読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

第19回宮崎映画祭観覧記(最終回) 『ネオ・ウルトラQ』と『横道世之介』で迎えた至福のクロージング

2013-09-02 23:03:13 | 映画のお噂
昨日、ついに最終日を迎えた第19回宮崎映画祭。
最終日に上映されたのは、テレビシリーズ『ネオ・ウルトラQ』からセレクトされた入江悠監督の作品3本と、高良健吾さんと吉高由里子さんが主演の『横道世之介』でした。いずれも最終日に観ることができて良かった、と心から思えた至福のプログラムでありました。


『ネオ・ウルトラQ』(2013年、日本、テレビシリーズより3本をセレクト)
監督=入江悠 出演=田辺誠一、高梨臨、尾上寛之、島田雅彦

心理カウンセラーの南風原仁とライターの渡良瀬恵美子、そしてバーのマスター白山正平の3人が、科学者の助けを得ながらさまざまな怪事件に立ち向かっていく。
第3話「宇宙(そら)から来たビジネスマン」。負の感情に美を感じる宇宙人・ヴァルカヌス星人は、容姿にコンプレックスを持つ女性たちと契約しては自分の星へと連れ帰る「ビジネス」をやっていた。星人に連れて行かれようとするファッションモデルを取り戻すべく、南風原たちは星人に別の「ビジネス」を持ちかける•••。
第7話「鉄の貝」。身長が1~2メートルもある巨大な貝「ガストロポッド」が日本各地で大量発生した。ガストロポッドは地震を引き起こす地殻変動の元凶である、と強硬に主張する研究者の意を受けた内閣府は、ガストロポッドの殲滅作戦を実行に移す•••。
第11話「アルゴス・デモクラシー」。怪獣との共存を主張する過激武装集団が、恵美子らを人質に取って立てこもる。そこへ、巨大な球体が空に出現する。「アルゴス」と名乗るその球体は、恵美子らがいるビルを隔離空間にした上で、途方もない「選択」を人類に突きつける•••。
1966年、特撮の神様・円谷英二監修のもと世に送り出された『ウルトラQ』。その後連綿と続くウルトラシリーズの原点であり、日本のSF・特撮ものに多大な影響を与えた伝説的テレビシリーズです。
その「47年ぶりのセカンドシーズン」とのコンセプトで製作されたのが、『ネオ・ウルトラQ』です。今年の1~3月にかけてWOWOWで放映された全12話から、『SR サイタマノラッパー』シリーズで知られる俊英・入江悠監督が手がけた3本が上映されました。わたくしはWOWOWを視聴できないので(泣)、このたびの映画祭での上映は嬉しい限りでした。
宇宙人ものにモンスターもの、さらにはパニック風と、それぞれに異なったテイストの作風で大いに楽しめました(個人的には第11話に引き込まれました)。現代風の感覚を取り入れつつも、オリジナルの『ウルトラQ』が持つ不条理感もしっかりと継承しているのが嬉しいところでした。
主人公3人をサポートする科学者の役として、作家の島田雅彦さんが出ておられたのにはビックリいたしました。他にも岩松了さん(第7話)、室井滋さん(第11話)とゲスト出演者もなかなか豪華でありました。
上映終了後、入江監督を迎えてのトークショーが開催されました。監督いわく、「今はなかなか不条理なものはテレビでも映画でもやりにくいが、それがやれるのが『ウルトラQ』の魅力」「常識だと思っていることを、本当にそうなのか?と揺さぶってくれるところが(『Q』には)ある」とのこと。
入江監督以外の3人の監督(石井岳龍監督、中井庸友監督、田口清隆監督)も、それぞれ違ったテイストが楽しめるとのことなので、リリース中のDVDで通して観てみたいなあと思いました。


『横道世之介』(2013年、日本)
監督=沖田修一 出演=高良健吾、吉高由里子、綾野剛、池松壮亮、伊藤歩、きたろう、余貴美子

1987年春。大学進学のために長崎から上京してきた主人公・横道世之介。おせっかい焼きでのほほんとしていて、ちょっとばかり隙がある性格ながら、誰からも愛されるような憎めなさで出会う人々を引きつけていく。
入学式の日に知り合い仲良くなった同級生の倉持。ふとしたキッカケで世之介から好意を持たれる年上の女性・千春。世之介から人違いで声をかけられたことから友人となった加藤。そして加藤から誘われて参加したダブルデートで知り合い、世之介のガールフレンドとなったお嬢様育ちの祥子。16年後、それぞれの人生を生きる4人の心に、世之介と過ごした楽しくも優しい日々の記憶が浮かんでくるのであった•••。
吉田修一さんの同名小説(毎日新聞社、文春文庫)を、『南極料理人』(2009年)や『キツツキと雨』(2012年)の沖田修一監督が映画化した青春コメディです。
最初、上映時間が160分と知ったときには、正直「長すぎじゃない?」と思っていました。しかし、観始めるとあまりの楽しさに時を忘れてしまい、もうちょっと長くてもいいとすら思えたほどでした。世之介の独特なキャラクターから醸し出される笑いと、人間愛に溢れた作風に心が満たされ、観終わったときにはすっかり、この映画が大好きになっていました。
なんといっても、世之介を演じる高良健吾さんがあまりにもハマり過ぎていて、もう世之介は高良さん以外には考えられないほどでした。また、ガールフレンドの祥子を演じる吉高由里子さんもすごく魅力的でしたし、いま絶好調の綾野剛さんも、なかなか面白い役どころで楽しませてくれました。
加えて、作品の要所に出てくる長回しのシーンがどれも良く、特に世之介と祥子がクリスマスを過ごすシーンは、カメラワークの見事さとあいまって気持ちを高揚させてくれました。
観れば間違いなく、幸せな気持ちになれる宝物のような佳作でした。まだ未見の方にはぜひ観ていただきたいと思います。
上映後、沖田監督を迎えてのトークショーが開催されました。監督は「顔は整っているけれど純朴でおおらかな高良くんだからこそ映画が成立できた」といった趣旨のお話をされていましたが、そういう沖田監督ご自身、とても穏やかで人柄の良さが滲み出るような方でした。高良さんが持つキャラと、監督の人柄の双方が活きた映画だったんだなあ、と感じました。
帰りに買ったパンフレットに、沖田監督のサインを頂きました。本当にありがとうございました!


こうして、9日間にわたって開催された第19回宮崎映画祭は、無事に幕を閉じました。
今回の映画祭は、デジタル映画やテレビ作品を特集するなどの新しい試みも盛り込まれた、なかなかアグレッシブなものとなったように思います。それらの試みから得られたものが、次回で20回目という節目を迎える宮崎映画祭に、どのような形で実を結んでいくのか。宮崎映画祭ファンの一人として、その行方を楽しみに見守っていきたいと思っております。

毎年、手弁当で懸命に運営にあたっておられる映画祭の実行委員とスタッフの皆さま、本当にお疲れ様でした!そして、今年も素敵な時間を与えていただき、ありがとうございました!