『祭の馬 相馬看花 第二部』(2013年)
監督・撮影・編集=松林要樹
千年の昔から受け継がれてきた伝統行事「相馬野馬追」で知られる福島県南相馬市のとある厩舎。東日本大震災で発生した大津波はそこにも押し寄せたが、38頭の馬たちは奇跡的にすべて生き残ることができた。
しかし、その後に起こった原発事故により、半径20km圏内に位置していたこの地の住民には避難指示が出され、馬たちはすべて置き去りにされる。馬主はありったけの食糧を残していったものの、9頭が餓死してしまった。
その後、馬を含むすべての家畜を殺処分するよう要請されるが、野馬追という伝統行事にも参加する馬ということで、特例により南相馬市の管理下のもとに避難することができた。だが、放射能汚染というレッテルを貼られた馬たちは移動を厳しく制限され、食肉用として売ることもできないまま避難先の厩舎に閉じ込められることを余儀なくされた。
そんな馬たちの中に、ケガをしたおちんちんが腫れ上がって大きくなってしまったオス馬がいた。ミラーズクエスト、4歳。4戦0勝、獲得賞金0円と、はなばなしさとは程遠い戦績の末に登録を抹消され、南相馬の厩舎にやってきて間もなく津波にのまれ、その時に負ったケガの後遺症が、おちんちんを腫らしていたのだ。
秋になり放牧が始まるが、放射性物質を含む草を食べてしまうということでほどなく放牧は中止され、馬たちは再び厩舎に閉じ込められる。劣悪な環境で病気になり、死んでしまう馬も出る中、北海道の日高市が馬たちの一時受け入れ支援を申し出る。ミラーズクエストをはじめとする馬たちは、北海道の自然の中でのびのびとした日々を過ごすことができた。
4ヶ月後、馬たちを迎えにきた馬主がミラーズクエストの股間を確認すると、腫れ上がっていたおちんちんはだいぶ小さくなっていた。これなら野馬追のときも邪魔にはならないだろう、と安心する馬主であった。
そして2012年の夏。古式ゆかしい鞍と衣装に身を固めたミラーズクエストら被災馬たちは、野馬追の会場へと堂々出陣していくのであった•••。
『311』(2011年、共同監督)に『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』(2012年)と、被災した地域に目を向けた作品を手がけてきた松林要樹監督が、とんでもない運命に直面してしまったミラーズクエストをはじめとした馬たちと人との関わりを、ユーモアとペーソスを交えた視点で記録してまとめたドキュメンタリー映画です。
言葉を発することができない馬たちは、そのぶん体を使ってさまざまなことを語りかけているかのようでした。
狭い馬房に閉じ込められてやせ衰え、生気のない瞳でじっとしているしかなかった姿と、北海道の大地で嬉しそうに駆け回る姿との対比は、馬たちにとって生きる意味とはどういうことなのかを雄弁に物語っていました。
馬たちを殺処分させまいとする馬主さんたちの姿勢にも心を打たれました。やがては食肉用としてされる(競走馬や行事用の馬であっても、その役目を終えれば食肉用に回されることになるのです)馬であっても、手塩にかけて一生懸命世話をした、大切な命であることに変わりはありません。合理性だけでは測ることができない、命の意義を考えさせられました。
相馬の歴史や文化に対して、作り手が最大限の敬意をもって分け入っていることも、映画の端々から感じとることができました。その意味では、はなはだ困難かつ異常な状況下においても、馬と人とにより脈々と織りなされていた、一つの民俗誌としても観ることができるように思いました。
どんなに困難な状況でも受け継がれていく、命と歴史の価値と重さを感じた作品でありました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます