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音盤日誌「一日一枚」#466 MICHEL LEGRAND「AT SHELLY’S MANNE-HOLE」(Polydor/Verve J25J 25122)

2023-02-26 05:00:00 | Weblog
2023年2月26日(日)



#466 MICHEL LEGRAND「AT SHELLY’S MANNE-HOLE」(Polydor/Verve J25J 25122)

フランスの作曲家、ミシェル・ルグランのライブ・アルバム。68年リリース。ナット・シャピロ、ジェシー・ケイによるプロデュース。

ミシェル・ルグランといえば「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」「華麗なる賭け」といった映画音楽の担当としてあまりにも有名だが、そんな彼も実はバリバリ、ゴリゴリのジャズ・ピアニストであったことを、皆さんご存じだろうか。

ジャズ・ファンなら、彼がプロデュースした「ルグラン・ジャズ」という58年のアルバムを知っているかもしれない。

これは彼が米国へ新婚旅行をした際に、現地のジャズ・ミュージシャンとの共演を果たした一枚で、マイルス・デイヴィスをはじめ、ドナルド・バード、アート・ファーマー、クラーク・テリー、ベン・ウェブスター、ジョン・コルトレーン、ポール・チェンバース、ハービー・マン、フィル・ウッズ、バリー・ガルブレイス、ビル・エヴァンス、ハンク・ジョーンズといったトップ・プレイヤーたちがレコーディングに参加している。

この時、ルグランはアレンジと指揮をつとめており、ピアノ演奏まで携わっていなかったので、プレイヤーとしての彼を知ることはできなかったのだが、10年の時を経て再びジャズに取り組んだ本盤では、ピアニスト、そしてボーカリストとしての実力をフルに味わうことができる。

本盤でルグランと共演するのは、ベースのレイ・ブラウンとドラムスのシェリー・マン。

ブラウンはオスカー・ピータースン・トリオのメンバーとして、マンはブラウン、バーニー・ケッセルと組んだザ・ポール・ウィナーズなどで著名だ。

ともに米国ジャズ界のトップに君臨するふたりと、外国人ルグランは果たしていかなるプレイを繰り広げるのだろうか。

収録場所はカリフォルニア州ハリウッドにある、マンの名前を冠したジャズ・クラブ、シェリーズ・マンホール。

オープニングの「ザ・グランド・ブラウン・マン」はメンバー3人の苗字を合わせて作ったタイトルの、ブルースをベースにしたナンバー。3人の共作。

ゆったりとしたテンポで始まり、イン・テンポに転じたのちは徐々にスピードを上げていき、最後は猛烈な高速ソロに入るルグランと、それをしっかり支えるリズム隊。

のっけから、まさに火花が出るような演奏が展開されて、聴く者の度肝を抜いてくれる。

「ア・タイム・フォー・ラヴ」は一転して、ロマンティックなバラード・ナンバー。ジョニー・マンデルとポール・フランシス・ウェブスターの作品。

映画「いそしぎ」の主題歌で知られるコンビの佳曲を、抒情たっぷりに奏でるルグラン。

10本の指が鍵盤の上を自在に飛び跳ねて、甘美な時間を生み出していく。

アルコ(弓弾き)によるブラウンのサポートもナイスだ。

「レイズ・リフ」はワルツ・ビートのブルース・ナンバー。3人の共作。

ブロック・コードを多用したルグランのプレイはダイナミックのひとこと。

ピータースン、ガーランドといった、さまざまな米国のジャズ・ピアニストをとことん研究していることがその演奏からよく分かる。

そしてブラウンの手だれのソロも、この曲のもうひとつの主役だな。

「ウォッチ・ホワット・ハップンズ」は映画「シェルブールの雨傘」の挿入歌。ルグラン、ジャック・ドゥミほかの共作。

ここでのルグランのプレイが、この上なく素晴らしい。

作曲者自身による演奏だけあって、曲の持つポテンシャルをすべて引き出している。

元曲はボサノヴァだが、ここではスロー・スウィングにアレンジして、ジャズらしさを強めている。

万華鏡のように刻々と変化していくサウンド。音楽を極めた者にしか出し得ない、至高の響きだ。

この一曲を聴くだけのために本盤を買っても、まったく惜しくはない。

「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」はおなじみロジャーズ=ハートのコンビによるスタンダード・ナンバー。

この曲でルグランは、達者なスキャット・ボーカルを披露する。これがなかなか味わい深く、また可笑しみもある。

スキャットとピアノの合わせ技(シンクロ)も見事だ。

シンガーとしてはほとんどレコードを出していないものの、彼の歌の実力はなかなかのものだと思う。

いつかFMラジオで聴いた彼のライブでの「アイル・ウェイト・フォー・ユー(シェルブールの雨傘)」の歌とピアノが今も耳に残っている。

「アナザー・ブルース」は再びブルース・ナンバー。3人の共作。

ブラウンのソロによるテーマから始まり、ルグランの飛び跳ねるようなソロへ。

どんどんとピアノのトーンが上がっていき、バックのプレイにも火がついていく。

熱狂、混沌、さらには狂気。そんなものさえ感じさせるエキサイトぶり。

ブラウン、ルグラン、マンのインタープレイが白熱する一曲だ。

「ウィロウ・ウィープ・フォー・ミー」は有名なジャズ・スタンダード。アン・ロネルの作品。

ブラウンのソロに導かれて、ルグランがテーマを弾く。少ない音で、訥々と語りかけるような演奏だ。

スローの極みのような、気だるい演奏が、テンションの高い曲の多い本盤では、異彩を放っている。

「ロス・ゲイトス」はスペイン語で「猫たち」を意味するタイトルのナンバー。3人の作品。

シンプルにコード進行だけ決めて、スパニッシュ・ビートに乗って即興演奏が繰り広げられる。

のちにチック・コリアがお家芸としたサウンドを、すでにルグランは先取りして始めていたのである。

猫たちが奔放に戯れるさまのような、自由度の高い3人のプレイは、それぞれの高い演奏力、音楽的センスあってこそのものだろう。

以上、ルグランのライブは完全にジャズ・ピアニストのそれであった。

しかも、他のどのピアニストにも増して、自分の持っている全てを提供するサービス精神、エンタテイナー精神にあふれたステージングであった。

真にすぐれたクリエイターはまた、すぐれたパフォーマーでもあることが多い。

ミシェル・ルグランはまさにそういう完全無欠のアーティストのひとりであった。

脱帽、のひとことである。

<独断評価>★★★★

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