読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】考え続けることの大切さと楽しさを教えてくれる『なんだろう なんだろう』

2019-12-15 22:25:00 | 本のお噂

『なんだろう なんだろう』
ヨシタケシンスケ著、光村図書出版、2019年


「がっこう」「たのしい」「うそ」「友だち」「しあわせ」「自分」「正義」「ゆるす」「自立」「立場」「ふつう」「夢」・・・。人気絵本作家・ヨシタケシンスケさんの最新作は、生きていく中で誰もが直面する、12のテーマにまつわる「なんだろう」という疑問をゆるゆると考えます。光村図書の平成31年度版中学校、および令和2年度版小学校の道徳教科書に掲載されているイラストコラムに、描き下ろしを加えて一冊にまとめたものです。

われわれオトナにとっても、的確な答えを出すことが難しい12のテーマを、ヨシタケさんは持ち前のしなやかな発想とユーモアにくるんで提示します。
たとえば「しあわせ」について。しあわせとは、外からそのまま入ってくるのではなくて、「いくつかの材料がくみあわさって、自分のからだの中でつくられるものだと思う」と語り、たとえその材料が少なくても「自分の考え方しだいで、いつでもつくることができるんじゃないかしら」という考え方を提示します。これはとても大事な考え方だなあ、と共感することしきりでした。

「正義」のところでは、人によって異なるいろんな立場の正義があり、「みんなのしあわせのための正義が、みんなを不幸にすることだってある」と語ります。そして「立場」については、人にはいろんな立場があり、それによってできることとできないことがあることを語った上で、「イラッとしたり、話がうまく伝わらないときは、自分と相手の立場について考えてみるといいかもしれない」と、お互いの立場の違いについて考えてみることを提案します。
自らの「立場」に固執した「正義」の押しつけが、個人レベルにおいても国レベルにおいても、さまざまな軋轢や争いのタネになっていたりします。それだけに、ここで語られていることは、われわれ「オトナ」こそ、しっかりと考えなければいけないことではないのか、と痛感いたしました。

とはいえ、いずれのテーマにおいても結論や答えは示さずに、読む人がそれぞれ考え続けることを促すような終わり方になっています。そもそも、そんなに易々と答えが出せる事柄でもない以上、一人ひとりが自分なりに考え、答えを見つけ出していくしかないのですから。
ヨシタケさんは絵本の最後で、「考える」ことの大切さを語ります。たしかに「考える」というのはめんどくさいことでもあるし、すぐには答えが出ないときもあるけれど、それでも「いつもちょっとずつ いろんなことを考えたほうがいいと思う」。なぜなら「そのほうが おもしろいことが増えるから」と。
そうなんですよね。考えることって「おもしろいこと」でもありますし、考えることを楽しめることは、生きていく上での心強い知恵にもなるというもの。答えが出ようと出まいと、あれこれ考えながら生きていきたいと、本書を読んで思った次第であります。

疑問を持ち、考え続けることの大切さと楽しさを教えてくれる『なんだろう なんだろう』。ヨシタケさんの作品群にまた一冊、素敵な良書が加わりました。


【関連オススメ本】
『なんだろう なんだろう』のテーマに関連すると思われるヨシタケシンスケさんの作品を、以下に3冊ご紹介しておきます。


『それしか ないわけ ないでしょう』
ヨシタケシンスケ著、白泉社(MOEのえほん)、2018年

「しあわせ」「正義」「立場」に関わる内容なのがこちら。悲観的な未来ばかりを唱える「オトナ」たちの物言いを、「それしか ないわけ ないでしょう」と軽やかに吹き飛ばしてくれるこの本作は、ヨシタケさんの作品の中でもとりわけお気に入りであります。当ブログのご紹介記事はこちらを。→ 【わしだって絵本を読む】悲観論と二元論を吹っ飛ばして、未来を楽しく考えさせてくれる快作『それしか ないわけ ないでしょう』



『みえるとかみえないとか』
ヨシタケシンスケ(さく)伊藤亜紗(そうだん)、アリス館、2018年

「ふつう」に関連すると思われるのはこちら。さまざまな身体的・性格的な違いを持つ人たちのものの見えかたや感じかたを探りながら、それぞれの違いを面白がりながら尊重し、活かし合うことの大切さを伝えます。「違い」を考えることで「ふつう」ってなんだろう、ということにも考えを拡げてくれる一冊です。上のリンクの記事に、この作品の紹介も綴っております。



『ころべばいいのに』
ヨシタケシンスケ著、ブロンズ新社、2019年

「しあわせ」「ゆるす」「立場」に関するのがこちら。イヤなことを言ったりやったりする嫌いな人なんて、石につまずいてころべばいいのに・・・という女の子を主人公にして、自分と異なる人たちとの関わりかたや気持ちの切り替えかたのヒントを伝えてくれる作品です。こちらもまた、子どものみならずわれわれ「オトナ」にとっても効き目のある一冊であります。