『離島の本屋 22の島で「本屋」の灯りをともす人たち』
朴順梨著、ころから、2013年
地方によっては発売日から1~2日程度のタイムラグがあるとはいえ、出版された本や雑誌がほぼ確実に、しかも豊富に手に入ることができる日本の本土。そこに住んでいると、海を隔てた離島の人びとがどのように本を手に入れ、触れているのか、なかなか見えにくいところがあります。
本書『離島の本屋』は、物流などで大きなハンデを抱えつつも、島の人びとに本を手渡すべく奮闘する本屋さんを訪ね歩いたルポルタージュです。NPO法人本屋大賞実行委員会が発行するフリーペーパー『LOVE書店!』に現在も続いている連載から、約8年分がまとめられています。
訪ね歩いたのは、最北の島である北海道・礼文島から、最西端の島である沖縄県・与那国島まで、全部で22の島々。著者の朴さんは、それぞれの島の風土と、そこで頑張る本屋さんの佇まいと仕事ぶりを、まことに丁寧に掬い取っています。島の息吹を伝える写真の数々も、実にいい感じです。
登場する本屋さんが、またそれぞれに魅力的。本はもちろん、日本酒や焼酎、ワインといった酒類の品揃えにもこだわりを見せているという、長崎県中通島の本屋さん。日本最北端の北海道・礼文島にある、図書館と一緒になっている町営の本屋さん。同じ島から輩出された民俗学者・宮本常一のコレクションの充実ぶりに全国から注文が来るという山口県周防大島の本屋さん、などなど。
それぞれの本屋さんからは、その島の風土とともに、そこに住む人たちの暮らしぶりが浮かんでくるようで、楽しくまた興味深いものがありました。
また、本屋さんがない島で、島の人たちに本を手渡すべく頑張る方々も取り上げられています。小笠原諸島の父島と母島の図書館で働く方々(その多くが島外からの移住&異動組)。日本最西端の沖縄県与那国島で、自宅を利用して子どもたちに本の楽しさを伝えていた私設図書館•••。これらの人たちの存在にもまた、嬉しい気持ちになりました。
とはいえ本書は、楽しく嬉しいだけのものになっているわけではありません。
長らく続く出版業界と書店業界の苦境という現実は、残念ながら島の本屋さんにも無縁ではありません。加えて、人口の減少や高齢化などといった離島特有の現実にもさらされる中、島の本屋さんを取り巻く環境には厳しいところもあるのです。
現に、本書に取り上げられた書店の中にも、諸事情により店を閉めてしまったところがありました。そんな現実に触れているところでは胸が詰まるものがありました。
しかし、本屋さん、そして本の将来に対する希望も、また本書にはちりばめられています。
『千の風になって』(新井満著、講談社)を口コミの力で島内ベストセラーにしたという、愛媛県弓削島の本屋さん。お客さんに本を教え、時には逆に教えられながら成り立つ、東京都新島でただ1軒の本屋さん。野菜を携えてやってくる人や、自転車の修理を頼みにやって来る人がいたりと、島の人たちの交流場所のようになっている八丈島の本屋さん•••。
八丈島の章で、著者はこのように書いています。
「話をしたり、困り事を解決したり••••••。離島の本屋は、本を買う場所だけにあらず。人と人とが交わり、支え合うためのプラットフォームの役割も果たしているのかもしれない。」
思えばこれは、本屋という場所が本来持っていた原点としての姿だったのではないでしょうか。それが、離島の本屋さんにはしっかりと生きている、ということに、何やら感慨深いものを覚えました。本屋が持っていた原点には、まだまだ可能性が残されているのではないか、と。
さらに感慨深かったのは、沖縄本島から300㎞以上離れている北大東島に、那覇市からやってくる「出張本屋」を取材した章でした。
本屋のない人口500人ちょっとの島に、年1回やってくる出張本屋さん。それをお祭りのように楽しみにし、夢中になって本選びに興じる子どもたち、そして大人たち•••。その様子を綴った文章を読むと、知らず知らず目頭が熱くなるのを覚えました。
本は、そして本屋には、まだまだ力があるはずだ•••。北大東島の章を読み、そんな思いが湧き上がってきました。
わたくし自身、書店づとめ(といっても外商専業の書店なのですが•••)をしている中で、自分のやっていることの意義を忘れそうになることが、正直あります。
本書はそんなわたくしに、本と本屋の可能性と力を再確認させてくれました。
本と本屋さんはもちろん、島を愛する皆さんすべてにオススメしたい、宝物のような一冊であります。
いつか、本書に出ている本屋さんを訪ねながらの島旅ができたらいいなあ•••。
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