ご縁のある木・・・
ウツギ谷の北の七丁石から西に折れ、谷山谷から才が原池へ
向うには山越えをしなければなりません。
その山に名前があるのかどうかは分かりませんが、山の尾根に
でると何年か前の大型台風で倒れた沢山の樹木が、無残な姿を
さらしています。
それが早や朽ちかけて、もうすぐ森に還る松の大木であったり・・・
完全に倒れているのに、まだ少しだけ残る根から養分を得て、
その幹から直角に新たな芽を太陽にまっすぐに向けて出している、
たくましいソヨゴの木などもあります。
ハイカーの方も余り通らないような・・・
そんな森の中で私は腰を下ろし、一人静かにコーヒータイムにするの
が、この上ない楽しみの一つなのです・・・
目を閉じて森に浸り、そよ風が葉音と共に奏でるハーモニーを聴いて
いる・・・ もうそこはまさに私の別世界です。
季節に遊ぶ鳥たちのさえずりも心地よく、しばし時を忘れてしまい
ます。
もう6年ほど前の初夏のある日、私はそこでそんな穏やかな一時を
過ごしていました・・・
ふっと、目にとまるものがありました・・・
可愛い小さな木の芽が顔を出していて、それが木漏れ日を浴びて
緑葉が輝いているのです・・・
しかし? あれ・・・?
近づいてよくみると なんと! なにやら人工物の輪の中から首を
覗かしている感じです・・・
よくよく見ると、古い五円玉の穴から出ているではありませんか・・・
よくまあよりによって器用な事で・・・
それにしてもこんな所で・・・
ハイカーの方にも余り出会うことは稀なのに、どうして・・・?
この五円玉の古さから見て、もう数十年も前のことかも・・・?
例えば、どなたかが汗を拭う時、取り出したタオルと共にポケットの
五円玉が飛び出したりして・・・?
などと、勝手に想像を巡らせましたが・・・
再び新芽を見ると、その葉からみてカシの木? のような気が
しました。
(自宅の庭にも同じような木があり、よく似ていますので・・・)
いずれこれが大木になったら、どうなるのだろうか・・・?
私は今のうちに取り除いてやろう・・・ と、手を伸ばしかけたの
だが、やめにしました・・・
これも自然の営みなのだ・・・ 不用意に人の手を加えるのは
よそう・・・と、思ったのです。
それから何度となくここを通ったのに、もうすっかりと忘れて
いました・・・
昨年、同じところで一休みをしていて思い出し、探してみました・・・
しかし、場所が違ったのか? とうとう探し出す事はできません
でした。
それが今日のこと・・・
それも何の前触れもなく・・・ あれ?
目の前に高さ1m位の、ヒョロリとした木が立っているのが目にとまり
ました・・・
そして、何気なく根元を見たとき ビックリです・・・!
あの時の五円玉が、かすかに見えるではありませんか・・・
かすかに! と、言うのは、直径2-3cmの太さに成長した幹に、
すっかりと入り込んでいるからでした・・・
なんとも痛々しいような・・・?
それでいて、奇妙なありえない格好に可笑しくて・・・ すごいな!
と、感動したり・・・ 生きている木の力のすごさ・・・
自然の包容力に感心したり・・・
いろんな思いが数秒の間に交錯し、混乱の極みに陥ってしまい
ました・・・
あの時に外しておいてやればよかったのに・・・
そしたらこんなに苦労をして育たなかったろうに・・・ と、
一瞬 自責の念を感じました・・・
しかし反面、いや いや・・・ これはまさに自然の営みなんだ・・・
生きる環境を受け入れて順応し、この木はそれなりに個性的で、
面白味のある木として立派に生きているんだ・・・ などと心は複雑
です。
異物を飲み込んで成長している樹木は、森の中で時々目にして
きました。
箕面ゴルフ倶楽部脇の山道で、「無断立ち入り禁止」の看板と共に、
長い距離に張られた有刺鉄線・・・
それが無造作に松やケヤキ、モミジなどの生木に直接打ち止めされて
いて・・・
長い年月の間に樹木が生長し、徐々にその鉄針を飲み込んでいき、
今では幹の半分ぐらいまで入り込んでいるものもあります・・・
樹木の中央から右と左に、それぞれに錆びた有刺鉄線が出ている
姿は無気味で、痛々しさを覚えます・・・
また別の所では、木の幹に取り付けられていたブリキの
表示丸板・・・そこには 「火の用心・・・」 「ゴミは持ち帰って・・・」
「木を大切に・・・」(大阪府) (森林事務所・・・) など、かなり昔に
取り付けられたような古い錆びたブリキ板が幹に食い込んでいる
姿をみました・・・
幹は何かの拍子にそれをくわえ、そのまま長い年月を超えて、
徐々に取り込みながら成長していくので、自然と幹の奥深くへ
入ったままの姿なのです・・・
一度そんな異物を取ってやろうとおもって、思い切り引っ張ってみま
したが、もう到底外れませんでした。
ビール缶のキャップが、木の枝のコブとなって半分飲み込まれている
姿も見ました・・・
投げ捨てられた丸いキャップが、上手くストライク! で、枝に
引っかかり、そのまま枝が成長していき、飲み込んでしまった様子
です。
それにしてもです・・・
あの小さな五円玉の穴から芽を出したカシの木の赤ちゃん・・・
成長するに連れてなんとも、一生 ご縁(五円)のあるお付き合い に
なってしまいましたね・・・
’13 4・30