読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

宮崎県総合博物館の「岩合光昭写真展 ねこ」を観に行く

2016-03-21 22:30:24 | 宮崎のお噂
今月(3月)の3日から、宮崎県総合博物館にて開催中の「岩合光昭写真展 ねこ」、連休最終日であった本日(21日)観に行ってきました(会期は4月14日まで)。


野生動物の生態を腰を据えて記録した優れたお仕事と並んで、日本全国と世界の猫たちを取材した写真をライフワークとしておられる動物写真家・岩合光昭さん。今回の写真展は、岩合さんがこれまで撮り続けてきた猫写真の集大成ともいえる展覧会です。
犬も好きではありますが、どちらか一つだけに決めなさい!と迫られたら躊躇することなく猫のほうを選ぶくらい(←どんな状況だか)猫好きのわたし。開幕以来ずーっと、行きたい行きたいと思っておりましたので、わくわくしながら会場へと赴きました。
午前9時の開館からまもない時間に入館して観覧したのですが、初めは幾分か空いていた展示スペースも、観覧しているうちにいつの間にか人がいっぱいに。やはり、なかなかの人気ぶりでありました。連休でしたしね。昨日(20日)には岩合さんご本人が来場されてギャラリートークなどを行い、けっこう盛況だったようです。


会場には、地中海沿いの国々、そして日本各地の町や村で撮影された、約200点の猫写真が展示されておりました。
ゴロンと寝っ転がって呑気そうに目を閉じ、あーあと伸びをしている猫。真剣な表情で見事にジャンプを決める猫。干してある布団にぶら下がってじゃれている猫。真っ白な壁が美しい地中海の町にある家の窓から顔を出している猫。犬やニワトリと仲良く並んで写っている猫。赤とんぼやカエルにビビっている風情の猫。おばちゃんの背中におぶさって気持ち良さげな猫・・・などなどなど。
挙げていったらキリがなくなるくらい、バラエティ豊かな表情や動作の猫たちの写真一枚一枚に、猫好きのわたしの頬は始終ゆるみっぱなしでした。会場のあちこちからも、観覧客の発する「カワイイ~~♡」という声が。
中でもちょっと目を見張らされたのは、トルコの湖を泳いでいる猫を撮影した一枚でした。前をしっかり見据えながら泳ぐ姿が、実に堂々としていて見事なものでした。猫も泳ぐときには上手に泳ぐもんなんだなあ。ちなみに、その猫が泳いでいる湖の名前は「ワン湖」だとか(笑)。いいなあ。
猫の姿もさることながら、背景に写り込んでいる各地の風景や風物にも魅せられるものが多々ありました。富士山をバックに茶畑からヒョイと顔を出す静岡県の猫。伊万里焼でできた招き猫にマーキングしている佐賀県の猫。雪だらけになりながら動き回っている青森県の猫・・・。
猫たちもそれぞれの地方の風土の中で、たくましくしたたかに生きているんだなあ、ということが、観ていてしみじみと伝わってくるように思いました。
わが宮崎市や日南市で撮影された写真も、5点展示されておりました。懐かしさが残る県南部の町、油津(日南市)を歩く猫の写真なども、なかなかいいものでした。

岩合さんと妻の日出子さんが、かつて一緒に暮らしていたメス猫「海(かい)ちゃん」を撮影した一連の写真もありました。まだ子猫だったときに岩合家にやってきた海ちゃんは、生涯に6回の出産でたくさんの子どもを残すとともに、岩合さんたちにさまざまなことを教え、影響を与えた存在でもありました。
わたしが海ちゃんのことを知るきっかけとなったのは、以前出されていた岩合さん夫妻の写真文集『海ちゃん ある猫の物語』(新潮文庫、1996年刊。現在は品切れ)でした。


今回の写真展でも、16年間にわたって記録された海ちゃんの一生が、凝縮された形で展示されておりました。
子猫だった頃の愛くるしい姿から、子どもたちを産んで母らしいキリッとした表情をした姿まで。愛情と尊敬を込めて撮影されたそれらの写真を観ていると、あらためてジンとくるものがありました。

さらには、島民よりも猫の数のほうがずっと多いということで知られている、宮城県の田代島を取材した写真もありました。しっぽのあたりにハートの形の模様がある猫とその仲間たち。口にくわえた魚を引っ張り合っている2匹のオス猫。嬉しそうな表情で猫を抱っこしている地元の漁師さん・・・。
別の本で知ったことなのですが、東日本大震災による大津波はこの島にも襲いかかったものの、多くの猫は島の中心に建っている、その名も「猫神社」へと逃げて助かることができたのだとか(ムック『珍島巡礼』イカロス出版より)。田代島の猫たちと人たちとの穏やかな共存が、これから先も末長く続いていくことを願うばかりです。

最後に立ち寄った物販コーナー。何か写真集でもあれば買っていこうかなあ、ということで選んだのが、今回の写真展と同じ『ねこ』というタイトルの写真集(クレヴィス)です。


今回の写真展のベースとなったのがこの写真集のようで、展示されていた写真の多くがここに収録されていて、写真展の「図録」といってもいいものとなっています。内容が同じながら手頃な値段の文庫版もあり、どちらにしようか迷ったものの、やはり写真が大きくて見やすいほうがいいか、ということで、奮発して大きいサイズのほうを買いました。
そんなわけで、今夜はこの写真集と、かなり久しぶりに書棚から引っ張り出してきた『海ちゃん』のページをゆっくりめくりながら過ごしているわたしなのであります。ああ、やっぱり和むなあ。