すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【ロシアW杯最終予選】ハリルが考えるサッカーは知的で狡猾だ

2016-10-26 10:10:37 | サッカー戦術論
敵のよさを消しカウンターで殲滅する

 目ざすサッカーが見えてこないーー。

 ハリルに疑問をもつ人の多くがこう語る。だがそれはおそらくチームがまだ成長の過程にあるからだろう。その証拠に過去のゲームを丹念にチェックすれば、重要なヒントになる局面が見えてくる。鮮やかなショートカウンターが決まったイラク戦の1点目とオーストラリア戦の1点目がそれだ。どちらの得点も見る者に鮮烈な印象を残したゴールである。

 まずイラク戦の1点目は前半24分だった。イラクの選手がドリブルで日本陣内にボールを持ち込み、呼応して日本のバイタルエリア周辺には5人のイラク人アタッカーが猛烈な勢いでなだれ込んできた。そこで相手が前がかりになった瞬間、原口がプレスバックで敵のパスをひっかけ、こぼれ球を清武が拾う。あとはご存知の通りだ。

 清武がドリブルで1人かわすとイラク陣内にはポジションバランスの崩れた4人のDFしかいない。ちなみにこのとき原口はプレスバックでパスカットするや、すぐさま「3人目の動き」でゴール前まで突進し、最後は清武からの折り返しをゴールしている。

 一方、オーストラリア戦の1点目は前半4分。相手センターバックがグラウンダーの縦パスを出したところを原口がカットし、横にいた長谷部にボールを預けたところから始まる(このときも原口は長谷部にパスした瞬間、すぐに3人目の動きをして前へダッシュしている)。

 オーストラリアとしては、最終ラインからビルドアップしようとした1本目のパスをさらわれた形だ。彼らはマイボールだったため「さあ攻めるぞ」と攻撃的MFとFWが揃って日本陣内にポジショニングし、全体の陣形がやや前のめりの体勢だった。このバランスでパスカットされたのだからたまらない。オーストラリアは味方が帰陣して陣形を整えるヒマもなく、ボールはたちまち本田に渡り、ポストプレイから原口のビューティフル・ゴールになった。

 さて、ここから何が見えてくるか?

 どちらのゴールにも共通しているのは、相手チームが前がかりになったところにプレスをかけてボールを奪い、少ない手数で素早くカウンターを決めた点だ。つまり相手にボールを持たせ、罠を仕掛けて相手チームが「さあ攻めるぞ」と守備のバランスを崩した瞬間に仕留めている。さらに見逃せないのは、どちらの局面でも原口がプレスバックからパスカットし、すぐに3人目の動きをして前へ抜け出し最後は自分でゴールを決めている点だ。

 観ている人間にはたまたまマイボールになり、そのとき選手の配置が偶然ああだったからゴールが決まったように見える。だがあれは偶然ではなく、必然だ。パスカットのタイミングと敵のバランス、3人目の動き。すべてが狙った通りにアジャストされている。人工的な創造物だ。

 あの2つのゴールが、ハリルの目ざすサッカーなのである。

 非常に知的で狡猾、抜け目がない。相手をあざ笑うかのように獲物を狩る。イラク戦とオーストラリア戦では日本のゲームモデルが異なり、どこにゾーンを置くかが違った。だが点を取った局面には共通点が多い。そこには当然、ハリルの「意志」が働いていたと見るべきだろう。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】2016年にやりたい3つのこと

2015-12-26 11:07:35 | サッカー戦術論
(1)監督に言われなくても「自分の頭で」考える

 教え魔ハリルホジッチ氏が就任し、マニュアル脳の日本人選手がいちばん痛感したのはこれだろう。

「タテに速く」と言われれば、局面がどうあれタテに急ぐ。何でもかんでもタテを狙うーー。そんな混乱した状況で、ハリル丸は船出した。マニュアルを与えられれば機械的にその通りやる、愚直にそれ以外のことは考えない。選手がそんなマニュアル脳だったからだ。

 2016年はその指示待ち脳を卒業し、応用もこなせるようになりたい。

 例えばタテに速く攻めるのが有効なのは、相手チームが守備のバランスを崩しているときだ。つまり相手が攻めにかかっていたせいで自分から守備のバランスを失っており、こうした際にボールを失ったときである。

 この場合、敵は攻撃態勢にあったのだから、逆に守備するのには隊形が向いてない。こういうときにはタテに速く攻めれば、カンタンに攻め崩せる。

 だが逆に相手チームの守備態勢ができているとき敵がボールを失ったのなら、監督の指示通りタテに速く攻めても相手の守備が固くて攻め通せない。

 ならばこんなときにはタテに攻め急ぐのではなく、いったんじっくりポゼッションしてボールを落ち着かせることだ。つまり遅攻である。こうして時間を作り、パスをつなぐことで相手チームをタテやヨコにゆさぶって敵のバランスを崩してから攻める。これがかしこい。

 こんなふうに「自分の頭で考える」のが大事なのだ。

 ゲーム前に監督から言われてなくても、試合中に相手のウイークポイントを自分たちで発見し、そこを突く。自分の頭で攻め方を考える。あるいは試合中、自分たちのバランスのどこが崩れているかを自分たちで考え、そこを修正する。

 あらかじめ練習してきた譜面通りに演奏するのでなく、ジャズのアドリブ演奏のように試合中に即興で考え、実行する。

 日本が世界で勝つには、そんな自律的なアドリブ性が必要だ。

(2)相手のやり方に応じて急所を突く

 サッカーには相手がある。相手のストロングポイントを野放しにすればやられるし、逆に敵の弱点を攻めれば試合に勝てる。

 とすれば「オレたちのサッカーはこうだ」でなく、相手のやり方を見て柔軟に対応することが必要だ。自分たちのアイデンティティをしっかり持ちながらも、相手のよさを殺す老獪な試合運びをしたい。

 何も考えずただがむしゃらにやったら結果的に勝った、でなく、キッチリ計算した上で勝つ。試合巧者になるとはそういうことだ。

(3)いかにボールをゴールへ「パスする」か?

 Jリーグが始まったころ、日本人選手のシュートはといえば、とにかく目をつむって思い切り打つだけだった。当時とくらべ今ではだいぶマシにはなったが、それでも日本代表の課題は決定力不足であり続けている。

 なぜなら日本人は、ボールをゴールへ「パス」してないからだ。

 例えばゴールを味方の選手に見立ててみよう。相手にヘディングさせたいなら、(1)ボールを浮かして「頭を狙う」だろう。逆に相手の足元にパスしたいなら、(2)グラウンダーのボールを「きっちり転がす」はずだ。つまりコースを狙う。

 加えて味方の選手がマーカーに邪魔されることなくトラップするためには、(3)マーカーの「タイミングを外した」パスを送るだろう。

 すなわちゴールに対し、(1)~(3)のような「パスを送れば」高い確率で得点できる。

 ところが日本人選手ときたら、シュートする局面になるとたちまち頭がパニックに陥り、相変わらず何も考えずに思い切り蹴るだけだ。意図のないシュートを放ってしまう。

 永遠のテーマである決定力不足を解消するためには、いかにボールをゴールへうまくパスするか? 氷のように冷静な頭で、それを考えることだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】2016年に直したい8つの悪いクセ

2015-11-27 07:20:07 | サッカー戦術論
(1)強くて速いパスを身につける

 Jリーグが始まったころと比べれば、日本人選手のトラップの精度は格段に高まった。だが、なかなか改善してないのがパススピードの遅さだ。

 日本人選手のパスは「ポーン、ポーン」とピッチを弾みながら進む弱いパスが多い。これでは速い攻撃はできないし、相手にパスカットされてしまう確率も高い。日本人選手はもう何十年も前から、この悪いクセを直せてない。おそらく育成年代から意識づけられてないからだ。

 例えばヨーロッパの選手は数十メートルもの長い距離を、平気でインサイドキックを使い強くて速いグラウンダーのパスを「ズドン」と出す。だから速い展開ができるし、相手選手が密集した中をカットされずにパスを通せる。この日本との差はとてつもなく大きい。

(2)クロス上手になる

 日本には良いクロッサーがいない。だから「あいつ(SB)にパスを出しても宇宙開発のクロスで終わるから」などと、同サイドのSHは上がったSBを使ってやらない。で、サイド攻撃が機能せず、SHがボールを持つとドリブルで自らカットインしてシュートか、あるいは中央突破を狙うケースが多い。すべてはクロスの質が悪いゆえの悪循環だ。

 一方、クロスの受け手の側の動きも悪い。クロスが上がる瞬間に、ゴール前で3~4人の選手が一直線に並んで棒立ちになっていたり、ポジショニングが重なることが多い。そうではなく、ニアに詰める、ファーに回り込む、ゴール前から降りる動きでシュートのリバウンドを狙うなど、中の選手が動きながらボールを迎えたい。

 また同じクロスを入れるのでも、山なりの大きなボールでファーを狙う、あるいは相手GKとバックラインの間に強くて速いグラウンダーのボールを入れるなど、ゴール前の状況に合わせてクロスにバリエーションをつけたい。

(3)SBをうまく上がらせろ

 CBがボールを保持したとき、2人のCBの距離が近すぎる。両CBはもっと距離を取り、SBを自然に前へ押し出すようなポジショニングをしたい。場合によってはボランチの1枚が最終ラインに降り、ビルドアップに加わることもありうべし。

(4)上がったSBを使うコンビネーションを磨け

 オーバーラップしたSBに、同サイドのSHがタイミングよくパスを出す連動性を身に付けたい。ボールをキープしたSHと、上がったSBの連携を自動化したい。「この形になれば必ずボールがそこに出る」オートマチズムをカラダに覚えさせろ。

(5)足元にもらうのでなく、走り込んでスペースでもらえ

 日本人選手はオフ・ザ・ボールの動きが絶対的に足りない。ラクをし、その場に棒立ちで足元にばかりパスを欲しがる。そうではなく、もっとボールを引き出す動きが絶対に必要だ。

 フリーになる動きやスペースを作る動き、具体的にはダイアゴナル・ランやボールに対して引いてくる動きなど、パスをもらうための動きをするクセをつけたい。

(6)ビルドアップ不全症を直せ

 上の(5)とも関係するが、顔を出す動きがないため最終ラインからのビルドアップに苦しむ。たとえDFからボランチにボールが出ても、またバックパスでボールが返ってくることも多い。前の選手がフリーになる動きをしなければビルドアップはできない。

(7)遅攻オンリーから抜け出す

 ボールを奪ったら、いったんバックパスや短い横パスをしてひと休み。時間を置きスローダウンして相手の守備の体勢が整うのをわざわざ待ってやってから、遅攻にしてしまう悪いクセを直したい。ボールを奪ったら周りの選手が素早く動き出し、1本目のパスをできればタテに通したい。

 守備とは、いかに自分たちの「バランスを保つ」かがキモ。逆に攻撃は、自分たちから「バランスを崩す」ことで行うものだ。つまり敵がボールを失った瞬間は、相手のバランスが崩れているとき。日本にとってはカウンターのチャンスだ。そこで速く攻めたい。

 にもかかわらず今の日本は攻守の切り替えが遅く、何でもかんでも遅攻にしてしまっている。「守」から「攻」への切り替え、すなわちポジティブ・トランジションを改善したい。

(8)ピッチをワイドに使う

 ショートパスを主体に攻めたザックジャパンからの流れで、日本の選手は大きな展開ができずにいた。だがここへきて変化の兆しがある。そのひとつがSBから、逆サイドに開いたウイングへ斜めのボールで大きくサイドチェンジするプレーである。アジア2次予選最大の収穫のひとつがこれだ。

 ボランチの位置から放射状にダイアゴナルなパスを出せる柏木の登場と同時に、それに感化されるかのようにSBやCBも逆サイドのウイングへ意欲的にサイドチェンジのロングボールを入れるようになった。

 いままでの日本はショートパスをつなぐだけの「小さいサッカー」だった。だがこのところダイアゴナルな浮き球を使った「大きなサッカー」ができるようになりつつある。これをぜひ定着させたい。あとは状況に応じて、ショートパスとロングパスをうまく織り交ぜていくことが大事だ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】W杯最終予選で日本を待ち受ける「永遠のテーマ」とは?

2015-11-25 23:59:15 | サッカー戦術論
どこからプレスをかけるのか?

 相手がベタ引きしてくるW杯アジア2次予選では話題にもならないが、最終予選になれば必ず問題化するだろう永遠のテーマがある。歴代の代表チームは、いつもこの問いに頭を悩ませてきた。

 それは相手ボールのとき、守備ブロックをどこに置くのか? どこからプレスをかけるのか? である。

 例えば相手ボールになったら、(1)自陣に引き込み、リトリートからのロングカウンターを狙うのか? それとも(2)ブロックをずっと前に置き、相手のバックラインがボールを持つとハイプレスをかけてショートカウンターを狙うのか? あるいは中間を取って(3)ミドルプレスでプレスのスイッチを入れるのか?

 そしてW杯本大会で相手が自分たちより強いとき、(1)の戦い方を選択するのか? それとも(2)や(3)を選んで積極的に前から行くのか?

 また本大会で逆に相手が自分たちより弱いとき、(2)を選ぶような思い切った戦術を取るのか? それだけではない。点差や時間帯との兼ね合いもある。例えば1点リードして後半15分のとき、(1)のやり方に変えて安全策を取るのか?

 これらの問いに対する答えは、相手との力関係や戦況にもよる。そして確実にいえるのは、このシミュレーションはアジア2次予選ではできないということだ。

 では、いつやるのか? いまから考えておく必要がある。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「日本はどんなサッカーを目指すのか?」を考えるときのコツ

2015-11-24 17:08:17 | サッカー戦術論
サッカーには相手がいる

 前に何度か書いたことがあるが、日本のサッカー界はとかく単純な二元論でモノを考えようとする傾向がある。トルシエのときの「個か? 組織か?」論争もそうだし、ザックのときの「アクション・サッカーか? リアクション・サッカーか?」もそうだ。常に極端な二択でものごとを考えようとする。

 サッカーには「相手がいる」ことを忘れているのだ。

 例えばボールをキープしてポッゼッション率を高め、主導権を握って能動的に仕掛けるポッゼッション・サッカーを目指すのか? それとも相手にあえてボールを持たせ、まず攻めさせて自陣のバランスを崩させ、そこを突いて仕留めるカウンター・サッカーを目指すのか?

 こう考えると、またもや二元論になる。

 だがここに、(1)相手との力関係はどうか? (2)相手はどんなやり方をしてくるのか? という2つの要素を加味すればどうなるか?

 すなわち自分たちより強い相手がポゼッションでくればカウンターを狙い、逆に相手がカウンター・サッカーならばじっくりポゼッションし、相手のほころびを見つけて仕掛けるサッカーをするーー。

 こんな考え方もできる。

 つまり相手の出方によるのだ。

「オレたちはどんなサッカーをするのか?」でなく、シチュエーションに応じてやり方を変えられる試合巧者なサッカーを目指す。

 日本がひと皮むけるには、そんな発想が必要だろう。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】アジリティで勝負する日本人らしいサッカーを目指せ

2015-11-23 09:27:46 | サッカー戦術論
忍者のようにひらりひらりと敵をかわす

 今年の代表チームの活動は終わった。さて年末だし、ということで「2015年、いちばん印象に残った試合は?」と考えてみると10月に行われたあのイラン戦だった。

 この試合、われらがハリルジャパンは寄せの速い相手にボールロストの山を築いた。彼らの激しいプレスは強烈だった。小柄で身体的な強さのない日本人が、まずカラダをぶつけて勝とうとする彼らの流儀に乗って戦えば勝ち目はない。

 とすればそんな世界の強豪とW杯本大会で当たるとき、日本はどんなサッカーを目指せばいいのか? 

 日本人選手の最大の武器であり特徴は、アジリティ(動きや判断の敏捷性)だ。相手チームと苦手なフィジカルでまともにぶつかり合うのでなく、忍者のようにひらりひらりと敵のプレッシャーを素早くかい潜りながらゴールに迫るーー。そんなサッカーができると理想だ。

 ただしくれぐれも肝に銘じておくべきなのは、これは接触プレイから逃げるという意味ではない。当然、球際で強く戦うべきところは戦う。そのための準備もする。だが、それ以外の「意味のない接触」をしないという意味だ。

 しかしイラン戦を見る限り、レベルの高い相手はそうやすやすと日本のペースにはさせてくれない。イランはフィジカルやインテンシティという自分たちの土俵に日本を引きずり込み、まともに相撲を取らせてくれなかった。

 では日本人のアジリティを活かすにはどうすればいいのか?

 まず運動量で相手をはるかに上回ることだ。そして質の高い動き(特にオフ・ザ・ボール)や、パススピードの速さと強さ、ワンタッチコントロールのよさを身につけることだ。そうすれば接触プレイすら起こらない速い展開に持ち込むことができる。

 相手の守備者に寄せられる前に少ないタッチ数でボールを離し、速いダイレクトプレイがさざ波のように連鎖して行く。こうしてめまぐるしい第3の動きがフィールドのあちこちで展開されるようになれば、相手が息つく暇さえ与えない忍者のような日本のサッカーができるようになるだろう。

 そうすれば香川のようなアジリティに優れた選手も生きる。

 日本が世界で勝つにはこれしかない。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】今回のメンバー選考で見えたハリルの矛盾と本音

2015-11-06 11:49:28 | サッカー戦術論
香川と宇佐美は絶対に外されない

 目前に迫ったシンガポール戦、カンボジア戦を戦う日本代表メンバーが5日、発表された。選ばれた選手、外された選手の顔ぶれを見ると、ハリルの言行不一致と隠れた本音が透けて見える。

 いや、ハリルは今の日本代表の問題点をわかっている。欠点を修正する処方箋も用意している。彼の言うこと、やることを見ればそれはわかる。トータルでいって良い監督だ。彼に必要なのは何より時間である。だからあまり批判したくないのだが、ただし就任からずっと同じ問題を引きずっているように見える。それは掲げる理想と、やってることのギャップである。

 例えばハリルは盛んにデュエル(決闘)が必要だ、デュエルできる選手を選ぶ、という。球際の粘りがあり、泥臭くカラダを入れて力強く相手と競り合えるーー。そんな選手を理想としている。ちょうど激しいプレスのかけ合いになった、先日のイラン戦のような試合でカラダを張れる選手である。

 だが現実はどうか? 競り合いをイヤがるお上品な香川と宇佐美が相変わらず選ばれている。ハリルは彼らを絶対に外さない。あまりにも能力が高すぎるため、弱点があっても外せないのだ。

 香川は、かつての中村俊輔とまったく同じ致命的な欠点を抱えている。自分には「カラダがない」ため、敵との強い接触プレイを避けるクセだ。身体能力で競うと自分が負けてしまうからである。

 で、相手が強くカラダをぶつけてくると、早めに倒れてしまう。周りから見るといかにも競り合っているように見えるアリバイ・プレイをしている。またプレスをかけるときも相手との距離を詰めないし、「ボールを奪おう」という気迫が見えない。アリバイ的にコースを切っているだけだからだ。

 サッカー経験のある人ならよくわかるだろうが、この種のアリバイ・プレイをするのは決まって技術のある選手に多い。

 ある選手は「自分はうまいんだ。だから競り合いで体力を消耗するなんて損だ。自分が力を発揮すべき場面はほかにある」と考えてアリバイ・プレイをする。香川や宇佐美は、おそらくこのタイプだろう。

 例えば相手が激しくプレスをかけてきたあのイラン戦、宇佐美は接触プレイを避け、攻撃面では完全に消えていた。得意のドリブルもまったく仕掛けようとはしなかった。反面、守備では貢献しているように見えたが、よく観察するとアリバイ守備が随所に見られた。

 つまり本心から「この局面ではカラダを張って守らなければピンチだ」と判断してやっているのでなく、おそらく監督から守備をやれと言われて仕方なく、守備しているように見せているだけだ。

 いってみれば子供と同じである。「赤信号で渡ってはいけない。ルールは守るべきだ」と考えて道を渡らないのでなく、先生にしかられるから渡らないだけだ。

 一方、香川のようにガタイがなく、フィジカルで勝負すると自分が負けてしまうと自覚している選手も接触プレイをイヤがり、避けてしまう。で、アリバイ・プレイを演じるーー。

 深刻な問題である。

 技術がないだけなら、練習すれば身につけられる。だが香川と宇佐美の場合は心構え=メンタルの問題だけに、解決するのがむずかしい。

 本来なら、イラン戦のような不甲斐ない消え方をした直後の代表選考で、懲罰的にズバッと代表メンバーから外してしまえばいいのだ。その種の非情さを監督が見せれば、本人たちはハッと目が覚め必死にカラダを張るようになるだろう。

 だがハリルは、それをやらない。

 一方、米倉のような外しやすいクラスの選手はカンタンに外し、代わりに藤春を入れて見せる。で、「藤春は厳しいレギュラー争いに勝ったのだ」と胸を張り、まるで歌舞伎役者のように口上を述べる。いかにも自分は監督として適正な競争を促しているぞ、と演技して見せる。

 だがハリルには、香川や宇佐美のような「大物」を外す勇気はない。

 結果、レギュラー完全固定のぬるま湯が今後も続いて行く。結果的に香川と宇佐美は立ち直るチャンスを奪われ、ポジションが保証されたヌルい環境の中、その程度の選手で終わって行くのだ。

 香川と宇佐美は、替えのきかない傑出した能力の持ち主だ。だからこそ彼らが機能するかどうかは、ハリルジャパンのゆくえを大きく左右する。ゆえに彼らの問題点が改善するまで、根気よくそれを指摘し続ける必要がある。もちろん彼らに恨みがあるわけではない。

 日本がW杯決勝トーナメントの常連になるためだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】「支配している」=「デキがいい」から日本人は卒業すべきだ

2015-10-23 10:37:21 | サッカー戦術論
日本人に巣食うポゼッションへの根強い信仰

 日本人は伝統的に、ポゼッション型のサッカーに対する強いあこがれがある。

 そのため試合を支配していると「今日はデキがいいぞ」と感じ、反対に支配されると「押し込まれている」=「やられている」と思いがちだ。これは角度を変えてみれば、自分たちのポゼッション率が高ければ高いほど「優勢だ」と感じるということである。

 だがサッカー文化が十二分に発展し定着しているヨーロッパや南米ではどうか?

 例えばワールドカップの地区予選でブラジルやアルゼンチンと当たる可能性のある南米諸国は、当たり前のようにリトリートからのカウンター狙いのサッカーを身につけている。彼らにしてみれば試合を支配されている、イコール、「やらせている」のであり、自分たちのゲームプラン通りだと認識している。

 この埋めようのない日本と海外とのサッカー知能の差は、あらゆる局面に作用してくる。

 最近の例でいえば、世界の強豪ひしめくワールドカップの舞台で、無謀にも「自分たちのサッカー」=ポゼッション・サッカーを押し通そうとして惨敗したザックジャパンは記憶に新しい。

 結論から先にいえば、「押し込まれている」=「やられている」、あるいは逆に「支配している」=「優勢だ」のような単細胞な日本独特のサッカー観からそろそろ卒業するべきではないか? ということだ。

 そうすれば必然的に、試合運びからして変わってくるだろう。

 例えば日本人は「受けに回るのはよくない」という独特の感覚から、自分のチームがリードしていようがいまいが、攻めのサッカーをしようとする。だがそんな日本ならではの単純なサッカー観を卒業すれば、リードしていれば自然にリトリートして安全策を取るようになるだろうし、次にリードされたらまたやり方を変えるだろう。

 いちいち監督からそのつど指示されなくても、そのときの試合の状況に応じた試合運びができるようになるはずだ。また相手が自分たちより強ければカウンター狙いに切り替えるなど、相手チームとの兼ね合いを見てその試合のゲームプランを即興で変えられるようになる。つまり試合巧者への脱皮である。

「自分たちのサッカー」から卒業するというのは、そういうことを指すのだろう。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】ファイトする選手を使え

2015-10-15 09:11:00 | サッカー戦術論
球際で泥臭く踏ん張れるファイティング・スピリットが必要だ

 ハリルジャパンが戦った先日の国際親善試合のイラン戦を振り返って実感されるのは、ギリギリの修羅場でファイトできる選手の必要性だ。苦しい中、カラダを張ってでも球際で泥臭く踏ん張れるファイティング・スピリット。日本に欠けている最大のポイントはそこである。

 高い位置からがんがんプレスをかけてきたイランに対し、前半の日本の選手は激しい接触プレイを恐れるかのように腰の引けた戦い方をした。その典型は、相手の猛威の前に完全に消えていた香川と宇佐美だ。

 飛び抜けた技術の高さはあるが、出来不出来の差が激しく体力の消耗する接触プレイを嫌がるーー。彼ら2人にはそんな傾向がある。根本的にはこれは彼らのメンタルの問題であり、それだけに解決するのがむずかしい。

 ひるがえってワールドカップというド本番で戦える選手像とは何か? ギラギラとした燃えるような闘志があり、本当の意味でファイトできる選手が求められる。小手先の技術以前に、まず大前提として必要なのはそこだ。とすれば厳しい修羅場で結果の出せない香川や宇佐美を切る勇気も必要なのではないか?

 日本がお上品で華奢なお公家さま集団でなく、真の意味で戦える野武士軍団になるために。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【国際親善試合】敵のフォアプレッシャーに苦しみボールロストの嵐 ~イラン1-1日本

2015-10-14 08:47:22 | サッカー戦術論
「前からくる相手をどうかわすか?」という新たな課題

 またもハリルジャパンに大きな課題が突きつけられた。前からプレスをかけられたときの対応である。これまで日本はアジア2次予選で、リトリートしてくる守備的な相手に苦しめられた。だがこの日はまるで逆のパターンを突きつけられた。アグレッシブに前から来られ、日本はボールロストの山を築いた。

 自陣に引かれると点が取れない。だがこの日のように、逆にフォアプレッシャーを受けるとたちまち組み立てができなくなる。意図のあるパスが2本以上繋がらない。イランはそれほどボールに対する寄せが速かった。しかも複数の選手がユニットになり潰しにくる。彼らの球際の強さは特筆ものだった。

 日本は選手間の距離を短く取ったが、そこに上からプレスの網をザックリかけられ苦しんだ。その結果ボールが足につかず、ワンタッチコントロールが乱れた。で、ボールを2回、3回小突いてコントロールしようとしている間にボールをかっさらわれる。そんなシーンのオンパレードだった。

 イランがあれだけ執拗にガツガツ前からプレスをかけてくるのだから、日本の選手はもっとピッチをワイドに使い、相手選手を横に広げさせるべきだった。そうすれば敵選手の密度が薄まりスペースができる。すると必然的にプレスをかいくぐるチャンスも生まれる。

 例えばタッチラインいっぱいに開いたウイングに、逆サイドからダイアゴナルの長いサイドチェンジのボールを入れ、敵選手の密集地帯をすっ飛ばす。そんな「大きいサッカー」ができるようにならなければ今後も苦しむだろう。

 最終ラインからビルドアップできない問題点も相変わらずだ。味方のボールホルダーをただ突っ立って眺めているだけでボールをもらうアクションを起こさない。それなら例えばバックラインから意図的にロングボールを前に放り込む時間帯も作り、それによって相手の守備ブロックを下げさせるなど、困難な局面を打開するための工夫もまったくない。とにかく何も考えずにサッカーをやっている感じだった。

 選手別にみると、「一瞬だけ」でも光った選手をあげれば武藤に本田、柴崎、長谷部、清武くらい(ただし、ほんの一瞬だけだ)。そのほかの選手は総じて埋もれていた。特に宇佐美と香川の消え方は顕著だった。もちろんチーム全体が悪いのだから消える選手も出てくるわけだが、それにしても目を覆う惨状だ。

 あの衝撃的なシンガポール戦の引き分け以降、「引いた相手をどう崩すか?」がずっと日本のテーマだった。「相手が前から来てくれたほうが、むしろ日本のスタイルと噛み合う」などという楽観論まで聞かれた。だがこの日はまさにそれが実現したが、結果はさんざん。今度は「前からプレスをかけてくる相手をどうかわすか?」という新たな課題を突きつけられた。

 ロシアへと続く道は長くて険しい。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】日本がW杯本大会で勝てない5つの構造的欠陥とは?

2015-10-10 09:59:27 | サッカー戦術論
5つのポイントが無限ループする魔のサイクル

 ハリルジャパンがスタートして以降、日本がW杯本大会で勝てない構造的な欠陥が徐々に明らかになりつつある。このままでは、おそらく日本は100年たっても本大会で勝てない。ではその構造的欠陥とは何か? 今回は5つのポイントごとに、症状とその処方箋を書いてみよう。

【ポイント1】 日本はアジア予選用と本大会用の2つの戦術を使い分ける必要がある。

 アジア予選(特に2次予選)では格上の日本に対し、アジア各国はリトリートしてロングカウンター、あるいは引き分け狙いでくる。下で説明するポイント3、ポイント4とも関係するが、こういう戦い方でくるアジア各国に対し日本はグラウンドを広く使い、低いゾーンに密集する敵の守備者を横に広げさせる必要がある。

 だが一方、W杯本大会では、ドイツやブラジルはアジア予選のように日本をリスペクトしてくれない。逆に前からがんがんプレスをかけてくる。するとこれまたポイント4と関係するが、「大きなサッカー」が苦手な日本人はマイボールになったら選手間の距離を縮め、敵のプレスを避けて互いにサポートし合う必要が出てくる。グラウンドを広く使わなければならないアジア予選とまったく逆だ。

 とすれば日本は、アジア予選用と本大会用の2つの戦術を使い分ける必要がある。だが「たかが」アジア2次予選でアップアップしている今の日本には、アジア予選の段階からそれと並行してあらかじめ本大会用の戦術を仕込んでおく余裕などない。

 するといったい何が起こるか? やっとアジア予選を勝ち抜けば、すぐ本大会が始まるのだ。その時点で本大会用の戦術を練習し始め、それを熟成させて行くなどという時間的猶予なんてない。結果、日本はぶっつけ本番で本大会に臨み、予選リーグで敗退してしまうーー。この魔のサイクルから抜け出すのは容易ではない。

 第二次・岡田ジャパンのように、本大会では割り切ってリトリートする守備的なサッカーに徹するなら話は別だが、そうでなければ日本がこの魔のサイクルを打ち破るのはカンタンじゃない。W杯のたびにまったく同じ負けのサイクルを繰り返し、あっというまに100年たつだろう。

【ポイント2】 アジア予選は、勝ちながら「若手育成の場」にしなければならない。

 ハリルジャパンのようにアジア2次予選からもう「いっぱいいっぱい」で、海外組を完全固定するのでは若手は育たない。結果、前回大会で負けた同じベテランメンバーで次の本大会を戦うことになる。しかも彼らは前回より4歳年を取っているのだ。そんなメンバーで勝てるわけがない。

 とすれば処方箋は2つしかない。「たかが」アジア2次予選では積極的に若手を登用し、テストしながら勝って行く。そして本大会を勝ち抜くフレッシュな人材を育てる。これがひとつ。

 そしてもうひとつは根源的な問題だ。Jリーグ自体が優れた若手の供給源になることである。だがあの東アジア・カップでの惨状を見ればわかる通り、現状ではJリーグ・レベルの選手は「世界」では通用しない。とすれば長期計画を立て、Jリーグのレベルアップを地道に進めて行くしかない。

 代表選手の供給源である国内リーグを盛り立てるーー。これを実現しない限り日本に明日はない。それには途方もない時間がかかるが、根気よく長期計画でやるしかない。にもかかわらずワールドカップが迫るたび、「次の大会はベスト4が目標だ」などどノーテンキな空気が横溢する怪奇現象が日本ではしょっちゅう起る。まったく笑止千万だ。

 本大会で勝つためには、なにより日本は100年計画でJリーグを強化する必要がある。

【ポイント3】 日本はサイドからのクロスで勝負できない。

 さてポイント3からは技術的な問題になる。日本にはテクニカルで有能なクロッサーがいない。これはサイドから勝負できないことを意味する。アジア予選ならいざ知らず、レベルの高いW杯本大会で中央突破に頼るしかテがないなんてありえない。それでは勝てるはずがない。

 ゆえに日本はこれまた長期計画で、育成段階から強く意識して優良なクロッサーを育てる必要がある。これには数十年単位の時間がかかるだろう。

【ポイント4】 日本人は「大きなサッカー」ができない。

 日本人選手は正確なロングボールを蹴る技術がない。そのため必然的に選手間の距離を詰め、どうしても「小さいサッカー」をすることになる。つまりブラジルW杯で勝てなかったザックジャパン=「バルセロナの劣化バージョン」スタイルである。

 例えば日本はサイド(特に前のウイング)の選手がタッチラインめいっぱいに開き、そこに逆サイドのサイドバックからダイアゴナルなピンポイントの長いサイドチェンジを入れるような攻めがまったくできない。技術的に無理だ。

 それでも前々回のW杯で優勝したスペイン代表やバルセロナみたいに飛び抜けた技術があるなら、ショートパスの連続ワザで局面を打開できるだろう。だが日本はあくまで彼らの劣化バージョンでしかない。そんなレベルのチームがW杯本大会で勝てるわけがない。

 結論として日本人は小さいサッカーしかできないが、我々の小さいサッカーは本大会でワールドクラスの組織的なプレスをかけられれば粉砕される。ゆえに日本はロングボールを駆使した大きなサッカーができるようになるまで、本大会で勝つのは容易ではない。これにも長期計画が必要だ。

【ポイント5】運動量が絶対的に足りない。

 現代サッカーに「休み時間」はない。相手にボールを奪われれば、次の瞬間にすばやく相手ボールをクローズするための守備体形に入る必要がある(ネガティヴ・トランジション)。逆に相手からボールを奪ったら、すかさず攻撃のためのポジショニングをしなければならない(ポジティブ・トランジション)。これをやるには相当な運動量がいる。

 翻って日本はどうか? ネガトラのほうはまだマシだが、ポジトラの悪さは致命的だ。

 例えば相手からボールを奪えば、まずバックパスや横パスをしてひと休み。相手の守備体形が十二分に整うのを待ってやってから遅攻をかけるクセが治らない。この点も日本がブラジルW杯で勝てなかった要因のひとつだ。

 そこへハリルが就任し、「縦に速いサッカーを」、「ハイプレスからのショートカウンターを」と言い出した当初こそ戦い方が変わる兆しがあった。だが時間が経ち、いまや元の木阿弥に戻ろうとしている。なぜなら相手が引いてくるアジア2次予選で「縦に速いサッカー」や「ハイプレスからのショートカウンター」は相手の戦術とかみ合わないから当然である。

 では本大会になったら急にそれができるのか? そんなワケがない。とすれば本大会が始まる前にあらかじめ戦術を仕込んでおく必要があるが、ここで問題は【ポイント1】へと戻って無限ループする。

 果たして日本はこの魔のサイクルから抜け出せるのか?

「ハリルがなんとかしてくれる」でなく、日本人自身が真剣に考えなければならない構造的な課題である。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【W杯アジア2次予選】海外組の完全固定が定番化する危険な予兆

2015-09-11 10:00:28 | サッカー戦術論
「いつか来た道」をひた走るハリルジャパン

 まるでザックジャパンの海外組完全固定を見るかのようだった。屈辱のスコアレスドローに終わったシンガポール戦を受け、カンボジア戦とアフガニスタン戦では「取りこぼすまい」とスクランブル態勢でスタメンに海外組をずらり揃えた。

 高校サッカー部レベルの相手に、必死すぎるハリルジャパン。「たかが」アジア2次予選など新戦力発掘のテストに使いたいのに、最弱相手にこれでは「ただ勝つ」だけで強化にならない。ナンセンスだ。

 おそらくハリルは、もう頭の中でレギュラーを固めているのだろう。

 楽勝のはずのアジア2次予選で海外組をこれだけ完全固定しているのだから、ロシアの本番では当然、固定するに決まってる。するとブラジル大会とほとんど同じメンバーで臨むことになる。ザックジャパンの二の舞である。

 それは選手起用の仕方でわかる。新しい選手を使うのは、決まって後半35分あたり。完全な定食コースであり、判で押したように同じパターンだ。

 現に先日のアフガニスタン戦でも、終了間際に武藤嘉紀と遠藤航を交代出場させた。だがあんな少ない残り時間で、いったい何ができるというのか? 時間稼ぎにしかならない。そう思うのは私だけだろうか?

原口はスタメン起用されたからこそ爆発した

 たとえば同じアフガニスタン戦でスタメン起用されて爆発した原口の台頭を見てほしい。

 いままで控えでしか使われなかった選手をスタメン登板させると、「よーし、やってやるぞ!」とモチベーションが炸裂する。結果、代表でいまひとつの成績だった選手も覚醒する可能性がある。

 新しい選手のスタメン起用は、新戦力発掘の起爆剤なのだ。

 もちろんそんな原口の抜擢はハリルのファインプレイである(私は原口のスタメン起用を事前に知って大ガッツポーズをした)。だがもうひと声、アフガニスタン戦では遠藤航はスタメンで使ってほしかった。

 また、すでに実力がわかっている宇佐美をこの試合で途中出場させる意味がわからない。宇佐美を入れるために原口を右SBに回してゲームに残すくらいなら、正ポジションで原口を最後までやらせるべきだ。

 以前にも指摘したが、こういうあたり、ハリルは自分の采配に「自分で酔う」ようなところがある。

 もし私が原口だったら、こう思うだろう。

「俺はいままでずっと残り7分や8分しか時間を与えられず、今日やっとスタメンが取れた。しかもその試合で2アシストと活躍した。なのにその俺が、まだ結果の出ない宇佐美投入の犠牲になるのか? 俺が右SB? ケッ。ベンチがアホやから野球ができへん」

相手が弱いアジア2次予選は「練習試合」としてチーム強化に役立てないと意味がない

 すでに実力が把握できている宇佐美をあそこで出すなら、まだ今代表で1試合しか出場してない米倉に経験を積ませるべきではないか?

 もちろんハリルは宇佐美(の調子が上向けば)レギュラーと考えているのだろうし、途中交代は全体のバランスとの兼ね合いもあるからいちがいにいえないが、「えっ? また宇佐美にチャンスをやるの? 新戦力の発掘はもうしなくていいの?」と強く感じた。

 選手起用は選手のモチベーションを高める特効薬だが、使い方をまちがえると諸刃の剣になる。

 くどいようだが、繰り返し何度でも書く。相手が弱いアジア2次予選は、「練習試合」としてチーム強化に役立てなければ意味がない(ただし死命を制するシリア戦は別)。この段階での海外組のスタメン完全固定はやめてほしい。滅びの道だ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【サッカー日本代表】9月のカンボジア戦を「有効活用」する6つの秘策とは?

2015-08-30 13:18:09 | サッカー戦術論
敵は5バックでリトリートしてくる

 ハリルジャパンは9月3日、ホームにカンボジアを迎え、ロシアW杯・アジア2次予選を戦う。

 さんざん攻めながら引いて守る相手に1点も取れなかった初戦のシンガポール戦、また1勝もできず最下位に沈んだ東アジアカップの記憶も新しい。これまでのところ、ハリルジャパンの対アジア対戦成績はさんざんだ。

 そこでハリルホジッチ監督はアジア諸国を分析し、対策を練っているという。

 例えば当面の敵であるカンボジアは、ハリルによれば「引いて守ってカウンター狙いでくる。おそらく5バックだろう。そのためトレーニングでもDFを5人置いてシミュレーションし、相手の低いラインをどう崩すか考えている」。

 つまり9月3日のカンボジア戦は、初戦のシンガポール戦とまったく同じ展開になるわけだ。そもそも3バックや4バックでなく5バックを選択している時点で、「低く構えて全員で守るぞ」という意図が読み取れる。

 とすれば日本はどう戦えばいいのだろうか?

わざと攻めさせてカウンターで仕留める

 カンボジアは、あのシンガポールに4点取られて負けている相手だ。ぶっちゃけ、かなり弱い。したがって敵のリトリート対策を講じてただ勝つだけでは、得られるものは少ない。

 もちろんド本番の予選だから勝つことは最優先課題だが、ここはW杯本大会をにらみ、2次予選をその練習台として「有効活用」したい。つまり少しでも本大会の予行演習になるような戦い方をしたい。

 例えば点差や残り時間によっては、日本もブロックを意図的に低く構える時間帯を作る。で、敵を前におびき出してわざと攻めさせ、これで敵陣内にスペースを作ってからカウンターで仕留める。

 すなわちボールを奪ったら、グラウンダーの強くて速いタテ方向へのクサビを突き刺す。同時に選手は2タッチ縛りで敵に守備体形を整える時間を与えない。第3の動きも活発に入れる。

 これなら引き込んで自陣のスペースを消してくるであろうカンボジア相手でも、タテに速い攻撃の予行演習ができる。また押し込んでくる相手に対し、プレスをかける練習にもなる。ただ勝つだけでなく、W杯本大会を想定した実戦トレーニングになる。

 こんなふうに試合ごとに特定のテーマを持ち、「それが何%実現できたか?」を考えながらプレイすれば進歩も速い。

点差や時間帯を見て原口や遠藤、米倉ら新戦力をテストする

「おいおい。わざと攻めさせるとか予行演習とか、予選本番でそんな悠長なこといってていいのか?」と思う向きもあるだろう。

 だが繰り返しになるが、相手はあのシンガポールに4点取られて負けたチームである。「練習相手」としては弱すぎて強化にならないし、そんな相手にただ勝つだけでは収穫が少ない。であれば自チームに「あえて負荷をかける」ことも必要だろう。

 そう考えれば、これまた点差や時間帯によっては、新戦力を大胆に投入し実戦に慣れさせることもありうべしだ。

 例えばレギュラーの海外組でスタメンを立ち上げ、まず大量リードを稼ぐ。そのうえで原口元気(ヘルタ・ベルリン)や遠藤航(湘南ベルマーレ)、米倉恒貴(ガンバ大阪)など、まだ予選のド本番でのプレイ時間が少ない、または未経験の選手たちを投入するテもあるだろう。

サイドからクロスを入れる形を完成させろ

 もうひとつ、カンボジア戦で大きなテーマにしてほしい案件がある。それはサイド攻撃への取り組みだ。同じように引いてくる相手に対し、シンガポール戦の前半みたいにまた中央突破一辺倒になるのでは「どれだけ学んでないんだ?」って話になる。

 それでなくてもハリルジャパンは、サイドからクロスを入れるフィニッシュが極端に少ない。そもそも選手の頭の中にその発想自体がないフシがある。

 これはある意味ザックジャパンから受け継いだ負の遺産であり、致命的な欠点だ。そこでカンボジア戦では、サイドからの崩しが何%まで構築できるか? これが大きなチェックポイントになる。

 今回はハリルによれば戦術練習しかしないという話だが、それならサイドからクロスを入れる形を練習で徹底させてほしい。カンボジア戦はそのための「守備者を付けたパターン練習だ」と思うくらいでいい。

 厳密にいえば、現状の手駒を考えるとまず質の高いクロッサーを育てるところからやる必要があるが、それではワールドカップ本番にとても間に合わない。付け焼き刃でもやるしかない。

 また相手がカンボジアなら高さで負けることは必ずしもないと思うが、単に頭に合わせるハイクロスだけでなく、相手の最終ラインとGKの間を狙うグラウンダーの速いラストパスを織り交ぜるなど、クロスのバリエーションにも工夫がほしい。

片サイドに敵を引きつけ囮にしてサイドチェンジを

 また引いた相手を攻めるにはサイドチェンジも有効だ。例えば一方のサイドに複数の敵の選手を引きつけておいて囮にし、相手ブロックのバランスを崩させた上で、一発のロングボールでサイドチェンジする。

 で、サイドチェンジのボールを入れたら、敵がポジショニングを修正する時間を与えず、なるべく手数をかけずに速く攻める。5バックでリトリートし真ん中を固めてくる相手には、こうした左右への揺さぶりもカギになる。

 このほか敵の引きこもり対策として有効なのは、積極的にミドルシュートを打つことだ。フリーでシュートを打たれてはリスキーだから、守備者はプレスをかけようと前に出てくる。つまり敵をおびき出すことができる。

 たとえゴール前に相手が密集していてシュートが直接入らなくても、シュートのリバウンドはどこへ飛ぶかわからない。つまり何が起こるかわからない。すなわち敵はそれだけ読みが効きにくく、シュートのセカンドボールを拾って攻めれば有効打になりやすい。

 またゴール前でドリブルを有効に使うのもいい。

 守備者があせり、足さえ出して引っ掛けてくれれば、バイタル近くでファウルをもらえる。ハリルが27日の記者会見で語っていた「インテリジェンス」である。とすればキーマンになるのは、ドリブルが得意な宇佐美や原口あたりかもしれない。

 アジア2次予選初戦のシンガポール戦で、1点も取れずに迎えるカンボジア戦。上にあげた6つの秘策でぜひとも大量得点し、ロシアへの扉をこじ開けてほしい。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【東アジアカップ・大会総括 その4】ホレた相手に「自分好み」の家を押し付ける自己矛盾

2015-08-12 22:31:19 | サッカー戦術論
哲学は曲げない、だが結婚したい 

自分の哲学は曲げないクセに、鋳型(哲学を実現するための戦術)に合わない選手にホレ込む。で、彼らを選んで自滅する。これがハリルジャパン崩壊のシナリオだ。

 現実に合わせて方法論を柔軟に変え、そのぶん腕によりをかけてセレクトした魅力的な選手に合わせたチーム作り(システムや戦術)を用意するか? それとも自分のフィロソフィに合う選手だけを採用し、冷徹に理想を実現するか? 勝てるサッカーの監督が選ぶ道はこの2つしかない。

 前者はセレクター型、後者はフィロソフィ型だ。(前回の記事参照)

 だがハリルはそのどちらでもない。いや正確に言えばフィロソフィ型だが、惚れっぽくて邪念に惑わされる。自分に勝てない。

 彼はあらかじめ設計図を持っていながら、ショーウィンドウに並んだ自分の青写真に合わない規格外の商品(川又や永井、宇佐美)に惹かれてしまう。予想もしなかった機能のスペックが高いのだ。

「予定外だが、これは買いだ」

 で、つい浮気心を起こし、ホレ込んで注文ボタンを押す。キラキラ光る魅惑の品々に目がくらみ、誘惑に負けて手を出してしまう。リアリズムに徹することができない。

相手の好みを聞かずに家を建てる自己矛盾

 おそらくハリルは一目惚れしやすい愛すべきロマンチストなのだろう。理想を高く掲げるナルシストの芸術家だ。ナルシストであるがゆえに「自分」を持っている。つまり自分が考える理想のサッカー像がある。その理想を実現するためのシステムや戦術も、すでに自分の中にある。ならば、あとはそのコンセプトに合う選手をセレクトするだけだ。

 だがそこで惚れっぽいロマンチストの彼は、思わぬ美人に会ってしまう。いやだれだって自分の価値観(システムや戦術)を粉々に崩壊させてしまうような、個性的な相手に弱いものだ。で、ハリルは自分じゃ想定してなかった彼女の意外な魅力に惹かれ、ついプロポーズしてしまう。自分の理想のマイホーム(システムや戦術)は、すでにもう用意してあるというのにーー。で、その結婚相手を家に連れてくると、彼女は大声で叫ぶのだ。

「なんなの、この家! 私は聞いてないわよ。壁の色が気に食わない!」

 で、彼らの結婚生活はうまく行かない。

 これがいまの日本代表に起こっていることだ。

どの段階で気がつくか? それが分かれ目だ

 すなわち川又や永井のようなワイルドな野獣たちを選んでおきながら、かといって彼らの獣性が生きるやり方をするわけじゃない。ギラギラした猛獣たちに対し、(自分が持っている)難解な哲学や高邁な知性を要求する。

 で、あらかじめ用意してある戦術に選手が合わず、苦労する。

 ハリルジャパンは、このパターンから抜け出せるかどうかがカギだ。

 自分の考えるサッカーに合わないため宇佐美を決して呼ばなかったリアリストのアギーレと、宇佐美に魅了され「結婚生活」が破綻することも厭わずプロポーズしてしまうロマンチストのハリル。自分の哲学をもっている点では同じだが、方法論において2人の監督は好対照だ。

 選んだ美人にマッチする家をあとから建てるか? それともすでに買ってある家に合わない美人はスルーするか?

 ふたつにひとつ。どっちつかずなら、まず勝てない。

 日本とハリルは新婚さんだ。だから結論を出すのはまだ早い。だが銀婚式までは、もちろん待てない。

 どの段階で、どっちつかずから抜け出すのか?

 その頃合いを見て、私は「判断」しようと考えている。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【東アジアカップ・大会総括 その3】ハリルが選手を本職じゃないポジションで使うのはなぜか?

2015-08-11 15:24:28 | サッカー戦術論
ハリルは自分の鋳型に選手をハメ込むタイプだ

 今大会、ハリルホジッチ監督はまるで何かに取り憑かれたように、選手を所属チームと違うポジションで使い続けた。いやハリルにはもともとその傾向があったが、今大会は徹底していた。例えば武藤のトップ下と遠藤の右SB、米倉の左SB起用である。

 この3つのパターンは当たり、武藤は大会得点王を取った。遠藤は再コンバートされたボランチで早くもチームの軸になり、米倉はアシストするなど大活躍した。後述するが、ハリルは内心してやったりだろう。ほかにも宇佐美や浅野など、本来のポジションとちがう位置で使われている選手は多い。

 いったいなぜか? 謎を解き明かすには、まずハリルをプロファイリングする必要がある。

 おそらくハリルはかなりの自信家であり、同時に(いい意味で)自己顕示欲が強い。で、所属チームにおける選手の使われ方を見て、「なぜ彼をそんな使い方するんだ?」「もしオレなら彼の◯◯な特徴を生かし、このポジションで使うぞ」と考える。(現に遠藤航に関し、ベルマーレとそんなやり取りがあったとの記事を見た)

 で、ハリルは自分の信念や特有の価値観に基づき、代表チームでコンバートを繰り返す。加えて本来のポジションと異なる位置でわざわざ使うことにより、人とちがう自分の個性を強く主張する。つまり「オレ独自の考えはこうだ」と社会に自分をアピールしている。そして議論を吹っかけている。

 自己主張しない日本人には考えられないメンタリティだろう。だが議論を好み、任意の概念を哲学的に突き詰めて考えるのが好きなフランス文化の影響が濃いハリルが、こうした思考をするのは十分にうなずける。「ああ。あのおっさんなら、そうだろうな」という感じがする。ハリルにとってサッカーは哲学なのだ。(現にハリルの行動や思考パターンは、日本のサッカー関係者なら誰でも知っている「あのフランス人」に非常によく似ている)

まず戦術ありきの監督とセレクター型とのちがい

 さて代表監督には2種類しかいない。

 自分の哲学を実現するため(1)あらかじめ用意した鋳型(戦術)を使うフィロソフィ型と、(2)まず能力優先で力のある選手を集め、彼らにマッチし彼らが力を発揮できるようなシステムや戦術をあとから考えるセレクター型ーーの2種類だ。おそらくハリルは典型的な前者だろう。

 彼は(いい意味で)自信家であり、自分の哲学を持っている。で、それを広く社会に向けてアピールしたい。(いい意味での)自己顕示欲が強い。このタイプの監督がチームを作るとき、採用する方法はひとつである。

 まず自分が信奉する戦術とシステムが先にあり、その鋳型にハメ込むようにあとから選手を合わせていく。したがって、(1)その鋳型に合う選手がいないとき、および(2)鋳型には合わないが、非常に能力が高くどうしても使いたい選手がいるときーーには、選手を本来のポジションと違うポジションで使うことになる。こう考えればすべての疑問が氷解する。

 例えば武藤と宇佐美はハリル政権下ではどちらも(2)に分類される選手である。だが武藤は順応し、宇佐美は適応できずに苦しんでいる。

 また浅野も(2)だが、彼の場合はスタメンで使い時間をやればモノになるだろう。宇佐美のようなある種のひ弱さや繊細さは、大胆で思い切りのいい浅野にはない。だから「異国の地」のポジションでも通用する。そもそもトラップミスを繰り返す永井にあれだけ時間をやるなら、若く将来性のある浅野を少なくとも1試合はスタメンで使うべきだった。ハリルのあの永井に対する偏愛は、プロファイルの域を越えている。一見、理解不能だ。

永井は戦術の犠牲になっている

 だがこの「永井問題」の謎も、ハリルの鋳型と照らし合わせれば容易に想像がつく。本来、永井は持ち前の絶対的なスピードを生かし、相手バックラインの裏のスペースを狙って走り込み、前でボールを受けるプレイをすれば最大限自分の武器が生きる。つまり「人に使われる」タイプのプレイヤーだ。

 かつ、自分の前にスペースがあればあるほど、強みを発揮する。

 にもかかわらずハリルジャパンでの彼のプレイスタイルはどうか? 引いて守備もやりながらサイドに自分でポイントを作り、なんとパス出しで「人を使う」プレイをしている。しかもスペースをもってない。持ち味と正反対なのだ。あれでは永井は生きない。

 本当なら2トップにでもしてポストプレイヤーとセットで使い、彼には相手の裏のスペースを重点的に狙わせるべきだ。だが2トップという選択はハリルの辞書になく、ゆえに永井は機能不全のまま沈んでいる。それもこれも永井という選手を先に選んだのでなく、ハリルの鋳型(システム)がまず先にあるからだ。そうではなく、セレクター型のチーム作りをしなければ永井は生きないだろう。

 もちろんハリルもそんな永井の特徴はわかっている。そもそもハリルは彼のスピードに惚れて招集したのだから。だがそれでいながらハリルは、自分の鋳型を曲げて永井が生きる形で使ってやろうとしない。ハリルは頑固に自分の哲学を変えない。で、永井は実質、飼い殺しになっている。

 ゆえに私は前回の原稿で、自分の哲学を優先し飼い殺しにするならチームにとってマイナスだから「永井は見切れ」と主張した。さらに前の記事では、「これは永井の問題というより、選んだ監督の問題だ」とも書いた。そして後述するが、この永井問題は「宇佐美問題」とまったく同じ構造を抱えている。

鋳型にハマらない「宇佐美問題」に解決策はあるか?

 さて深刻なのは、ハリルの鋳型にハマらない宇佐美である。今大会を通じ、宇佐美はほとんど「ただいるだけ」。特に45分たてば、守備でバテバテになり消えてしまう。彼を本来のポジションで使うか、あるいは彼の守備の負担をもっと軽くするテを考えなければ宝の持ち腐れだ。

 いや個人的には、現代的なフットボーラーなら全員が守備をするべきだと考えている。だが宇佐美の場合はそれによるマイナスがあまりに大きく、ならば彼を呼ぶ意味がないとさえ思える。それなら解決策を打つ一手だろう。

 まず宇佐美をワントップで使えば解決するが、ハリルはハリルで自分の鋳型(哲学)を持っている。例えば今大会で使われた興梠は、典型的なポストプレイヤーだ。また海外組の大迫もポストプレイが売り物である。さらにレギュラー格の岡崎はポストにもなれ、裏も狙える。つまりハリルが選ぶワントップの選手はすべてポストプレイヤーか、またはそれに準じるタイプである。

 一方、ハリルの鋳型に合うからでなく図抜けたフィジカル(高さと強さ)で選ばれている川又は、ぶっちゃけポストは下手だ。だが(おそらく監督の指示で)ポストプレイに徹している。すなわちハリルにとってのワントップは「ポストプレイヤーであること」が戦術的な絶対条件であり、ゆえに宇佐美はワントップでは使われない。

 とすれば宇佐美には、まだ今の左サイドよりトップ下のほうが合いそうに思える。だがこちらもハリルの鋳型にハマらない。ハリルにとってのトップ下の理想像は香川だ。自在にパス出しができゲームを作れ、自分もセカンドストライカーとして前へ飛び込み点が取れる。また守ってはハイプレスをかけ、前線で体を張って粘れるーー。これら要素のうち「点を取る」という一点を除き、すべて宇佐美に当てはまらない。ゆえに宇佐美はトップ下で使われない。

 かくて宇佐美はSHで守備も要求され、消耗し、力が出せない。この状況は、監督がハリルである限り変わらない。ならば宇佐美は守備をするスタミナと強いメンタリティを養わない限り、おそらくこの代表チームでは活路を見出せない。

やはり宇佐美はFWで生かすのが合理的だ

 合理的に考えれば、今のシステムが前提なら宇佐美の得点能力を生かしてワントップで使い、かつポストプレイもやらせる(ハリルはワントップには恐らく必ず要求する)ほうが現実的に思える。これなら日本代表の決定力不足への解になる。またポストプレイを強要されるにしろ、どう考えても川又よりは宇佐美のほうがはるかにボールタッチがうまい。ポストとしても機能するはずだ。

 あるいは宇佐美を生かすため2トップにし、ポストができるFWと彼を組み合わせるテも有力である。これならクサビを受けるため常に張っている必要はなく、宇佐美は自由に動いて裏も狙える。いったん引いてドリブルもできる。彼のよさが十二分に出そうだ。だが恐らくこの案は、ハリルの鋳型と食い違うため採用の可能性はない。かくて「宇佐美問題」は解決策がないまま漂流するのだろうが、個人的には最後にあげた案を推しておく。

 いずれにしろハリル丸の将来は、彼が用意した鋳型次第だ。そもそもハリルが当初から掲げるハイプレス&ショートカウンターという戦術も、選んだ選手に合うタクティクスとして「選手ありき」で出てきたものではない。ハイプレス&ショートカウンターなる鋳型がまず先にあった。

 とすれば日本代表の命運は、やはりハリルが丹精込めて作った鋳型にかかっている。

 ではこの迷路をどう抜け出せばいいのか? 次回、公開する記事でわかりやすく解説しよう。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする