政治家にかぎらず、人を惹きつける強力なツールになるのがユーモアだ。人間の脳は、長ったらしく平坦なスピーチや文章には反応しない。ジョークは会話に起伏を作り、相手の脳に刺激をあたえる。人間のコミュニケーションをなめらかにするのが「ユーモアのセンス」なのだ。
子供のころ、私は「ナポレオン・ソロ」というスパイ・アクションドラマに夢中だった。ロバート・ボーンとデビッド・マッカラム主演のTVシリーズである。60年代後半のことだ。
この「ナポレオン・ソロ」、なにがいいかっていうと、とにかく全編にユーモアのセンスがあふれてる。といっても別にお笑い番組じゃない。秘密諜報員である主役の2人が、悪の組織「スラッシュ」と戦うお話だ。
たとえばロバート・ボーンとデビッド・マッカラムが、すごい人数の敵に囲まれて孤立した。もう逃げ道はない。絶体絶命のピンチだ。はたして彼らはどう切り抜けるのか? ところがここで「彼らがまず何をするか」っていうと、ジョークを言うのだ。
「奴さんたち、こんなに人数をくり出してくるんじゃ、残業手当てが大変だな」
このセリフは、周囲の人間にどんな心理的効果をあたえるか?
まず第一に、「オレはこんなピンチなんか、屁とも思ってないぜ」という強いメッセージを伝えることができる。このセリフを聞いた周りの人間は、「こいつは窮地に陥ってるのに、ぜんぜん動揺してないぞ」と感じるはずだ。
「この男についていけば助かるかもしれない」
彼に対する信頼感と希望が呼び覚まされる。
絶体絶命のピンチに陥ったとき、「そこでジョークを言えるかどうか?」で人間の器がわかるのだ。
さて「ナポレオン・ソロ」の主役のふたりを、別の人物に置き換えてみよう。政治家(特に民主党の代表)、企業の社長、プロジェクトのリーダー、サッカーチームのキャプテン、学生サークルの代表──。なんにでも応用がきく。
もちろんジョークはピンチのときだけでなく、ふだんの会話をスムーズに進めるための潤滑油にもなる。
たとえば話し相手と険悪な雰囲気になったとき、さりげなく放ったおもしろいジョークが相手の心の鎖を解く。場はとたんになごやかになり、コミュニケーションがなめらかになる。
また相手の注意をひきつけることも、ユーモアの最大の効能のひとつだ。
長ったらしく起伏のないスピーチは、聞く人間を退屈させる。スピーチは冒頭の5分で、「いかに聴衆の心をつかむか?」がポイントだ。
そこでまず最初に、スピーチのテーマとからめたジョークを一発かます。すると聴衆は敏感に反応し、「おや? この人はおもしろそうだな」、「話を聞いてみようか」という心理になる。スタートダッシュで人の心をキャッチできれば、あとはもう「どうにでもしてくれ」状態である。
アメリカの大統領がスピーチするときには、「ジョーク・ライター」があらかじめ原稿を書いておくことがある。それだけユーモアの重要性が認識されてるわけだ。
ところが残念なことに、日本ではユーモアの地位はかなり低い。「真剣な場なのに冗談を言うなんて不謹慎だ」。こんなふうに受け取られるお国柄だ。
だけどアメリカやイギリスなどの欧米諸国では、「ユーモアのセンスがあるかどうか?」が、リーダーにとって重要な要素だと考えられている。
イギリス人のジョークは大陸性のアメリカとちがってシニカルなのだが、そこがまたとってもおもしろい。
象徴的なのはイギリスの元首相・チャーチルだ。彼は有名なジョークをたくさん残しているが、第二次大戦中にイギリスが危機に見舞われた最中にも、ジョークを連発し続けた。国民はそれを聞いて勇気づけられ、「このオッサンについていこう」と感じたわけだ。
国家が緊急事態に突入したとき、国民は国のリーダーを注視する。彼はパニックに陥ってないか? ちゃんと精神のバランスを保っているか?
欧米の指導者はジョークを言うことで、そんな国民の不安に答える。ピンチをユーモアで笑い飛ばし、それを乗り越えるためのエネルギーをあたえる。
ウソだと思うならこの本を読んでみてほしい。海外のリーダーが実際に残したジョークがたくさん収められている。超おすすめだ。
(※アフィリエイトではありません)
「リーダーたちのユーモア」
村松増美・著(PHPビジネスライブラリー)
著者の村松さんは英語同時通訳の第一人者だ。国際舞台で政治家等の通訳を長く務められた。海外の要人とも数多く接している。
私は取材で何度か村松さんにお会いしたことがあるが、お話を聞いて海外と日本の指導者像のちがいを実感させられたものだ。
ユーモアは知性の証明である。知的でなければおもしろい冗談なんていえない。
また当たり前の話だが、ジョークは即興で発するものだ。瞬間的に場の空気を読み、飛び切りのジョークが言えるなら、その人物は状況判断や意思決定が速く、分析力にもすぐれていることになる。
あるいは相手が杓子定規なカタブツなのか、それとも柔軟性のある人間なのかも、ユーモアを解するかどうかで推し量れる。
日本人がリーダーの条件に「ユーモアのセンスがあること」を取り入れるのは、いったいいつになることやら。まだまだ日本は国際化がたりないなあ。
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子供のころ、私は「ナポレオン・ソロ」というスパイ・アクションドラマに夢中だった。ロバート・ボーンとデビッド・マッカラム主演のTVシリーズである。60年代後半のことだ。
この「ナポレオン・ソロ」、なにがいいかっていうと、とにかく全編にユーモアのセンスがあふれてる。といっても別にお笑い番組じゃない。秘密諜報員である主役の2人が、悪の組織「スラッシュ」と戦うお話だ。
たとえばロバート・ボーンとデビッド・マッカラムが、すごい人数の敵に囲まれて孤立した。もう逃げ道はない。絶体絶命のピンチだ。はたして彼らはどう切り抜けるのか? ところがここで「彼らがまず何をするか」っていうと、ジョークを言うのだ。
「奴さんたち、こんなに人数をくり出してくるんじゃ、残業手当てが大変だな」
このセリフは、周囲の人間にどんな心理的効果をあたえるか?
まず第一に、「オレはこんなピンチなんか、屁とも思ってないぜ」という強いメッセージを伝えることができる。このセリフを聞いた周りの人間は、「こいつは窮地に陥ってるのに、ぜんぜん動揺してないぞ」と感じるはずだ。
「この男についていけば助かるかもしれない」
彼に対する信頼感と希望が呼び覚まされる。
絶体絶命のピンチに陥ったとき、「そこでジョークを言えるかどうか?」で人間の器がわかるのだ。
さて「ナポレオン・ソロ」の主役のふたりを、別の人物に置き換えてみよう。政治家(特に民主党の代表)、企業の社長、プロジェクトのリーダー、サッカーチームのキャプテン、学生サークルの代表──。なんにでも応用がきく。
もちろんジョークはピンチのときだけでなく、ふだんの会話をスムーズに進めるための潤滑油にもなる。
たとえば話し相手と険悪な雰囲気になったとき、さりげなく放ったおもしろいジョークが相手の心の鎖を解く。場はとたんになごやかになり、コミュニケーションがなめらかになる。
また相手の注意をひきつけることも、ユーモアの最大の効能のひとつだ。
長ったらしく起伏のないスピーチは、聞く人間を退屈させる。スピーチは冒頭の5分で、「いかに聴衆の心をつかむか?」がポイントだ。
そこでまず最初に、スピーチのテーマとからめたジョークを一発かます。すると聴衆は敏感に反応し、「おや? この人はおもしろそうだな」、「話を聞いてみようか」という心理になる。スタートダッシュで人の心をキャッチできれば、あとはもう「どうにでもしてくれ」状態である。
アメリカの大統領がスピーチするときには、「ジョーク・ライター」があらかじめ原稿を書いておくことがある。それだけユーモアの重要性が認識されてるわけだ。
ところが残念なことに、日本ではユーモアの地位はかなり低い。「真剣な場なのに冗談を言うなんて不謹慎だ」。こんなふうに受け取られるお国柄だ。
だけどアメリカやイギリスなどの欧米諸国では、「ユーモアのセンスがあるかどうか?」が、リーダーにとって重要な要素だと考えられている。
イギリス人のジョークは大陸性のアメリカとちがってシニカルなのだが、そこがまたとってもおもしろい。
象徴的なのはイギリスの元首相・チャーチルだ。彼は有名なジョークをたくさん残しているが、第二次大戦中にイギリスが危機に見舞われた最中にも、ジョークを連発し続けた。国民はそれを聞いて勇気づけられ、「このオッサンについていこう」と感じたわけだ。
国家が緊急事態に突入したとき、国民は国のリーダーを注視する。彼はパニックに陥ってないか? ちゃんと精神のバランスを保っているか?
欧米の指導者はジョークを言うことで、そんな国民の不安に答える。ピンチをユーモアで笑い飛ばし、それを乗り越えるためのエネルギーをあたえる。
ウソだと思うならこの本を読んでみてほしい。海外のリーダーが実際に残したジョークがたくさん収められている。超おすすめだ。
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「リーダーたちのユーモア」
村松増美・著(PHPビジネスライブラリー)
著者の村松さんは英語同時通訳の第一人者だ。国際舞台で政治家等の通訳を長く務められた。海外の要人とも数多く接している。
私は取材で何度か村松さんにお会いしたことがあるが、お話を聞いて海外と日本の指導者像のちがいを実感させられたものだ。
ユーモアは知性の証明である。知的でなければおもしろい冗談なんていえない。
また当たり前の話だが、ジョークは即興で発するものだ。瞬間的に場の空気を読み、飛び切りのジョークが言えるなら、その人物は状況判断や意思決定が速く、分析力にもすぐれていることになる。
あるいは相手が杓子定規なカタブツなのか、それとも柔軟性のある人間なのかも、ユーモアを解するかどうかで推し量れる。
日本人がリーダーの条件に「ユーモアのセンスがあること」を取り入れるのは、いったいいつになることやら。まだまだ日本は国際化がたりないなあ。
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