「そうだよな …」
一般社員の本部長から役員になっていきなり数千万円の給料になるのは鬼塚専務や山形副社長も経験済みでした。 役員には色々な特権がありますが、サラリーマンならまず給料の三倍増加に驚くはずです。
二人はもう10年以上前に同じように数千万円の収入に上がった日を懐かしく思い出していました。
「あの頃は良かったよなぁ…」
山形副社長も箸を止めていました。
「なんだよ~お前らしくもないなぁ(笑)」
イケイケの山形副社長がたまに漏らす弱気な一面を鬼塚専務は知っていました。
「いや、お前の気持ちを代弁しただけだよ…」サラリとかわして山形副社長は猛烈に料理を片付けだします。
それを頼もしそうに眺める鬼塚専務は「そう言えば高辻さんの同期生は誰だったかなぁ…」
鬼塚専務が知る限り定年を終えて既に社内にいません。山形副社長と鬼塚専務が同期生で同時に役員なんて奇跡に近いのですが、それくらい役員の席は難しいものでした。
だから役員同士はたとえ競争相手であってもお互いを認め合う一種の尊敬を含んだ連帯感みたいな感情がありました。
「高辻君は身を引いたんだ…」
うんうん…頷いていながら目は違う場所を見ています。
「ははは」力なく笑うしかない鬼塚専務はグビリグビリとグラスを飲み干しました。
問題を一生懸命考えて結論をつけたら次の日に残さない。
これは鬼塚専務に限らず役員さん一般に言えることですね。
多忙で多種に亘り決断、実行、検証の繰り返しの毎日に小骨の引っ掛かった感傷などに浸っている暇はありません。
ただ…長い付き合いだったからなぁ~
高辻役員は推薦した円山事業部長が意のままにならないのを悔やんでいました。
いや、後悔していたのは鬼塚専務自身でした。
それを看破した高辻役員がいち早く身を引いたのは責任感の強い高辻役員らしさ… か!?
「いやいや…」鬼塚専務は首を振っていました。
あの、高辻さんが、潔さを持っているとは信じられない。
長い付き合いで高辻役員ほど物欲に執着心を抱いていた人を鬼塚専務は知りません。
専務と平取締役の立場で幾度もあった修羅場で折れそうになる鬼塚専務を励まして支えたのは高辻役員でしたから…
これくらいの… つまり師弟関係みたいな円山事業部長の裏切りなど露ほどの後悔もしていないと鬼塚専務は思っていましたが…
例えどんな思案があったにせよ、自らの役員を降りたら、もう何の権力も使えなくなるのは本人が一番わかっているからです。
この件で臼井事業部長が驚いたように鬼塚専務は正に青天霹靂でした。 本人の「疲れましたよ…」
力なく笑ったのがすべてを物語っているのでした。ただ…何かあるぞ~鬼塚専務は感じましたが、それが何かはわかりません。
「ああ…これからは若い奴等の時代なのか…」ついボヤいたのを山形副社長は聴き逃しませんでした。
「弱気は禁物、逃げたくなったら逃げたらいいんだよ!」
歯に衣を着せぬ言葉に鬼塚専務も口をつぐみました。
「なぁ…逃げたら楽になれるんだよ~鬼塚!!」
静かな言葉には鬼塚専務を黙らせるだけの凄みがありました。
一般社員の本部長から役員になっていきなり数千万円の給料になるのは鬼塚専務や山形副社長も経験済みでした。 役員には色々な特権がありますが、サラリーマンならまず給料の三倍増加に驚くはずです。
二人はもう10年以上前に同じように数千万円の収入に上がった日を懐かしく思い出していました。
「あの頃は良かったよなぁ…」
山形副社長も箸を止めていました。
「なんだよ~お前らしくもないなぁ(笑)」
イケイケの山形副社長がたまに漏らす弱気な一面を鬼塚専務は知っていました。
「いや、お前の気持ちを代弁しただけだよ…」サラリとかわして山形副社長は猛烈に料理を片付けだします。
それを頼もしそうに眺める鬼塚専務は「そう言えば高辻さんの同期生は誰だったかなぁ…」
鬼塚専務が知る限り定年を終えて既に社内にいません。山形副社長と鬼塚専務が同期生で同時に役員なんて奇跡に近いのですが、それくらい役員の席は難しいものでした。
だから役員同士はたとえ競争相手であってもお互いを認め合う一種の尊敬を含んだ連帯感みたいな感情がありました。
「高辻君は身を引いたんだ…」
うんうん…頷いていながら目は違う場所を見ています。
「ははは」力なく笑うしかない鬼塚専務はグビリグビリとグラスを飲み干しました。
問題を一生懸命考えて結論をつけたら次の日に残さない。
これは鬼塚専務に限らず役員さん一般に言えることですね。
多忙で多種に亘り決断、実行、検証の繰り返しの毎日に小骨の引っ掛かった感傷などに浸っている暇はありません。
ただ…長い付き合いだったからなぁ~
高辻役員は推薦した円山事業部長が意のままにならないのを悔やんでいました。
いや、後悔していたのは鬼塚専務自身でした。
それを看破した高辻役員がいち早く身を引いたのは責任感の強い高辻役員らしさ… か!?
「いやいや…」鬼塚専務は首を振っていました。
あの、高辻さんが、潔さを持っているとは信じられない。
長い付き合いで高辻役員ほど物欲に執着心を抱いていた人を鬼塚専務は知りません。
専務と平取締役の立場で幾度もあった修羅場で折れそうになる鬼塚専務を励まして支えたのは高辻役員でしたから…
これくらいの… つまり師弟関係みたいな円山事業部長の裏切りなど露ほどの後悔もしていないと鬼塚専務は思っていましたが…
例えどんな思案があったにせよ、自らの役員を降りたら、もう何の権力も使えなくなるのは本人が一番わかっているからです。
この件で臼井事業部長が驚いたように鬼塚専務は正に青天霹靂でした。 本人の「疲れましたよ…」
力なく笑ったのがすべてを物語っているのでした。ただ…何かあるぞ~鬼塚専務は感じましたが、それが何かはわかりません。
「ああ…これからは若い奴等の時代なのか…」ついボヤいたのを山形副社長は聴き逃しませんでした。
「弱気は禁物、逃げたくなったら逃げたらいいんだよ!」
歯に衣を着せぬ言葉に鬼塚専務も口をつぐみました。
「なぁ…逃げたら楽になれるんだよ~鬼塚!!」
静かな言葉には鬼塚専務を黙らせるだけの凄みがありました。