『ダムの科学 知られざる超巨大建造物の秘密に迫る』
一般社団法人ダム工学会 近畿・中部ワーキンググループ著、ソフトバンク クリエイティブ(サイエンス・アイ新書)、2012年
「ダムマニア」と呼ばれているヒトたちがおられるそうですな。各地にあるダムを訪ね歩いてはそのカタチを愛でる、という趣味をお持ちの皆さんのことをそういうのだそうで。
たいていは周りに何もないような、山の奥のほうにあったりするダムをあちらこちらと巡るわけですから、その趣味のないわたくしなんぞには、なかなかに物好き、もとい、求道的な趣味だなあという感じがしたりもするのですが、渓谷にどーんと立っている巨大な構造物の威容というのは、なにかしらヒトを惹きつけるものがあるのかもしれませんね。
本書は、そんなダムマニアの皆さんのようにはダムを身近には感じていないようなフツーの人びと(あ、一応このわたくしも含んでおるわけですが)にも、ダムの基礎知識から歴史、作り方、最先端技術、そしてトリビアまでが丸わかりできるようにまとめられた一冊であります。
たとえば、ダムの高さや貯水容量順でみた日本と世界のダムランキングなんてのがあります。貯水容量ベスト10のところには、2億6100万m3を誇るわが宮崎の一ツ瀬ダムが10位にランキングされております。1位は岐阜県の徳山ダムで6億6000万m3。おおそれはすごいと思っていたら、海外には1000億m3以上も貯水容量があるダムがいくつもあるというのですね。いやあ、ダム湖も広いけど世界も広いなあ、とつくづく思うのであります。
また、日本と世界の代表的なダム技術者を8人ずつ紹介している項目。日本編にトップで登場するのが、東大寺大仏建立にも携わった仏教僧の行基(ぎょうき)。昔はダムの建設や改築には、土木技術にも秀でていた僧侶たちも関わっていたんだとか。
そして、世界のダム技術者でトップに登場するフランスのフランソワ・ゾラは、『居酒屋』などで知られる文豪、エミール・ゾラの父親だったりして、意外なヒトとダムとの関わりを知ることができましたね。
ちょっとびっくりだったのは、コンクリートで作られたダムは、セメントが固まるときの発熱によって「中心部は、ぬるいお風呂くらいの温度」になっている、ということ。そして、ダムは水圧やダム自体の膨張・圧縮によって、常に上下流方向および上下にわずかながら動きつづけている、というのも「ほほ~」というオドロキがありましたね。
なにより、本書に豊富に収められているいろいろなダムの写真を見ていると、ダムというのは本当にそれぞれが個性のある存在なんだなあ、ということがよくわかるのであります。
中でも、1929年に作られた香川県の豊稔池(ほうねんいけ)堰堤は、5つのアーチを組み合わせた凝ったデザインに目を見張ります。そして1938年に作られた大分県の白水溜池堰堤は、壁面を流れる水の模様がなかなかの美しさ。いわゆる「戦前」のデザインというのも、なかなかいいセンスしてたんだなあ、と思いましたよ。
•••などということをしたり顔して書いたりなんぞしているわたくしも、実はダムにちょっと関心が向いてきたのかもしれんなあ。
ダムマニアの皆さんにはいささか物足りないのかもしれませんが、それ以外の皆さんには、拾い読みするだけでもいろいろと興味が湧くところのある内容なのではないでしょうか。
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