読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

地方の一高校生が見た『知られざる世界』伝説 (上)

2014-04-21 22:29:57 | ドキュメンタリーのお噂
ひょんなことからYouTubeで見つけたこの動画に、わたくしの目はくぎ付けになりました。

『知られざる世界』オープニング旧Ver.








ぎゃー!懐かしいー!もう20ウン年ぶりぐらいでしたよ、この『知られざる世界』のオープニング映像を目にしたのは。少年時代に、この番組を観ながら味わっていたワクワク感が一気に蘇ってきました。

『知られざる世界』といっても、もうお若い年代の方々にはご存知ない向きが多いのではないかと思われます。
『知られざる世界』は、1975年4月から1986年12月にかけて、日本テレビ系列で日曜日の夜10時(一部地域を除く)に放送されていた、主に科学的なテーマを扱った30分枠のドキュメンタリー番組であります。冠タイトルは『トヨタ日曜ドキュメンタリー』。そう、トヨタ自動車をはじめとしたトヨタグループの単独提供番組でした。
大島渚・土本典昭といった映画監督をディレクターに起用し、数々の傑作問題作を生み出した伝説の番組『ノンフィクション劇場』(1962~1968年)や、24年の長きにわたって放送され続けた民族&民俗ドキュメンタリー番組の金字塔『すばらしい世界旅行』(1966~1990年)を手がけたテレビドキュメンタリスト、牛山純一さんが率いていた日本映像記録センター(映像記録)が製作。いま聞いてもなんだかワクワクしてくるような、重厚にして高揚感のあるテーマ音楽を手がけたのは山本直純さん(なぜか番組ではクレジットされていなかった記憶があるのですが)で、ナレーションは鈴木瑞穂さんや佐藤慶さんらがつとめておりました(佐藤慶さんの渋い語り口は特に好きだったなあ)。
放送当時は小学生から高校生だったわたくしは、けっこうこの番組が好きでありました。テレビに映し出される、さまざまな未知の世界や驚異の現象には、子どもごころにワクワクさせられておりましたね。
とはいえ、基本的に科学をテーマにした番組なのにもかかわらず、なぜか超能力だの宇宙人だの心霊手術だのといった妙な物件を取り上げていたりもしていたのですが、当時のわたくしはソレはソレで「おお~すげ~」などと言いつつ観ておったわけでありまして•••。まあ、何も知らないウブなショーネンの頃のことでございます。

この『知られざる世界』、放送終了後は再放送されることもなく、なかなか顧みられる機会がございませんでした。調べてみると、Wikipediaに番組についての項目がある他は、神奈川県川崎市の「川崎市市民ミュージアム」に、一部の回が保管されていて館内で視聴もできることがわかりました。が、その他はいくつかの個人ブログが番組について触れているのを見るくらいで、なかなか詳細を窺い知ることができません。どのような番組だったのか、何か振り返るための手だてはないものだろうか•••。
などと考えていて思い出したのが、高校生の頃(1985~1987年)にせっせとつけていた我が日記。これには、当時観ていたテレビ番組の内容や感想もマメに記していて、『知られざる世界』についても、ちょこちょこと触れていたのでありました。ほんの一時期ではありますが、それらを抜き出していけば、『知られざる世界』という番組がどういうことを取り上げていたのか、その一端が見えてくる、かもしれない•••。
というわけで、今回から2~3回に分けて、高校生当時の日記から(ところどころ注釈を加えながら)番組についての記述を抜き出していくことで、わたくしが目にしていた『知られざる世界』の世界を振り返ってみよう、と思います。
正直、どなたかのお役に立てるとも思えないようなお恥ずかしい内容になるかと存じますが、まあこういう妙な記事も時にはよかろう、と勝手に独り合点しつつ、見切り発車で綴っていくことにいたします。
なお、ここに引いていく時期はあくまでも番組末期、しかも観ていなかった回も多々ございますゆえ、『知られざる世界』の全容を知るためには、あまりにも不十分過ぎるということをお断りしておきます。
日記からの引用は、このような斜体文字 で記します(誤記も含めてすべて原文どおりです)。また、宮崎では日本テレビと同時ネットで放送されておりましたので、放送月日はすべて日曜日であります。

1985年

6月23日
10時から「知られざる世界」を見る。サルバドール・ダリの贋作作家の話。その人の描いた絵が、何百万円もの高値で取り引きされているとは驚いた。しかも本物ということを証明する鑑定書までついて。


•••で、いきなりなのですが、ここから3ヶ月あまり『知られざる世界』についての記述が見られなくなってしまいます。いやはや、なんという不十分な記録なんだか。この頃は番組も末期ということで、あまり観なくなってしまっていたのか。あるいは観ても印象には残らなかったのか。

9月15日
10時から「知られざる世界」を見た。桜島の降灰のレポート。ものすごい量だなと思った。なにしろ、空から見ると鹿児島が灰色に見えるほどだった。ヤケクソで、「灰だるま」や「ミニ桜島」を灰で作ってしまうのは面白かった。と同時に、大変だなと思った。活火山のそばに住むのも楽じゃない。


•••で、またしばらくは番組についての記述は出てきません。この頃の日記を見ると、書くのを手抜きして1行で済ませてしまっていることも多く、我ながら情けなくなってくるのであります。高校の頃のオレのバカ!

12月22日
10時から久しぶりに「知られざる世界」を見た。サケの川上り、産卵、そして死をとらえていた。最後、サケの死体(ほっちゃれ)が川を流れる所は、さながら「濡れた男」(幸田文)の世界だった。


上の引用にある幸田文『濡れた男』の内容はすっかり忘れてしまっておりますが、確か国語の教科書に載っていたのを読んだのではなかったかと思います。

1986年

1月5日
10時から「知られざる世界」を見た。地中に穴を掘って住むというネコ科の動物ミーアキャットのことだった。日本にある飼育施設の地下観察の記録だった。ミーアキャットの「地下宮殿」を見てみたい、という一人の飼育係の女の子(まだ17歳だ)の願いで、仲間たちが力を合わせて地下観察のできる飼育場が完成し、地下の生態が明らかになった。専門家の研究ではなく、一人の女の子の熱意によって生態が明らかになったのは感動的だ、とはリポーターの弁。


えー、正しくはミーアキャットは「ネコ目マングース科」でありまして•••。あーこっぱずかしいわ。一体何を見ておったのか。なお、文中「リポーター」とありますが、番組は毎回ではなかったものの、リポーター役を立てて取材、進行していくという体裁がとられることも時々ありました。

1月12日
10時から「知られざる世界」を見た。遺跡の中の宇宙人伝説のこと。


ほーら出てきたぞ出てきたぞ、宇宙人が(笑)。

1月19日
10時から「知られざる世界」を見た。先週の「日本の宇宙人伝説」の続き。


1月26日
10時から「知られざる世界」を見た。サンゴのこと。サンゴは無性生殖といわれていたが、有性生殖もやる種類もあった。また、サンゴが触手を動かして、小動物を捉える所はすごかった。サンゴも立派な動物だということを認識した。オニヒトデにやられたサンゴが累々と並ぶ海底の光景には鬼気迫るものがあった。オニヒトデが異常繁殖した理由には2つの説があり、一つは自然の摂理、もう一つは公害などの人為的なもの、というものだ。人為的なものだったら何かせねばならない。


2月2日
10時から「知られざる世界」を見た。アフリカの火山大地溝帯、グレート・リフト・バレーを中心に、火山活動について紹介。5000万年後には、なんと日本列島は、地かく変動によりアジア大陸の下にもぐりこんでしまうという!さらに1億年後には、再び全ての大陸が一つにつながってしまうともいうのだ‼︎しかし、そのときにはとうに我々は存在していないので、見ることはできないのだが。


2月10日
10時から「知られざる世界」を見た。先週の続きで、グレート・リフト・バレーの動物たちについてだった。


2月16日
10時から「知られざる世界」を見た。北極のオーロラの話。オーロラはファンタスティックだったが、解説がややわからなかった。


2月23日
10時から「知られざる世界」を見た。オホーツク海の流氷のこと。仕事とはいえ、あんな冷たそうな海に潜るのは大変だろうと思った。


•••ったく、せっかく番組観ておきながらそんなとこしか印象に残らなかったのか(泣)。高校時代のオレのバカ!

3月2日
10時から「知られざる世界」を見た。先日起こった熱川のホテル火災を科学的に検証していた。実験によると、一人よりもグループで避難するほうがいいようだ。さらに、その中の一人がリーダーとなって適格な指示をすれば、かなり高い成功率で避難できるともいう。


上の場合だったら「適格」ではなく「的確」でしょう。なお、「熱川のホテル火災」とは、この放送の前月に熱川温泉のホテルで発生し、24人が焼死したという火災のこと。このように、時には直近のニュースを題材にしたテーマが取り上げられることもありました。

もうだいぶ長くなってきましたので、続きは次回に。


【雑誌閲読】季刊『理科の探検』(RikaTan)春号 特集「ニセ科学を斬る!」

2014-04-20 16:10:22 | 雑誌のお噂

季刊『理科の探検』(RikaTan)春号
発行=SAMA企画、販売=文理


理科教育、科学リテラシーを専門とされている法政大学教授・左巻健男さんが編集長をつとめておられる季刊の科学雑誌『理科の探検』(略称RikaTan)。
左巻さんを中心に、理科教育に携わっている有志の教育者や専門家が編集や執筆に参画し、理科の基本をわかりやすく伝えている雑誌です。実験や観察例も豊富に盛り込まれたりしていて、楽しみながら理科を身近に感じることができるつくりとなっており、子どもたちの理科学習はもちろん、大人の学び直しにも最適な内容となっています。
その『理科の探検』最新号の特集は「ニセ科学を斬る!」。巧みでもっともらしいコトバで人びとを惑わし、社会にはびこっているニセ科学の数々を、RikaTanの編集・執筆陣が一刀両断するという好企画であります。
通常、特集を2本ずつ組んでいるRikaTanですが、今回はこの特集1本のみで勝負。とはいえ、全部で60ページ近い大特集となっていて、編集・執筆陣の力の入れようがひしひしと伝わってきます。以下、特集の目次を引いておきます。

「ニセ科学」問題入門 左巻健男
ダイエットをめぐるニセ科学 小内亨
健康食品・サプリメントにご用心 ーその宣伝、信じてよいの? 片瀬久美子
抗酸化物質は体によいのか 安居光國
ニセ科学の「波動」と物理学の波動 菊池誠
摘発されたニセ科学商品の実例 天羽優子
法と科学 ニセ科学による被害を救済する仕組み 天羽優子
EMのニセ科学問題 呼吸発電
EM団子の水環境への投げ込みは環境を悪化させる 松永勝彦
脳科学とどうつきあうか ーニセ脳科学にだまされないために 鈴木貴之
ニセ科学を信じてしまう心のしくみ 菊池聡
地震予知におけるニセ科学 小林則彦

このように、「ニセ科学」というキーワードのもとに取り上げられているトピックは多岐にわたっています。ニセ科学問題の根がいかに深いものなのかをあらためて実感させられます。

ニセ科学が特にはびこっているのが、人びとの関心が高い健康やダイエットまわり。小内亨さんは、さまざまな巷のダイエット理論を検証、基礎研究や理論、体験談を過大に評価してしまう問題点を指摘します。
片瀬久美子さんは、メディアに溢れる宣伝広告で広まっている健康食品やサプリメントについて検証。多くは「毒にも薬にもならない」「気休め」に過ぎないにもかかわらず、それらを過信してしまうことの危険性を訴えています。また「特定保健用食品」や「栄養機能食品」といった健康食品の分類についても解説。これらは知っているようで知らなかったので、大変参考になりました。
安居光國さんは、これもよく聞く「抗酸化物質」について、酸素と生命維持のシステムから説き起こしていきます。そして、もともと体には本来の抗酸化システムが備わっているにもかかわらず、「抗酸化物質」を過剰摂取することの問題点を指摘します。

最近、放射線についてわかりやすく解説した『いちから聞きたい放射線のほんとう』(共著、筑摩書房刊。こちらも読んだ上で当ブログでご紹介する予定です)を出版された菊池誠さんは、ニセ科学界隈でよく出てくる「波動」について、専門の物理学の目から追及。「波動測定器」だの「磁気」だのと、「なんとなく科学的」なコトバで語られている、ニセ科学における「波動」の正体を暴いていきます。
天羽優子さんは、さまざまなニセ科学商品の摘発事例を挙げながら、ニセ科学商品の被害から消費者を救済する仕組みについて解説。人と人の間の争いを解決するための裁判所の「事実」と科学における「事実」の役割や性質は違うことを踏まえつつ、いかに被害を防いでいけばいいのかを説いています。

ニセ科学界隈でしばしばクローズアップされているのが「EM」をめぐる問題でしょう。最近も超党派の国会議員によるEM推進の議員連盟が発足するなど、隠然たる普及への動きが進んでいる模様です。
故郷の福島県における原発事故に絡んだEM普及の動きを追い続けている「呼吸発電」さんは、数多くの資料やWebサイト、ツイッターまとめを引用しながら、EMが社会へと広まっている状況とそのニセ科学性を克明に述べていきます。引用したWebサイトのリンクも全て記されていて、資料性も高い記事となっています。
また松永勝彦さんは、水環境を浄化するとして進められている「EM団子」の投げ込みについて、実験データを引きつつ検証。まともな研究論文もなく、研究成果が世界にオーソライズされることもないというEMは「科学と言えない」と結論します。
EMについては、普及団体が外部からの性能評価を拒否している上、地方の自治体や議会、メディアをじわじわと取り込んでいく戦略をとっているということもあり、今後もしっかり注目していく必要がありそうですね。

鈴木貴之さんは、「ゲーム脳」理論や「脳トレ」「早期教育」といった、メディアを賑わす脳をめぐる情報について検討。根拠のないものや飛躍を含むものであっても、一見して科学的で信頼できるような情報とともに提示されるとつい信じてしまうという心理を押さえた上で、脳に関する情報には慎重になる必要があることを説いていきます。
(本記事を踏まえると、先だってのNHKスペシャルのシリーズ『人体 ミクロの大冒険』で展開された、「学び」をめぐる神経細胞のメカニズムの話や、ホルモンが感情を「支配」したり、逆にコントロールすることもできるといった話に対しては、いくらか慎重に捉え直しておく必要があるのかもしれません)
そうしたニセ科学をついつい信じてしまうような心について菊池聡さんは、もともと人の心理に「認知バイアス」という「自分で自分を騙す」仕組みが備わっていることを指摘し、むしろ騙されることが「人にとって自然なこと」だと言います。そして、その心理的な4つの要因を詳しく探っていきます。これはニセ科学が受け入れられる仕組みを考える上で、非常に興味深い論考でした。

東日本大震災以後、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震などの可能性が取り沙汰される中、怪しげな「地震予知」情報が、主にWebサイトや週刊誌(特にひどいのは女性週刊誌あたりでしょうか)で展開されておりますが、小林則彦さんは最近の地震学の知見により、「地震の発生機構は混沌と偶然性が支配する複雑系であり、予知は非常に難しい」ことを前提にしながら、地震予知についてのニセ科学言説にメスを入れています。とりわけ、予知の「的中率」をめぐるカラクリの解説は「なるほど、そういうことだったのか」と腑に落ちるものがありました。

特集の総論である、「『ニセ科学』問題入門」の中で、本誌編集長でもある左巻さんはこう述べておられます。

「ニセ科学を広めてしまう人の口癖は『科学ではわからないことがある』です。そのくせ、科学には弱い人たちが多いようです。
(中略)
科学でわかっていないことも膨大にありますが、わかってきたことも膨大にあり、真実の基盤は増え続けています。そういった真実の基盤でものを考えることができることが必要でしょう。」


科学を過信することも確かに危ういことでしょうし、時には科学のあり方を批判的に見つめ直すこともまた必要なことではあるでしょう。しかし、だからといって科学の考え方や原理原則を軽視、もしくは否定し、果てはニセ科学の罠にはまってしまっては本末転倒ではないでしょうか。
人びとの弱みや不安につけこむ形で、これからもさまざまなニセ科学が入れ替わり立ち替わり現れてくることでしょう。それらに惑わされない視座と考え方を身につけていくためにも、この特集はとても学ぶところが多々ある内容だと感じました。
ぜひとも、多くの人に読まれて欲しい特集であります。

閑古堂の酔眼亭日乗、四月十八日夜

2014-04-19 19:13:09 | 美味しいお酒と食べもの、そして食文化本のお噂
四月十八日。陰。日中気温高く、まるで初夏のごとき暑気の一日。仕事のあと繁華街へ出て喉を潤すこととす。
市内某ホテルのスパにて軽く汗を流し、外に出ると時刻はちょうど燈刻。

橘通西の繁華街(通称ニシタチ)に出で、行きつけの大衆酒館たかさごにて憩う。

まずは手羽焼きを囓りつつ冷たい生ビールで喉を潤し一息つく。その後、焼酎とともに牛もつ鍋を食す。

ここの牛もつ鍋は以前は冬季限定の献立なれど、評判が良かったらしく通年出される献立となれり。旨味溢れるもつの脂がまことに佳味なり。また、キャベツや牛蒡、ニラといった野菜が豊富なのも良し。加えて、添えられた辛味噌がもつに合っていて食欲をそそり、酒を進ませし。あらかた具を食した後はちゃんぽん麺を投入し、もつや野菜、ニンニクの旨味がたっぷり含まれた煮汁で食すもまた良し。
店内はカウンターもテーブル席もほぼ満員で賑やかとなれり。活気溢れる店内の雰囲気を味わいつつの独酌というのは実にいいものなり。

たかさごを出でて繁華街をしばし散策す。週末としてはまずまずの人出といったところか。

さる中華料理店の前を通ると、上階にある宴会場がずいぶん騒々しい。若者たちの嬌声が通りの外にまで響き渡り、時折壁をドンドンと叩くような音も。大学か何かの歓迎会か。近時改装してシックで落ち着いた感じの外観となった店なれど、これでは些か台無しの感あり。
野良猫たちがよく集まる路地にはこの夜も猫の姿あり。野良猫たちこそ、独りの繁華街散策に慰安を与えてくれる存在なり。


繁華街散策のあと、こちらも行きつけのバーに立ち寄り憩う。大人の隠れ家的な存在のバーゆえ店名は特に秘す。この店も来店客多く週末らしい賑わいとなれり。
週末のみマスター氏を補佐して店に入っているバーテンダー氏手製のハンバーグを食す。前々回来店した折にも食し、その美味なことに唸らされしが、今回は調理の過程をつぶさに観察す。玉葱を細かく刻み挽肉と合わせ、しっかりと時間をかけて捏ねた後にパンパンと音を立てながらハンバーグの形を整えていくさまは、さながらプロの料理人のごとし。もっとも彼の本職は調理師なので当然といえば当然か。そして、ついにハンバーグは焼き上がりし。

その味の美味なること、ここがバーであることを一瞬忘れさせるものあり。
キューバリバーを飲んだ後、これまで飲もうと思いつつも度数の高さゆえなかなか飲めずにいたボイラーメイカーを注文して飲む。普通のビールではなく、黒ビールにバーボンを合わせるという形で出してもらう。思いのほか飲みやすく、かつ芳醇な味わいで満足す。
とはいえ、やはり度数の高さで酔いは一気に回っていき、結局はわずか2杯のみで切り上げて家に帰ることとなれり。余も酒が弱くなりつつありしか。齢を重ねつつある己が体を嘆く夜とはなれり。


子どもはもちろん、大人にも役に立つ知識と情報が満載の『本屋さんのすべてがわかる本』全4巻(後半)

2014-04-16 23:15:32 | 書店と出版業界のお噂

『本屋さんのすべてがわかる本』
3「見てみよう!本屋さんの仕事」
4「もっと知りたい!本屋さんの秘密」
秋田喜代美・監修、稲葉茂勝・文、ミネルヴァ書房、2014年

主に子どもたちに向けて、本屋の歴史や活用のしかたなどを解説した全4巻のシリーズ『本屋さんのすべてがわかる本』。
世界や日本の本屋の歴史や概説などが、興味深い写真とともに記された前半2冊に続き、後半の2冊は本屋の仕事や活用法が詳しく具体的に解説されていきます。

第3巻は「見てみよう!本屋さんの仕事」。前半ではまず、本屋の店内でどのように雑誌や書籍が分類され、陳列されているのかが、実際の書店の店内風景とともに解説されていきます。
本の陳列法のところでは、「平積み」「面出し」「たな差し」のそれぞれにどのような意味と効果があるのかが説明されます。またディスプレイのところでは、ビニールハウスをイメージした飾りつけがなされた「農業・園芸書フェア」などのユニークな工夫も紹介されています。
現在の本屋の店頭ではすっかりお馴染みとなっているのが、本の内容のポイントやキャッチコピーを記したPOP(ポップ)。POPについて取り上げているページでは、2001年に『白い犬とワルツを』(テリー・ケイ著、新潮文庫)が書店員による手書きPOPがきっかけとなってベストセラーとなり、そのことで書店員の手書きPOPが広がっていったことが紹介されています。
さらに、東京都町田市で開かれた、地元中学校の生徒たちが自分の好きな小説を手書きのPOPで紹介するというフェアのことも取り上げられています。若い世代に読書に興味を持ってもらうべく、地元の本屋と協力してPOPづくりを行っている学校は、全国的に増えているのだとか。こういうのはなかなか、面白い試みだなあと思いますね。
本屋に並んでいる本や雑誌は、もちろんそれら自体が情報なのですが、陳列やディスプレイにもさまざまな情報が含まれています。それを踏まえて本屋の店頭を見れば、さらに世の中についての幅広い情報を得ることができる、ということが、解説を読んでいくことで理解されていくことでしょう。

後半は、開店前の荷開け作業からバックヤードでの仕事まで、本屋の仕事がけっこう具体的に紹介されていきます。
ちょっと驚かされたのは、本につけるブックカバーの折りかたや、付録を挟み込んだ雑誌を紐でしばる方法が、写真や図とともに順を追って説明されていたことでした。また、本の裏表紙に記されているISBNコードが、本屋の仕事においてどのように活用されているのかについても、かなり詳細に解説されています。
もし本屋で働きたいという方がいたら、迷わずこれを読むように勧めたくなるくらい、第3巻は本屋の仕事が具体的、かつわかりやすくまとめられた巻となっておりました。

このシリーズの大きなコンセプトは、本屋を読書推進のみならず、キャリア教育や国際理解教育、メディアリテラシーなどにも活用していこうという点にあります。最終巻となる第4巻「もっと知りたい!本屋さんの秘密」は、それらのコンセプトをよりしっかりと伝えていきます。
新聞・テレビの情報と本の情報との違いについて述べたページでは、「フロー型」(毎日あらたに伝えられてすぐに消えていく)の情報である新聞やテレビに対し、本の情報は「ストック型」(保存して、いつでも参照できる)であるという説明がなされます。
速報性では新聞やテレビ、ネットには劣るものの、じっくりと参照できる本だからこそ、社会の仕組みや世界のこと、メディアリテラシーなどについて、しっかりと考え、理解することができるというわけなのです。
キャリア教育についてのページでは、愛知県岡崎市の中学生による職場体験のようすが詳しく紹介されます。本の補充やお客さんへの対応、子どもたちへの絵本の読み聞かせなどを体験した中学生たちは、「本の移動など、お客さんの迷惑にならないように仕事をすることのたいせつさがわかった」などの感想をもったとか。

後半では、全国各地のユニークで個性的な本屋さんが20軒ほど紹介されます。
屋上に観覧車がある「宮脇書店総本店」(香川県)や、まるで絵本に出てくるような洋館の中にある「こどもの本の店・童話館」(長崎県)、鉄道の本はなんでも揃うという「書泉グランデ」(東京都)などなど、どの本屋さんも面白そうです。やはり、本屋というのは一様ではなく、それぞれに面白さを持った存在なんだなあということを、あらためて感じさせられました。
「本でまちづくりをする本屋さん」というページでは、小さいながらも独自の視点の棚づくりで定評のある、東京都文京区の「往来堂書店」と、東日本大震災による津波で本屋がなくなってしまった岩手県大槌町で、本屋経験がないご夫婦により開業された「一頁堂書店」が紹介されています。

ネットや電子書籍が台頭する中で、しきりに退潮がささやかれている本屋という業界ですが、その役割と意義はまだまだ健在であることを、このシリーズはしっかりと伝えてくれています。
実のところ、社会の仕組みや国際情勢をじっくりと理解したり、メディアリテラシーで情報を読み解き、その真偽を判断するということは、ネットの海を泳いでいく上でもとても必要なことであったりします。それらを身につけるためにも、本を読むことの重要性というものはいまだ有効なのだと思うのです。
そのためにも、どうかこのシリーズを道しるべにしながら、本屋を使い倒していただけたら、と願います。
わたくしたち本屋の人間(といっても、わたくしの勤務先は店舗のない外商専業のところなのですが)も、皆さまのよき情報源となれるように頑張っていかないとな。

子どもはもちろん、大人にも役に立つ知識と情報が満載の『本屋さんのすべてがわかる本』全4巻(前半)

2014-04-13 11:43:05 | 書店と出版業界のお噂

『本屋さんのすべてがわかる本』
1「調べよう!世界の本屋さん」
2「調べよう!日本の本屋さん」
秋田喜代美・監修、稲葉茂勝・文、ミネルヴァ書房、2013年


「教育の宝庫」という視点から本屋という場所を捉え、その歴史や活用法を子どもたちに向けて解説していくというシリーズが、『本屋さんのすべてがわかる本』。昨年11月に刊行が始まり、今年の2月で全4巻が完結しました。
子ども向けのシリーズ、しかも30ページほどで一冊2000円(本体価格)ということで、最初は買うことを躊躇っておりました。ですが、やはりちょっと見てみようかなと思いつつ第1巻を購入してみたところ、想像していた以上に充実した内容で驚かされました。
オールカラーで収録された豊富な写真や図版に加え、盛り込まれたトピックも「えっ?こんなことまで!」と言いたくなるくらい多岐にわたっておりました。書店づとめが20年近くになるわたくしですが、恥ずかしながら初めて知ったこともけっこうありました。
そんなわけで、これは続巻もすべて購入しておかねば!ということになり、今月初めに全巻が手元に揃えました。通読してみてあらためて、その内容の充実ぶりに満足した次第です。
子どもはもちろん、大人にも役に立つところが多いこのシリーズを、2回にわけてご紹介したいと思います。まずは前半の2冊を。

第1巻は「調べよう!世界の本屋さん」。まず、紀元前の古代ギリシャ時代に始まったという本の売り買いから、欧米で近代的な本屋のしくみが確立されるまでの歴史が綴られます。
詩人や演説家による演説が書きとめられ、その写しを販売することから始まった本の売り買い。やがて、印刷技術の発明と発達によって、「本屋」の基礎が出来上がっていきました。そして19世紀になって印刷・出版と問屋、小売の分業が進んでいき、今に至る出版流通のしくみが確立した、というわけです。
現在、出版流通において大きな役割を果たしている、全世界共通のISBNコード(国際標準図書番号。本の裏表紙にバーコードとともに記されている、あの番号のことです)。これを発明したのが、世界初となる本屋のチェーン店でもある、イギリスの「W・H・スミス」であることを初めて知りました。ここでは、ISBNコードの数字が持つ意味としくみも詳しく解説されています。

続いて、ヨーロッパやオセアニア、イスラム圏、アジアの主要な国々の代表的な本屋が、豊富な写真によって紹介されていきます。
2008年にイギリスのガーディアン紙によって選出された「世界の本屋さんトップ10」。1位となったイギリス「ハッチャーズ」に続いて2位となった、オランダの「セレクシス・ドミニカネン」は、ゴシック建築の教会を修復して生まれた本屋さん。その外観といい内部といい、実に重厚でいい感じで、これはなんだか行ってみたくなりました。
ちなみに10位には、日本から恵文社一乗寺店(京都)が選ばれております。ここも魅力的なところのようですね。

各地の本屋さんを紹介した写真と文章からは、それぞれのお国柄もちょっと見えてきそうで楽しいものがありました。
とりわけ印象的だったのが、「古本の村」として知られているという、ベルギーのルデュ村の話でした。
人口がわずか20人にまで減ってしまい、地図からも消えようとしていたルデュ村でしたが、古本の収集が趣味という実業家がこの地に古本店を開業。さらに「古本祭り」を開催したことがきっかけとなって、空き家を改装してさまざまなジャンルの古本専門店が50店以上もできていき、今ではヨーロッパ中から人びとが押し寄せているのだとか。この話、もっと詳細を知りたいなあ。
「『一党独裁国家』の本屋さん」という項目もあり、ここでは中国や北朝鮮の本屋を紹介。中国でもネット書店の伸長により、本屋の倒産が相次いでいるとか。また、秦の始皇帝やナチスなどによる「焚書」や、エジプトとイギリスで起こった本屋の放火といった、時の権力者に都合の悪い本が焼かれてしまう事例についても言及されています。

第2巻は「調べよう!日本の本屋さん」。この巻では、日本における出版活動と本屋の歴史が語られていきます。
鎌倉時代から室町時代にかけて、寺院により行われた仏教書の開版(出版)から始まった日本の出版活動は、江戸時代に入って寺院が多かった京都を中心にして発展していきました。
この頃誕生した本屋さんには、現在でも販売や出版を手がけている老舗がいくつか存在します。現存する最古の本屋である永田文昌堂や、仏教書の出版でもよく知られている法藏館などがそうです。法藏館にある、江戸時代当時の版木の保管室も写真で紹介されていて驚きました。昔の版木をまだ保管していたとは!
やがて、徳川家康による学問の奨励により本屋と出版活動はますます盛んとなっていき、その中心は京都から江戸へと移っていきました。
そして、明治の文明開化による学習意欲の高まりを背景にして、さらに出版活動は盛んとなり、今も営業を続けている本屋や出版社が次々と誕生。印刷・出版と小売の仲立ちをする取次(問屋)も設立され、現在の出版流通システムが確立されていったのです。

本巻では、日本最古の書物『法華義疏』(ほっけぎしょ)をはじめとした古文書も、数多く写真で紹介されています。
中でも、漢詩をつくる際の参考書として寺院から開版された『聚分韻略』(しゅうぶんいんりゃく)や、江戸末期に「日本の活版印刷の父」こと本木昌造によって印刷・出版された、商人のための英会話表現集『和英商賈(しょうこ)対話集』などは、存在自体を知りませんでしたので大変興味深いものがありました。
初めて知ったことといえば、日本で最大の教科書出版元・東京書籍や、アンパンマンの版元として有名なフレーベル館は、印刷大手の凸版印刷のグループ会社であることも本巻で知りました。もしかしたら、ギョーカイでは常識に類することなのかもしれないのですが•••(汗)。

他には、本がまだまだ高価だった時代に、庶民へ読書を広める役割を果たした貸本屋のことや、神田神保町の古本屋街の成り立ちについても言及されています。
また、現在の出版流通システムを支えている「委託販売制度」(新刊本を預かって販売し、売れなかった本は返品できる販売制度)と「定価販売制度」(新刊本は全国どこの本屋でも同じ定価で売らなければならないという制度。「再販制度」ともよばれる)についても解説されていて、その長所と短所も挙げられております。

2冊を通読すると、知ってるつもりだったけれども実はよくわかっていなかった、ということがたくさんあって、ギョーカイの端くれにいるわたくしにとっても、大変勉強になりました。
まして、ギョーカイの外におられる皆さんにとっては、収められている写真を見るだけでも、けっこう興味深く面白いものがあるのではないかと思います。

後半の2冊は第3巻「見てみよう!本屋さんの仕事」と第4巻「もっと知りたい!本屋さんの秘密」ですが、この2冊については次回ご紹介させていただくことにいたします。