切り替えの速さを競う差し手争い
プレミアリーグ第6節で現地時間24日、アーセナルとトッテナムが対戦した。アーセナルのホーム、エミレーツ・スタジアムで行われるノースロンドン・ダービーだ。ともに今節まで負けなしで快進撃を続けるチーム同士の好カードになった。
この日、展開されたのはボールをもつチームがゆったりとビルドアップし、他方、敵は自陣に引いて待ち構える、などというのんびりしたサッカーではない。
互いにボール保持側の敵陣深くに侵入してハイプレスを掛け合い、奪った、奪われたの殴り合いから、切り替えが速かった方がスピーディーにゴールを陥れるスタイルだ。
このトランジションの戦いを仕掛けているのはアーセナルだが、スパーズも堂々と受けて立ち、差し手争いをしている。そのため展開が目まぐるしく、息もつけない。
いわゆるジェットコースタームービーのような壮絶な世界が展開された。
盛んにプレスをかけたのはアーセナルだったが、彼らの得点はオウンゴールとハンドによるPKの2点だ。これに対しトッテナムは新加入の10番、MFジェームズ・マディソンとFWソン・フンミンが重要な場面で決定的な仕事をした。ソンはこの日2ゴールである。同じ2点でもインパクトと価値がちがう。
ミケル・アルテタ監督のアーセナルは2度もリードしながら、その優位を生かせなかった。恩師であるペップのチームに逆転優勝された、昨季の惨劇が思い出される。果たしてアルテタは「持ってない」のか。選手交代の当否も含め、疑問が残る一戦だった。
26分に先制し攻勢を強めるアーセナル
立ち上がりからアーセナルは、相手最終ラインに激しくハイプレスをかける。マンツーマンでハメに行く。敵GKにも脅しをかけた。さすがにスパーズはやりにくそうだ。だが赤いシャツのチームがボールを握ると、今度はトッテナムがハイプレスを食らわす。
ガナーズは敵陣の高い位置でボールロストすると、リトリートせずにその場でカウンタープレスをかける。キックオフから17分まで、彼らはたっぷりトッテナム陣で過ごした。かと思うと19分には、またハイプレスを敢行する。
そんな彼らの努力が実ったのは26分だった。右WGのサカがボックス右からファーを狙い、シュートを放つ。反応したDFクリスティアン・ロメロのオウンゴールを誘った。アーセナルが先制だ。この日、サカは非常に攻めに効いていた。
また29分には、彼らは自陣でボールを奪い返して遠路、フィニッシュまでたどり着いた。さらに32分にはスパーズのGKグリエルモ・ビカリオがビルドアップしかけた所を、ジェズスがボックス内でボールを奪いシュートまで行った。
37分にもサカがボールを持ちこみ、MFウーデゴールがフィニッシュしたがこれはGKの正面を突く。もうイケイケだ。彼らは自陣でのボール保持時、左SBのジンチェンコが一列上がって中へ絞り偽SB化する。ビルドアップへの参加と、被カウンター時のカバーリングのためだ。
そして4-3-3のフォーメーションから3-2-5に変化してビルドアップする。守備時4-4-2だ。一方、4-2-3-1のトッテナムは2-3-5でビルドアップする。こちらは守備時4-5-1である。
ソン・フンミンが同点弾を決める
潮目が変わったのは前半の終盤だった。
ソンからパスが出て、ブレナン・ジョンソンがシュートを放つ。アーセナルGKダビド・ラヤがすんでのところでセーブした。これが予兆だった。
かくて42分。スパーズのマディソンがボールを保持しながら鋭くターン。そのまま敵ボックス内へ切り込みマイナスのクロスを入れる。ソンがワンタッチでゴールした。1-1。同点だ。
一方、ガナーズは前半のアディショナルタイムになってもハイプレスを続けた。立ち上がりだけハイプレス、というのはよく見かけるが、こんなに長いのは初めて見た。
それに対しトッテナムは意に介さず、あくまでグラウンダーのボールで丁寧にビルドアップしようとする。
ここまで5試合。今季、スコットランドから転勤してきたアンジェ・ポステコグルー監督が見せるサッカーは、最終ラインからショートパスを素早く繋いで組み上げるスタイルだ。ハイプレスが来ようと自分を曲げない。敵の圧を器用によけて隊列の完成をめざす。
逆にいえばアルテタのチームがここまでハイプレスにこだわるのは、おそらくスパーズがバックラインから立ち上げるグラウンダーのボールによるビルドアップを根こそぎ寸断するのが狙いなのだろう。
タヌキと狐の化かし合いである。
ガナーズが再びリードもソンの2G目でまた同点に
後半の立ち上がりと同時に、アルテタはMFデクラン・ライスに代えてジョルジーニョ、またMFファビオ・ビエイラを下げてカイ・ハフェルツを投入した。
すると49分にスパーズのゴール前で混戦になり、ボールがロメロの手に当たったとしてVARの結果、PKになる。キッカーのサカが冷静にど真ん中に決めた。GKビカリオは(サカから見て)左に飛んで空振りした。2—1。これでアーセナルがまた1点リードだ。
だがその数分後にはたちまちトッテナムが追いつく。ジョルジーニョが自陣でマディソンにボールを奪われ、カウンター発動。ラストパスを受けたソンがワンタッチでゴール左へ流し込んだ。2-2だ。
アーセナルは60分になってもハイプレスを続けている。一方、64分に今度はトッテナムがハイプレスで敵を追いかけ回すーー。いたちごっこは終わらない。
マディソンとソンのコンビがガナーズを追い詰めた
試合はこの調子で異様なテンションのまま引き分けに終わった。スパーズはアタッキングサードで威力を発揮した2アシストのマディソンとソンのコンビが、ガナーズを苦しめた。バイエルンへ去った元エースのケイン不在を感じさせないチーム・パフォーマンスだった。
一方、ハイプレスで主導権を握ったアーセナルは、2度リードしながら試合を決めることができなかった。特にジョルジーニョのミスから失点したのが痛かった。このブラジル生まれのイタリア代表には受難の日だった。
またアルテタ監督は77分早々にジェズスを下げた一方で、コンディションに変調が見られ足を引きずるサカを後半アディショナルタイムまで引っ張った。疑問の残る采配だ。ガナーズはどうも若くてモロい印象がぬぐえない。
さて、これで両者は奇しくも6試合を終えて4勝2分けの勝ち点14同士だ。得失点差でスパーズが4位、ガナーズが5位に鎮座している。
負けなしの2チームの上にまだ3チーム(シティ、レッズ、ブライトン)が君臨しているのがいかにもプレミアリーグらしい。この拮抗した上位争いにはまったくゾクゾクさせられる。
プレミアリーグ第6節で現地時間24日、アーセナルとトッテナムが対戦した。アーセナルのホーム、エミレーツ・スタジアムで行われるノースロンドン・ダービーだ。ともに今節まで負けなしで快進撃を続けるチーム同士の好カードになった。
この日、展開されたのはボールをもつチームがゆったりとビルドアップし、他方、敵は自陣に引いて待ち構える、などというのんびりしたサッカーではない。
互いにボール保持側の敵陣深くに侵入してハイプレスを掛け合い、奪った、奪われたの殴り合いから、切り替えが速かった方がスピーディーにゴールを陥れるスタイルだ。
このトランジションの戦いを仕掛けているのはアーセナルだが、スパーズも堂々と受けて立ち、差し手争いをしている。そのため展開が目まぐるしく、息もつけない。
いわゆるジェットコースタームービーのような壮絶な世界が展開された。
盛んにプレスをかけたのはアーセナルだったが、彼らの得点はオウンゴールとハンドによるPKの2点だ。これに対しトッテナムは新加入の10番、MFジェームズ・マディソンとFWソン・フンミンが重要な場面で決定的な仕事をした。ソンはこの日2ゴールである。同じ2点でもインパクトと価値がちがう。
ミケル・アルテタ監督のアーセナルは2度もリードしながら、その優位を生かせなかった。恩師であるペップのチームに逆転優勝された、昨季の惨劇が思い出される。果たしてアルテタは「持ってない」のか。選手交代の当否も含め、疑問が残る一戦だった。
26分に先制し攻勢を強めるアーセナル
立ち上がりからアーセナルは、相手最終ラインに激しくハイプレスをかける。マンツーマンでハメに行く。敵GKにも脅しをかけた。さすがにスパーズはやりにくそうだ。だが赤いシャツのチームがボールを握ると、今度はトッテナムがハイプレスを食らわす。
ガナーズは敵陣の高い位置でボールロストすると、リトリートせずにその場でカウンタープレスをかける。キックオフから17分まで、彼らはたっぷりトッテナム陣で過ごした。かと思うと19分には、またハイプレスを敢行する。
そんな彼らの努力が実ったのは26分だった。右WGのサカがボックス右からファーを狙い、シュートを放つ。反応したDFクリスティアン・ロメロのオウンゴールを誘った。アーセナルが先制だ。この日、サカは非常に攻めに効いていた。
また29分には、彼らは自陣でボールを奪い返して遠路、フィニッシュまでたどり着いた。さらに32分にはスパーズのGKグリエルモ・ビカリオがビルドアップしかけた所を、ジェズスがボックス内でボールを奪いシュートまで行った。
37分にもサカがボールを持ちこみ、MFウーデゴールがフィニッシュしたがこれはGKの正面を突く。もうイケイケだ。彼らは自陣でのボール保持時、左SBのジンチェンコが一列上がって中へ絞り偽SB化する。ビルドアップへの参加と、被カウンター時のカバーリングのためだ。
そして4-3-3のフォーメーションから3-2-5に変化してビルドアップする。守備時4-4-2だ。一方、4-2-3-1のトッテナムは2-3-5でビルドアップする。こちらは守備時4-5-1である。
ソン・フンミンが同点弾を決める
潮目が変わったのは前半の終盤だった。
ソンからパスが出て、ブレナン・ジョンソンがシュートを放つ。アーセナルGKダビド・ラヤがすんでのところでセーブした。これが予兆だった。
かくて42分。スパーズのマディソンがボールを保持しながら鋭くターン。そのまま敵ボックス内へ切り込みマイナスのクロスを入れる。ソンがワンタッチでゴールした。1-1。同点だ。
一方、ガナーズは前半のアディショナルタイムになってもハイプレスを続けた。立ち上がりだけハイプレス、というのはよく見かけるが、こんなに長いのは初めて見た。
それに対しトッテナムは意に介さず、あくまでグラウンダーのボールで丁寧にビルドアップしようとする。
ここまで5試合。今季、スコットランドから転勤してきたアンジェ・ポステコグルー監督が見せるサッカーは、最終ラインからショートパスを素早く繋いで組み上げるスタイルだ。ハイプレスが来ようと自分を曲げない。敵の圧を器用によけて隊列の完成をめざす。
逆にいえばアルテタのチームがここまでハイプレスにこだわるのは、おそらくスパーズがバックラインから立ち上げるグラウンダーのボールによるビルドアップを根こそぎ寸断するのが狙いなのだろう。
タヌキと狐の化かし合いである。
ガナーズが再びリードもソンの2G目でまた同点に
後半の立ち上がりと同時に、アルテタはMFデクラン・ライスに代えてジョルジーニョ、またMFファビオ・ビエイラを下げてカイ・ハフェルツを投入した。
すると49分にスパーズのゴール前で混戦になり、ボールがロメロの手に当たったとしてVARの結果、PKになる。キッカーのサカが冷静にど真ん中に決めた。GKビカリオは(サカから見て)左に飛んで空振りした。2—1。これでアーセナルがまた1点リードだ。
だがその数分後にはたちまちトッテナムが追いつく。ジョルジーニョが自陣でマディソンにボールを奪われ、カウンター発動。ラストパスを受けたソンがワンタッチでゴール左へ流し込んだ。2-2だ。
アーセナルは60分になってもハイプレスを続けている。一方、64分に今度はトッテナムがハイプレスで敵を追いかけ回すーー。いたちごっこは終わらない。
マディソンとソンのコンビがガナーズを追い詰めた
試合はこの調子で異様なテンションのまま引き分けに終わった。スパーズはアタッキングサードで威力を発揮した2アシストのマディソンとソンのコンビが、ガナーズを苦しめた。バイエルンへ去った元エースのケイン不在を感じさせないチーム・パフォーマンスだった。
一方、ハイプレスで主導権を握ったアーセナルは、2度リードしながら試合を決めることができなかった。特にジョルジーニョのミスから失点したのが痛かった。このブラジル生まれのイタリア代表には受難の日だった。
またアルテタ監督は77分早々にジェズスを下げた一方で、コンディションに変調が見られ足を引きずるサカを後半アディショナルタイムまで引っ張った。疑問の残る采配だ。ガナーズはどうも若くてモロい印象がぬぐえない。
さて、これで両者は奇しくも6試合を終えて4勝2分けの勝ち点14同士だ。得失点差でスパーズが4位、ガナーズが5位に鎮座している。
負けなしの2チームの上にまだ3チーム(シティ、レッズ、ブライトン)が君臨しているのがいかにもプレミアリーグらしい。この拮抗した上位争いにはまったくゾクゾクさせられる。