『なないろどうわ』
真珠まりこ著、アリス館、2013年
(おおむね)ひと月に一回、読んだ絵本を紹介している、この「わしだって絵本を読む」。
なるべく違う作家やテーマの作品を取り上げようと思っているのですが、今回はいちばん初めに登場した真珠まりこさんに、再度登場していただくことにいたします。
今回取り上げるのは、今年7月に刊行された『なないろどうわ』。森の中で仲良く暮らす、くま、うさぎ、さるを主人公にして、赤、橙、黄色、緑、青、藍色、紫の7色それぞれをモティーフにした短いお話が綴られています。
赤のお話「あかいりんご」。自分だけの秘密にしているりんごの木になった実を、独り占めにしようとするくま。ところが、その木を偶然見つけたうさぎは、さるとくまに食べさせようと、実を全部もいで持って帰ってしまった•••。
橙のお話「だいだいの花」。それぞれ自分が育てているだいだいの花が一番!と言うくま、うさぎ、さるは、どの花が一番の花を咲かせられるのか競争することに•••。
黄色のお話「きいろいたいよう」。顔にできたおできをリボンで隠して現れたうさぎ。ギラギラと黄色く輝く太陽のもと、気持ち良さそうに泳ぐくまとさるを見て羨ましくなったうさぎは•••。
緑のお話「みどりの葉っぱ」。たんこぶの治療に良し、お茶に良しの、ハートの形をした緑の葉っぱを焚き火に振りかけてみると•••。
青のお話「青い川」。川に舟を浮かべて川遊びの最中、なぜかくよくよとした問いかけを続けるうさぎと、それに答え続けるさるに、くまは•••。
藍色のお話「藍色の夜」。星空を眺めていると流れ星が。うさぎとさるは願いごとをするが、くまは願いごとが見つからずに悲しそう•••。
そして紫のお話「むらさきの時間」。夜明け前に目が覚めたくま。周囲の景色はまだ紫色。やがて、東の空が明るくなり、夜が明けてくると、空の色が•••。
それぞれの色の魅力が感じられる本を作ろうと思っていた、という作者の真珠さん。お話ごとに、それぞれの色が画面いっぱいに活かされていて、ページをめくるごとに目が嬉しくなるような思いがしてきます。
それら7つの色から生み出された、楽しくも暖かみに満ちた短いお話。それぞれに込められた、人間に対する信頼感と前向きな優しさは、読むものをほっとさせてくれるものがありました。
時には行き違いがあったり落ち込んだりしながらも、互いへの思いやりを忘れることのない仲良し3人組のお話一つ一つは、むしろ気持ちが疲れて刺々しくなりがちな大人たちに、じんわりと効いてくるものがあるかもしれませんね。
ちなみに個人的なお気に入りは、「青い川」と「藍色の夜」。ともすれば夢を失い、くよくよとした考えに落ち込みがちな中で、わくわくしながらたくさんの夢を見ることの大切さを、しみじみと感じさせてくれました。
子どもも大人も、一つ一つのお話をゆっくり楽しみ、味わいつつ読んでほしい絵本であります。
寝る前に1話ずつ読むなんてのもいいかも。いい夢が見られるかもしれませんね。
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