2月18日
ティル・フェルナーのシューマン・プロジェクト第2夜は、
テノールのマーク・パドモアと組んでの歌曲の会でした。
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シューマンは「5つの歌曲 Op.40」と「詩人の恋 Op.48」で、あとはベートーヴェンの「遥かなる恋人に寄す Op.98」と、委託作品、ハンス・ツェンダー「山の空洞の中で~ジャン・パウルの詩による2つの歌」というまた現代曲でした。
シューマンもベートーヴェンも、男性向きの歌なので、しっかり歌詞を読みこんで予習をしていき、ピアノのウエイトも大きいので、ティルのピアノもとても楽しみにしていたのです。
テレビの収録機材が入っていたので尋ねると、
NHK-BS「クラシック倶楽部」だそうです。マイクや配線などが結構あって、テレビ撮影は大変だな~と思いながら、席につきました。
一番前のど真ん中の席でしたが、目の前には何やら
黒い物体が。演奏が始まると、どうもピアノの音がデカい。どうやらその黒いものが
スピーカーで、ピアノの音がそこから聴こえてくるのです。ちょっと音でっかいな…?これもテレビ収録のために、音を拡声しているのだろうか…? シューマンが終わったら、私と母の両サイドのおじ様が、凄い怒っている!
そして、ツェンダーの曲が始まると、ピアノの鍵盤の高音部に、クシャクシャに丸めた紙のような物が挟まれ(
プリペアド・ピアノといって、グランドピアノの弦に何かを挟んで、音色を変える。日本の某大学では、作曲科の生徒が鉛筆、消しゴム、定規などを挟むことがブームになり、固いものだとピアノが傷むので、プリペアド・ピアノ禁止令が出たそう)、ティルがピアノの上に置いてある、アップル・マークの
ノート・パソコンを開いた。どうもこのパソコンから、スピーカーへ線が繋がれているようだ。ピアノの音を変化させ、曲自体は面白く、パドモアさんも難しそうな音を、よくとって歌っておられる。2曲目では、もうパソコンは閉じられました。でもおじ様たちは怒っている…! 現代曲が気に入らないのか? いや、そうではない。
次にベートーヴェン、この曲は変ロ長調の主和音が、ピアノで1拍だけあって、2拍目から歌がいきなり始まる。それでパドモアさんが気持ちよ~く歌い出して、数小節進んでから、ピアノの蓋が閉められていることに、ティルが気づいてストップをかける。パドモアさんは正面を向いているので、すぐには気づかず、客席が待って待ってとどよめく。蓋は半開になり、ティルが「ドーモ、スミマセーン」とかなり流暢な日本語で言って、仕切り直しである。そんなことで動揺することもなく、もちろん演奏は素晴しかったのですが、やはりスピーカーからピアノの音が聴こえることに変わりはない。
休憩中にホールの案内係の人が、おじ様達に呼ばれ「生の演奏を聴きに来てるのに、なんでスピーカーを使うんだ?」、ホール側の答えとしては、ツェンダーの曲でパソコンを開いた時にだけ、スピーカーから音がするように設定してあるんです。パソコンを閉じていると、スピーカーとは繋がらないようになっているはずなんですが…。」「でも全部の音が確かにスピーカーから出ていたぞ!何のためにリハーサルやってんだ!」おじ様達の怒りは納まりません。そうです、私は真ん前にいたので、確かに全部スピーカーからのピアノの音が聴こえました。そんなわけで、ティルの考えた「憧れ」というテーマの方は、私の中ではすっかり飛んでしまい、コンサートに集中出来ませんでした。
後半はすっきりスピーカーは片づけられて、録音用のマイクだけになりました。
「詩人の恋」が始まりましたが、なんとピアノが繊細で美しいではありませんか!ああ、第1部のシューマン、ベートーヴェンも、
生の音でちゃんと聴きたかったー(ToT)(ToT)!生演奏にアクシデントは付き物ですが、これは残念としか言いようがありません。
パドモアさんの歌唱がとにかく素晴しく、ビブラートを抑えた発声とコントロール自在の表現で、円熟の極みでした。過去のソロ・リサイタルの中では、武蔵野市民会館「冬の旅」(Pf.イモージェン・クーパー)、名古屋電気文化会館「冬の旅」(Pf.ポール・ルイス)に続いて、とてもリラックスした、いい演奏だったと思います。
スピーカー音でなんとも言えませんが、ティルもとても頑張っていて、より歌の伴奏が上達していました。大変な拍手喝采で、他の席で聴いていた知人達は、スピーカーの音なんか解らなかった、とにかく感動的な演奏だったと絶賛していました。ということは、スピーカーの真ん前にいた数人だけが、その感動が味わえなかったということになります(>_
スピーカーめー(。-`ω-)。
アンコールはアイヒェンドルフの詩による、
リーダークライス Op.35 より5曲目
「月の夜」(シューマン)
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「冬の旅」のアンコールでよく歌われた
「夜と夢」のような雰囲気で、とても美しい曲でした。
プログラムはアンコールまで完璧だったのにな~。
でもちょっと笑えたのは、ソロの時はいつも燕尾服を着ているのですが、パドモアさんはいつも普通のスーツやジャケットなので、ティルもお揃いに黒のジャケット姿でした。
どーもそのジャケットが小さいみたいで、ピアノを弾く時にはボタンをパっと外して、立ち上がると慌てて、しかもちゃんと上から2番目のボタンをサっとつけて、お辞儀をしていました(^-^;。若い時に作ったものなのか、誰かのを急遽借りたのかは知りませんが、ボタンが外れないように、お腹を必死で押さえている…(;^ω^)。その繰り返しが面白くて、イタズラっ子のはにかんだ少年のような表情が、また
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可愛いいー
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。実は面白い人なのではないか?
ティル・オイゲンシュピールって、
ドイツ版一休さんのような人の名前ですよね(^-^;。(人のことは言えません、私は20代の時にお嫁入りに仕立ててもらった着物が、太ってしまったため、
身幅が足りませーん
)
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パドモアさん、シューマンとベートーヴェンのCDは、
ベザイデンオウトのフォルテピアノです。
ポール・ルイスとのシューベルトを生で聴いて、とても感動したので、パドモアさんの歌声をまた生で聴きたいし、ティル・フェルナーも一度聴いてみたいと、大阪からやって来ました。
次の日から学会があるので、東京に出てきていたドクターのピアノの生徒さんも、初めてパドモアさんの歌を聴いて、いや歌曲のコンサートというものに初めて来て、えらく感激していました。
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マーク・パドモア、私笹山晶子とティル・フェルナー。
素敵なコンビ、
マーク&ティルは、私の
”憧れ”であります
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。
来年は、2月18日大阪いずみホールで「水車小屋」、2月19日愛知県岡崎市シビック・ホールで「冬の旅」ですね!
すでに友人達の予約を取り付けています
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。
「いずみホール」では、
ヘレヴェッヘ指揮コレギウム・ヴォカーレの
バッハ「マタイ受難曲」の福音史家として、オペラの幕開けとなった、
モンテヴェルディ「オルフェオ」のタイトルロールとしてのパドモアさんの名唱が思い出されます。これを聴いて私はマークの大ファンになりました。室内楽向けのホールですが、オケの定演もやるので、まあまあ広いですが、パドモアさんの透き通ったクリスタルな声は、物凄くよく通って綺麗でした。響きは大阪で最も良いホールです。
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そんなことを思い出しながら、オルフェオのプログラムを出してきて見ていると、
もの凄い通奏低音群で、演奏家も錚々たる名前が…。
ドミニク・ヴィス リコーダーって書いてあるんですが、リコーダーも吹いてたっけ? ヴィスさんならやりかねないか^-^;。
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昨年秋から次々に来日した、パドモア・フレンズのコンサートを聴きのがしてはいけないと思い、自分のコンサートは無くしてたのですが、すでに5~6本決まってしまい、これからこのオルフェオの
活版印刷のファクシミリ譜とも格闘しなくてはいけません(;・∀・)。