まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

私語の世界(その3)・私語を許してはならない

2010-03-09 15:54:07 | 教育のエチカ
 私語してしまう動物である人間に私語をさせないようにするために、最も重要なのは、私語を許してはならない、ということです。これも当たり前すぎるように聞こえるかもしれませんが、授業公開などで他の先生方の授業を見せてもらって感じるのは、私語を許してしまっている先生がけっこう多いということです。もちろん、「私の授業ではいくらでも私語してかまいませんよ」 と明言する形で私語を許可している教員などいるはずありません。そうではなくて、暗黙のうちに私語を許可してしまっている人がとても多いのです。それはどういうことかというと、学生の誰かが私語をしているのに、そのまま講義を続行して話し続けてしまう先生がいるということです。
 これを学生の側から考えてみましょう。自分たちが私語をしているにもかかわらず、先生の授業が淡々と進んでいったとしたら、自分たちの私語は誰にも聞こえていないのか、聞こえていたとしてもほんのわずかで授業の妨げになっていないのか、のいずれかと判断してそのまま私語をし続けてもいいのだと判断することになるでしょう。つまり、私語を許可してもらったということになるのです。そうやって誰かの私語が許可されたならば、他の子たちが私たちも大丈夫かな、と私語し始めるのは目に見えています。そうして教室中が私語に包まれてしまったあとになって、先生が怒り出したとしても、学生たちには先生が逆ギレしているようにしか見えません。だってもともと私語を許可してくれたのはその先生なのですから。
 ですので、たったひと組でも私語している学生がいた場合には、授業をストップして私語をやめさせなくてはならないのです。どうやってやめさせるかは後述しますが、とにかく、すべての私語はこちらに聞こえており、ひとつたりとも許さない、という態度を示す必要があります。そのためには、私語がある中で話し続けては絶対にいけないのです。
 難しいのは、授業開始前の喧噪をどう静めるかです。授業前に学生どうしが話しているのは自由です (私たちの学生時代は、授業前からノートを開いて鉛筆をもって、シーンと先生が入室してきて授業が始まるのを固唾を呑むように待っていたものですが、今となってはそんなの夢物語です)。いったん授業が始まっても話し続けていたら、それは私語になるわけですから、授業を開始する前に一度静寂状態を作り出す必要があります。これは大教室ではなかなか難しいことですので、とりあえず話し始めてしまってしだいに沈静化するのを待つという先生もいらっしゃるようです。これは私語の許可につながりますのでできれば避けたいところですが、大教室の場合はいたしかたない面もあります。そういう場合は私はまだ授業を始めるのではなく、ただの雑談だよという体 (てい) と内容で話し始め、しだいに注意がこちらに向いて完全に静かになるのを待ってから本格的に授業を開始するようにしています。あくまでも授業中の私語は許さないというスジは通しておきたいからです。
 これよりも最近のお気に入りなのは、大きな声で挨拶するという方法です。朝なら 「おはようございます」、午後なら 「こんにちは」。これをできるだけ大きな声で言うのです。小声の挨拶はただの常套句のように聞こえて無視できますが、こちらが大きな声で挨拶すると学生も挨拶を返さなくてはならなくなります。挨拶を返すためには私語をやめなくてはなりません。そうやって静寂状態を作り出すのです。たいていは一度の挨拶で静まりますが、それでダメな場合はもう一度さらに大きな声で挨拶します。二度もやればまずどんな大教室でも静まらなかったことはありません。
 大学教員の中には大きな声で挨拶なんかしたくないという方もいらっしゃることでしょう。その場合は、教壇の上で黙って学生を睥睨 (へいげい) する、というのがオススメです。話し始めたいんだけど、みんなが騒いでいるから始められないよお、という表情で黙ったまま学生たちをゆっくりと眺め回すのです。これは先ほどの挨拶よりも時間がかかってしまいますが、いずれ必ず喧噪はおさまってきますので、完全に静寂が訪れるまでじっくり待ちましょう。ある程度のところで話し始めてしまうと、私語を許可したことになってしまいますので最後まで待ちます。これはいくら時間がかかってもかまいません。むしろ時間がかかったほうが、あなたが話しているせいでみんなの時間が奪われているのだ、ということのデモンストレーションになりますので、学期はじめはじっくり時間をかけて静寂を待つようにしましょう。そのうち彼らも、自分が話している限り授業を始めてもらえないということがわかってきます。
 けっしてやってはならないのは、「静かにしてください」 などとお願いする行為です。よく生徒会総会などで生徒会長が連呼していたのを聞いたような気がしますが、これで静かになったことはないはずです。教員の側がお願いなんかしてしまったら学生にナメられてしまいます。すると、よけいに私語はおさまりません。しかも、こちらが声を大きくすればするほど、学生たちは自分たちの声が聞き取りにくくなるので私語の声を大きくしてしまうのです。同様に 「うるさいっ」 とか 「静かにしろっ」 などと怒鳴ったりするのも厳禁です。これをすると、その場を静かにすることには成功するかもしれませんが、怒鳴らないと私語も制御できない教員というレッテルが貼られ、学生からの信頼や尊敬が失われてしまいますので要注意です。(つづく)