『インプットした情報を「お金」に変える 黄金のアウトプット術』
成毛眞著、ポプラ社(ポプラ新書)、2018年
日本の大人は勉強をして知識、教養をためこむインプットばかりに熱心で、アウトプットが不足している。これからはインプットした情報を積極的に吐き出し、価値あるものに変えていく者だけが生き残っていく・・・。実業界きっての読書人で、わたしも大いに参考にさせていただいているノンフィクション系書評サイト「HONZ」代表でもある成毛眞さんは、本書でそう力説します。
アウトプットの基本となるのは、やはり文章を書くこと。文章のテクニック自体は、日本の義務教育で身についているのだから、文章上達の本など読まなくてよろしい、と成毛さんはいいます。そして、文章に自信がないのであれば、まずは書くことで自信をつけて、SNSやビジネスなどのオープンな場で発信することを勧めます。
その際大切なのは「簡単に書け」ということ。アウトプットをするにあたって必要な考えかたを以下のように、それこそ明快なことばで言い切ります。
「アウトプットの目的は、読みにくくわかりにくい文章を書くことではない。インプットを消化し、形を変えて放出することだ」
この考えかたのもと、本書は読みやすく伝わりやすい文章を書くためのコツを、具体的に伝授します。使う言葉は一般的なものを。一文の長さは短くする。文字が詰まりすぎないよう、適度な「1行開き」を。漢字はできるだけひらがなに・・・。
とりわけ参考になったのは、「接続詞は積極的に使ったほうがいい」というところ。読む側を迷わせずに済み、読み手のリズムを整える手助けになる、というのがその理由です。その上で、同じ接続詞の繰り返しを防ぐために、「しかし」「ところが」などの逆説の接続詞と、「だから」「ゆえに」などの順接の接続詞を、それぞれ4点セットで備えておくよう、アドバイスしてくれています。
接続詞はやたらに使わないほうがいいのかなあ・・・などと考えるところがあったわたしとしては、このアドバイスにとても教えられました。
文章を書くことだけがアウトプットではありません。本書では、雑談や対話といった「話す」アウトプットや、自分の外見を整える「見た目」のアウトプットにも言及します。話すことに苦手意識がある上、外見にも無頓着なわたしとしては、それらにも教えられるところがございました。
なかでもナルホド!と思えたのが、メガネの活用法です。年齢を重ねたら、視力に問題がなくてもメガネを、それも派手なものをかけたほうがいいといいます。年をとって肌がくすみ、暗く見える表情を明るく見せてくれるというのが、その理由です。
視力の問題から長年、メガネを愛用しているわたし。いまかけているメガネもだいぶくだびれてきたことですし、こんどはちょいと派手めのやつを買ってみようかなあ。
とはいえ、よきアウトプットを続けるには、良質なインプットをすることも、また大切です。本書は、インプットの質を高めるためのコツにも触れています。
ここで核となる考えかたは、「必要なもの、欠けているものだけを入れて、不要なもの、過剰なものは後回しにするべき」ということ。その観点からも示唆に富むのが、SNSの活用法について触れたくだりです。
成毛さんは、SNSでは思いがけず専門家から知見を得られることもあるものの、無駄な情報に触れてしまうことが圧倒的に多いといい、ちょっと辛辣なことばを交えつつ、以下のように述べます。
「間違っているコメントや単なる言いがかりなどは、その文字列を読み脳で解釈するエネルギーが無駄になる。なので私は、できるだけ目に触れないようにしている。つまりブロックするのだ。
これは、SNSの画面を編集するということだ。好きなもの、いいと思うものを優先的に並べるのと同じように、嫌いなもの、なんだこりゃと思うものは排除していく。雑誌の誌面もセレクトショップも、そこに何があるのかと同じくらい、あるいはそれ以上に、そこに何がないかも大事なのだ」
そして、インプットは書籍やNHKのテレビ番組などを活用して、SNSはアウトプットのために活用することを提案するのです。
たしかに、時間にも人生にも限りがある以上、すべてのことを知ろうとする必要はないでしょう。ましてや、偏った思い込みを振り回すだけの言説にお付き合いするのは、まさしく時間とエネルギーの浪費というもの。インプットの質を高めるためにも、余計な情報や知識は「排除」するということも、また大事なことのように、わたしも考えます。
アウトプットしたからといって、それらがすぐに(本書の副題にいうような)「お金」などの結果に結びつくというわけではないでしょう。それでも、自分のアウトプットしたことが一人でも多くの人に届き、ささやかでもお役に立てるものとなれたら、これほど嬉しいこともないでしょう。だからこそやはり、アウトプットは継続していかなければと、つくづく思いました。
ここしばらく、年度末や新年度の忙しさにかまけて、アウトプットが停滞気味でありました。本書はそんなわたしに喝を入れ、背中を押してくれる一冊となりました。