日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

日本人の勤勉さはどこから

2016年01月13日 09時29分38秒 | 日々雑感
 経済協力開発機構(OECD)によると、2012年のドイツの就業者1人あたりの平均労働時間は1393時間であり、日本に比べて352時間も短い。一日あたりにすると、年間を通し毎日約1時間日本人の方が長く働いていることになる。

 このように長時間労働を厭わない日本人の勤勉さはどこから来るのであろうか。仏教的には勤労の勧めは無いどころか、働くより瞑想する方を重要視し、食べ物は人から恵んで貰えの精神である。神道や儒教に勤労の勧めはあるのだろうか、余り聞かない。キリスト教においては6日働いたならばちゃんと一日休息を取れと教え、ひたすら労働ではない。

 堺屋太一氏によれば、日本人の勤勉さのルーツは江戸時代中期の石田梅岩あたりにある、とのことを彼の著書で読んだことがある。江戸中期の世相は商業の発展と共に急速に貨幣経済への進展が進む一方、封建体制にも陰りが見えはじめ、都市部には無職の武士や農村からの農民の流入で溢れていた。一方では富裕な商人たちの行動やその驕りに対する批判が噴出した時代であったそうだ。かかる社会状況の中で石田梅岩はその商いの体験から得た「信念」を社会に問いかけた。

 その中身は「正直・倹約・勤勉」を基盤にするもので、その後 “石門心学” として広がって行ったとのことだ。梅岩の信念は商家奉公の傍ら「神・儒・仏」の道を独学で学び、その知識を土台にして己の商いの体験から得た信念とのことである。労働に関して何も教えない、神道、儒教、仏教を乗り越えて労働に対する教えを開いた、と言えよう。どうやら、日本人の勤労精神は、日本古来のものではなく、江戸中期から培われてきたと推察できる。

 高度経済成長期には、「24時間戦えますか」の掛け声と、猛烈社員が幅を利かせた。これは梅岩の教えが影響したというより、戦後の復興が本格化し、働いただけ分だけ稼げた時代であった為ではなかろうか。その頃の名残であろうか、日本ではまだ長時間労働を良しとする風潮が幅を利かせている。

 大手居酒屋チェーン「和民」で正社員だった森美菜さんが入社2カ月後に過労死した問題があった。店の従業員の9割が勤務体系の不規則なアルバイトのため、シフトに穴が開くことは日常茶飯事であり、シフトの穴埋めは社員の役目となっていた。この為責任感の強さから長時間労働に追い込まれたようだ。上司は、決して強制していないと言い訳しているようであるが、責任を持たせるとの美辞麗句の下、働かざるを得なかったに違いない。森さんは石門心学の実践者でもあったのだろう。

 森さんに限らず、日本人には石門心学の信奉者は多い。しかし、2013年の独の国民1人あたりのGDPは4万3667ドルであるのに対し、日本は3万6294ドルであった。つまり、独人は日本人よりも労働時間が短いのに、日本を上回る生産を生み出しているのだ。この理由はいろいろ言われているが、一つには日本が島国であるとの閉鎖性があると感ずる。

 すなわち、日本の製造企業は同じような製品を作り、専ら日本国内で販売競争してきた。例えばテレビである。大手の電気メーカは同じような性能のテレビを競って製造してきた。技術者の努力は世界にまで広がらず、国内に留まってしまった。これが生産性の悪さとなり、今日の低迷となっているのだ。

 日本人の「正直・倹約・勤勉」は貴重である。グローバル化された世界でこの精神はどのように変化していくであろうか。2016.01.13(犬賀 大好-198)