偶然、道路脇に落ちていたコインロッカーのカギを拾ったことから、
黒い組織に追われることになったまんぼ~。
それもそのはず。
カギを組織に渡す代わりに、まんぼ~が要求したのは2億円だった。
相手が素直に取引に応じるはずもなく、まんぼ~は子分のポパイと
ともに、大阪の街を駆けまわっている。
拾ったカギに、どのような意味があるのかは2人には分からない。
それでも、必死に追いかけてくるところを見れば、相当ヤバイことが
関係しているに違いないだろう。
梅田から難波へと御堂筋を駆け抜け、難波から梅田へと四ツ橋筋を
忍び歩き、なんとか振り切ったところである。
しかし、2人の逃走劇はまだ終わらない。
ポパイ、よくここまで俺についてきてくれたな。
ここから先は命のやり取りになるから、俺が1人でやることにする。
お前は組織に顔を見られてないから、今ならまだ抜けられるぞ。
悪いことは言わない。 俺のことはいいからサッサと家に帰れ。
「はい、じゃあ帰ります」
待ってくれ! 本当に帰らないでくれ。
本当は帰ってほしくないと思ってるし、兄貴を1人には出来ないぜ。
とか言ってくれると思ったんだ。
まだヤツらは追ってくるだろうから、1人では心細くて仕方ない。
(面倒くさい兄貴だな。せっかく家に帰れると思ったのに)
カチカチッ キュルルル ブーン♪
凄いなポパイ! まるで手品みたいにクルマが動き出したぞ。
「チョロイもんだぜ。解体屋で働いていた時に、クルマの盗み方は
ひと通り覚えたんだ。 ここからはクルマで逃げよう」
「痛ぇっ! クソっ、さっき走った時に足をケガしたみたいだ」
「右足が痛むから、兄貴がクルマを運転してくれないか?」
すまん。ポパイがクルマを運転してくれ。
俺はあと2点で免停になるから、ここで捕まるわけにはいかないぜ。
(盗んだクルマを運転するのに、免停なんてどうでもいいだろ)
食料を調達するために、クルマを道路脇に停めてコンビニに入ろうと
したところ、ポパイの嫌な予感が的中した。
チンピラに後をつけられていたのである。
近づいて来た男は帽子をかぶっており、派手なシャツで、その手には
金属バットが握られている。
威嚇するように、バットを揺らしながら、2人の前まで近づいてきた。
「お前らがまんぼ~とポパイだな」
「ウワサ通りなら、ソッチの間抜けそうなのがまんぼ~だろ」
「もう鬼ごっこは飽きたから、そろそろコイツでケリをつけてやるぜ」
「それが嫌なら、素直にロッカーのカギを渡すことだ」
フンっ、ケリをつけるのは構わないが、ちょっと待てよ。
お互いに人数が足りてないし、グローブとボールがないから、勝負は
また今度にしないか。
(兄貴はアホか。 この状況で野球の試合をするわけがないだろ)
絶対絶命のピンチに思われたが、ポパイは喧嘩がめっぽう強い。
金属バットで殴られながらも、あっという間にチンピラをボコボコに
退治して、その場から逃げ切ったのである。
その後、2人は組織側と電話でやり取りをして、要求額を2億円から
200万円に減額することになった。
小細工なしで、夜にお互いの代表者1人だけがカギと金を交換する。
ブツを受け取ったら、お互いのことは一切忘れたことにして、口外も
しないことで話はまとまった。
すっかりと大阪の街に夜のとばりが降り、まんぼ~とポパイの2人は、
組織との待ち合わせ場所である交差点の近くに来ている。
これから行う取引について、何やら相談しているようだ。
「兄貴、くれぐれも気を付けてくれよ」
「こういうのは、取引の時が一番危ないんだからな」
「要求する金額は減らしても、俺はチンピラをボコボコにしてるから、
組織のメンツを潰されたことに怒ってるはずだ」
「ヤツらはカギと金と交換した途端に、金を奪い返すに決まってるぜ」
「路地裏から、仲間がウジャウジャと出てくるだろう」
「しかも、今度はナイフや拳銃を持ってると思った方がいいな」
俺が取引に行っても構わないが、最後の見せ場はポパイに譲るぜ。
お前の言うように、ヤツらは路地裏に仲間を呼んでるだろうし、必死
に金を奪い返しに来るだろう。
だから、俺は路地裏にいる仲間を見つけて、先に潰しておく。
目立たない裏方の仕事は任せてくれ。
(自分は安全な場所から取引を観察したいだけなんだろうな)
約束の時間になると、ワンボックスカーからサングラスにスーツ姿の
男が降りてきた。 その手には封筒を持っている。
警戒しながらポパイが取引を行い、カギと金の交換は終わった。
人目がある御堂筋だけに、組織もあまり目立ったことは出来ない。
かに思われたが、予想した通り、路地裏から敵の仲間が続々と登場
して、また追われることになってしまった。
眠りかけた街を起こすように、周囲に怒号が飛び交い、パン、パンと
乾いた音が何発も響きわたる。 やばい。 相手も本気だ。
ポパイは、逃げながらチンピラを何人も倒し、途中で銃弾を受けたが、
命からがらに阪神高速の下にある駐輪場までやってきた。
何かトラブルが発生した時には、まんぼ~とここで待ち合わせをする
ことになっている。
蓄積された疲労と、助かった安堵から、ポパイはその場に倒れ込む。
意識が遠くなってきたころ、別の方向に逃げていたまんぼ~が、息を
切らせながら駐輪場にやってきた。
当然であるが、まんぼ~は無傷である。
ハァ、ハァ・・・。 ポパイ、大丈夫か! ヤツら撃ちやがったな。
おいっ! 血が出てるじゃないか!
でも、救急車を呼んだり病院に行けば、警察に事情をきかれてしまう。
クソっ、どうすればいいんだ。 せっかくここまで来たのに。
ヤミで治してくれる動物病院も、この時間なら開いてないぞ。
「大丈夫だ、病院には行かなくていい。弾は肩をカスっただけなんだ」
「それよりも・・・。 ほら、金はしっかりと持ってるぜ」
でかしたポパイ! あの状況でよく金を奪われなかったな!
「でも、体中がボロボロだし、逃げるだけの体力はもう残ってないな」
「兄貴、これで今回のシノギは終わりだと思っていいのか?」
あぁ、これで終わりだ。 俺たちは勝ったんだよ。
ヤツらはカギを手に入れたし、もう俺たちに関わっても得はない。
発砲までしてるから、今度はヤツらが警察に追われることになるさ。
俺とポパイのコンビなら、どんなヤツらにも負ける気がしないぜ。
さぁ、200万を山分けにしよう。
(お前は何もしてないやろ)
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