日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

トランプ現象を考える

2016年04月27日 09時25分45秒 | 日々雑感
 オバマ大統領は、”そうだ、私には出来る” と宣言し大統領となった。イラク撤兵、健康保険改革を含めたオバマケアやキューバとの国交回復を成し遂げ、国内の失業率も改善し、経済も力強さを取り戻しつつある。また、核廃絶宣言をしノーベル平和賞を受け、それなりの成果を上げた。 

 しかし、リーマンショック以降、経済的な格差が拡大する中、それに対する有効な対策を打てず終いである。そして、米国の経済は回復しつつあるといえ、平均的な家庭の収入は実質的には20年前とあまり変化ないそうだ。アメリカ国民の多くの関心事は、ノーベル賞より経済だ。この点オバマ大統領には大いに失望しているに違いない。

 共和党の大統領の指名候補、ドナルド・トランプ氏の人気が衰えない。「海外に流出した仕事を取り戻し、米国を再び偉大にする」との彼の主張は実に単純明快だ。彼の意見が現実的でないと反論するためには、国際情勢やこれまでの歴史を長々と説明しなければならない。そうは簡単に出来ない現実を理解するためには頭を使わなくてはならない。少なくとも、エンターテイメント性ではトランプ氏の方がテレビ向きだ。トランプ氏の演説は、英語が聞き取れなくても、表情を見ているだけでも面白い。

 トランプ氏がテレビに出れば視聴率を稼げる。視聴率が上がれば広告収入も増える。3大ネットワークの一つ、CBSトップのレスリー・ムーンベス会長が、2月末メディアや IT 関係者が集まるイベントで、トランプ現象に関し、「こんなのは見たことがない。我々にとって良い年になる。ドナルド、このままの調子で行け」と衝撃的な発言をしたそうだ。「米国にとって良くないかもしれないが、CBSにとっては全くすばらしい」と、本音丸出しだったそうである。

 トランプ氏は単純明快な発言で票を稼ぎ、企業側もお神輿を担いで視聴率を稼いでいる構造だ。トランプ氏は、当初の予想を裏切り、共和党の大統領指名候補となりそうである。トランプ氏は、競争社会を乗り切り不動産王になった。アメリカンドリームの体現者であり、ヒーロなのだ。

 テレビ界の視聴率至上主義は経済的自由主義と同じ仲間である。そして、トランプ氏の反グローバライゼーションは反経済的自由主義と同一である。氏の主張は矛盾に満ちているが、人々の不満をうまく煽っている。米国民の半数近くが今もってダーウィンの進化論を信じていないとの説もあるくらいだ。単純明快な話ほど受け入れ易いのだ。

 氏の優勢をみて擦り寄る指導者も出ているとのことで、共和党の指導層は大混乱のようであるが、日本のノンポリから見れば、この先どうなるか興味津々である。トランプ氏が共和党の大統領候補に指名されるかも知れないが、米国大統領になることは無いだろうと楽観視しているが、大統領になれなくとも、人々の不満は蓄積され、同様な人間は今後も出てくるだろう。

 人々は経済の活性化を希望するが、経済の活性化はウォールストリート抜きでは考えられない。ウォールストリートが活躍すれば格差は広がる。社会は複雑化し、この矛盾を打開する有効な手段が見つけられず、人々の不満は高まる。複雑な事象からその本質を見出して始めて、有効な対策を講ずることができる。本質は単純であるが、解決は難しい。

 しかし、トランプ氏の単純化思想は本質から逸脱している。メキシコからの不法移民が多いことの本質はメキシコと米国の経済格差であり、その解決は格差の解消しかない。しかし、氏の対策である「国境に壁を作れ」との主張は単純明快であるが、全く的外れである。

 日本でも、身近に敵を作って攻撃しうっぷんを晴らすヘイトスピーチが流行ったり、ガンは放っておいた方が良いや、65歳以上のラジオ体操は害がある等の極端本が売れたりもする。細かな議論より、単純明快が好まれるのは、トランプ現象と同根ではなかろうか。
2016.04.27(犬賀 大好-228)