完全にアメリカンなテイストに変わっている。
このサウンド、古くからのコゾフ・ファンあたりには、ちょっと抵抗があったかもね。でも、バンドの音はこうして変化していくものなのだ。
「Sail On」はその「Little Bit of Love」のB面曲にして「Free at Last」収録曲。やはり、アメリカナイズが顕著なロック・ナンバーだ。
世界的な成功を目指して、フリー号は舵を切ったってことなのだろう。
「Come Together in the Morning」は73年のラスト・オリジナル・アルバム「Heartbreaker」より。ロジャーズの作品。
マイナー調のメロディながら、ポジティブな展開もあり、陰と陽のコントラストが見事である。バドカンとしてのリスタートを感じさせるナンバー。
73年フリーは解散、そのままロジャーズとサイモン・カークはバッド・カンパニー結成へと動く。
そして、フリーを越える全世界的な成功を収める。
その萌芽は、こうして聴いていくと、後期のフリーにすでにしっかりとかたちとなっていることが分かる。
しかし、真の成功はフリーのオリジナル・メンバーによっては勝ち取れなかった。
コゾフという素晴らしいギタリストがいたものの、彼は残念ながら繊細過ぎて、ロック・ビジネスという生き馬の目を抜く世界で生き残っていくだけのタフネスはなかった。
そして、彼は76年に25歳という若さでこの世を去ることとなる。
われわれにせめて出来るのは、フリーのサウンドを折にふれて味わうことで、彼の傑出した才能を忘れないこと、これだけではないだろうか。
フリーという唯一無二のバンドの歴史を、凝縮した一枚。
<独断評価>★★★★☆
英国のロック・バンド、フリーのベスト盤。73年リリース。ガイ・スティーヴンス、クリス・ブラックウェル、彼ら自身ほかのプロデュース。
68年結成、73年に解散したフリーの、全史を見渡せる一枚。アナログLPでは2枚組だった。
デビュー・アルバムからの「I’m a Mover」から、ラストの「Come Together in the Morning」までの19曲。CDでは「Heartbreaker」のみ省かれている。
個人的なベスト・チューンを挙げていこう。
フリーといえばやはり「All Right Now」だろう。70年リリース。サード・アルバム「Fire and Water」からシングル・カットされ全米4位の大ヒットとなり、フリーの名を一躍全世界に広めたナンバー。
アンディ・フレーザーとポール・ロジャーズによる作品。フリーの楽曲は、多くがこのコンビによるものだ。
ハードなサウンドの中にも、キャッチーなメロディが光る。ヒットして当然なナンバーだと思う。
このヒットによりサード・アルバムも全英2位、全米17位をとるまでに売れ、日本での認知度も一気に上がった。
「Fire and Water」はそのサード・アルバムより。「All Right Now」のひとつ前のシングルとしてリリース。
ソウル・シンガー、ウィルスン・ピケットによるカバーでも知られているナンバー。フリーの黒人音楽志向がその曲調にはっきり出ている。
フリーは売れ筋の音よりも自分たちのやりたい音楽を優先し、それが世間にもちゃんと認められた好運なバンドだと言える。その音はシンプルで飾り気がなく、ひたすら力強い。
「Be My Friend」はフレーザーのピアノをフィーチャーしたバラード・ナンバー。4thアルバム「Highway」から。のちのバッド・カンパニーにも引き継がれることになる、哀感に満ちたメロディがいかにもフリーらしい。
「The Stealer」は「All Right Now」に続く、シングル・ナンバー。同じく「Highway」から。フレーザー、ロジャーズ、ポール・コゾフの作品。
マイナー調のブルース・ロック・ナンバー。こういう影のある、カタルシス感の乏しい曲は残念ながらあまりヒットしないんだよなぁ。悪くはないんだけど。
「Mr. Big」はそのタイトルが英国、米国それぞれで人気ロック・バンド名として使われた逸話を持つ、ある意味、フリーを象徴するナンバー。メンバー全員の作品。
71年のライブ・アルバム「Free Live!」から。ミディアム・テンポのずっしりとしたサウンドが強く印象に残る。
LPでは2枚目トップの「The Hunter」は、やはりアルバム「Free Live!」から。
元曲はアルバート・キング67年のアルバム「Born Under a Bad Sign」に収録されており、69年にシングル・カットもされている。ブッカー・T・ジョーンズ、スティーヴ・クロッパーほかの作品。
他のアーティストのカバーはあまりやらない彼らだが、この曲はよほど気に入ったのだろう、ステージでの定番にしていたようだ。
この曲はバンドのタイトな演奏、とりわけポール・コゾフのタメの効いたブルーズィなプレイが、この上なくカッコいい。そしてもちろん、ロジャーズの渾身のシャウトも。
「Get Where I Belong」もライブ盤より。
ギターやピアノなどアコースティック楽器をフィーチャーし、コーラスも交えたフォーク・ロック・ナンバー。71年当時の彼らとしては、ちょっと異色のサウンドだな。
彼らも次第にアメリカナイズされていく様子を、そこに見てとれる。
「Just for the Box」は唯一のインスト・ナンバー。
フリーは一時期、ロジャーズ抜きの「コゾフ、カーク、テツ&ラビット」として活動していた時期があったが、
その時期の唯一のアルバムより。72年リリース。
コゾフの多重録音をフィーチャーした、ヘビーなブルース・ロックなのだが、メイン・ボーカルを欠いた状態のフリーは、やっぱりサマにならないなぁ。
「Lady」はアルバム唯一の未発表音源。ロジャーズの作品。
ここで聴かれるギター・プレイはおそらく、ロジャーズによるものだろう。コゾフのレスポールの音とはかなり違う。
ロジャーズも最初のフリー来日、あるいはバドカンでもギターを弾くなど、ギターを弾けないわけではないのだが、彼の面目はやはりボーカルにある。
コゾフ抜きのフリーは、フリーではない。そう強く思う。
「My Brother Jake」は71年リリースのシングル。アルバムではこのベスト盤で初めて収録された。
英国内では大ヒットして4位になったという、フレーザーのピアノをフィーチャーしたナンバー。
旧友を偲んで書かれた、ハートフルな歌詞がいい。
「Little Bit of Love」は72年リリースのシングル。アルバム「Free at Last」からのカット。メンバー全員の作品。
陽気なロックンロール・ナンバー。以前の翳りのあるサウンドは消えて、バドカンの曲といっても構わないくらい、完全にアメリカンなテイストに変わっている。
このサウンド、古くからのコゾフ・ファンあたりには、ちょっと抵抗があったかもね。でも、バンドの音はこうして変化していくものなのだ。
「Sail On」はその「Little Bit of Love」のB面曲にして「Free at Last」収録曲。やはり、アメリカナイズが顕著なロック・ナンバーだ。
世界的な成功を目指して、フリー号は舵を切ったってことなのだろう。
「Come Together in the Morning」は73年のラスト・オリジナル・アルバム「Heartbreaker」より。ロジャーズの作品。
マイナー調のメロディながら、ポジティブな展開もあり、陰と陽のコントラストが見事である。バドカンとしてのリスタートを感じさせるナンバー。
73年フリーは解散、そのままロジャーズとサイモン・カークはバッド・カンパニー結成へと動く。
そして、フリーを越える全世界的な成功を収める。
その萌芽は、こうして聴いていくと、後期のフリーにすでにしっかりとかたちとなっていることが分かる。
しかし、真の成功はフリーのオリジナル・メンバーによっては勝ち取れなかった。
コゾフという素晴らしいギタリストがいたものの、彼は残念ながら繊細過ぎて、ロック・ビジネスという生き馬の目を抜く世界で生き残っていくだけのタフネスはなかった。
そして、彼は76年に25歳という若さでこの世を去ることとなる。
われわれにせめて出来るのは、フリーのサウンドを折にふれて味わうことで、彼の傑出した才能を忘れないこと、これだけではないだろうか。
フリーという唯一無二のバンドの歴史を、凝縮した一枚。
<独断評価>★★★★☆