読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

百田尚樹さんの人気の理由がわかった気がした、昨夜の『情熱大陸』

2013-06-10 22:02:50 | 書店と出版業界のお噂
『情熱大陸』「作家・百田尚樹」
初回放送=6月9日(日)午後11:00~11:30、MBS発TBS系


昨夜の『情熱大陸』が取り上げていたのは、作家の百田尚樹さん。
『永遠の0』(太田出版、講談社文庫)や『モンスター』(幻冬舎文庫)が映画化されたり、『海賊とよばれた男』(講談社)が今年の本屋大賞を受賞したりと、目下快進撃を続けている方であります。番組は、その百田さんの1ヶ月に密着します。

「作家は人気商売だからといって、言いたいことが言えないのは情けない」と、本屋大賞受賞のときに直木賞をクサしたりもした百田さん。書店員にフランクに話しかけたり、週刊誌の新連載の話に「何も考えてなかった•••」とローバイしたり、講演の最中、思わず感極まって声を詰まらせたり•••。その飾らない人柄がすごく魅力的でしたね。

テレビの放送作家からキャリアをスタートさせた百田さん。現在も、人気番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)の構成作家を続けています。放送作家としての仕事を続けたことで、物語を紡ぐことの基本を身につけることができた、といいます。

番組の中では、「百田流ベストセラーの生み出し方」として、百田さんの仕事の流儀を紹介していました。
まずは「ネタのアンテナはどこにでも張っておく」。『海賊とよばれた男』も、同業の放送作家のボツネタから拾ったそうな。

2つめは「文章を短くしてテンポをよくする」。これも、放送作家のナレーションの仕事で培ったことだといいます。テンポの悪いナレーションがつくと、番組自体もつまらなくなる、とか。小説においても、センテンスの短さが読みやすさを生むというわけです。

3つめは「家族の意見はよく聞く」。出来上がったら妻と2人の子どもに読ませ、3人のうち2人が面白くないと言ったら、自分が面白いと思っていても書き直すとか。まずは自分の身近にいる人から忌憚のない意見を聞くことが、他者に届く作品への第一歩、なのですね。

4つめは「売れている本はジャンルを問わず読む」。とにかく好奇心が旺盛なんですね。ちなみに、最近読んで面白かった本として挙げておられたのが、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞した『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也著、新潮社)。•••これ、わたくしも気になる本であります。

5つめは「売れなければダメだと自分に言い聞かせる」。売れるからこそ、多くの人たちに届くことができるのだ、というわけなのです。幻冬舎の見城徹社長との会話では「売れなくていいんだったらブログにでも書いてりゃいい」って発言もありましたっけ。

6つめは「納得するまで自分で資料を集める」。新作の構想を練るために、大宅文庫から大量の雑誌のコピーをとってきて、仕事場で読み込む百田さんの姿がありました。

7つめが「一人で書店に営業に行く」、8つめが「小さい書店も大事にする」。デビュー間もない頃、自ら本を抱えて書店回りをやり、その中で小さな書店も大事にする姿勢を身につけたとか。ベストセラー作家と呼ばれる人で、こういう姿勢の方は珍しいように思います。書店人の端くれとして、敬意を抱くばかりです。

そして最後は「小説の基本は“愛”」。「人間の美しい部分を書いていきたい。醜い部分を伝えるのはニュースだけでたくさん」と、自らの創作姿勢を語った百田さん。
そうか、なるほどな。そういう姿勢で作品を書くからこそ、百田さんは多くの人たちから支持されるんだな•••。
百田さんの人気の理由が、この番組を観たことでいくらかわかったように思いました。
同時に、さまざまなことにアンテナと好奇心を向けている姿勢にも、大いに学ぶべきものがあるのではないか、と感じました。おそらくそれは、作家以外においても大切な資質なのではないでしょうか。仕事に限らず、人生を楽しく生きるためにも。

最近はすっかり「ノンフィクション男子」(笑)と化して、ほとんど小説を読まなくなってしまっているわたくしですが、ちょっと百田さんの著書が読みたくなってきました。•••まずは『海賊とよばれた男』を押さえとこうかな。

【読了本】『利休の茶を問う』 ~茶の湯を通して問いかける、現代社会が忘れがちな価値観と美意識

2013-06-06 23:24:59 | 本のお噂

『利休の茶を問う』 立花大亀著、世界文化社、2012年


茶の湯のメッカとしても知られる京都の大徳寺。そこを代表する名僧で、2005年に105歳で遷化(=逝去)した著者による、茶の湯と禅のこころを説いた遺稿から31編を選び出し、新たに一冊にまとめたものです。
実のところ、茶の湯にも禅にもまったく疎い凡俗の徒であるわたくしですが、本書に収められた文章の一つ一つはまことに味わい深く、心に響いてくるものがありました。

茶の湯において重要視される「侘び」という思想。これまでは、「もの寂しくわびしいこと」といった、いささか後ろ向きなイメージで捉えていたところがありました。しかし、大亀師は「侘び」には「ものを生かすという思想」がある、といいます。
たとえば、お茶事に客を迎えるときの「打ち水」。千利休は、打ち水を生かすためには「打ち水は早く打ちすぎてもいけないし、遅く打ちすぎてもいけない」と説いたそうです。早く打ちすぎては乾いてしまって打ち直さねばなりませんし、遅く打ってしまっても打ち水としての効果を失ってしまいます。ゆえに、打ち水を生かすためには、迎える側はもちろん、迎えられる客の側も、時間を厳格に守らねばならない、と利休は説くのです。
そういった利休の姿勢を受け、「ただ消極的に打ちこもるのではなく、打ちこもるがために、そのものをして積極的に生かしめるということ」が「侘び」の本質であることを大亀師は力説します。
同時に「侘び」は、大阪は堺の貿易商の家に生まれ、過度なぜいたくを何よりも嫌った「経済人」としての利休の経済的智恵でもあり、「そこには実に強い、たくましいものが秘められている」とも大亀師はいいます。そして、その思想は資源を消耗し、使い捨てにしている現代において、ますます大事になっていくことを訴えます。
これまで「侘び」ということを中途半端にしかわかっていなかったわたくしでしたが、そこに込められた思想や智恵を、初めてきちんと理解することができた気がしました。

茶の湯の文化を通して語られる日本の美についての考察も、本書における興味深いところでありました。
茶の湯の文化は「おのずから発展とか進歩などとは無縁の文化」であり、「完成の美ではなく、欠陥の美」だと大亀師はいいます。それは、利休が茶道の本質であると考えていた美のあり方でもあり、「日本人が究極的に求める美」である、とも。

「日本は取り合わせがよほど上手でなければなりません。取り合わせと扱い方で、下手も上手になります。上手も下手に陥ります。欠陥に美を求め、頽廃に美を求めなければなりません。子どものころ、大阪の道頓堀の赤い灯を美しいと感じた私ですが、そんな私であってはなりません。」
(「日本人にとっての美とは何か」より)

正直、まだまだネオン輝く繁華街の風景も大好きなわたくしではありますが(苦笑)、それでも年齢を重ねる中で、本書がいうところの「欠陥の美、頽廃の美」に惹かれる自分がいることも、また確かであります。それだけに、あらためて日本における美のあり方について考えさせてもくれました。

本書には他にも、読んでいて琴線に触れるところがいくつかありました。その中から1ヶ所だけ引いておきます。

「私が常に思うのは、このお茶の味のことです。
ほろ苦い味のことです。
ほろ苦い味。どうも浮き世の味に似ているようです。一生涯を通じまして、私は人生の味はほろ苦い味と断ずるのです。
(中略)
この味を心の底から醍醐味と受け取ることが肝要と思います。お茶を心からいただくように、このほろ苦い人生を心からちょうだいするのが大事なことと思います。このほろ苦さはきらって逃げおおせるものではないのですから、進んでいただくのが肝要と思います。
人生をありがたくいただく心です。」
(「茶のほろ苦さは人生の味」より)

いや、このくだり、読んでいてじんわりと心に沁みてきました•••。ままならない人生を生きていくための、糧となるようなことば、なのではありますまいか。

本書のオビの背の部分には「茶人必読の書!」とあります。無論、茶人の方々にも得るところの多い本だろうと思われますが、茶道や禅には無縁の日々を生きる全ての現代人にとっても、忘れがちである大切なことを教えてくれる一冊であると感じました。

【読了本】『ダース・ヴェイダーとプリンセス・レイア』 暗黒卿、手ごわい娘相手に奮闘す

2013-06-04 22:24:56 | 本のお噂

『ダース・ヴェイダーとプリンセス・レイア』 ジェフリー・ブラウン作、富永晶子訳、辰巳出版、2013年


『スター・ウォーズ』シリーズでおなじみ、シスの暗黒卿ダース・ヴェイダー。
そのヴェイダー卿が、まだ幼い息子ルーク・スカイウォーカーの子育てに奮闘するさまをコミカルかつハートウォーミングに描き、日本でも大評判だった絵本『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』の続篇が本書であります。今度は、ルークの妹であるレイア姫の子育てに、ヴェイダー卿が奮闘する「エピソード3.75」です。

遠い昔、はるか銀河の彼方で••••••
暗黒卿ダース・ヴェイダーは、反乱軍との戦いを繰り広げつつ、プリンセス・レイアを一生懸命育てていた。ちょっとおてんばながらも父親思いのところもあった少女時代を経て、反抗期であるティーンエイジャーの時期に。反乱軍に身を投じたり、ハン・ソロと恋仲になったりする我が娘に、やきもきしたりするヴェイダー卿なのであった•••。

ルークの子ども時代のみのお話であった前作『~ルーク(4才)』に比べ、今回は子どもから大人になっていくレイアとのお話となっています。ゆえに、実際の映画シリーズのお話と重なっているところもあるのですが、それはそれ、これはこれ。映画の世界観をもとにしながらも、もしかしたらあり得たかもしれない(?)父娘のエピソードを、笑いとともに描いていきます。
父親にとって、息子以上に難しいところがあるのが娘との関係。ある意味、ルークよりも手ごわい相手ともいえるレイアには、ヴェイダー卿もなかなかの苦戦ぶりでありました。
反抗したり、どこの馬の骨ともわからない(?)オトコと恋仲になったりする愛娘にやきもきしたりするヴェイダー卿の姿には、いたく共感したりするお父さんもいたりするかもしれませんね(幸か不幸か子どものいない未熟者のわたくしは、そのあたりは想像するしかないのですが•••)。
幼い頃のレイアの写真を手にしているヴェイダー卿が見ているモニターの画面には、今は反乱軍に身を投じたレイアの姿が。「やれやれ」とため息をつくヴェイダー卿•••。この場面には、ついついヴェイダー卿に同情したくなってきてしまうのであります。

前作同様、映画シリーズの設定やキャラクターを活かした場面もたくさん出てきて、そのいちいちにニンマリしてしまいます。
まだ幼いレイアを学校へと送り届けるためにヴェイダー卿が使ったのが、シリーズでもおなじみだったあの4本脚のメカだったりします。•••もっとも、当のレイアには「すっごくはずかしいんだけど••••••」と思われてしまうのですが(涙)。また、ハン・ソロが氷漬けにされてしまう理由は、映画とは全然違うことになっていたりして、それにもまた笑わされました。

無論、一通り映画シリーズを観ていれば、より一層楽しめるのは間違いないのですが、前作と同じく笑いと暖かさあふれる作風は、多くの人に好まれるものになっていると思います。
『スター・ウォーズ』ファンはもちろん、娘を持つお父さんたちも、ぜひどうぞ。

フォースは必ず、皆さんとともにあります•••。


【関連オススメ本】

『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』 ジェフリー・ブラウン作、富永晶子訳、辰巳出版、2012年

関連オススメはもちろんこの「エピソード3.5」。息子思いのヴェイダー卿の姿には、笑わされつつも愛しい気持ちになってくること請け合い。最後の場面には、恥ずかしながら大泣きさせられました•••。