読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

「個展 忌野清志郎の世界」を観に行く

2013-05-12 20:28:57 | 宮崎のお噂
亡くなってから4年となる、「キング・オブ・ロック」忌野清志郎さん。
日本の音楽シーンに巨大な足跡を残した清志郎さんの歩みを、自作の絵画や遺品、ステージ衣装やレコード、コンサートのポスターなどで伝える展覧会「個展 忌野清志郎の世界」が、宮崎市のど真ん中にあるみやざきアートセンターにて開催中であります。わたくし、昨日(11日・土曜)観に行ってまいりました。



まずは、清志郎さんが終生にわたって描き続けてきた絵画やイラストの数々。これだけたくさんの清志郎さんの絵をまとめて観たのは初めてでした。本格的な油彩画から軽妙なイラストまで、その多彩さに圧倒されました。
まず目を引いたのは何点かの自画像。デビューした1970年、高校卒業時に描いた自画像には、顔が描かれていませんでした。さらに、喉頭がんの治療を受けていた頃に描かれた、治療のために丸坊主になってしまった姿の自画像も。清志郎さん、それぞれの絵を何を思いながら描いたのかなあ、と、しばし思いを巡らせました。
子どもたちを描いた何点かの絵には、清志郎さんの優しい眼差しが溢れているようで、観ていて胸と目頭が熱くなってくるのを覚えました。また、『おとうさんの絵』(2003年)などの絵本の原画も。それらにも温かみとともにユーモアがあり、どれもまことに楽しいものでありました。
清志郎さんが使っていた画材道具の一式や、愛用の自転車「オレンジ号」も展示されていました。ああこれが清志郎さんが手にしていた道具なのか•••と思うと、これまた感無量でありました。清志郎さんが描いた絵で飾られたスニーカーもありましたが、これは宮崎展で初公開、とのことでした。
下の写真は、1998年にタワーレコード新宿店のオープンを記念して描かれた大型の絵画の一部。ロビーに展示されていたこの作品のみ、写真撮影可でした。


そして、「キング・オブ・ロック」としての清志郎さんを伝える、ポートレート写真やLPレコードのジャケット、ツアーのパンフレットやポスター、ステージ衣装。折に触れて聴いていた、あの曲この曲が頭の中に蘇ってきて、懐かしい気持ちになりました(とはいえ、けっきょく一度も清志郎さんのコンサートに行くことはできなかったんだよなあ。涙)。「ZERRY」なる別人(?)になりきり、社会への怒りをぶつけた「THE TIMERS」のときにかぶっていたヘルメット、なんてのもありました。
1980年代から亡くなる年までにわたる中から選ばれた、11点のステージ衣装。いずれも趣向を凝らしまくった、それらのど派手な衣装を見ていると、「栗原清志」という、ある種の繊細さや優しさを持っていたであろう男が「忌野清志郎」であるためには、このようなど派手さが必要だったのかもしれないなあ、などと、勝手なことを思ったりなんぞしておりました。これらの衣装を身にまとい、ステージ狭しと歌いまくる清志郎さんを、一度でもいいから目の前で見ておきたかったなあ•••。
この展覧会のために作られた、プロモーションビデオやオフショット映像を編集したスペシャル映像を上映するスペースも。「トランジスタ・ラジオ」や「ベイビー!逃げるんだ。」など、こちらも懐かしかったなあ。「Oh!RADIO」のPVは、古い駅舎が残る肥薩線の嘉例川駅(鹿児島県)でもロケをやっていましたね。他に、さる小学校での卒業記念ライブのときの映像も。

物販コーナーでは、展覧会の図録をはじめ、CDや清志郎さんの著書、Tシャツなどなどが販売されていました。図録か著書を買おうかなあ、と思いつつ物色していると、DVDが目に止まりました。

2010年にNHKのBSで放送されたというドキュメンタリー番組をDVD化したものでした。まだ観たことはないものだったので、これはぜひ観たい!と思わずこれを購入することにしました。これから楽しみに観ることにいたします。

清志郎さんのさまざまな側面を伝え、その存在の大きさをあらためて認識させてくれた展覧会でした。やはり観ておいてよかったと思います。
「個展 忌野清志郎の世界」は、みやざきアートセンターで今月26日まで開催されます。この機会にぜひお運びのほどを。

【読了本】『決着!恐竜絶滅論争』 定説はなぜ「定説」たり得たのか

2013-05-05 07:47:51 | 本のお噂

『決着!恐竜絶滅論争』後藤和久著、岩波書店(岩波科学ライブラリー)、2011年


今から6550万年前に起こった、恐竜をはじめとした生物の大量絶滅。
その原因をめぐってはさまざまな仮説が出され、研究や議論が重ねられましたが、1980年に「小惑星衝突による環境変動」が大量絶滅を引き起こしたとする論文が発表されます。その後、メキシコ・ユカタン半島の地下深くで、衝突により生じたと思われる巨大なクレーターが発見されるに及び、小惑星衝突説は多くの研究者に支持され、定説となっていきました。
しかし、火山噴火説などを唱える研究者からの反論が延々と寄せられ続け、それらはマスメディアを通じて一般にも流布されていきました。そのことに危機感を持った衝突説支持の研究者41人が分野を越えて集まり、衝突説への反論を明確に否定し、「論争は決着した」と宣言する論文を共著のかたちで発表するに至りました。本書の著者、後藤和久さんもその共著者の一人です。
本書は、「決着宣言」に至るまでの恐竜絶滅論争史を振り返りながら、なぜ決着したといえるのか、衝突説への反論はどう誤っているのかを解説していきます。

本書において解説されている、小惑星衝突後の劇的な環境変動の凄まじさには、あらためて驚かされるものがあります。が、やはり本書のキモであり、示唆にも富んでいると思ったのは、なぜ衝突説が決定的な定説となった一方で、それに対する異説として提唱された火山噴火説などが定説となれなかったのかを検証していく過程でありました。
ある仮説が提唱され、それに対する反論が出たのであれば、最初に仮説を提唱した側はもっと多くの証拠を提示しなければ、その仮説は支持を失ってしまう。その際、自説に決定的に不利な証拠が見つかった場合にどう対応するかで仮説の運命は大きく変わる。不利な証拠を否定するだけでは、他の研究者や一般社会の支持は得られない•••。著者はそう述べます。衝突説に対する火山噴火説などの異説は、この点においてあまりに不十分であったのです。

「『衝突説では説明できない。だから火山噴火説が正しい』というだけでは、何も説明したことにはなりません。衝突説で定量的または定性的に説明されているあらゆる事象について、同じレベルで科学的に説明がなされないかぎりは、火山噴火説が衝突説を覆すことは難しいでしょう。」 (5「衝突説と反論を検証する」より)

この点、恐竜絶滅論争にとどまらず、様々な科学における論争についても当てはまるのではないでしょうか。

そしてもう一つ考えさせられたのは、研究者とメディアとの関係についてのくだりでした。
メディアにおいては、「定説を支持する」研究成果より「定説を覆す」研究のほうが読者に興味を持たれるということもあり、衝突説に反対する論文の内容が、メディアを通じてたびたび流布されることになり、結果として専門家と一般社会との間にズレが生じることになりました。その責任は、「研究成果の最前線を正しく発信し広く社会に普及させることに対して、十分な努力をしてきたとは言えない」自分たち衝突説支持者にある、と著者は述べます。
メディアが新奇な説に飛びつくのは仕方のないところがありますし、定説を批判的に検証することも大事なことです。しかし、ともすればそのことが、誤った認識を広めてしまい、結果的に混乱を招いてしまうことにもなりかねないのです。これもまた、恐竜絶滅論争に限らず見られることでしょう。われわれ情報の受け手も、そのような側面を頭の中に置いておく必要があるのかもしれません。

恐竜絶滅論争を解説しながら、科学的な議論と研究成果の発信のありかたへの問いかけを込めた本書。コンパクトな小著ながら、教訓に満ちた一冊でありました。