『関東大震災【返還映画版】』(1923年 日本)
モノクロ、13分
監督:不詳
国立映画アーカイブの特設サイト「関東大震災映像デジタルアーカイブ」にて配信中
大正十二年九月一日
午前十一時五十八分三十二秒
突然起りし
大地震‼︎
大火災‼︎
と共に・・・・・・
帝都三百年の文化
一朝の夢と化す
猛火の裡に突かれ・・・・・・
激震を物ともせず・・・・・・
幾度か死を決して
遂に撮影完成せる
本映畫(画)
そんなものものしい口上から始まる、13分ほどの関東大震災の記録映画です。
とはいえ、現存する本作の映像は完全な形ではないようです。国立映画アーカイブの「関東大震災映像デジタルアーカイブ」に記されている本作の説明によれば、「メインタイトルやクレジットタイトルがなく、他の作品と重複するカットが多いため、現時点で作品を同定するまでに至っていない」(ゆえに、監督や製作会社などについても、現時点では不明のままです)とのこと。そのため、付されている題名も、あくまで「仮の」題名ということになります。その「仮の」題名にある【返還映画版】というのは、本作のフィルム素材がアメリカ議会図書館より返還されたことから来ているのでしょう。
本作で特徴的なのが、発災から間もない時間帯に撮影されたと思われる映像が多く含まれていることです。激しく燃え盛る家屋や商店を間近から撮影した映像や、煙が街を覆っている様子を捉えた映像からは、震災被害の大きさが伝わってくるようです(燃え盛る家屋の前を、犬が走っていく印象的なカットあり)。
震災に直面した人びとの姿も克明に映し出されています。家財道具を持ち出して避難する人びとによってぎっしりと埋め尽くされ、電車や車が動けない状況となっている大通りを俯瞰から捉えたカットなどからは、大火災に直面した人びとがパニックに陥っていたであろうことが窺えます。
その一方で、発災直後に撮影されたと思われる映像には、丸の内のビル街の向こうから煙が上がっているにも関わらず、撮影しているカメラに気づいて笑顔を見せながら通り過ぎていく女性の姿や、濛々と煙が上がる住宅街で談笑しているかのような2人の男性の姿もあり(いずれの映像も、前回の記事で触れたNHKスペシャル『映像記録 関東大震災』の中で印象的に使われておりました)、被害の全体像が見えていなかった発災直後はまだ、緊迫した状況には至っていなかったこともわかるのです。
フィルムの後半では、余燼がくすぶる焼け野原と化した東京各所の惨状が映し出されていきます。一面の焼け野原の中に虚しく佇む浅草十二階や三越百貨店、焼けて土台部分だけが残った路面電車を広瀬中佐の銅像が見下ろす須田町、立ち並んでいたはずの仲見世がすっかり焼け落ちてしまった浅草寺境内・・・。
そして、この震災で最大の死者が出た本所被服廠跡に、黒焦げになった遺体が累々と横たわっている悲惨な光景が10秒ほど映し出されると、映画はブツンと途切れるかのように唐突に終わるのです。おそらくはこの後に続く映像があったのではないかと思われますが、その行方はまだわからないままです。
このほかに、同じカットが重複して使われている箇所もあったりして、一本の映画としては不完全な形となっている本作ではありますが、関東大震災の映像記録として、貴重な一本であることは確かでしょう。