『40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。 新・ミドルエイジ論』
成毛眞著、PHP研究所、2013年
(書籍版は現在品切れ。Kindle版は販売中)
読書家ならぬ「積読家」のわたくし。これは読まねば!と勇んで購入したのはいいものの、その後はキチンと読むこともなく書棚に押し込んだり、積み上げたまんまになっている書物が山のように・・・というか、山脈のようにございます。で、積読本の山脈から発掘した本を遅まきながら一読して、「あゝこれはもっと早く読んでおくべきだった」と歯噛みすることも少なからずございます。
そんな「積読山脈からの発掘本」には、今でも鮮度を失わず、十分読むに値するような名著といえる書物が、これまた少なからずございます。あるいは、そこまではいかなくとも、わたしにとっては大いに参考となるような知識や知恵を授けてくれるような本もあったりいたします。今回取り上げる『40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。』も、後者にあてはまる一冊であります。
ノンフィクション系おすすめ本紹介サイト「HONZ」の代表としても知られる、実業界きっての読書家である著者の成毛眞さん。本書で成毛さんは、40代から50代にかけてのミドルエイジ世代(不肖わたくしもその端くれなのですが)に向けて、外の世界を切り開きながら「〝全力で〟脱力系の生き方を追い求める」ための方法論を伝授しています。
日本のいちばんいい時代を生き、日本的経営の崩壊や年金制度の破綻からかろうじて逃げ切れた、60代以上の「団塊の世代」のあとに続くミドルエイジ世代は、社会のレールのない時代を生きる「逃げ切れない世代」だが、それは同時に「人生を軌道修正できる最後のチャンスでもある」と成毛さんは言います。
本書では、したたかでしなやかな会社や仕事との向き合い方をはじめ、精神を軽やかにする方法、サイドビジネスの秘訣、道楽=趣味の楽しみ方、過剰でもなく無頓着でもない程良い健康維持法・・・といった、後半生を楽しく生きていくための方法論と知恵が語られます。
わたしが本書でとりわけ力を入れて読んだのが、精神の軽やかさを保つための考え方や方法論を説いた第2章です。
ここで成毛さんは、FacebookやTwitterといったSNSで「今日はこの店に行って、これを食べた」「家族と、どこそこに出かけた」といった日記みたいな投稿ばかりするような向きや、人のコメントに過剰反応して議論を吹っかけてくる輩を「半径五十㎝にしか興味をもたない人」と呼びます。そして、リアルタイムであらゆる情報が流れ、国内外ともに激動している世の中にありながら、「何も感じず、関心も示さず、自分の身の周りのことしか興味をもてなくなったら、おしまいだ。綾小路きみまろ風にいうなら、『老いが進むと眼は遠くしか見えなくなり、心は近くしか見られなくなる』といったところか」と痛言します。
その上で第2章では、視野を広く持ち心を軽くするための方法論が説かれます。SNSは発信しているだけでは利用する意味はない、積極的に情報を収集するために使うべし。旅行するなら変化率の高いアジアやアフリカの街に出かけて好奇心を磨こう。同世代とばかりつき合っていたら感性が鈍くなる。肩書きに頼らない「自分ブランディング」で、ほかの人とは違う自分アピールを、など。
中でもわたしが印象に残ったのは、「記憶力」よりも「忘れる力」の必要性を説いた節でした。ここで成毛さんは次のように書いておられます。
「毎朝、新しい人生をスタートさせるようなつもりで、過去のしがらみを捨て去る。それぐらいの心構えで暮らしていれば、心に知らず知らずのうちにゴミが溜まって重くならずに済むだろう」
そして、さまざまな未練や失敗、トラブルなどで悩み続けることに意味はない、とも言い、こう続けます。
「私は悩むのが面倒なので、すぐに投げ出してしまう性格だ。それで困ったことはない。それぐらい心を軽くしておかないと、新しい情報は入ってこないし、新しい感動も得られないのだ」
ああ、確かにそうかもしれないなあ、と思いましたね。
実のところ、ここしばらくのわたし自身も小さなことにとらわれ過ぎて、精神の軽やかさや伸びやかさが失われてきていることに、危機感を抱き続けておりました。それだけに、好奇心や感性を磨くことで精神の軽やかさを保つことを説いたこの第2章は、大いに参考となりました。
道楽=趣味を追い求めることの大切さを語った第4章にも、いろいろと参考になるところがありました。
「趣味は、人生であと回しにすべきものではない。最優先させるべき重要課題なのだ」という成毛さんは、三日坊主でもいいので片っ端からやってみることを勧めます。とにかく何にでもチャレンジして、あとから考えればいい、と。
中でも熱く勧めているのが、歌舞伎や能、文楽といった日本の伝統芸能です。「伝統芸能を途絶えさせたとしたら、経済政策で失敗した以上に罪は重い」と力説しつつ、ミドルエイジ世代に伝統芸能を観に行くことの意義を強調しています。少々長くなりますが、引用いたしましょう。
「われわれ一般人が伝統芸能を守るには、せっせと舞台を観に行くしかない。ミドルエイジのみなさんにはぜひ、その一員になってもらいたいと思う。
伝統芸能は、何の予備知識もないまま観に行ったら、わけがわからずに眠ってしまって終わりだろう。あらかじめ基礎知識を調べて演目の内容を把握しておけば、芝居にしっかりついていける。これを教養というのかもしれない。
ミドルエイジの趣味には、知識がないとできないようなものこそふさわしい。カラオケやカメラなど、あまり知識を必要としないものを趣味にしたところで、感動は得られない。心の琴線に触れるような体験をしないと、感性は錆びついてしまうだろう」
カラオケやカメラの愛好者からは抗議の声が上がりそうな一節もあるのですが(とはいえ、このあたりの率直な物言いもまた、成毛さんの魅力のひとつなのであります)、知識を深めながら楽しむ趣味を持つこともまた、大人の嗜みというものかもしれませんね。わたしも伝統芸能、勉強してみようかなあ。
おしまいの第6章では、ミドルエイジには最強の「七つの武器」があるという話がなされるのですが、それは以下のごとし。
①未来がない
②ハングリーではない
③冒険心がない
④体力がない
⑤記憶力が弱い
⑥感性が鈍い
⑦ずるい
・・・とまあ、ものの見事に、一見するとマイナスにしか思えないコトバが並んでいるわけなのですが、それらも使いようによっては武器にできると説いていくところも、逆張り思考の持ち主である成毛さんらしくっていいですね。ここに挙げられているマイナス面のかなりの部分が当てはまってしまう(苦笑)わたしも、大いに勇気が湧いてくるのであります。
「半径五十㎝の人」で終わることなく、これからの後半生を楽しく生きていきたいと願う、われわれミドルエイジ世代(もしくはその予備軍)の背中を押し、元気にしてくれる素敵な一冊でありました。ほんと、もっと早く読んでおけば良かったなあ。
・・・で、積読にしているあいだ、残念ながら本書の書籍版は品切れとなってしまっておりました。まだ刊行から3年ほどしか経っていないというのに、眞に、もとい、誠に遺憾であります。
もし、これをお読みいただいて興味を持ってくださった皆さまは、古書市場や図書館でお探しいただくか、現在も販売中であるKindle版にてお読みになってみてくださいませ。