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『中国遊園地大図鑑 北部編』 インパクト抜群のスポット満載!久しぶりに出会えて嬉しい、わたし好みの珍書

2016-12-18 11:20:14 | 本のお噂

中国珍スポ探検隊Vol.1『中国遊園地大図鑑 北部編』
関上武司著、パブリブ、2016年


版権を無視して溢れかえる有名キャラのパクリ。全体的にクオリティが低い中で、必要以上に怖さが際立つお化け屋敷。抗日劇やサバイバルゲームで愛国精神を叩き込むテーマパーク・・・。日本人の多くがまだまだ知らないであろう、そんなめくるめく中国の遊園地ワンダーランドを、オールカラーの写真をたっぷり詰め込んで紹介していくのが、この『中国遊園地大図鑑 北部編』であります。
著者の関上武司さんは、ブログ「軟体レポート」で中国や日本の珍スポットを紹介しておられる方。本書では、北京や青島などの華北地方や、ハルビン、長春、瀋陽、大連といった東北地方に存在している、インパクト抜群の珍遊園地やテーマパークなど28ヶ所を実地に踏査し、豊富な写真とともに紹介し、ツッコミを入れまくっていきます。

まず最初に登場する「北京石景山遊楽園」は、パクリディズニーキャラや園内に堂々とそびえ立つシンデレラ城などで「偽ディズニーランド」として日本でも騒がれた場所です。
パクリを批判されて控えめになったかと思いきや、バッグス・バニーやベティ・ブープ、ユニバーサル・スタジオのサメ、さらには初音ミクなど、園内は相変わらずパクリキャラの巣窟となっているようです。おまけに、着ぐるみの足元が思いっきりスニーカーだったり、キャラの頭部からは人の顔が丸見えだったりと、全体的にチープな感じがありあり。あげくの果てには、メルヘンチックな遊具の中でネギやらカボチャといった農作物が、誰はばかる様子もなく栽培されているというありさま。そんな遊園地って・・・。「収穫した野菜はスタッフがおいしくいただくのだろうか」という、著者の関上さんのツッコミもいい感じであります。
このような場所でも、「全国先進遊楽園」「北京市愛国主義教育基地」などの立派な肩書が授けられているんだとか。もうのっけから、中国の妙な部分での奥深さを感じてやみませんでした。

やはり一悶着をひき起こしたのが、「石家庄新長城国際影視城」という映画撮影のためのオープンセット。
ここには高さ約20m、全長約60mという、ほぼ実物大の偽スフィンクスが建てられていたのですが、これにエジプト政府が激怒。世界遺産条約に違反したとしてユネスコにクレームをつけるという騒ぎになったとか。
結局、誠に残念ながら(?)、この偽スフィンクスは今年(2016年)の4月に撤去されたそうですが、偽スフィンクスのあとにもフランスのルーブル美術館前にあるガラス張りピラミッドの偽物をこしらえるなどしているそうで、こちらも懲りている様子はないようです。

日本の京都大学や明治大学、イギリスのベッドフォードシャー大学とも交流があるという芸術系の学校「河北美術学院」の校舎もなかなかのものです。
壮麗なゴシック建築の校舎のところどころに彫像が据えられているという、かなり気合いの入ったつくりながら、そびえ立つ時計台は思いっきり、映画『ハリー・ポッター』シリーズのホグワーツ魔法魔術学校のパクリだったりいたします。やれやれ、これはダンブルドア校長先生を呼んできてお説教してもらわにゃいかんのう。

とりわけ中国らしい独特なスポットといえそうなのが、抗日テーマパークでしょう。
山西省にあるその名も「八路軍文化園」では、民衆に非道な狼藉をはたらく日本軍を八路軍が全滅させるという、まあいかにもな感じの筋書きの抗日劇が上演されているとか。ああこういう場所においても反日愛国教育が日々行われているんだなあと、日本人としては複雑な感情が湧いてくるのを禁じ得ませんが、その売店では日本の漫画およびアニメ『NARUTO』のキャラグッズが売られていたりするというから、もう何が何だか。いろいろあっても実は日本が好きなのか、中国の人。
同じく山西省にある「遊撃戦体験園」は、レンタルの軍服や銃を身につけて、八路軍と日本軍に分かれてプレイするというサバイバルゲームが体験できる場所。しかし、交通アクセスが悪く周囲に何もなさそうな僻地に立地していて、訪れる人は少なそうだったりいたします。
著者の関上さん、上の抗日テーマパーク2ヶ所には(よりによって)8月15日に訪れたそうですが、幸いにも日本人とはバレなかったとのこと。わたしも機会があれば覗いてみたいところですが、日本人だとバレたときのことを考えるとやはり二の足を踏みそうだなあ。

コンセプトのチグハグさや不釣り合いさが、なんともいえない味を醸し出しているような施設も、いくつか紹介されています。
瀋陽市にある「瀋陽南湖公園」。甘すぎる造形で脱力するような表情になっているミッキーマウス、緑や青というアンパンらしからぬ色で塗られたアンパンマン型のライド、眉毛がないヘタな手描きのちびまる子ちゃん、幼い子どものような稚拙な画力のイラストの数々、と全体的にはクオリティが低い中で、西洋風の世界観で統一されているというお化け屋敷だけはものすごく気合いの入ったつくりで、欧米のスプラッター・ホラー映画もかくやというおどろおどろしさです。なんでここまでクオリティに差が・・・。
また、大連市にある「星海公園」の回転ブランコには、遊具らしからぬ肌もあらわなセクシーねえちゃんの写真が散りばめられていたりします。園内では残飯の肉を貪る野良犬が群れていたりもしていて、どう見ても子どもに向いた場所とは思えない・・・。

とまあ、いずれもインパクト抜群な珍遊園地や迷テーマパークの数々に、ページをめくるたびに驚愕と笑いがこみ上げてまいりました。
また、中国の遊園地には2階建てのゴージャスなメリーゴーラウンドがあったり、習近平政権のスローガンである「社会主義核心価値観」(富強、民主、文明、和諧、自由、平等、公正、法治、愛国、敬業、誠信、友善の24文字で構成)が園内に掲げられたりしているといった “中国遊園地ちょっといい話” も随所に記されていて、好奇心をそそらせてくれます。
それぞれの施設の紹介には、中国語の簡体字や発音、交通アクセスなどの細かなデータも付されておりますので、実際に出かけてみようという方の役にも立ってくれそうですね。

著者の関上さんは「あとがき」の中で、気になる中国の遊園地・テーマパークがあればパスポートをとって早めに行け、と呼びかけています。「中には廃墟遊園地や大学の敷地になるケースもあり、収録した物件がどのように変化するのか誰にも予測できない」上に「中国各地の遊園地のパクリキャラもいつかは駆除される」と危惧しているというのが、その理由です。
思えば、過剰なまでのパクリキャラの氾濫といい、いささかチグハグさを感じさせるコンセプトの施設といい、良くも悪くもなりふり構わず、追いつけ追い越せという感じで成長を志向してきた、現代の中国の縮図だと言えなくもないような気がいたします。そう考えると本書は、変化していく中国社会のありようの記録としても、価値があるように思えます。
でも何はともあれ、ちょっとヘンな物件が大好きだという、ムダなまでに(笑)好奇心が旺盛な方なら、間違いなく楽しめること請け合いの一冊であります。

2016年も押し詰まってきた中、久しぶりにわたし好みの珍書にめぐり合うことができて、とても嬉しゅうございます。
今回は「北部編」ということですので、これから順次、中国各地にあるインパクト抜群の物件を本にまとめていくということなのでしょう。それらも楽しみに待つことにいたします。

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