読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

驚きの個人博物館「天領日田洋酒博物館」と、館長の高嶋甲子郎さんの魅力に取り憑かれた、4度目の日田訪問

2023-02-05 21:01:00 | 旅のお噂
少し前のお話で恐縮なのですが・・・1月7日から9日までの3連休を使って、大分県の別府と日田へ出かけておりました。
ここ10何年にわたって毎年のように行っている別府と、今回が4回目の訪問になる日田。大好きな2つの街で街歩きと温泉、そして美味しい食べものとお酒をたっぷりと満喫してまいりました。
昨年の旅と行き先がおなじということもあり、今回の旅の詳しいお話は割愛することにいたしました。ですが、今回訪ねた中で一番の思い出、そして最大の収穫となった場所についてだけ、記しておくことにいたします。日田にある「天領日田洋酒博物館」であります。

(博物館の公式ホームページはこちら(↓)。館内の展示品やウイスキーの紹介などなど、すでに多数の動画がアップされているYouTubeチャンネルも必見であります)

【公式】天領日田洋酒博物館

大分県日田市にある天領日田洋酒博物館(ウィスキー博物館) オーナー高嶋甲子郎が13歳から 約40年を費やしてコレクションした 洋酒やそのノベルティーグッズなど、3万点以...

【公式】天領日田洋酒博物館 – 大分県日田市にある天領日田洋酒博物館(ウィスキー博物館) オーナー高嶋甲子郎が13歳から 約40年を費やしてコレクションした 洋酒やそのノベルティーグッズなど、3万点以上を展示する洋酒博物館。館内にバーやショップも併設。

 
オーナーである高嶋甲子郎さんが、43年かけて収集した洋酒に関するありとあらゆる物品3万点以上を展示する、日本はもとより世界的にも稀有な個人博物館です。
この博物館の存在はしばらく前から知っていて、5年前に日田を訪れたときにも立ち寄ろうとしたのですが、結婚式の二次会のために貸し切りとなっていて入ることができませんでした。昨年の旅でもなんとなく入りそびれてしまい、今回ようやくの訪問とあいなりました。
少々緊張しつつドアを押して中に入ると、中年の男性が愛想よく出迎えてくださいました。館長である高嶋さん、その人でありました。まずは高嶋さんのご説明とともに、主だった展示品を見て回り、そのあとじっくりと館内を見学いたしました。
(館内は撮影自由ということでしたので、以下に挿入する画像はたくさん撮りまくった中の一部です)

ここの目玉となる展示品は、なんといってもNHKの連続テレビ小説『マッサン』のモデルになったニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝氏が設計・製作した蒸溜釜の実物(!)。ニッカが日田の工場を引き払ったおり、高嶋さんが粘り強く交渉を重ねた末に譲ってもらったとか。
蒸溜釜とともに、竹鶴氏みずからの手になる釜の設計図などを記したノートの複製や、竹鶴氏と麗しきリタ夫人のお写真も、当時のボトルなどとともに展示されておりました。


蒸溜釜の実物とともに驚かされたのが、禁酒法時代のアメリカで熟成されたウイスキーの現物です。

禁酒法時代といえば、あのアル・カポネとエリオット・ネス率いる〝アンタッチャブル〟との激闘が繰り広げられていた時代。しばらく前にもブライアン・デ・パルマ監督の映画『アンタッチャブル』を観直していたこともあって、あの時代に醸されていたウイスキー、それも中身の入った現物のボトルが目の前にあるということに、軽いコーフンを覚えましたねえ。

太平洋戦争のおり、「皇軍慰問品」として支給されたという「日の出ウヰスキー」の箱。金属不足だった時代ということもあり、留金の部分には革が使われているとのこと。こちらも、時代を物語る貴重な一品であります。

さまざまなカタチをしたボトルやミニボトルの数々にも、目を奪われました。

このクラシックカーのリアルなミニチュアもウイスキーのボトル。後部のスペアタイアのところがキャップになっております。

マリリン・モンローとエルヴィス・プレスリーをかたどったボトル。首のところがキャップになっているプレスリーのに対して、モンローのはオトコどものスケベ心を刺激する趣向として(笑)、下のほうにキャップがつけられております。

ギネス世界記録に認定されているという「世界最小のボトル」。比較の対象のない上の画像ではわかりにくいのですが、人間の指先とさほど変わらないくらいの小ささ。それでもちゃんと中身が入ってるのが見事であります。

宝石で有名なティファニーと、シーグラム社とがコラボしたボトル。デザインのおしゃれさが、いかにもティファニーという感じがしますねえ。

ヨーロッパ最古のリキュール醸造所という、オランダの「ボルス」のボトルの数々。動物をかたどったガラス製のボトルは実にかわいらしく、また芸術的でありました。

サックスやピアノなど、ジャズバンドが使う楽器にウイスキーのミニボトルを組み込んだ「JAZZ SET」。これもまた、実に凝ったつくりがため息ものでありました。

展示されているミニボトルの半端ない数にも圧倒されました。高嶋さんいわく、「展示していないものも含めると3万本以上はありますかねえ」とのこと。すごい!


かつてサントリーが出していた伝説のPR誌『洋酒天国』と、柳原良平さんのイラストがキュートな『洋酒マメ天国』。後者は、サントリー宣伝部に属していた山口瞳さんや開高健さんをはじめ、伊丹十三さんや永六輔さんなどといった錚々たる面々が執筆に参加していたというシリーズで、全36巻がコンプリートで揃っているとか。またまたすごい!!

1960年代、酒屋さんの配達に活躍していたという富士重工業(現SUBARU)のスクーター「ラビット」の現物までありました。ただし側面に記されている「高嶋酒店」は実在したお店の名前ではなく、館長である高嶋さんにひっかけてのオリジナルとのこと。

このほかにも、酒造メーカーのノベルティグッズや広告、コースターや栓抜きなどの用具類などなどなどなどが所狭しと展示されていて、もうひたすら圧倒されました。気がつくと1時間ほど経っておりましたが、ひとつひとつ丁寧に見ていったら1日がかりになりそうなくらい、膨大な量のコレクションでした。洋酒と酒文化に関心のある向きには、まことに興味の尽きない博物館であるといえましょう。
ちなみに、展示品のなかでとりわけ気に入ったのがコチラ(↓)。ウイスキーを抱えた2匹の木彫りのクマさんが可愛くっていいねえ。


質量ともに圧倒的な展示品の数々もさることながら、オーナーである高嶋さんがまた、実に魅力的で最高でありました。
展示品をユーモアたっぷりに説明する口調の面白さ、気さくでサービス精神に溢れたお人柄、そしてお酒に対する熱量と愛、そのすべてに惹きつけられました。例の「マッサン」の蒸溜釜のところでは「どうぞどんどん触っちゃってください!ご利益ものですから」などと勧めてくださった挙句、わたしをその前に立たせて記念撮影までしてくださいました。おまけに、バッテリーが切れかけていたiPadの充電のために、電源コンセントまでお貸しいただいたり(本当にありがとうございました)。
なんと13歳の頃から、洋酒関連のコレクションを始めたという高嶋さん。しきりに「もうアホですわ」などと自嘲めいておっしゃってましたが、こうやって自分が「好き」だと思える一つのことにとことんこだわり、徹底することが、大きな価値を生み出す原動力となるのだ・・・ということを実感させられました。
そんな高嶋さんからは、会った人のほとんどを虜にするような、人を惹きつける磁力やオーラがじんじんと感じられました。それはリスクに怯え、ちまちまとした世間体とやらを気にするばかりのヒトたちからは感じられないものであるように思いました。
そんな高嶋さんに惹きつけられた方の一人が、現在も連載中の『クッキングパパ』(講談社)で知られる、福岡県在住の漫画家・うえやまとちさん。これまでに5回、洋酒博物館を訪れたといううえやまさんは、『クッキングパパ』の作中にも2回にわたり、博物館と高嶋さんを取り上げたといいますから、そうとう博物館と高嶋さんの魅力に惹かれたことが窺えます。

(↑天領日田洋酒博物館を取り上げたエピソード2編を収録した『クッキングパパ』単行本127巻。高嶋さんも〝タカさん〟というキャラクターとして登場しております)

まことに楽しく陽気なお人柄の高嶋さん。しかし、その陰でしんどい逆境も経験なさっているということを、博物館の公式ホームページにもリンクが貼られているこちらの記事で知りました。↓
39年かけて集めた約3万点の洋酒コレクションを博物館に。ウイスキーに人生を捧げた男の「夢の城」 - メシ通 | ホットペッパーグルメ
この高嶋さんへのインタビュー記事によれば、2016年4月の熊本地震の時には、貴重な展示品の一部が被害を受けた上、入館する観光客の減少にも苦しめられたといいます。同じ年の7月には、経営していた会社やお店、さらには洋酒博物館の姉妹施設であったビールミュージアムが、火事により全焼してしまうという苦難に見舞われます。そして、火事から1年後の2017年7月には、九州北部豪雨によってまたも観光客の激減に直面させられることに・・・。そんな逆境つづきの中で多くの人びとから支えられ、その経験と感謝の思いを財産とすることが、今の自分のパワーの源となっていると、高嶋さんはこの記事の中で語っておられます。
人を惹きつけてやまない高嶋さんの楽しさと人間力は、逆境によって磨かれ、逆境を乗り越えることで醸し出されたものなんだなあ・・・ということを、深く納得させられたのでありました。

「夜はバーもやってますから、よかったらどうぞ!」ということで、宿泊した日田温泉の宿「亀山亭ホテル」さんでの夕食のあと、ふたたび洋酒博物館に足を運び、併設されているバーにお邪魔いたしました。博物館の館長からバーのマスターになった高嶋さんと、それを補佐するバーテンダーさんが出迎えてくださいました。




日田杉の一本板で作られた、長さ12メートルものカウンターの上、そしてカウンターの背後にも、ウイスキーをメインにお酒のボトルがズラリ。そんな居心地のいい空間で飲む、ハイボールやウイスキーの水割りの美味しかったこと!
ここでは高嶋さんのほかに、地元の焼肉店「五葉苑」の社長をやっておられる方との会話で愉快に過ごすことができました。この社長さんもまた、高嶋さんといい勝負の面白さと人間的魅力、そして熱量をお持ちの方で、やはり魅力ある人のもとには魅力ある人が引き寄せられるんだなあ、ということを感じましたねえ。
おかげさまで、深まる日田の夜を楽しく過ごすことができた上に、たっぷりと元気をいただくことができました。やっぱり夜も来てよかったなあ。

実は今回の訪問で、しばし日田訪問はお休みにするつもりでおりました。しかしながら、「天領日田洋酒博物館」と館長である高嶋さんの魅力に取り憑かれてしまったことで、また日田に行きたいという思いがふつふつと湧いてまいりました。そうそう、「五葉苑」の社長さんからも、ちょっとした〝宿題〟を与えられておりますので、その意味でもまた日田に行かなければならないのであります。
ぜひまた、「天領日田洋酒博物館」と高嶋さん(そして「五葉苑」の社長さん)に再会すべく、日田に足を運びたいと思います!