読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

きまぐれ名画座年末年始スペシャル「閑古堂の年またぎ映画祭」その3

2022-01-03 21:53:00 | 映画のお噂
超個人的映画祭「閑古堂の年またぎ映画祭」、3つ目の特集は「コング&大怪獣バトル映画特集」です。『ゴジラvsコング』をメインに、歴代のキングコング映画などの大怪獣映画4本をまとめてみました。

年またぎ映画祭8本目『キング・コング』(1933年 アメリカ)
監督・製作=メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック 製作総指揮=デイヴィッド・O・セルズニック 脚本=ジェームズ・アシュモア・クリールマン、ルース・ローズ 撮影=エディ・リンデンほか 音楽=マックス・スタイナー 特撮=ウィリス・H・オブライエン
Blu-ray発売元=アイ・ヴィー・シー

南海の孤島・髑髏島へ上陸した撮影隊は、太古のままに動き回る恐竜たちと、原住民に恐れられる巨大な猿、キング・コングを目にする。コングは撮影隊に同行した新人女優・アンを攫って逃げるものの、アンは救出されコングも捕らえられる。ニューヨークに連れてこられたコングは見世物にされるが、カメラのフラッシュを浴びたことで怒り狂い逃走。ホテルに逃げ込んだアンを見つけると再び彼女を攫い、エンパイア・ステート・ビルの頂上へ・・・。
その後に続くすべての特撮怪獣映画の原点となり、今もなお多くの人から愛されている名作であります。実は今回、Blu-rayで初めてキチンと視聴したのですが(そんなんでよく、いままで特撮怪獣映画についてしたり顔でアレコレ言ってたもんだな、という非難や嘲笑は甘んじて受けます・・・)、想像以上にしっかりとした作りでとても面白く観られました。これはやはり観ておいてよかった、いやもっと早く観ておくべきだった・・・と心底思います。
人形を一コマずつ動かして撮るストップモーション・アニメで作られていることを忘れそうなくらい、コングのキャラクター性が見事に表現されていて、コングが複葉機の銃撃を受ける有名なクライマックスには、胸をわしづかみにされるものがありました(胸に銃弾を受けた時の、あのなんとも切なそうな仕草と表情!)。前半の髑髏島における、ティラノサウルスや大蛇などの巨大生物がらみのシーンも良くできておりました。

年またぎ映画祭9本め『キングコングの逆襲』(1967年 日本・アメリカ)
監督=本多猪四郎 特技監督=円谷英二 製作=田中友幸 脚本=馬淵薫 撮影=小泉一 音楽=伊福部昭
出演=宝田明、浜美枝、ローズ・リーズン、リンダ・ミラー、天本英世
DVD発売元=東宝

強力な核兵器製造に必要な物質「エレメントX」を手に入れようとする、悪の天才科学者ドクター・フーは、キングコングを模したロボット「メカニコング」を使役して採掘しようとするが、強い磁気のためにうまくいかない。そこで、南海の孤島モンド島に住む本物のコングを捕獲して、採掘のために操ろうと画策する・・・。
本多猪四郎監督と円谷英二特技監督コンビによる、『キングコング対ゴジラ』(1962年)に続く東宝版コング映画第2弾です。コング型のロボットなどの独自の要素はあるものの、スマートな感じの体型だった『キンゴジ』のコングをオリジナルに近い体型にしたり、ティラノサウルス型の恐竜「ゴロザウルス」(余談ながら、東宝怪獣の中でもわたしのお気に入りの一体であります)や大蛇との戦いを織り込んだりするなど、原点の『キング・コング』を思わせる要素が多々あって、そのあたりに『キング・コング』のフィルムをコマ単位で分析・研究したという円谷英二特技監督のこだわりが感じられました。実際に人が登れるように鉄骨を組んで作られたという、クライマックスの舞台である東京タワーのミニチュアセットも圧巻です。
同じ時期に製作されていたゴジラシリーズが子ども向けを志向していたのに対して、本作は人間側のドラマ部分にも力が入った大人向けともいえる内容。登場人物も、怪優・天本英世さん演じるドクター・フーや、浜美枝さん演じる某国の諜報員マダム・ピラニアといった、悪の側の人物のほうが、ある意味で魅力的だったりいたします。

年またぎ映画祭10本め『ゴジラvsコング』(2021年 アメリカ)
監督=アダム・ウィンガード 製作=トーマス・タルほか 製作総指揮=ジェイ・アッシェンフルターほか 脚本=エリック・ピアソン、マックス・ボレンスタイン 撮影=ベン・セレシン 音楽=トム・ホーケンバーグ
出演=アレクサンダー・スカルスガルド、ミリー・ボビー・ブラウン、レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、小栗旬、エイザ・ゴンザレス、カイル・チャンドラー
Blu-ray発売元=東宝

これまでムートーやキングギドラの猛威から、人類の危機を救ったかに見えたゴジラが、突如として人類に対して牙を剥きはじめる。ゴジラに暴威に対抗すべく、人類は髑髏島からコングを連れ出す。その輸送中、海の中からゴジラが姿を現し、ついにコングとゴジラが一戦を交えることに・・・。
『GODZILLA/ゴジラ』(2014年)『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年)『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)に続く「モンスターバース」シリーズの第4弾で、ついにゴジラとコングの両雄が直接対決するという内容。いやー、これはなかなか面白かった!本作は大みそかに観たのですが、この映画のおかげで一年のいろんな憂さを晴らすことができました。
とはいえ正直なところ、人間側のドラマ部分はいささか混乱気味のようにも思えましたが、怪獣対決イベント映画としては大いに楽しめました。香港でのクライマックスで、公開まで存在が伏せられていたアイツが登場してからの展開にはむちゃくちゃ燃えましたねえ。「地球空洞説」に基づいた地球内部の描写(地上にそっくりの景観ながらも異様な生物が闊歩していて、重力が反転している)も面白いものがありました。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)などの音楽を手がけたトム・ホーケンバーグ(ジャンキーXL)のスコアも素晴らしかったなあ。
人形によるストップモーション・アニメで動かされた『キング・コング』、日本ならではのぬいぐるみにより表現された『キングコングの逆襲』、そしてCGキャラクターによる『ゴジラvsコング』と、時代によって異なる手法で表現されたコングを見ていくというのも、なかなか楽しい経験でありました。

年またぎ映画祭11本め『パシフィック・リム』(2013年 アメリカ)
監督=ギレルモ・デル・トロ 製作=トーマス・タル、ジョン・ジャシュニ、ギレルモ・デル・トロ、メアリー・ペアレント 製作総指揮=カラム・グリーン 脚本=トラヴィス・ビーチャム、ギレルモ・デル・トロ 撮影=ギレルモ・ナヴァロ 音楽=ラミン・ジャヴァディ
出演=チャーリー・ハナム、イドリス・エルバ、菊地凛子、チャーリー・デイ、ロン・パールマン
Blu-ray発売元=ワーナー・ブラザース ホーム エンターテイメント

太平洋の海溝から出現する巨大生物〝KAIJU〟の猛威に対抗するため、環太平洋の諸国は結束して巨大ロボット〝イェーガー〟を建造して成果を上げるものの、さらに強力なKAIJUが頻繁に出現するようになったことで防衛が追いつかなくなり、イェーガー計画は中止されることに。しかし、最後の望みであった〝命の壁〟計画も無効となり、存亡の危機に瀕した人類の希望は再びイェーガーに託された・・・。
日本の怪獣ものやアニメを見て育ったというギレルモ・デル・トロ監督が、それらのジャンルへの愛を全開にした快作です。製作したのは、『ゴジラvsコング』を含む「モンスターバース」シリーズも製作しているレジェンダリー・ピクチャーズ。デル・トロ監督の細部へのこだわり、とりわけ怪獣たちの重量感と、リアルな機械としての動きを追求したイェーガーの描写が素晴らしく、それらのこだわりが生む迫真性が、作品の説得力を増しているように思います。
エンドロールの最後には、2人の〝モンスター・マスター〟へ捧げた献辞が記されています。『キング・コング』の特撮を手がけたウィリス・H・オブライエンのアシスタントをつとめ、『原始怪獣現わる』(1954年)などで優れたストップモーション・アニメによる特撮映像を作り出したレイ・ハリーハウゼンと、『ゴジラ』(1954年)や『キングコングの逆襲』などなど、数多くの東宝特撮怪獣映画の本編監督をつとめた本多猪四郎の2人であります。
ストップモーション・アニメからぬいぐるみとミニチュアによる特撮、そしてCGへと技法は変わっても、根本となるものは脈々と受け継がれているんだなあ・・・ということが2人への献辞から感じられてきて、胸の熱くなる思いがしてきます。


(「その4」につづく)


きまぐれ名画座年末年始スペシャル「閑古堂の年またぎ映画祭」その2

2022-01-03 10:36:00 | 映画のお噂
皆さま、あけましておめでとうございます。
一昨年に引き続き、昨年もなんだか落ち着かない一年となってしまいましたが、2022年こそはおかしなことに振り回されることなく、飲食や旅行などを心おきなく満喫できる一年になるよう願いたいです。ここでおつきあいいただける皆さま、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

さてさて、年末からやっている超個人的映画祭「閑古堂の年またぎ映画祭」、まだ続けております。ということで、これまでに観た作品のご紹介を続けることにしたいと思います。
「年またぎ映画祭」、ふたつめの特集は「火星&火星人映画特集」。1953年版『宇宙戦争』をリメイクしたスピルバーグ版『宇宙戦争』をはじめ、火星人の侵略や火星をテーマとした4本をピックアップいたしました(とはいっても、スピルバーグ版『宇宙戦争』の異星人は、厳密には火星人とされてはいないんだけど・・・)。


年またぎ映画祭5本め『宇宙戦争』(2005年 アメリカ)
監督=スティーヴン・スピルバーグ 製作=キャスリーン・ケネディ、コリン・ウィルソン 製作総指揮=ポーラ・ワグナー 脚本=ジョシュ・フリードマン、デヴィッド・コープ 原作=H・G・ウェルズ 撮影=ヤヌス・カミンスキー 音楽=ジョン・ウィリアムズ
出演=トム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ミランダ・オットー、ジャスティン・チャトウィン、ティム・ロビンス
DVD発売元=パラマウント ホーム エンタテインメント

ある日、街の上を不気味な雲が覆い、そこから同じ場所に何度も雷が落ちる。港湾労働者のレイが雷の落ちた場所に行ってみると、そこから3本足の巨大なマシンが現れてきた。異星人が送りこんできたそのマシン「トライポッド」は、手当たり次第に人々を殺戮し、街を破壊していく。トライポッドから逃れるべく、レイは息子と娘を連れて必死に車を走らせるのだったが・・・。
スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演による、H・G・ウェルズの原作の2度目の映画化です。1953年版の円盤型から、3本の足で進むロボット型に変更された異星人のウォーマシンの、禍々しい破壊と殺戮の権化ぶりもまた、まことに圧倒的でありました。9.11同時多発テロの不安と恐怖を反映させた描写にも、切迫感が溢れておりました。
ヒーロー然とした役柄の多かったトム・クルーズが、家族に疎んじられる小市民のダメ親父を演じているのが新鮮なところで、なかなかの好演でありました。53年版に主演した2人(ジーン・バリーとアン・ロビンソン)がカメオ出演しているのも嬉しいところです。
異星人の猛威から地球人を救うことになる存在は、53年版と同じく微生物で、さまざまな生物と共生することで人間の生もあるのだということが、モーガン・フリーマンのナレーションで高らかに語られます。このあたり、コロナを「撲滅」しようとジタバタ悪あがきする、今の人たちへの痛烈な皮肉にも感じられましたねえ。

年またぎ映画祭5本め『マーズ・アタック!』(1996年 アメリカ)
監督=ティム・バートン 製作=ティム・バートン、ラリー・フランコ 脚本=ジョナサン・ジェムズ 撮影=ピーター・サシツキー 音楽=ダニー・エルフマン
出演=ジャック・ニコルソン、グレン・クローズ、アネット・ベニング、ピアース・ブロスナン、ダニー・デヴィート、マーティン・ショート、サラ・ジェシカ・パーカー、マイケル・J・フォックス、ロッド・スタイガー
Blu-ray発売元=ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

空飛ぶ円盤に乗った火星人たちが地球にやってきた。最初のうちは、地球人との友好を強調していた火星人たちだったが、歓迎式の最中に態度を一変、式場にいた人たちを光線銃で殺戮していく。かくて火星人たちは我が物顔で、地球を侵略すべく攻撃を繰り広げていくのだったが・・・。
でかい脳みそとギョロッとした目玉の火星人が繰り広げる傍若無人な侵略攻撃を、ふた役を演じるジャック・ニコルソンをはじめとした超豪華キャストのもと(歌手のトム・ジョーンズも本人役で登場)、往年のSF映画へのオマージュたっぷりに描いたティム・バートン監督の快作であります。久しぶりに観直したのですが、全篇に溢れるブラックなユーモアと、俗物的な人物たちへの皮肉と嘲笑、そして『宇宙戦争』をはじめとする懐かしのSF映画への愛にあらためてシビれました。侵略者というよりも、どこか悪ガキのような描き方の火星人たちがまた最高なのであります。
ゴジラ映画の大ファンというバートン監督、本作の中で日本のゴジラ映画の一本である『ゴジラvsビオランテ』(1989年)の一場面を引用しているところも嬉しいですねえ。

年またぎ映画祭6本め『カプリコン・1』(1977年 アメリカ・イギリス)
監督・脚本=ピーター・ハイアムズ 製作=ポール・N・ラザルス3世 撮影=ビル・バトラー 音楽=ジェリー・ゴールドスミス
出演=エリオット・グールド、ジェームズ・ブローリン、ブレンダ・ヴァッカロ、サム・ウォーターストン、ハル・ホルブルック、カレン・ブラック、テリー・サヴァラス

人類初の有人火星宇宙船「カプリコン」の打ち上げのカウントダウンの最中に、3人の宇宙飛行士が突如下船を命じられ、密かに砂漠の中にある廃棄された基地に連れ出される。彼らはそこに組まれた火星のセットで、フェイクの火星着陸を演じるよう迫られる。最初は拒否していた彼らも、家族に身の危険が及ぶことを恐れてしぶしぶ応じることに。やがて命の危険を覚えた飛行士たちは脱走を試みるが、NASAの差し向けた追手が彼らを追い詰めていく・・・。
火星への上陸をでっち上げようとするNASAの謀略と、そこから逃れようとする宇宙飛行士たちをスリリングに描いた、ピーター・ハイアムズ監督の傑作SFサスペンス。かなり久しぶりに観たのですが、あらためてその面白さに圧倒されました。
とりわけ、逃走する飛行士の一人を乗せた(といっても、翼に必死にしがみつくという形で!)プロペラ複葉機を、NASAが差し向けた追手のヘリコプター2機が追う、クライマックスの空中チェイス場面はものすごい迫力で、文字通り手に汗握りながら観ておりました。複葉機の操縦士役のテリー・サヴァラスもいい味出してます。
ちなみに本作には、はじめのうちは機材を提供するなどかなり協力的だったNASAが、映画の内容を知った途端に態度を一変させ、協力を拒んだという逸話もあるそうな。まあ、こういう内容じゃムリもないかなあ。

年またぎ映画祭7本め『オデッセイ』(2015年 アメリカ)
監督=リドリー・スコット 製作=サイモン・キンバーグ、リドリー・スコットほか 脚本=ドリュー・ゴダード 原作=アンディ・ウィアー『火星の人』 撮影=ダリウス・ウォルスキー 音楽=ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
Blu-ray発売元=20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

火星上での有人探査の作業中、激しい火星の嵐がクルーたちを襲い、クルーの一人であるワトニーに折れたアンテナが直撃、吹き飛ばしてしまう。ワトニーが死んだものと考えた探査クルーは計画を中止して火星から撤退するが、ワトニーは奇跡的に生きていた。火星に一人取り残されたワトニーは、植物学者としての知識と、持ち前の明るい性格を武器にして、絶望的な状況の中で生き延びるための闘いをはじめる・・・。
火星に一人取り残されてしまったワトニーの闘いと、力を合わせて彼を救おうとする人々を描いたSF大作で、監督は『エイリアン』(1979年)や『ブレードランナー』(1982年)などを手がけた巨匠リドリー・スコット。日本を含む各国でヒットしただけでなく、作品賞を含む7部門でアカデミー賞にノミネートされるなど、商業的にも批評的にも成功した作品となりました。
NASAから協力を拒否された『カプリコン・1』とは対照的に(笑)、NASAの全面的な協力と監修により実現された、リアリティに溢れる火星と探査ミッションの描写には素晴らしいものがありました。たった一人取り残され、命の危機にさらされながらもユーモアを忘れず、知恵と工夫で難局を乗り切ろうとする、マット・デイモン演じる主人公がとても魅力的で、観ていて元気が湧いてくるような気がいたしました。後半の救出劇もまことに胸熱で、見終わったあとに心地いい感動と充実感を覚えました。

(「その3」につづく)