読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】『そのこ』 遠い国の悲しい現実を、読むものの身近へと引き寄せてくれる絵本

2013-09-30 22:30:20 | 本のお噂

『そのこ』
谷川俊太郎詩、塚本やすし絵、晶文社、2011年

世界には開発途上国を中心に、学ぶ機会を与えられず過酷な状況の中で働かされている、あるいは働かざるを得ない子どもたちが、数多く存在するという悲しい現実があります。
つい最近(9月23日)、ILO(国際労働機関)が発表した、2012年現在の世界の子どもの労働についての報告書によれば、世界の5歳から17歳の子どもの10%近くにあたる1億6800万人が、農作業などの労働に従事しているといいます。4年前の調査よりは20%余り減っているとはいえ、少なからぬ数の子どもたちが、学ぶことも遊ぶこともできずに働かされているのです。
さらには、少年兵として戦ったり、人身売買の被害に遭っている子どもたちも8500万人いるのだとか。痛ましい現実は、まだまだ多くの子どもたちの上にのしかかっています。

今回取り上げる絵本『そのこ』は、日本から遠く離れた西アフリカのガーナで、チョコレートなどの原料となるカカオの収穫に従事する子どもを通して、児童労働の現実を描いた作品です。
谷川俊太郎さんによる詩は、日本に住んでいる「ぼく」が、遠いガーナで働く「そのこ」の日常を、自分の日常と対比させながら想像するところを綴っていきます。
「おなじそら」の下に生きながら、あまりにもかけ離れた、日本とガーナの子どもの置かれた境遇。それが、地球規模で成り立つグローバル経済の中での現実であることを、谷川さんは簡潔にして繊細なことばで訴えかけます。
そして、力強いタッチと鮮やかな色彩により描かれた、塚本やすしさんによる絵。それはことさら、悲惨さを強調したものにはなっていません。しかしその絵は、遠く離れた場所の現実を身近へと引き寄せ、自分のこととして考えさせるような喚起力に溢れたものとなっています。
終始顔を見せず、後ろ向きで描写される、ガーナで汗まみれになって働く「そのこ」。その姿に、やはり過酷な環境の中で働いているであろう、世界各地の多くの子どもたちの姿が重なります。
「そのこのみらいのためになにができるか」とのことばに続く最後の数カット。過酷な境遇にある子どもたちへの祈りとともに、悲しい現実の中にある希望をも表したかのようなそれらの絵に、深い感銘を受けました。
本書の扉に描かれた絵には「2011.3.11」との日付が記されています。そう、あの東日本大震災でも、多くの子どもたちが辛く悲しい思いをしました。そのことにも、あらためて思いを馳せることになりました。

遠い国の悲しい現実を自分のこととして捉え、未来に向けて何ができるのかを考えていくための、確実な一歩となる大事な絵本です。一人でも多くの子どもと大人の手に取られ、読まれることを願います。

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