読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

『THE MAKING』を(ほぼ)コンプリートで観てみた。 【その6】第51回〜第65回

2022-06-12 07:21:00 | ドキュメンタリーのお噂

さまざまな製品が製造されていく過程を、余分な要素を排したシンプルな構成で辿っていく科学技術教育番組シリーズ『THE MAKING』。その全317回(+スペシャル版)のうち、現在見ることができるすべての回を観た上で、ごくごく簡単な見どころ紹介と感想を綴っていくという続きもの記事、今回は6回目をお届けいたします。
これまでは10回ずつ紹介してまいりましたが、今回からは15回ずつ紹介していくことにしたいと思います。・・・なんせ回数が多いもんで・・・(苦笑)。

シリーズの詳しいご説明などは【その1】に譲ることにして、今回は第51回から第65回までを紹介していくことにいたします。サブタイトルに続いて「サイエンスチャンネル」の公式YouTubeチャンネルにアップされている該当回の画面を貼っております。ご覧になる際の参考にでもなれば幸いであります。
(諸事情もあってか、現在配信されていない回については、サブタイトルに続き「欠番」と記しておきます。また、現在配信されている回についても、配信元の都合により動画の公開がなされなくなる場合もあるかと思われますので、その節はどうぞご容赦くださいませ)

なお、「サイエンスチャンネル」の公式YouTubeにて、およそ8年ぶりとなるシリーズの新作が、6月17日(金曜)18時に公開されることがアナウンスされました。単発なのか、シリーズとして続けていくのかはまだわかりませんが、とても楽しみであります。




(51)乾電池ができるまで(欠番)

(52)蚊取り線香ができるまで

これからの時期には欠かせない、蚊取り線香の製造過程を追っています(撮影場所はもちろん金鳥さんの工場)。冒頭で蚊取り線香の開発史と、蚊取り線香が蚊を駆除する原理(燃えている先端から少しうしろのところで、熱によって気化された殺虫成分を煙が運んで拡散させる)が解説されていて、まことに勉強になります。手巻きによって作られていた昔とは違い、製造工程自体は機械化されてはいるものの、できあがった蚊取り線香を風通しのいい場所に集め、1〜2日かけてゆっくりと自然乾燥させているところは少々意外でした。
これに関連する作品として、1969年に金鳥(大日本除虫菊)の企画により製作された啓蒙PR映画『この一筋の煙に 大日本除虫菊研究所』を合わせて紹介しておきましょう。この映画でも、蚊取り線香が蚊を駆除する仕組みが詳しく解説されていて、なかなか興味深いものがあります。

さらについでながら、この映画を配信しているNPO法人「科学映像館」は、科学技術関連をはじめとした数多くの映像記録作品をデジタル化し、無料で配信するという活動を地道にやっておられるところです。『THE MAKING』に関心を持つ皆さまにも興味深いであろう映像作品がたくさんありますので、ぜひ以下のサイトを覗いてみられることをおススメしておきたいと思います。
NPO法人科学映像館→ http://www.kagakueizo.org/

(53)新500円貨幣ができるまで(欠番)

(54)化粧品ができるまで

ここで取り上げられているのはフェイスカラーパウダーの製造工程。人の肌で使われるものだけあって、不純物や細菌などがないかチェックしたり、肌に近い色のフィルムに塗って色合いをチェックしたり・・・と、さまざまな検査の過程があるのは納得でしたが、容器を10回以上落として中身が破損しないかどうかを落下テストでチェックしたりするところは、ちょっとオドロキでした。

(55)ポテトチップができるまで

見ているうちに無性にポテトチップが食べたくなってくる、わたしのお気に入りの回のひとつであります。
機械の中で馬鈴薯を回転させ、その遠心力によって行われる皮むきやスライス。二度にわたって念入りになされるチップの洗浄(1回目ではでんぷんが、2回目では糖分が取り除かれる)。フライされたチップに光を当てて焦げたチップを選別。重量のバラつきを少なくするために、容器に振り分けられたチップをコンピュータが自動的に組み合わせて袋詰め・・・など、おいしいポテチを生産するためのさまざまな工夫に感心させられます。でも、なんといっても一番スゴかったのは、出荷のときに段ボール箱を5つ重ねてトラックに積みこむおじさん(笑)。

(56)信号灯器ができるまで

LED信号灯が普及していく前の、ランプを使った信号灯の製造工程が紹介されています。
塗料に6000ボルトの電圧をかけ、塗料と塗られる面それぞれが正負の電極となり、塗られる面が塗料を引きつけることによって塗装される・・・という「静電塗装」なる塗装法の解説が勉強になりました。また、反射鏡の光を正しい方向に反射させるため、異なるバフ(羽布)に当てて3段階に分けて研磨した上、さらに燐酸溶液に浸けて電気を通し、表面を溶解する「電解研磨」までするという念の入れようにも驚かされました。

(57)ストローができるまで

製造工程それ自体よりも、空気とともに成型機から押し出されるチューブ状の細く長い管を、2人の職人さん(また2人ともヘアスタイルばっちりキメてるんだこれが)がコンビになり、息を合わせてせっせと引き出していくくだりが、いちばんの見ものでございました。このくだりを見ているだけでも、なんか活力が湧いてきそうな気がするぞ(笑)。
後半に登場する、ストローを曲げるための溝をつける作業と、その溝を縮める作業を高速で回転しながら一挙にこなす機械も、よくできておりますねえ。

(58)ばね(自動車用)ができるまで

車輪に車体を載せ、自動車が走行するときの振動を抑える働きをする、サスペンションに使われるばねの製造工程です。加熱された「ばね鋼」が瞬時にコイルとして巻き取られるところもすごいのですが、ばねに耐久性を与えるため、表面に金属の粒(直径が0.4〜0.8ミリ)を約20秒間高速で打ちつける「ショットピーニング」なる工程があることをこれで初めて知り、「なるほど〜」でありました。

(59)ブラインドができるまで(欠番)

(60)スプーンとフォークができるまで

ちょっと高級感のある、スプーンとフォークの製造現場であります。フォークの刃を切り抜くときには、歪んだり折れ曲がったりしないように、まず左右のほうから切り抜いていくんだねえ。400トンから500トンの圧力をかけて、柄の部分に模様をつける機械が、ちょっと迫力ありました。

(61)使い捨てマスクができるまで

いまや大多数の日本人にとって「コレがなくては生きていけない」アイテムへと大躍進を遂げた(苦笑)不織布マスクの製造風景であります。3層の不織布を重ね合わせて針金を組みこんだり、溝を折り込んだあと切断したり・・・といった工程が、一貫したラインによって流れるように進んでいくところが、なかなか見事でありました。

(62)コンタクトレンズができるまで(欠番)

(63)スチールボールができるまで

ボールペンのペン先から自動車などのベアリングまで、さまざまな用途に用いられる鋼球の製造工程。線状になって押し出される原料を切断し、瞬時にプレスして加工する機械「ボールヘッダーマシン」の目にも止まらぬ速さや、1ミクロン単位の精密さで行われる寸法精度の測定や、10万分の1ミリ単位で測定される真球度の測定といった品質検査には、目を見張らされるものがございました。

(64)輪ゴムができるまで

ふだん何の気なしに使う、ありふれた存在に過ぎなかった輪ゴムが、原料を何度もしっかりと練り合わせることによって作られていることがよくわかり、ムダに使うのがもったいない気持ちになりましたねえ。ゴムの分子を結びつけることにより、ゴムに弾力を与える硫黄の働きの解説も、勉強になりました。

(65)フォークギターができるまで

職人技と手づくり感に溢れるフォークギターの製造過程。とりわけ、弦が張られるネック部分を作る過程における、さまざまなヤスリやカンナを使い分けながら細かく、慎重に進められる手作業はため息もの。人の心に響くようなフォークギターの音色は、こうした丁寧な手作業があってのことなんだなあ・・・と納得しきりでした。表板の木の材質によって音が違うことや、木目によって音が共鳴するということを、これで初めて知りました。


これまでの回は以下のとおりです。↓

『THE MAKING』を(ほぼ)コンプリートで観てみた。 【その5】第41回〜第50回

2022-06-07 20:33:00 | ドキュメンタリーのお噂
さまざまな製品が製造されていく過程を、余分な要素を排したシンプルな構成で辿っていく科学技術教育番組シリーズ『THE MAKING』。その全317回(+スペシャル版)のうち、現在見ることができるすべての回を観た上で、ごくごく簡単な見どころ紹介と感想を綴っていくという続きもの記事。旅行のご報告やらなんやらでだいぶ長いことブランクがございましたが(前回は2月のはじめでした・・・)、かなり久しぶりに5回目をお届けしたいと思います。


シリーズの詳しいご説明などは【その1】に譲ることにして、今回は第41回から第50回までを紹介していくことにいたします。今回より、サブタイトルに続いて「サイエンスチャンネル」の公式YouTubeチャンネルにアップされている該当回の画面を貼っております(これまでの4回分も、順次同じ形でリンクを貼り直そうかなと考えております)。ご覧になる際の参考にでもなれば幸いであります。
(諸事情もあってか、現在配信されていない回については、サブタイトルに続き「欠番」と記しておきます。また、現在配信されている回についても、配信元の都合により動画の公開がなされなくなる場合もあるかと思われますので、その節はどうぞご容赦くださいませ)


(41)シャンプー・リンスができるまで

登場するのは石けんの回(第27回)と同じく資生堂の工場。製品の製造過程自体はわりとあっけなく紹介されていて、そのぶん充填前の容器を入れていた段ボール箱やビニールの行方にも時間を割いているところが面白かったりいたします。冒頭部分には、原料の一つである界面活性剤が油汚れを落とす実験の映像も。


(42)羽子板ができるまで

桐の板に押絵を貼りつけて作られる、埼玉県春日部の名産品「押絵羽子板」の製作過程です。東京浅草の押絵師たちが戦火を逃れ、春日部に移り住んだことがその由来だとか。
ていねいに描き込まれた顔の部分や、立体感のある髪飾りや着物を組み合わせる、押絵部分の飾りつけの絢爛ぶりにも息を飲むのですが(いったい全部で何個の部品が使われているのか!?)、裏板の絵を一筆描きできれいに仕上げる「裏絵師」さんの腕前にも魅せられたりして、なかなか見応えのある回でありました。


(43)レトルト食品ができるまで

皆さんにもおなじみのレトルトカレーの代表選手、ボンカレーの製造工程です。
高温の蒸気を当てて皮をむいたジャガイモに紫外線を当てて殺菌したり、中身を充填したパウチ袋を押さえて空気を抜いたり、レトルト釜の中で120℃の高温で30分調理したり・・・と、保存性を高めるためのいろいろな工夫がよくわかりました。
その一方で、粉末調味料の調合が、小さく質素で静かな部屋の中で行われているところが、なんだか妙に印象に残りましたねえ。


(44)食品サンプルができるまで

食堂やレストランなどの飲食店でまだまだ見かける、本物そっくりの食品サンプルの製作工程です。紹介されるのは天丼やミックスグリル、ソーダ水、スパゲティナポリタンなどのサンプル。
ビニールのもととなる「ゾル」を、実際の料理から型取りしたシリコンに流しこんでオーブンで焼き、ていねいに着色していくという工程。エビフライの衣は小さな粉と大きな粉を組み合わせて表現したり、ソーダ水の上半分に気泡を加えたり・・・と、食品それぞれの質感(そして盛りつけ)にこだわった職人技に感嘆しきリ。そのリアルさに、見ていると妙にお腹が減ってきたりもするのでありました。


(45)消火器ができるまで

「粉末ABC消火器」と称される消火器の製造工程。冒頭で消火器の歴史の紹介もあり、日本最初の消火器は明治27年に生まれたのだとか。
中の消化剤の色は、昭和61年以降5年間隔で変えている、ということを、この回で初めて知りました(現在もそうなのかな)。最後には消火器の使い方を説明しつつ、初期消火の大切さを強調するという、なんだか総務省消防庁のPRのごとき締めくくりでございました。


(46)ペットボトル リサイクル

リサイクルされたペットボトルを糸に加工し、ワタやカーペット、Tシャツを作っていく過程を追っています。
粉砕されてフレーク状になったペットボトルを熱で溶かし、細いヒモ状にしたものを細かく裁断すると、まるでクリスタルのような「ペレット」に。それをまた溶かして糸状に加工したものから、ワタやカーペット、Tシャツが生み出されていく・・・。その過程を追っていくうちに、途中からペットボトルのことをすっかり忘れてしまったほど、見事な生まれ変わりっぷりでありました。


(47)カップめんができるまで

2枚の生地を重ねて1枚にすることで麺にコシを与える。蒸気で蒸すことにより麺の中のデンプンをアルファー化して消化しやすくする。油で揚げる前に麺をほぐすことで均等に熱や水分が行き渡るようになる。・・・などなど、いつも何の気なしに食べているカップめんが、美味しく食べることができるためのさまざまな工夫によって作られていることが、よーくわかりました。


(48)墨ができるまで

摺るときに使う固形墨と墨汁、それぞれの製造工程が紹介されています。職人さんたちによる丁寧な手作業(原料を練るときには足まで使っております)を経て作られる固形墨と、完全オートメーションで生産される墨汁との対比が面白い回であります。
成形した固形墨は一気に乾燥するとひび割れるので、湿った灰の中で1〜2週間かけて(しかもその灰を毎日取り替えたりもしながら)ゆっくりと乾燥させたりする(さらにその後、また1か月かけて乾燥させる工程も!)など、ずいぶん手間ひまかけてつくられるんだなあ。


(49)ファスナーができるまで(欠番)

(50)ハイテク野菜ができるまで(欠番)


これまでの回は以下のとおりです。↓


【閑古堂のきまぐれ名画座】『夜と霧』 全体主義下の「悪」とは何なのかを、今もなお鋭く問いかけるドキュメンタリーの名作

2022-05-26 06:53:00 | ドキュメンタリーのお噂

『夜と霧』 NUIT ET BROUILLARD (1955年 フランス)
監督=アラン・レネ
製作=サミー・アルフォン、アナトール・ドーマン、フィリップ・リフシッツ
脚本=ジャン・ケロール 撮影=ギスラン・クロケ、サッシャ・ヴィエルニ
音楽=ハンス・アイスラー ナレーター=ミシェル・ブーケ
DVD発売元=アイ・ヴィー・シー(HDマスター版)


『二十四時間の情事』(1959年)や『去年マリエンバートで』(1960年)などで知られるフランスの名匠アラン・レネ監督が、アドルフ・ヒトラー率いるナチスドイツによって行われたユダヤ人大量虐殺=ホロコーストの実態に迫った、30分あまりのドキュメンタリー映画が、本作『夜と霧』です。
HDマスター版となった本作の冒頭には、本作のフィルムがフランス国立映画センター(CNC)の支援により、2015年にフィルムの修復が行われた、という説明が付け加えられています。そこでは、監督のアラン・レネが語っていたという、以下のことばが紹介されていて、ああたしかにそう思ってしまいがちだなあ・・・と思わず苦笑いたしました(以下は字幕より引用)。
「古い本は表紙がボロボロで ページがすり切れていても価値がある だがフィルムに関しては 劣化しているというだけで 恐ろしく評価が下がってしまう アラン・レネは そう嘆いていた」

映画は、ホロコーストの発端から終結までを記録したモノクロのフィルムや写真と、解放から10年経った強制収容所を撮影したカラーの映像とを交錯させる形で、ホロコーストの恐るべき実態を明るみにしていきます。
ナチスによって一斉に検挙され、貨物車に押し込められて移送された挙句、劣悪な環境のもとで強制労働に従事させられる人びと。「懲罰」と称して裸にされて整列させられたり、殴打される囚人たち。そしてガス室によって「生産的に処分」され、命を奪われた人びとの遺体の山・・・。
ホロコーストについては、これまでもさまざまなドキュメンタリーや書籍を通して、その実態についてはいくらかは知っているつもりでおりました。しかし、本作の記録映像によって突きつけられるホロコーストの衝撃的な実態には、あらためて戦慄を覚えずにはいられませんでした。
本作によって初めて知ったこともありました。収容所内には住宅や病院、監獄といった施設はもとより、交響楽団や動物園、さらには娼館まであって、ひとつの町のような機能を備えていたといいます。殺された人びとの遺体から石鹸を作ろうとしたことや、遺体を焼いたあとの骨を肥料に使ってみたといったおぞましい事実も、本作で初めて知りました。
意外だったのは、収容所が人里離れた場所ではなく、一般の人びとが住んでいる町に極めて近いところに存在していた、ということでした。おぞましい殺戮が繰り広げられていた場所と、「平穏」な市民生活とが、監視塔を境にして隣り合っていたということが、何よりも恐ろしいことのように思えました。

人類史の中でも特筆されるべき、恐ろしい戦争犯罪であるホロコースト。映画の最後では、その責任はどこにあるのかということや、本当の「悪」はなんなのかということについての鋭い問いかけがなされます。
ホロコーストという、人類史上最悪といえる戦争犯罪を暴き出しながらも、その首謀者であるアドルフ・ヒトラーを、本作はことさら前面に出すことをしていません(記録映像の中で、ほんの数秒程度映し出されているだけです)。そして映画の終盤で、ホロコーストの責任を問われたナチスの将校らが、一様にこのように言いながら、自らの責任を否定したことに触れるのです。

「命令に従っただけ」

ホロコーストの責任を問われて裁判にかけられた、ゲシュタポ(ナチの秘密警察)でユダヤ人の移送局長官にあったアドルフ・アイヒマンが、自分は命令と法に従って義務を果たしただけ、と言って無罪を主張したことが思い出されました。裁判を取材した政治哲学者のハンナ・アーレントは、そこに「悪の陳腐」さを見出し、特定の権力者や独裁者だけではなく、誰でもが「悪」をなし得るのだということを、著書『エルサレムのアイヒマン』(みすず書房)で指摘しています。
映画のラスト。打ち捨てられ、廃墟と化した収容所を映し出した映像に、このようなナレーションがかぶさります(以下もすべて字幕から引用)。
「戦争は終わっていない」「火葬場は廃墟に ナチは過去となる だが 900万の霊がさまよう」
そして、ナレーションが最後に突きつけてくることばが、胸に突き刺さってきました。

「ある国の ある時期における 特別な話と言い聞かせ 消えやらぬ悲鳴に 耳を貸さぬ我々がいる」

あまりにも残虐な行為や事実を見せつけられたとき、われわれはそれを「常軌を逸した異常な人間」や「強権的な独裁者」でなければできないことだ、と思いたがるところがあります。今のこの国に住む自分たちとは無縁の「特別な話」なのだ、と。
しかし、ひとたび全体主義的な雰囲気の中で、おかしな方向に世の中が進んでいくことにでもなれば、どこにでもいるような「普通」で「陳腐」な存在であるわれわれもまた、「悪」をなし得る存在となり得ることを忘れてはならないと思うのです(映画でも指摘していたように、収容所が「平穏」な市民生活の場と隣りあっていた・・・ということも象徴的でしょう)。そしてそれはかつてのナチスドイツでの話というだけではありませんし、戦争という事態だけに限られた話ではないのです。「命令と法、そして〝正義〟に従っているだけなのだ」などと自分を納得させながら、平然と「悪」をなす存在に、われわれ一人一人がなり得るのです。
そんな事態を招かないために、そして「消えやらぬ悲鳴」を過去のものとして忘れてしまわないためにも、折りに触れて繰り返し観ておくべき映画として、『夜と霧』は製作から70年近い現在においてもなお、大きな価値を持ち続けているように思いました。

『THE MAKING』を(ほぼ)コンプリートで観てみた。 【その4】第31回〜第40回

2022-02-02 23:27:00 | ドキュメンタリーのお噂
さまざまな製品が製造されていく過程を、余分な要素を排したシンプルな構成で辿っていく科学技術教育番組シリーズ『THE MAKING』。その全317回(+スペシャル版)のうち、現在見ることができるすべての回を観た上で、ごくごく簡単な見どころ紹介と感想を綴っていくという続きもの記事、今回は久しぶりとなる4回目をお届けいたします。

シリーズの詳しいご説明などは【その1】に譲ることにして、今回は第31回から第40回までを紹介していくことにいたします。これまでと同じく、サブタイトルの部分には「サイエンスチャンネル」の公式YouTubeチャンネルにアップされている該当回へのリンクを貼っております。ご覧になる際の参考にでもなれば幸いであります。なお、配信停止やリンク切れの節はご容赦くださいませ。
(2022年6月11日追記。該当回へのリンクを、画面埋め込みの形で新たに貼り直しました)


(31)ティッシュペーパーができるまで

原料となるパルプと水をかき混ぜる「パルパー」なる巨大な洗濯機のようなマシンがなかなかの迫力。ヘタしてあの中に巻き込まれでもしたらさぞかし大変だろうなあ、と余計なことを考えたり。そうしてできたパルプ溶液をプラスチック製の網に均等に吹き付けて乾燥させることで、薄くて柔らかな仕上がりのティッシュペーパーになるんですねえ。完成したティッシュに対する検査項目の中に、機械を使っての引っ張り強度の検査まであったのには「ティッシュなのにそこも見るのか」とちょっと笑いました。

(32)お菓子ができるまで(欠番)

(33)コンビニエンスのお弁当ができるまで

炒めごはんや焼きそば、おにぎり、お寿司、サンドイッチ、スパゲティ、とんかつや鶏の唐揚げなど、コンビニエンスストアに並ぶさまざまなお弁当メニューの製造過程です。なかで、320人前もの焼きそばをゴーカイに作る光景には笑えましたな。回転する炒めドラムの中にソースを「ドバッ」と勢いよくぶちまけたりしてて。ごはんを炊くときには、サラダ油を少量入れるのがおいしく炊けるコツ、なんだとか。

(34)缶詰ができるまで 〜ツナ缶〜

『THE  MAKING』缶詰シリーズの第一弾は、お馴染みのツナ缶。100℃前後の高温で4時間かけてじっくりと蒸しあげることで、身が白く柔らかくなるのだとか。スチームを使って、缶の中を真空にする方法(缶の中にあった空気を追い出したスチームが冷えて水となり、その水が抜けることで中が真空になる)があることを知り「なるほど〜」と感心いたしました。缶詰に使わない血合いの部分はムダなくペットフードにされるんだねえ。

(35)おもちゃができるまで

この回で紹介されるのは、ゼンマイ仕掛けで動くブリキの飛行機の製造工程。それも小規模な町工場といった感じの現場であります。手作業で丹念に行われる、表面の図柄の印刷に使うインクの調合をはじめ、足踏み機械(それも「けとばし」というそのものズバリなネーミングの)を使っての成形作業など、町工場ならではの製造光景がブリキのおもちゃというアイテムにマッチしていて、実にいい感じですねえ。

(36)自転車ができるまで

ハンドルに使うパイプの中心部を、パイプに入れたウレタンによって内部から膨らませる「バルジ加工」や、ハブ(車輪の中心部)に通した36本のスポークを遠心力で広げる工程などなど、自転車の製造現場独特の技術の数々に目を見張らされます。フレームを作るときの溶接技法も、真鍮合金の細い棒を溶かして接合部に流し込む「ロー溶接」や、炭酸ガスと電気による1500℃以上の熱で鉄を溶かして行う「炭酸ガスアーク溶接」といった具合に使い分けているのも面白いですねえ。

(37)麺ができるまで

インスタント麺ではなく、小規模の製麺所で行われるラーメンの生麺や、手打ちのうどん・そばの製造風景。ラーメンの麺にコシを生むための原理(複数のローラーで何度も圧延を繰り返すことで、生地にコシが生まれる)や、ラーメンの麺にちぢれをつける工夫(細く切断されて出てくる麺をヘラで押さえることでちぢれた麺になる)には「なるほど〜」でありました。その日の気温や気候によって、生地の練り方や麺の太さなどが変わってくるという、職人さんの手打ちによる南部うどんの製造過程にも見入ってしまいました。

(38)Tシャツができるまで

オートメーションによってどんどこ大量に生産されているのかと思いきや、布の裁断から縫い合わせ、柄を印刷するための色の調合や印刷、そして包装に至るまで、けっこう人手と手間がかかっているのには驚かされました。慣れた手つきでミシンを操り、手早く縫い上げていく作業員の皆さんが実にお見事。絵柄のプリントは色ごとに版を変えたシルクスクリーン(網目に薬品を塗ってある部分にはインクが通らず、塗っていない絵柄の部分にプリントされる)でやってるんだな。

(39)原子力発電所ができるまで(欠番)

(40)パイができるまで

パイ菓子の定番ともいえる、木の葉をかたどったリーフ型パイの製造工程です。何層にも重なった生地がどうやって重ねられるのかがよくわかりました(薄く伸ばした生地を重ねて伸ばし、それらをさらに何層にも重ねていく)。生地を混ぜ合わせているところを上から捉えたカットの絵面がなんか面白かったな。粉状の生地が下からぽわんぽわんと弾むように浮き上がったりなんかしていて。製造現場はさぞかし、食欲をそそる甘い匂いで満たされてるんでしょうねえ。



『THE MAKING』を(ほぼ)コンプリートで観てみた。 【その3】第21回〜第30回

2021-12-19 23:47:00 | ドキュメンタリーのお噂
さまざまな製品が製造されていく過程を、余分な要素を排したシンプルな構成で辿っていく科学技術教育番組シリーズ『THE MAKING』。その全317回(+スペシャル版)のうち、現在見ることができるすべての回を観た上で、ごくごく簡単な見どころ紹介と感想を綴っていくという、続きもの記事の3回目であります。


シリーズの詳しいご説明などは【その1】に譲ることにして、今回は第21回から第30回までを紹介していくことにいたします。これまでと同じく、サブタイトルの部分には「サイエンスチャンネル」の公式YouTubeチャンネルにアップされている該当回へのリンクを貼っております。ご覧になる際の参考にでもなれば幸いであります。なお、配信停止やリンク切れの節はご容赦くださいませ。
(2022年6月11日追記。該当回へのリンクを、画面埋め込みの形で新たに貼り直しました)


(21)万年筆ができるまで

手先どころか指先を駆使しての、実に細かく緻密な作業を重ねて作られる万年筆とは、もはや工業製品というより工芸品の域ではないか・・・と見ていて感じました。とりわけ、ペン先の小さな球(直径が1ミリ前後という「ペンポイント」)を作るところで、原料の粉末が電気アークによる3000℃以上の高熱で一瞬のうちに溶け、表面張力によって球形となるのは驚きでしたねえ。


(22)ぬいぐるみができるまで

ミニーマウスのぬいぐるみの製造工程。生地の打ち抜きから縫い合わせや綿入れ、仕上げまでを、ほぼすべて手作業で行っているのが印象的でした。こうやって人の手によって生まれる温かみが、ぬいぐるみの命なんだなあ・・・と妙に納得した次第であります。

(23)ランドセルができるまで

こちらもまた、縫い上げから組み立てまでのすべての工程を手作業で、それも町工場のような雰囲気のもとで進められていることに感慨深いものが。ランドセルがこれだけ、人の手によって丁寧に作られていることを知っていれば、子どものときにもっと大事に使ってたかもなあ・・・と、なんだかしみじみとした気持ちになったのでありました。

(24)蛍光ランプができるまで

電極のコイルの巻き取りやリード線の挿入などの細かい部分も含め、すべての工程をこなすオートメーション機械の働きぶりに目を見張りました。開発した人たちの知恵と苦労には、並々ならぬものがあっただろうなあ。普段当たり前のように使っていながら、実はよくわかっていなかった蛍光ランプの構造や光る仕組みも理解することができ、勉強になりました。

(25)歯ブラシ・歯ミガキができるまで

歯ブラシの先端に植毛する機械の、目にも止まらぬ速い動き(1つの穴に18本の毛を、1分間に25本の歯ブラシに植毛するのだとか)には、ただただ驚きで目を見張らされました。その一方で、歯ブラシの柄(ハンドル)が箱の中に残らないよう、箱を叩いて揺すぶる機械の存在には、ちょっと笑えました。クリーム状の原料が練りあわされて歯ミガキが作られているシーンは、なんだか美味しそうに見えましたねえ。

(26)トランペットができるまで

パーツの設計にコンピュータが用いられるなど、メカの力を借りる工程がある一方で、ハサミを使って真鍮板を丁寧に切り出したり、ヘラやハンマーを使って成型したりと、人の手によって行われる工程の存在感も大きいことがわかりました。管をU字型に曲げるとき、つぶれないように中に溶けたハンダを流し込む工夫には「なるほど〜」でありました。

(27)石けんができるまで

石けんのいい香りが漂っているであろう製造工程も、そのほとんどが自動化されていて無人(調合された材料を運ぶのも、無人で動く搬送車だったりいたします)。それを制御する、大きなパネルが並んだコントロールルームには時代を感じますが、今ではもっと進化、洗練されたものになっているかもしれませんねえ。

(28)スニーカーができるまで

こちらもパーツの設計にコンピュータが活用されている一方で、縫い合わせや組み立てのかなりの部分に、丁寧な手仕事が活かされておりました。靴底のゴムを作るときに硫黄を混ぜることで、弾力のあるゴムになるというのも「なるほど〜〜」でありました。

(29)オルゴールができるまで

温かみのある音を奏でる、手づくり感を持つ品物というイメージとは裏腹に、部品の製造から組み立てまでのすべてが機械によるオートメーション。振動板製造の工程で響く音が実に独特で、ボリューム上げて爆音上映したらスゴいことになりそうな気が(笑)。

(30)ストッキングができるまで

円形に並んだ約400本もの針で、片足ごとに一気に編み上げていく、自動編み機の動きの速さはオドロキでした。仕上げをする工程で、ストッキングを履かせた足型がズラリと列をなしてラインを流れていく光景は、ちょっとシュールで面白い絵面でありました。


これまでの回は以下のとおりです。↓